本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758)/カプコン(9697)/ペプチドリーム(4587)/小野薬品工業(4528)

ゲーム株コメント

1.カプコンが「バイオハザード7」をPS VRに対応させる

6月14日、カプコンは旗艦タイトルの「バイオハザード」の次回作「バイオハザード7」の発売日と詳細を発表しました。それによれば、2017年1月24日に北米と欧州で、1月26日に日本で、「バイオハザード7 レジデント イービル」を発売します。対応機種は、プレイステーション4、Xbox One、PCで、プレイステーションVR(PS VR)に全面対応します。

前作「バイオハザード6」(2012年10月)は累計販売本数650万本でした。今回の会社目標は600~700万本と思われます。カプコンにとっては、2017年3月期だけでなく、2018年3月期にも寄与すると思われます。また、ユーザーからPS VR対応が高く評価されれば、会社目標以上の本数もあり得ると思われます。

このPS VRへの全面対応は、サプライズでした。PS VRの発売は2016年10月の予定なので、それとほぼ連動する形で「バイオハザード7」がVR対応することになります。現時点では、ゲームの大型シリーズでPS VRへのフル対応を表明したのは、「バイオハザード」だけであり、このことはゲーム市場で大きな出来事だと思われます。ホラーゲームは、シューティング、アクションなどと同様、VRに合うゲームジャンルと思われますので、期待したいと思います。

2.PS VRがPS4市場を更に拡大させると思われる

6月14日付けで、ソニーはPS VRを2016年10月13日に北米で発売すると発表しました(E3(世界最大のゲーム展示会)でのカンファレンスで発表しました)。PS VR専用ソフト、「Farpoint」(Impluse Gear)、「Star Wars Battlefront:X-Wing VR Mission」(Electronic Arts)、「Batman:Arkham VR」(RockSteady and Warner Bros Interactive Entertainment)の発売も発表されました(10月13日より順次発売予定)。

E3では、PS4への積極姿勢が改めて表明されましたが、PS VRの発売日と専用ソフトのラインナップも発表されました。ただし、現時点でソニーはPS VRの今期発売計画を公表しておらず、慎重に考えると言うばかりです。過去の報道では、今期出荷台数100~200万台とありますが、これはあまりに少なすぎる台数です。カプコンが「バイオハザード7」のPS VRフル対応を表明したため、今後、有力ソフト会社の間でPS VRへの対応が増えると思われます。

その場合、PS4の累計販売台数(2016年5月4,000万台、2016年年末までに5,000万台以上になると思われる)の10~20%以上、年度内500~1,000万台以上、来年度1,000万台以上のPS VRマシンに対する実需が発生すると思われます。品不足になると思われますが、VR需要がPS4市場全体を牽引する可能性が高いと思われます。

その場合、PS4販売台数は今期会社予想2,000万台に対して、来期2,500万台程度まで伸びる可能性があります。来期は過去最高の販売台数となる可能性があり、ソニーのゲーム&ネットワークサービス事業の業績を更に拡大させることになると思われます。

このようなVRブームが起こった場合、ソニー全体の業績がどうなるのか試算したものが表1です。他の事業が順調に伸びるという前提での話ですが、2017年3月期は金融部門の伸び悩みによって下方修正の可能性があるものの、2018年3月期は4,000億円台、2019年3月期は5,000億円台の営業利益になると予想されます。

引き続き、ソニーに投資妙味を感じます。また、日本の家庭用ゲーム会社で世界市場で通用する会社は、ソニー、任天堂、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスぐらいになってしまいました。カプコンの「バイオハザード7」がユーザーにどう受け入れられるか注目したいと思います。カプコンにも投資妙味を感じます。

任天堂については、2017年3月発売の新型機「NX」がVRに対応できるスペックを持っているかどうかで成否が決まる可能性があります。VRは高精細画像を高速で動かす必要があるため、CPUやグラフィックチップの性能を高性能化する必要があります。

グラフ1 ソニー・プレイステーションの販売台数

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ2 ソニー・ゲーム&ネットワークサービス事業の業績

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券、一部楽天証券推定)

表1 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

薬品・バイオ株コメント

ペプチドリーム

1.BMSが特殊ペプチドを使った新型PDL-1阻害剤のフェーズⅠに入った

6月15日、ペプチドリームは、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)との間で進行中の共同研究開発プロジェクトから、初めて臨床試験に入るものが出たと発表しました。この共同開発プロジェクトは、ペプチドリーム独自の創薬開発プラットフォーム「PDPS(ペプチドリーム・ディスカバリー・プラットフォーム・システム)」を使うものです。

