本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758)/カプコン(9697)/任天堂(7974)/村田製作所(6981)/アルプス電気(6770)

セクターコメント:東京ゲームショウで感じたこと

これまでにない熱気の東京ゲームショウ2016

9月15~18日に東京ゲームショウ2016が開催されました。私は16日のビジネスデイと18日の一般公開日に行ってきました。ここで内容をご報告します。

例年になく熱気のあるゲームショーでした。今回のテーマは「VR(バーチャルリアリティ)」です。VRのヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)を販売している会社は、台湾のスマホメーカーHTCなど既に数社出ており、それらの会社のブースもにぎわっていましたが、やはり本命は今年10月(日本では10月13日)発売のプレイステーションVR(PSVR)になると思われます。

これは、まずPSVRの価格が44,980円(カメラ同梱版は49,980円、いずれも税抜き価格)と高性能VR機器としては安いためです。高性能VR機器の場合、本体が10万円弱で15万円以上する高級パソコンに接続しなければならないタイプもあります(オキュラス リフトの場合)。そして、2016年3月期末の累計販売台数4,000万台のプレイステーション4(PS4)をベースにしており、PS4の価格も上位機種の「PSPro」が44,980円、普及機種が29,980円とパソコンに比べて安いためです。

このように、ゲームの世界でVRブームが起こるとなると、そのブームの中核ハードはPS4となると思われます。また、ゲームソフトの作り方は、従来に比べ格段に難しくなるため、伝統的な家庭用ゲーム会社がブームの中心になると思われます。今のところ、VR用ソフトの製作を行っているのは、ソニー、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスなどに限られていますが、今後増えると思われます。

ゲームユーザーは面白いソフトを求めている

VR用ソフトにだけ人だかりができていたわけではありません。例年と同じように、ソニー、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングス、バンダイナムコホールディングス、コナミホールディングス、コーエーテクモホールディングスなどの大手で老舗の家庭用ゲーム会社のブースで、各社が製作中のフラッグシップソフト(VR用ソフト以外のものも含めて)のところに人が集まっていました。ソニーの「GRAVITY DAZE 2」、「グランツーリスモSPORT」(VR対応)など、カプコンの「バイオハザード7」(フルVR対応)、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーⅩⅤ」(VR対応)、コーエーテクモホールディングスの「仁王」などです(いずれもPS4用ソフト)。

ただし、私が見た中で最も人が集まっていたのが、ソニーブースでの小島秀夫氏のトークショーでした。小島氏はコナミで「メタルギア」シリーズの監督を務めていた、世界的なゲームクリエーターの一人です。昨年12月にコナミを退社した後、自身の会社「株式会社コジマプロダクション」を立ち上げましたが、元々ソニーと親密で、新会社でもPS4向け新作ソフト「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」を製作しています。発売がいつになるか不明ですが、小島氏には世界中に熱狂的なファンが多く、東京ゲームショーでも多くのファンがトークショーに集まっていました。小島氏の新作ゲームを獲得したことは、ソニーにとって重要です。

一方で、昨年までと大きく変わったことがあります。ソーシャルゲーム(スマホゲーム)の会社がほとんど出展していなかったことです。これは私の見方ですが、今年のメインテーマはVRです。そして、ハイエンドゲームの世界ではPS4全盛時代となっており、高性能機であるPS4用ソフトには開発の難しさをクリアした優良ソフトが多くなりつつあります。このことを考えると、これまでの日本型スマホゲーム(高額課金型ゲーム、ガチャゲーム)の延長線上でしかゲーム開発ができていない多くの日本のスマホゲームの会社が出展しても、あまり意味がなかったのではないでしょうか。ゲームの世界が大きく変わる兆しがここに現れていると思われます。

グラフ1 プレイステーションのハード販売台数
(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ2 ソニー・ゲーム部門の業績
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

