本レポートに掲載した銘柄

村田製作所(6981)/TDK(6762)/アルプス電気(6770)/ソニー(6758)/日東電工(6988)

特集:電子部品セクター

iPhoneの季節が始まる

アップルが9月7日に製品発表会を開催すると告知したことが話題になっています。この時期の製品発表会となると、「iPhone7」の発表だろうということは衆目の一致するところです。ちなみに、昨年は9月9日(現地時間)にiPhone6s/6sPlusの製品発表会が開催されました。その後、9月12日から予約開始、9月25日に発売となりました。今年も似たスケジュールになると思われます。

一昨年からの電子部品セクターの動きを振り返ってみたいと思います。2014年9月発売の「iPhone6」「6Plus」は好調に売れ、2014年10-12月期のiPhone販売台数は7,447万台に達しました。本来は不需要期になる2015年4-6月期もiPhone6シリーズが売れたため、村田製作所以下の大手電子部品メーカーは2015年4-6月期(2016年3月期1Q)とiPhone6sビジネスが本格化した2015年7-9月期に軒並み好業績を達成しました。

しかし、2015年9月発売の「6s」シリーズは出足は良かったものの、「6」シリーズとの決定的な差別化が出来なかったため、すぐに売れ行きが鈍化しました。そこで、アップルは2015年12月に入り、本格的な生産調整を開始した模様です。その結果、村田製作所以下の大手電子部品メーカーは業績悪化に見舞われることになりました。

ただし、中国スマホメーカーへの拡販、自動車向けの堅調などによって、ある程度減収幅、減益幅を抑えることが出来た会社もありました。村田製作所は、業績の落ち込みが大きかったものの、一定の利益水準は確保しました。中国スマホ向けの拡販が成功したためです。TDKも中国スマホ向け、自動車向けが伸びました。スマホ向け電池は落ち込み幅は大きかったですが、現在は回復中です。アルプス電気も大きく落ち込みましたが、後述のように今後はアクチュエーター事業の拡大が期待されます。

一方で、ソニーのように、2015年夏のスマートフォン向けイメージセンサーの生産不足による顧客離れに、2016年4月の熊本地震が加わって、イメージセンサーを中心とする半導体部門(2016年3月期までデバイス部門)が営業赤字に転落した会社も出てきました。

このように、電子部品大手の中でも業績トレンドに違いが出ています。

グラフ1 iPhone販売台数

(単位:万台、出所:アップル社資料より楽天証券作成)

グラフ2 電子部品大手の売上高

(単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

グラフ3 電子部品大手の営業利益

(単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

電子部品大手の業績に回復期待

電子部品メーカーは顧客の名前、動きをコメントしませんが、7月に入ってから、主要な電子部品メーカーで、高級スマホ向けのビジネスが活発になっている模様です。「iPhone7」向けビジネスと思われます。7月下旬に発表されたアップルの2016年4-6月期決算における7-9月期ガイダンスは、4-6月期比増収増益の見通しになっています(ただし、前年同期比では減収減益)。

また、アップルは「6s」シリーズで、完成品、部品ともに大幅な在庫整理を行ったと思われますが、その結果、新機種を出荷する時に伸びやすくなる素地ができていると思われます。

そのため、大手電子部品メーカーの業績悪化要因だったアップル向けが持ち直す可能性があります。また、アップルの動きは、韓国系、中国系の高級スマホメーカー(サムスン、ファーウェイ、レノボなど)の先行指標になっており、「iPhone7」シリーズが堅調なら、韓国、中国スマホの製品開発意欲を刺激する可能性があります。これも電子部品大手の業績にとってはプラス要因です。

「iPhone7」のスペックはどうなるのか

現在ネット上で言われている「iPhone7」のスペックは、まず、画面サイズ4.7インチの「iPhone7」、5.5インチの「iPhone7Plus」ともに、手振れ補正機能が標準装備されると言われています。

「7Plus」については、アウトカメラ(外側のカメラ)がデュアルカメラになり、眼が二つになると言われています。デュアルカメラになると、3D画像、スローモーションが撮影できると言われています。

通信機能やCPUの性能も強化されると思われます。これは、コンテンツのリッチ化(映像コンテンツやゲームなどの複雑で容量の大きなコンテンツが増えていること)が止まらず、端末の性能向上が継続的に必要になるためです。

詳細なスペックは製品発表を待つしかありませんが、上記のスペック通りとすれば、最も注目すべきなのはアクチュエーターです。通常のスマートフォンに搭載されているオートフォーカス用だけでなく、より高度な手振れ補正用でも、アルプス電気が高級スマホ向けの過半数の市場シェアを持っており、技術力も他社(ミツミ電機、TDKなど)を引き離していると言われています。デュアルカメラによって5.5インチの「Plus」にアクチュエーターが2つ搭載されるとすれば、アクチュエーター市場の拡大を通じてアルプス電気の業績にはプラスになると思われます。