この内容を記載したプレスリリースには、臨床試験入りしたパイプラインの中身は詳しく書かれていませんが、6月14日に開催された10周年記念学術講演会での内容から見ると、PDL-1阻害剤です。

免疫チェックポイント阻害剤は、人間の体内のT細胞(免疫細胞)ががん腫瘍を攻撃するときに、それを止める働きをするPD-1=PDL-1などのつながりを阻害して、免疫を回復させるものです。免疫チェックポイントであるPD-1とPDL-1との連鎖を阻害する薬のうち、PDL-1を阻害する(蓋をして機能しなくする)ものが、今回の臨床試験の対象です。抗体(特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して結合する働きをもつ。バイオ医薬品の原料)の代わりにPDPSが生み出した特殊環状ペプチドを使うものです。

ちなみに、抗体を使ったPDL-1阻害剤で上市されているものは現在のところなく、ロシュ=中外製薬、アストラゼネカが開発中です(ロシュがアメリカで膀胱がんで承認済み)。PD-1阻害剤では小野薬品工業=BMSのオプジーボ(ニボルマブ)、メルクの「キートルーダ」(一般名ペムブロリズマブ)があります。

会社側によれば、前臨床(動物実験)の段階では、抗体を使った免疫チェックポイント阻害剤並みの薬効が確認できたとしています。また、製造コストは実験室段階では、抗体を使ったものの約10分の1としています。原価が10分の1ならば製品価格は6分の1程度にできると思われます。臨床試験はアメリカから行う模様です。PDL-1阻害剤の上市時期は2020年6月期としていますが、これについてはこのように早くすることが可能なのか不明です。

また、上述の10周年講演会の中での会社側の発言では、特殊環状ペプチドを使ったPD-1阻害剤も持っている模様です。文脈から見て、これもBMSとの共同研究と思われますが、現時点では公表されていません。臨床試験入りがいつになるかも不明です。

抗体医薬品(バイオ医薬品)は分子量が多い高分子であり、細胞表面の目標分子だけを攻撃し副作用も少ないですが、高コスト、高価格です。一方、低分子は低コストですが、病変だけでなく周辺の細胞も殺してしまうため副作用の問題があります。特殊環状ペプチドは、中分子であり、抗体ほど分子量が大きくなく、低分子に近い少ない分子量です。薬品にする時には、抗体よりも安い価格にすることが出来ます。この分子量で抗体の代りが出来ると言うことは大きな発見であり、実際に新薬開発が成功すれば、大きな成果だと言えます。

2.BMSの意図を推察する

報道によると、オプジーボと今回の新型PDL-1阻害剤の併用療法に期待できるということです。またBMSには、抗体ベースの免疫チェックポイント阻害剤の高価格に対する問題意識、品揃えのニーズ(ヤーボイ、オプジーボ以外の免疫チェックポイント阻害剤を揃えたい)、メルクのキートルーダへの対抗という意味もあると思われます。

PD-1阻害剤については、(実際にBMSが開発パイプラインを持っているとすれば)、高価格、高コストへの問題意識もあると思われますが、特殊環状ペプチドを使ったPDL-1阻害剤にせよ、PD-1阻害剤にせよ、競争相手が見つける前に見つけて押さえておきたいという競争上の考え方があると思われます。なおBMSは、オプジーボが成長期に入り同社に高水準の利益をもたらすようになっているため、それを壊すようなことを今すぐに行うとは思えません。従って、新型PD-1阻害剤の臨床試験入りはまだ先になると思われます。

3.株価が落ち着いたら再度投資妙味も

ペプチドリームは、新薬の臨床試験を経て上市したことが一度もなく、現時点では臨床試験をやるつもりもありません。臨床試験は共同研究の相手に任せるため、フェーズⅠ以降は実質的に導出することになります。共同開発先が当社の技術を使って開発、上市を成功させたこともまだありません。特殊ペプチドを使った新薬が動物実験(前臨床)で効いたとしても、それが人間に対して投与する臨床試験で成功するかどうかは、フェーズⅡないしⅢまで行かなければ分らないことだと思われます。