東京ゲームショウには任天堂は出展しない

ゲームの世界のもう一方の主役、任天堂は東京ゲームショウには出展していません。東京ゲームショウはいわばソニーの世界なのです。

これまでも度々書いてきたように、9月から任天堂の次のゲームサイクルの起点を形作る一連の流れが始まっています。

9月16日に任天堂が生産販売する「ポケモンGOプラス」が発売されました。各所で行列ができ発売後数時間で完売しました。次の出荷は11月上旬ということです。任天堂のもともとの生産計画はかなり少ないと思われます。一方で、ポケモンGOのダウンロード数5億件から考えると、控えめに見てもその60~70%(3~3.5億人)がポケモンGOのプレイヤー(マンスリーアクティブユーザー、月最低1回プレイする人)と考えられます。プレイヤーのうち10%が買えば、3,000~3,500万個の需要が発生します。

ここから見ると、ポケモンGOプラスの品不足は長期化する可能性があります。問題は、任天堂がポケモンGOの人気度合いを見誤ったことにありますが、ポケモンGOプラスから有意義な示唆も得られます。ゲームソフトと連動する玩具、またはウェアラブル機器は大きなビジネスになりうるということです。

次は、3DS用「ポケットモンスター サン/ムーン」の発売(日本では11月18日)です。ポケモンGOと何らかの連動が予想されますが、それがどのようなものなのか、どの程度売れるのかが注目点です。通常は発売年度に1,000万本以上売れるシリーズですが、ポケモンGOの人気を考えると、今期中に1,500万本以上の販売もありうると思われます。

そして、前々回の本稿で書いたように、今年12月にiPhone向けに「スーパーマリオラン」を配信開始します。アンドロイドスマホ向けもいずれは配信する模様ですが、いつかはわかりません。続いて来年3月には、新型機「NX」が発売される予定です。

また、「スーパーマリオラン」配信後、2016年3月末までに、延期されたスマホゲーム「どうぶつの森」「ファイアーエムブレム」も配信開始される予定です。

任天堂はこれから大勝負をかけることになります。9月から来年3月まで、更にはNX発売後の数カ月間を含めたこれからの約1年間が、次の3~5年以上の期間に任天堂が再びゲームの世界市場で大きな存在になれるかどうかの分かれ目と思われます。任天堂から投資家に発信される情報が必ずしも多くないため、任天堂の情報開示姿勢に疑問を持つ投資家もいると思いますが、社運をかけた大勝負をするときに手の内を全て明かす会社はいません。まずは、12月を待ちたいと思います。ちなみに、これまでの約束ですと、12月にはNXの概要も公表されるはずです。

我々は遊びの世界の大きな変化を見ることになろう

今我々が見ているのは、世界的規模でゲームの世界、ひいては遊びの世界が変わってゆく様相です。この半年間から1年間の動きが、次の3~5年以上の動きを決することになると思われます。特に日本では、ただ単に課金を競うゲームから、純粋な遊び、楽しむためのゲーム、そして天才クリエーターが仕掛けてくる謎解きを真剣勝負で解くゲーム、要するに本来の「ゲーム」に揺り戻しが起こり始めていると思われます。投資対象もこの中で大きく変わってくると思われます。引き続き、任天堂、ソニー、カプコンに注目したいと思います。

「iPhone7」が売れそうな予感がする

9月16日、「iPhone7」が発売されました。事前の予想では、各種メディアも電子部品メーカーも積極論はほぼなく、あまり売れないだろうという消極論が多かったように思われます。ちなみに日本の大手電子部品メーカーの今期業績予想の前提は、「7」シリーズは「6s」シリーズよりも売れないというものと思われます。

もっとも、事前の予想に反して出足は好調でした。アメリカの通信事業者T-モバイルによれば、9月9~12日の4日間の「7」の予約数は過去に最も売れた機種の約4倍、スプリントでも当初3日間の予約数が「6s」シリーズの約4倍になりました。発売してからも人気は続いており、5.5インチサイズの「Plus」はT-モバイルでは新色のジェットブラックの納入が11月、それ以外の色も注文してから入手するまで2~3週間かかります。4.7インチサイズでもジェットブラックは3~5週間、それ以外の色では2~3週間かかります。