ソニーにとっても、アウトカメラがデュアルカメラになると、「Plus」向けのアウトカメラの出荷が2倍になる計算になります。また、デュアルカメラは両眼のコンビネーションが難しいため、イメージセンサーで高い技術力を持つソニーに需要が集まる可能性もあります。

それ以外では、村田製作所、TDKなどのチップ積層セラミックコンデンサ(回路の電圧制御を行う)、SAWフィルタ(電波から雑音を取り除く)は傾向的に増加すると思われます。特にSAWフィルタは近年スマートフォンで多用される傾向にありますが、これは、10以上の電波に対応するLTE対応グローバルモデルの中は雑音が多いため、これを少なくする必要があるためです。また、低中級スマホでも一定の品質のSAWが必要になります。

TDKの電池も薄型化と容量拡大が続く可能性があります。iPhone向けビジネスが増えるかどうかはわかりませんが、中国スマホも含めて考えると、TDKが得意な大容量薄型電池の需要は増えると思われます。

ゲームとスマートフォン

「iPhone」を初めとする高級スマホは、年々エンタテインメントマシンの色彩が強くなっています。「iPhone」とサムソンの「Galaxy」がそうなっており、中国スマホの高級機種(ファーウェイ、レノボなど)がこの2機種の後を追う構図です。今回の「iPhone7」シリーズもデュアルカメラ搭載と言われていますが、カメラはスマートフォンの中で最も遊びに使われる機能です。

「ポケモンGO」のような世界的にヒットしたスマホゲームも、スマートフォン需要にとって重要になる可能性があります。ポケモンGOで遊ぶには、ジャイロセンサーとGPS機能が必要になります。また、アンドロイドでもiOSでも古いOSには対応していません。低価格スマホや古いスマホではポケモンGOは遊べない場合があるのです。更に、今秋から任天堂のスマホゲームが全世界で配信開始される予定です。

私は、このようなスマートフォンのゲーム機化、スマホコンテンツのエンタテインメント化が、スマホ需要への刺激、例えば、低級スマホから中級スマホへ、中級スマホから高級スマホへの買い替え需要をグローバルに引き起こすのではないかと考えています。

グラフ4を見ると、スマートフォンの世界出荷台数約13億台のうち、販売価格150ドル以下のローエンドスマホが約40%、150~400ドルのミッドレンジが約30%、400ドル以上のハイエンドが約30%となっています。伸びが最も大きいのはローエンドスマホで、ハイエンドはマイナス成長という予想です。ただし、上述の買い替え需要が発生したときの規模感は、低級スマホから中級スマホへの買い替え需要が1億台規模、中級から高級へのそれは数千万台規模となる可能性がありますので、もしこの動きが現実になると、中高級スマホの成長率が上乗せされることになります。この価格レンジのスマートフォン向けにビジネスを行っている日本の大手電子部品メーカーにとって、業績へのインパクトは大きいものが予想されます。実際にそうなるかどうか注目したいと思います。

グラフ4 スマートフォンの価格帯別世界出荷台数
(単位:100万台、出所:ソニーIRDAY2016を参考に楽天証券作成、注:ソニーIRDAY2016の資料では、スマートフォンの価格帯について、メーカー出荷価格ベースで低価格帯100ドル以下、中価格帯100~250ドル、高価格帯250ドル以上となっているが、価格帯別の販売価格を楽天証券で推定し言い換えた)

自動運転、IoT、人工知能で何がどう変わるのか

これについては改めてレポートを書くつもりですが、自動運転、IoT(Internet of Things)、人工知能は、互いに関連する、接続する問題です。自動運転カーはネットワークで外部と繋がるため、広い意味でIoTの一部となりうると考えられます。実際には、加速、操舵、制動を全てシステムが行い、システムが要請したときにドライバーが対応する「レベル3」になると外部と相当密接に接続されると思われます。レベル3が実用化されるのは2018~2020年と言われています。また、自動運転システムには人工知能も搭載されます。この自動運転カーがハッキングされたり、ウイルス感染で暴走したりすると社会全体に大きな影響が出てしまいます。

そこで、新しい接続された世界ではセキュリティが重要になります。自動運転=IoT=人工知能の世界では、まず電子回路の数が増えると思われます。自動運転、IoT、人工知能の各機能が増えるたびに半導体とその周辺回路が単に増えるだけでなく、主要回路、主要半導体(例えば、ECU:エンジン・コントロール・ユニットまたはエレクトロニック・コントロール・ユニット)に対して、1~2個のセキュリティ用半導体とその周辺回路が必要になると言われています。要するに主要回路に対して2重3重のセキュリティを掛けるわけです。自動車用半導体メーカーと電子部品メーカーにとって、自動運転=IoT=人工知能は、短期、長期の企画力と開発力が必要にはなりますが、大きなビジネスチャンスがある世界と思われます。