ただし、PDPSの技術供与先や共同開発先は表2のように増加しています。PDPSは2兆個の特殊ペプチドと低分子化合物のライブラリーから、様々な条件にあった化合物の集合体を見つけ出せるため、製薬メーカーから優秀な創薬技術として高く評価されています。PDPSをベースにした開発技術であるPDCの引き合いも多く、今後も共同開発の相手は増えると思われます。そのため、各社からの契約一時金、マイルストンが今後増加すると思われます。2017年6月期、2018年6月期を見ると、売上高、営業利益ともに高率の成長が予想されます。

足元の株価は軟調な展開になっていますが、落ち着けば再度投資妙味がでてくると思われます。

表2 ペプチドリームの技術供与先と共同研究開発の提携先

グラフ3 ペプチドリームの業績

(単位:百万円、2017年6月期~2018年6月期は楽天証券試算)

小野薬品工業

1.5月末のオプジーボ累計投与人数は6,944人

5月末のオプジーボの累計投与人数は6,944人でした。半月毎の推移を見ると、4月後半と5月前半はゴールデンウィークの影響で休診の病院が多かったため、それまでに比べ投与人数の増え方が減速しました。しかし、5月後半になると病院も平常に戻ったため、投与人数の増加ペースが回復してきました。今後は施設数の増加だけでなく、医師のオプジーボに対する理解が深まれば、より多くの患者が投与を受けると思われます。

ちなみに、6月の新規投与人数を1,200人とすると、6月末累計は8,144人、2016年3月期決算説明会での会社側説明による月間費用266万円(薬価ベース)、流通マージンを推定7%とすると、1Qの累計投与人数平残6,516人×266万円×0.93×3カ月=484億円になります。これに単純に4を掛けると1,936億円となり、今期のオプジーボ売上高は会社予想の1,260億円に対して、単純計算で1,900~2,000億円となる見込みとなります。ただし、この計算は正しくないというのが会社側の考え方です。実際はどうなのか、1Q決算が注目されます。

表3 小野薬品工業:オプジーボの投与人数

2.BMSの新型PDL-1、PD-1阻害剤の影響はないと思われる

BMSが臨床試験入りした新型PDL-1阻害剤は、オプジーボのようなPD-1阻害剤ではありません。BMSと小野薬品工業の契約はオプジーボについてのみなので、それ以外の製品については、もともと小野薬品工業とは関係ありません。5月13日付け楽天証券投資WEEKLYのグラフ1を見れば分りますが、キートルーダよりもオプジーボのほうが売上高は勢い良く伸びています。これはオプジーボのほうが検査が簡単でよく効くからです。BMSには、新型PDL-1阻害剤との併用によって、この優位性を維持したいという考えがあると思われます。

また、もしBMSが何らかの理由で新型PD-1阻害剤を日本に持ってくる場合は、一見するとオプジーボにとって脅威となるように見えますが、「時間」について考えることが重要です。もしBMSが特殊環状ペプチドを使った新型PD-1阻害剤を完成させたとしても、アメリカでフェーズⅠからフェーズⅢまで4~5年かかると思われます。全く新しい物質なので日本に持ってくるには日本での臨床試験が必要です(2~3年)。それに加えて2~3年以上併用療法の臨床試験が必要になります。免疫チェックポイント阻害剤と他の薬あるいは治療法との併用療法のターゲットは、単なる延命から「がんを治すこと」になっていますので、新型薬にも各種併用療法のラインナップが必要と思われますが、このラインナップを作るには時間がかかるのです。

このように日本市場参入のラインナップが出来るためには、アメリカでのフェーズⅠ入りから最短で8~11年かかることになると思われます。またその間、日本の薬価制度ではオプジーボの薬価が大幅に引下げられると予想されます(特例再算定の適用を数回受ければ、おそらく今の薬価の3分の1か4分の1)。また、各種の併用療法や投与法の改良などで付加価値を付けることができます。このため、単にコストダウンを行う後続薬に対して優位性を維持できる可能性が高いのです。

オプジーボのような画期的新薬の市場では、競合薬が出そうになったとき、それが上市されるまでの「時間」と「中身」を検討してみることが重要になります。日本の薬価制度では、国が大型新薬の薬価を定期的に大幅に引き下げることで、結果として国が先行薬を守る「参入障壁」を作っていると解釈することもできます。それを考えると、オプジーボを上回る性能の画期的新薬が出ない限り、がん治療薬としてのオプジーボの優位性は長期間続くと考えたほうが良いと思われます。

相場全体の地合いの悪さもあって株価は調整中ですが、投資妙味は変わらないと思われます。

本レポートに掲載した銘柄

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