本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974)、ソニー(6758)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770)、SCSK(9719)、富士ソフト(9749)、小野薬品工業(4528)、トヨタ自動車(7203)、スズキ(7269)、デンソー(6902)、アイシン精機(7259)、日産自動車(7201)、三菱自動車工業(7211)

特集:2017年3月期2Q決算の見所

1.2017年3月期2Q決算が始まる

10月24日の週から2017年3月期2Q(2016年7-9月期)の決算発表が始まります。今回は、その見所を探っていきます。

表1 主要企業の2017年3月期第2四半期決算発表スケジュール

2.ゲームセクターの焦点は任天堂

まず、ゲームセクターから。任天堂の決算発表が10月26日にあります(決算説明会は27日)。「ポケモンGO」の寄与が営業外収益の持分法利益に現れるはずです。また、開示するかどうかは不明ですが、「ポケモンGOプラス」の販売個数がどの程度なのかも注目点です。

それら以上に注目されるのは、会社側の下期の見通しです。11月発売予定の3DS用「ポケットモンスター サン/ムーン」、12月配信開始予定の「スーパーマリオラン」、2017年3月発売予定の「NX」と3Q、4Qは重要スケジュールが詰まっています。

任天堂は10月20日午後11時にNXのビデオクリップを公開しました。NXの正式名称は、「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」となりました。ビデオクリップを見ると、据置機ではありますが、テレビに接続されているベースドック(ニンテンドースイッチドック)から画面付きの本体を切り離して携帯型ゲーム機としてゲームが出来るようになっています。コントローラーは、据置機として使っているものを携帯部分の両横に装着するか、そのまま離した状態で使うことができます。コントローラーは2種類あります。

ビデオクリップに出てくるニンテンドースイッチの画面はいつものゼルダ、マリオのゲームで、PS4のような高精細CGではありません。これに失望する向きもあるかもしれませんが、任天堂のゲームは面白さを追及しているため、画面を見ただけではわかりません。

発売時期は2017年3月で今のところ変更なし。ハードの価格はまだ公表されていません。私見ですが3万円未満と思われます。ゲームソフトの名前も未公表ですが、サードパーティは、カプコン、スクウェア・エニックス、バンダイナムコ、レベル5など、海外では、アクティビジョン、エレクトロニック・アーツ、UBIソフトなど大手が揃っています。

直感的に面白そうで、売れそうだというのが私の意見です。より詳細は、会社側の発表を待つしかありませんが、決算説明会でニンテンドースイッチの全容がある程度明らかになる可能性もあります。

ソニーは11月1日に決算を発表します。10月にPSVRを発売し、VRに大きな一歩を踏み出しました。ゲームだけでなく、スマートフォン、カメラ、テレビの損益、半導体(イメージセンサー)の動きも注目点です。

ゲームソフト専業では、カプコンが10月27日、スクウェア・エニックス・ホールディングスが11月8日に発表します。スマホゲームでは、ミクシィ、コロプラが11月9日に発表します。特にカプコンはフルVR対応の「バイオハザード7」を2017年1月に発売する予定です。

ゲームの世界は新しい時代に向かっています。7月の「ポケモンGO」、12月の「スーパーマリオラン」、来年3月に予定される「ニンテンドースイッチ」、ソニーが10月に発売した「PSVR」などが今後のゲームセクターの重要な原動力になると思われます。特に任天堂の新しいゲームサイクルがどのようなものになるか注目されます。

そして、ゲームの動きはソフトだけでなくハード(ゲーム機だけでなく、スマートフォンや電子部品)にも波及すると思われます。ゲームの動きから目が離せません。

3.電子部品は下期の高級スマホ向けが焦点

電子部品大手の下期の見方も注目点です。アルプス電気が10月28日、村田製作所、TDK、日東電工が10月31日、ソニーが11月1日に決算発表します。また、米アップルの決算発表(2016年9月期4Q、通期)が日本時間の10月26日早朝に行われます。

サムスン電子がiPhone7に対抗して8月に発売した「ギャラクシーノート7」は、発火事故の原因が分らないまま生産販売中止となりました。また、12月には当面のところiPhone専用で任天堂の「スーパーマリオラン」が配信開始となる予定です。iPhoneと中国スマホの中級品、高級品が伸びる要素は整っているように思われます。

一方で、前期に比べると円高です(2016年3月期平均レートは1ドル=120円)。今下期の当初のコンセンサスは、「iPhone7」は「6s」よりも売れないというものですが、このコンセンサスを覆すことがあれば、業績見通しの上方修正と株価上昇が期待できると思われます。