リスクは円高だが、1ドル=100円以上の円高がなければ織り込み済みか

表1のように、電子部品各社の今期前提レートは足元の水準よりも円安水準にあります。したがって、業績下方修正のリスクがあります。ただし、為替だけでなく、iPhone7や中国スマホの売れ行きによっても業績は変動します。為替レートは1ドル=100円台に円高になった後、円安方向に反転しているため、業績の下方修正リスクはある程度各社の株価に織り込まれていると思われます。

表1 電子部品各社に対する為替の影響(試算):2017年3月期

電子部品各社の成長戦略

村田製作所

スマートフォン関連の電子部品メーカーの筆頭は村田製作所です。電子機器に大量に使われるチップ積層セラミックコンデンサの世界最大手であるだけでなく、様々な通信系部品、SAWフィルタやデュプレクサ(送受信ができるアンテナ系部品)など重要部品の最大手でもあります。

今後も村田製作所の成長の核は、チップ積層セラミックコンデンサと通信系電子部品になると思われます。村田製作所の強みは、電圧制御を行うため、各種電子機器に大量に使われるチップ積層セラミックコンデンサの大量生産能力を持っているため、顧客の納期、数量の要請に柔軟に応えることができることと、通信系を含む電子部品全体の品揃えの豊富さです。その意味で、買収を計画しているソニー電池部門を今後どう建て直し、どう扱うのかが注目されます。

グラフ5 村田製作所の用途別売上高
(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ6 村田製作所の製品別売上高
(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

TDK

TDKはSAWフィルタでは村田製作所に次ぐ大手であり、高級スマホ向け電池では世界最大手です。ゲーム中心にエンタメ機能が重視されるようになると、電池は重要になります。1Qは中国スマホ向けと思われますが、SAWフィルタの販売が好調の模様です(グラフ7の受動部品に含まれる)。また、自動車向けの大容量チップ積層セラミックコンデンサでは村田製作所と市場を二分しています。

スマートフォン用半導体大手のクアルコムと戦略提携を行い、SAWフィルタ事業を事実上売却する予定です。見返りに売却益を受け取り、クアルコムのリファレンス(スマートフォン用半導体メーカーがスマホメーカーに対して提示するスマートフォンの標準設計図。これに掲載された電子部品はスマホメーカーに採用される可能性が高くなる)へTDKの電子部品を優先的に掲載してもらえると思われます。今後の展開が注目されます。

グラフ7 TDKのセグメント別営業利益

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

アルプス電気

アルプス電気は高級スマホ向けアクチュエーター(スマホカメラの絞り機構)の世界最大手です。アクチュエーターは、手振れ補正用、デュアルカメラ用ともに、今回のiPhoneの変化の中で焦点になる部品です。実際に、新型iPhoneのスペックが上記の通りとすれば、アルプス電気の高級スマホ向け事業は2016年7-9月期から急速に回復する可能性があります。今期会社予想業績は控えめに作られていると思われるので、円高デメリットは大きいですが、会社予想業績には上乗せ期待があります。

表2 アルプス電気のセグメント別損益:四半期ベース

ソニー

ソニーがトップシェアを持つ高級イメージセンサーにとっても、iPhone7でデュアルカメラが実現すれば朗報となるでしょう。主にイメージセンサーからなる半導体部門(2016年3月期までのデバイス部門が半導体とコンポーネントに分離した)は今期営業赤字の見通しですが、来期は黒字転換できると思われます。

表3 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

日東電工

来年2017年からiPhoneの一部機種に有機ELが搭載されると言われています。いずれ高級スマホでは、有機ELディスプレイ搭載が世界的な流れになると思われます。液晶向け材料(偏光板など)の大手である日東電工は有機EL用偏光板の大手でもあります。今1Qの業績はかなり悪化しており、液晶向け材料が厳しい状況となっていると思われますが、中期的には、有機ELの登場で業績がどう変化するかが注目されます。

グラフ8 日東電工のセグメント別営業利益

(単位:百万円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

有機ELでスマートフォンはどう変わるのか

液晶は自家発光しないため、液晶パネルは裏側からバックライトで照らすことで画像を映すことができるようになります。これに対して、有機ELは自家発光するため、バックライトが必要なくなり、スマートフォンを薄くすることができます。そこで、単に薄くするだけなのか、何らかの付加機能を加えるのかが、今後のスマートフォン向け電子部品を見るときの一つの注目点になります。例えば、通信、画像処理、ゲーム機能などが強化される可能性があり得ると思われます。

更に、2018年発売の新型iPhoneには有機ELが全面採用される可能性があります。iPhoneの年間販売台数(全機種合計)は現在約2億台なので、1台当たり1,000円分の部品が加われば、2,000億円分の電子部品の新規需要が発生することになります。もちろん、コストダウンのために別の部分が安い部品に取り替えられるリスクが発生する場合もあるため、取り替えられない企画力、開発力、マーケティング力を持った電子部品メーカーに投資する必要があります。

今後も、特にiPhoneを初めとする高級スマホの世界は話題が多くなりそうです。

表4 スマートフォンに搭載される電子部品の個数

表5 主なスマートフォン用電子部品の概要:1

表6 主なスマートフォン用電子部品の概要:2

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