本レポートに掲載した銘柄

トヨタ自動車(7203)/富士重工業(7270)/マツダ(7261)/本田技研工業(7267)/日産自動車(7201)

セクターコメント:自動車セクター

堅調な動きが続く世界の自動車販売

自動車セクターは、安定成長が期待できる重要な投資先です。トヨタ自動車を筆頭に世界市場で日本企業が大きな存在感を示しているセクターでもあります。技術面では、「省エネ」から「自動運転」へと最先端技術を使うセクターであり、今後4~5年で技術面で大きな変化が期待できる分野です。

一方で、自動車への投資は「数字」の世界でもあります。四半期毎の企業業績だけでなく、月々の生産販売統計を見ることが投資判断にとって重要になります。特に、今はアメリカの利上げを控えて株式市場が自動車の数字に敏感になっている時期です。

そこで、毎月の繰り返しですが、今回も世界の自動車販売動向を見て行きたいと思います。

グラフ1 各国新車販売台数:前年比1

(単位:%、出所:AUTODATA、各国自動車工業会)

グラフ2 各国新車販売台数:前年比2

(単位:%、出所:各国自動車工業会)

中国、アジアが好調

世界全体の新車販売台数は堅調に推移しています。グラフ1、2を見ても分るとおり、アメリカ、中国、アジア、欧州、日本と、日系メーカーの活動が活発な地域で大きく悪化している地域は今のところありません。

中でも、数字が良いのが中国です。中国の新車販売台数は8月は前年比24.2%増でした。5月9.8%増、6月14.6%増、7月23.0%増と伸び率が上昇してきました。2015年10月から始まった1600cc以下の小型車に対する小型車減税の効果に加えて、SUVブームが起きています。日系メーカーでは、日産自動車、本田技研工業、マツダが好調です。トヨタ自動車も小型車が順調に伸びています。

ただし、小型車減税は年内で打ち切られるため、7月、8月の伸びには駆け込み需要も含まれていると思われます。そのため、来年は反動が出る可能性があります。

中国を除くアジア各国も好調です。インドが好調で、8月は前年比13.8%増でした。日系では、スズキ、日産、トヨタが好調でした。アセアンでは、昨年まで懸念材料だったタイ、インドネシアが底打ちし、回復しています。この両国は、トヨタ自動車筆頭に日系メーカーの市場シェアが歴史的に大きい地域です。

中国は日系も他国の自動車メーカーも現地資本との合弁会社による事業になるため、得た利益の半分のみが決算に反映されます。中国を除くアジアは各社とも自前の事業です。自動車各社の業績に対しては、インドの好調と、タイ、インドネシアの回復のほうが、より大きな寄与があると思われます。

欧州も順調に伸びる

欧州の新車販売も順調に伸びています。6月は前年比5.8%増(EU15+EFTA)、7月は前年比2.1%減でしたが、8月は8.0%増とプラス成長を維持しています。イギリスのEU離脱が自動車市場にどのように影響するか、まだ見えません。警戒は必要ですが、とりあえず、欧州自動車市場が急変することはなさそうです。

欧州市場では、日系メーカーの存在感はあまりありません。トヨタ自動車と日産自動車の存在感が多少ある程度ですが、マツダが最近販売を伸ばしています。これはディーゼル車の性能が評価されたためです。

日本は伸び悩み

海外市場は後述のアメリカも含め概ね順調ですが、日本は伸び悩んでいます。8月の新車販売台数(商用車を除く、軽を含む)は前年比2.9%増でしたが、それまでは3カ月間マイナス成長でした。8月のプラス成長も主にトヨタ自動車のプリウスの好調によるものです。

国内販売の不振の要因は、今年4月に発覚した三菱自動車工業の軽自動車の燃費不正事件による軽自動車の不振によるものもありますが、実際は以前からの構造的なものです。人口減少社会に入り、かつ、若い人の中で車に関心を持つ人が減っているという問題があります。この問題は簡単に解決できるものではありません。

ただし、最近の販売現場で、自動運転(レベル2、加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う。ドライバーは常時運転状況を監視操作しなければならない)やパーキングアシストシステム(ハンドルが自動で回り半自動で駐車する。ドライバーはアクセルとブレーキの操作だけ行う)に対する消費者の関心が高くなっていると聞きます。実際に、8月下旬に「プロパイロット」(レベル2の自動運転システム)を搭載した日産自動車のセレナが発売されましたが、プロパイロット搭載車が人気車種になっています。パーキングアシストシステムも同様で、営業マンが店舗で実演すると、お客の反応が良いようです。駐車で悩むドライバーが多いという事情が背景にあります。自動運転が、多少なりとも販売不振を打開するポイントになるのかどうか、今後に注目したいと思います。

表1 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

アメリカをどう見るか

アメリカ市場はこれまで順調に伸びてきましたが、乗用車とライトトラック(SUVとピックアップトラック)を合わせた総販売台数は、一旦横ばい圏に入ってきたと思われます。アメリカ新車販売台数の前年比は6月2.5%増、7月0.7%増、8月4.1%減となりました。伸び率が低下しており、総販売台数が前年割れの月も出てきました。