4.自動車、自動車部品、自動運転関連は見所が多い

自動車は業界再編の雰囲気になってきました。トヨタ自動車とスズキが提携交渉を開始することを公表しましたが、おそらく実際に技術提携、業務提携に至ると思われます。一方で、日産自動車と三菱自動車の資本業務提携では、10月19日付けで三菱自動車が業績見通しの大幅下方修正を発表し、10月20日に日産、三菱自動車両社から日産自動車のカルロス・ゴーンCEOが三菱自動車工業の会長になると発表されました。日産主導で三菱自動車を再建するということです。

トヨタ自動車、スズキの提携は、実現すればスズキの将来にとって重要であるだけでなく、デンソー、アイシン精機などトヨタ系自動車部品メーカーにとって新たな重要顧客ができることに繋がると思われます。これについては後述します。

業績を見ると、今の1ドル=103~104円が下期も続くならば、トヨタ以外の自動車メーカーには下方修正要因が発生します。自動車部品ではデンソーに下方修正要因が発生します。ただし、アメリカでのSUVの伸び、中国、インドの伸びとアセアンの底打ち、欧州市場の伸びなどを考慮すると、為替レートによる業績下方修正、あるいは上方修正があれば、その時点での為替の影響を織り込むことで、株価反転のきっかけになる可能性があります。

完成車メーカーの決算発表は、本田技研工業が10月31日、富士重工業、マツダが11月2日、スズキが11月4日、日産自動車が11月7日、トヨタ自動車が11月8日です。自動車部品関連では、日本電産が10月25日、デンソー、アイシン精機が10月28日、ルネサスエレクトロニクスが11月2日です。

5.ITセクターはじっくりと銘柄を探したい

システム系のインターネット関連企業(例えば、さくらインターネットなど)、システム開発会社(SCSK、富士ソフトなど)、大手コンピュータメーカー(富士通、日立製作所、日本電気)などは、企業のシステム投資意欲が衰えないことに加え、IoT、自動運転、人工知能の3大材料を抱えています。IoT、自動運転、人工知能については、既に自動運転は実用段階に入っており、実車装着が進んでいます。IoTと人工知能は未知の部分が多いですが、注目すべき分野です。

決算発表日は、さくらインターネット10月24日、富士通10月27日、日立製作所10月28日、日本電気10月31日、SCSK10月28日、富士ソフト11月10日です。

6.薬品・バイオでは、オプジーボの薬価引下げ問題がどうなるかが焦点

薬品バイオセクターでは、小野薬品工業のオプジーボの薬価引下げ問題がどうなるかで、同社の来期以降の業績見通しが変動します。10月中に2017年4月に予想される薬価引下げ率がほぼ決まると思われますが、流動的な面もあり、事態の推移を注意深く見守る必要があります。

主な企業の決算発表日は、小野薬品工業が11月7日(説明会は11月8日)、アステラス製薬、武田薬品工業、大日本住友製薬が10月28日、エーザイ、塩野義製薬が10月31日(説明会は11月1日)、第一三共が11月1日、大塚ホールディングスが11月11日、タカラバイオが11月10日、ペプチドリームが11月8日です。

セクターコメント:自動車セクター

1.トヨタ自動車とスズキが提携交渉に入った

10月12日付けでトヨタ自動車とスズキは共同でプレスリリースを出し、両社が業務提携の交渉に入ったことを明らかにしました。環境、安全、情報などの技術分野での提携の可能性を探るようですが、重要な提携に発展する可能性が大きいと思われます。

仮にこの業務提携が実現するならば、利益を得るのはまずスズキになると思われます。スズキはインド市場で子会社のマルチ・スズキ(出資比率56.2%の合弁会社)が約40%の市場シェアを持っています(表4)。人口13億人のインド自動車市場はまだ日本の規模にもなっていませんが(グラフ1、2)、将来性には大きなものがあります。

一方で、エコカー、自動運転などの先端分野をスズキ単独で開発するのは無理です。また、先端分野でなくとも、ここ数年のインド市場では、国民の所得水準向上によって消費者が購入する新車がサイズアップしています。スズキにとっては従来1000~1200ccが売れ筋だったものが、1400cc以上の車が売れるようになりました。採算はよくなると思われますが、軽自動車から発展したスズキにとって1400cc以上の普通車は異なる世界の車です。ここでトヨタの技術が重要になると思われます。

トヨタにとっても重要な提携になると思われます。トヨタが苦手な1000ccクラスの乗用車(新興国での普及クラス)の技術はダイハツの子会社化で充足していると思われますが、スズキが持っているインド市場はトヨタにとっては魅力的です。インド市場は中国ほど大きくはありませんが、中国のように現地資本との合弁会社による参入が強制されているわけではなく、トヨタにとってはやりがいのある市場と言えます。