日本でもジェットブラックはサイズを問わず人気があり、各店舗で入荷待ちの状態です。ただし、色とストレージ用量を問わなければ早く入手できるようです。ちなみに、現時点で日本のアップルのウェブサイトでは、「7Plus」のジェットブラックの出荷が11月、「7」のジェットブラックは3~5週間待ち、それ以外のサイズ、色、用量では、「7」の一部の色と用量で1-2週間待ちで、あとは2-3週間待ちです。

このように、「7」シリーズは出足は好調です。「iPhone7」へのメディアの評価は変化に乏しいというものですが、私から見ると十分大きな変化、カメラの高性能化、デュアルカメラ(Plus)、通信機能の強化、日本におけるフェリカ対応などの変化があります。また、iPhoneは全機種合わせて全世界で年間2億台以上が売れています。平均更新期間を2年としても4億人以上が使っている、単一シリーズとしては世界最大の台数のスマートフォンであり、使い勝手を維持しなければならないということを考えると、毎年大規模な変化を実行するには難しいものがあります。

このように初動は好調でしたが、問題は12月以降の動きです。昨年の「6s」シリーズは初動は良かったものの、11月頃から動きが鈍くなり、12月にはアップルは減産に入った模様です。日本の大手電子部品メーカー、村田製作所、TDK、アルプス電気、ソニーなども、ネガティブな影響を被りました。

では、今年の12月以降はどうなのか。ここで注目しなければならないのは、今の予定通りなら12月に「スーパーマリオラン」が、当面はiPhone向け(アップストアのみで)配信されるということです。「スーパーマリオラン」のiPhone独占がいつまで続くのか現時点では分りません。過去の大型ソフトの事例では、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」の配信開始が、iOS版2012年2月20日に対してアンドロイド版が同年9月18日と半年以上離れています。ただし、ミクシィの「モンスターストライク」は、iOSが2013年10月10日の配信開始だったのに対してアンドロイド版は同年12月15日と、iOS版の2カ月後にアンドロイド版が配信されています。

任天堂の場合、現時点でアンドロイド(グーグルプレイ)への対応を公式に表明していないため、アンドロイド版への対応は3~6カ月程度かかることも予想されます。そうであれば、マリオとそれに続くスマホソフトの流れは、「7」シリーズの販売台数を「6s」シリーズよりも増やすことに寄与する可能性があります。そうなるかどうかが、今後の注目点です。

ゲームが電子部品需要に与える影響に注目したい

要するに、任天堂のスマホゲームが、まずiPhoneに、そして時間をおいて(「スーパーマリオラン」のアンドロイド版へ対応後に)エンタテインメント性能をある程度高めた中級スマホの需要に刺激を与え、低級機から中級機へ、中級機から高級機へのスマートフォンの買い替え需要、あるいは新規需要をグローバルに引き起こす可能性があるのです。ちなみに、足元でスマートフォンは年間約13億台売れていますが、伸びているのは主に低級品です。中級品、高級品が伸びることになると、スマートフォン市場のハード、ソフトに対する株式市場の見方が変化する可能性もあります。

この動きが実際に起きると、電子部品需要にはポジティブな影響が出ると思われます。更に、VRブームとNXの登場を考えると、ゲーム機、VR機器が大手電子部品会社の重要な市場になってくると思われます。

このような電子部品会社を取り巻く流れの変化が、ゲームによって起こるのかどうかが今後の注目点です。もし起こるならば、村田製作所、TDK、アルプス電気、ソニーの4社については、今期業績見通しに上方修正要因が発生することになり、来期も増益になる可能性が出てきます。また、村田製作所、TDKの様な総合電子部品メーカーだけでなく、ハプティックデバイス(触覚デバイス、振動などの触覚によって臨場感を高めるデバイス)に注力しているアルプス電気に注目したいと思います。

表1 アップルの年度ベースiPhone販売台数

グラフ3 スマートフォンの価格帯別世界出荷台数
(単位:100万台、出所:ソニーIRDAY2016を参考に楽天証券作成)

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