今後は長期では見方が分かれています。私はアメリカの人口増加が続く限り、一旦横ばい圏に入った後で、いずれはプラス成長に戻ると考えています。リーマンショックが起こった2008年のアメリカの人口は約3億人、2016年のIMF推計値は約3.2億人です。ただし、このような人口論を採る見方は今のところ少数派です。少なからぬ意見は、しばらく横ばいが続いた後、一旦緩やかな減少局面を迎えるだろうというものです。

長期の見方は分かれるとしても、短期的には、アメリカ市場は今後半年から1年程度は横ばいないし一桁のマイナスになる可能性があります。リーマンショック後の急減から回復してきた動きが一服する可能性があります。私はこれまでアメリカの2016年暦年ベースの新車販売台数を前年比3.0%増の1,800万台としてきましたが、今の動きを見る限りは、前年比横ばいの1,750万台程度と思われます。

もっともアメリカ市場では、乗用車(主にセダン)からSUVへの需要シフトが続き、乗用車に対してライトトラックの販売台数が大きく上回っているため、各自動車メーカーのアメリカ事業(北米事業)の採算は上昇しています。グラフ4、5を見ると、乗用車の減少が続く中、ライトトラックは一定水準の販売台数を維持しています。例えばトヨタがそうなっています。自動車の粗利益率は排気量や価格の高さに概ね比例すると言われています。乗用車はインセンティブ(販売奨励金)を積み増さないと売れず、ライトトラックに対して販売価格が低いため粗利益率、粗利益額ともに低いですが、ライトトラック、特に2000cc以上のSUVはインセンティブが乗用車よりも少なくてよく、価格が高いため粗利益率も高いため、乗用車以上の粗利益が獲得できます。これが各社の北米事業の好業績の原動力です。

アメリカの新車販売台数の動きには引き続き注意は必要ですが、トヨタの様にライトトラックの売れ行きが堅調で乗用車の販売台数を上回っている限り、北米事業の好業績は続くと思われます。

ただし、気になる動きもあります。低金利が長引くにつれて、販売台数を伸ばすために、信用力の低いサブプライム層への販売を増やすメーカーがあるようです。ある調査によると、サブプライム層への販売比率の業界平均は17~18%です。アメリカで活動している日系6社(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、三菱自動車工業)のうち、サブプライム層への販売比率が業界平均を下回っているのは、富士重工業、マツダ、トヨタ自動車、本田技研工業で、これ以外の会社が業界平均を上回っている模様です。サブプライム層への販売は各社ともに程度の差はあっても行っており、各社とも自社の信用供与基準があり、リスクコントロールもしているはずですが、業界平均を上回っている会社については注意しておいたほうがよいと思われます。

住宅に比べて自動車のサブプライム層への1台当たりローン残高は小さいので、今すぐに大きな問題にはならないと思われます。ただし、近い将来予想される金利上昇局面ではサブプライム層への販売増加は困難になる可能性があります。また、そもそもサブプライム層への販売は他の層への販売に比べ貸倒れ比率が高く、1台の新車販売によって最短で約2年後から発生する更新需要(買い替え需要)も発生するかどうか不確かです。自動車メーカーの長期的成長に寄与するとは言い難い話と思われます。

グラフ3 アメリカの新車販売台数

(単位:万台、暦年、出所:AUTODATAより楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ4 アメリカの新車販売台数(年率換算)

(単位:100万台、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

グラフ5 トヨタ自動車のアメリカ新車販売台数

(単位:台、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

表2 アメリカの新車販売台数:前年比

為替レートと業績

今の為替レートではトヨタ自動車以外の日系メーカーに業績見通しの下方修正要因が発生します。ただし、為替レートは、一旦円高になった後、やや円安に戻っています。円高による最悪の展開は、一旦各社の株価に織り込まれたのではないかと思われます。

表3 自動車各社に対する為替の影響(試算):2017年3月期

銘柄選択:トヨタ自動車、富士重工業、マツダ

世界の自動車販売全体では堅調な動きが続いていますが、上述のように問題も発生しています。私の見方では自動車セクターは自動運転という魅力的なテーマと密接に結びつくため、投資対象として重要だと思われます。ただし、対象を絞るべきだとも思います。

規模が大きく堅実経営で、環境と自動運転の両面で技術力が高いトヨタ自動車、購入者の信用各付けが高く、アメリカ工場の増強による増産効果が出始めている富士重工業、ガソリン、ディーゼル両方の内燃機関と走行制御技術で世界トップクラスの技術を持つマツダに注目しています。特に、トヨタ自動車は、足元の為替レートが続く場合、会社予想業績に上乗せ要因が発生することになります。富士重工業は為替による業績下方修正要因を、アメリカでの販売台数増加がある程度吸収する可能性があります。

表4-1 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:1

表4-2 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:2

表5 富士重工業:アメリカの車種別新車販売台数

本レポートに掲載した銘柄

トヨタ自動車(7203)/富士重工業(7270)/マツダ(7261)/本田技研工業(7267)/日産自動車(7201)