トヨタ系列の部品メーカーにとっても、スズキは新たな重要顧客になる可能性があります。デンソーにとってスズキは既に大口顧客になっていますが、2016年3月期のグローバル生産台数157万台のマツダと同程度の顧客です(表6)。スズキのグローバル生産台数は2016年3月期295万台、2017年3月期会社予想315万台なので、デンソー、アイシン精機などトヨタ系部品メーカーにとって開拓余地は大きいと思われます。部品の販売拡大が実現すれば、デンソー、アイシン精機にとってはコスト競争力の拡大にも繋がります。

表2 自動車販売台数ランキング(2015年)

表3 自動車部品メーカーの世界ランキング(2015年度)

表4 インドの新車販売市場(乗用車・商用車合計、国内販売のみ)

グラフ1 日本とインドの新車販売台数(乗用車、商用車の合計):前年比

(単位:%、出所:日本自動車販売協会連合会、インド自動車工業会より楽天証券作成)

グラフ2 日本、インドの新車販売台数(乗用車、商用車合計)

(単位:台、出所:日本自動車販売協会連合会、インド自動車工業会より楽天証券作成)

2.三菱自動車工業は日産自動車主導で再建へ

日産自動車と三菱自動車工業も重要リリースを発表しました。まず、10月19日付けで三菱自動車が2017年3月期業績見通しを下方修正しました。それによれば、営業利益は前回予想の250億円の黒字から280億円の赤字となる見込みで、最終損益は1,450億円の赤字から2,400億円の赤字へと赤字幅が大きく拡大する見通しです。理由は、新興市場の回復の遅れ、円高、燃費不正事件の後始末費用、水島製作所の減損額拡大です。

続く10月20日には、日産自動車、三菱自動車ともに、日産自動車が三菱自動車の発行済み株式数の34%を取得したこと、三菱自動車の代表取締役会長に日産自動車の会長兼社長でCEOであるカルロス・ゴーン氏が就任することになったこと(異動予定日は12月14日)を公表しました。これで、三菱自動車は名実ともにルノー・日産・アフトワズグループの傘下に入りました。

このように、三菱自動車はカルロス・ゴーン氏の指導の下、再建を目指すことになりました。日産と三菱自動車には相互に補完関係を構築し得る面があります。日産が求めてきた軽自動車の技術だけでなく、日産が弱いアセアンで三菱は強い地盤を持っていること、電気自動車とPHEV(三菱自動車のプラグインハイブリッド車)でも三菱は高い技術力を持ち、実際に生産販売していることなどです。

一方で問題には根深いものがあります。三菱の問題としては、燃費不正事件の国内販売への影響、国内販売のもともとの弱さ、開発力の弱さが挙げられます。また、日産、三菱両社の問題としては、アメリカ市場で業界平均以上にサブプライム層(信用力の低い消費者)へ販売していると言われていること、インセンティブ(販売奨励金)が他の日系よりも高いと言われていることが挙げられます。

また、三菱自動車再建には数年かかると思われますが、この間、自動運転の普及、電気自動車、PHV(プラグインハイブリッド車)の普及など、世界の自動車業界に大きな変化が起こることが予想されます。三菱自動車の再建には時間の余裕はないと思われますが、スムーズに行くとは限りません。

表5 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

3.自動車セクターへの投資を考える

このようにトヨタ=スズキの提携交渉、日産=三菱のグループ化と三菱の再建始動を見ると、業界再編の雰囲気が出てきました。一般論で言えば業界再編は「買い」になると思われます。変化は投資チャンスだからです。

ただし、影響下に置かれる生産販売台数の大きさが、ルノー・日産・アフトワズグループ+三菱自動車で約920万台なのに対して、トヨタグループ+スズキで約1,300万台と依然としてトヨタの規模が大きいこと(表2)、技術力もトヨタのほうが高いこと、トヨタの系列部品メーカーに提携のメリットが及ぶことが予想されることから、トヨタ=スズキの提携、特に、スズキとデンソー、アイシン精機に注目したいと思います。

表6 デンソー:顧客別売上実績

表7 アイシン精機:顧客別売上実績

本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974)、ソニー(6758)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770)、SCSK(9719)、富士ソフト(9749)、小野薬品工業(4528)、トヨタ自動車(7203)、スズキ(7269)、デンソー(6902)、アイシン精機(7259)、日産自動車(7201)、三菱自動車工業(7211)