本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974)/ソニー(6758)/村田製作所(6981)

1.相場概況:追加緩和なく日経平均株価は大幅安、再び節目に注意したい

日本の株式市場は再び16,000円を巡る動きになってきたようです。4月27、28日の日銀金融政策決定会合において追加緩和の発表がなかったことに株式市場は失望、4月28日、5月2日と日経平均株価は17,500円台から16,100円台へ大幅に下落しました。5月3~5日の連休中は、ドル円レートが1時1ドル=105円台へ入ったことによって、CME日経平均先物も一時15,800円台へ下落しました。

しかし、ドル円レートが1ドル=107円台へ切り返すと、CME日経平均先物も上昇に転じ、16,100円台へ入る場面がありました。5月6日早朝のCME日経平均先物は16,000円台です。

以前も本稿で指摘しましたが、日経平均株価の16,000円は極めて重要な節目です。今のところ16,000円が強力な下値支持線となっていることは、株式市場の先行きを見る上で重要なことです。

一方で、5月9日からの週の決算発表日程を見ると、重要決算が目白押しとなっています。注目したいセクター、銘柄は、今後の成長期待が高い、小野薬品工業(5月11日)、塩野義製薬(5月11日)、そーせいグループ(5月13日)、ペプチドリーム(5月10日、6月期)などの薬品・バイオセクター、為替と地震の影響を含めた業績の実体を慎重に見極めたい自動車セクター(トヨタ自動車(5月11日)、本田技研工業(5月13日)、日産自動車(5月12日)、富士重工業(5月12日))とルネサス エレクトロニクス(5月11日)などです。また、5月12、13、16日の3日間にメガバンク、地銀、生損保の多くが決算発表を予定しています。マイナス金利の影響がどの程度かが決算の上で判明すると思われます。

どのようなセクター、企業であれ、決算は出てみなければわかりません。連休明けは気の抜けない相場となりそうです。

(この相場概況は、5月6日(金)8時までの情報を元に執筆しました。)

グラフ1 日経平均株価:週足

グラフ2 CME日経平均先物:5分足

グラフ3 東証マザーズ指数:週足

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

グラフ6 東証各指数(2016年5月2日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.決算コメント

任天堂(7974)

2016年3月期は営業利益32.7%増

2016年3月期は表1のように売上高5,045億円(前年比8.2%減)、営業利益329億円(32.7%増)となり、営業増益となりました。期末レートが円高になったため、保有する外貨建て現預金と外貨建て短期有価証券に評価損(為替差損)が発生し、経常利益、当期純利益は減益でした。

ハードウェア販売台数は、ニンテンドー3DSが2015年3月期873万台から2016年3月期679万台へ減少しました。Wii Uは同じく338万台から326万台へ若干の減少に留まりました。また、ソフトウェア販売本数は、3DSが6,274万本から4,852万本へ減少しましたが、これは2015年3月期の「ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア」994万本、「大乱闘スマッシュブラザーズ for 3DS」675万本の反動によります。2016年3月期は「どうぶつの森ハッピーホームデザイナー」304万本や「ファイアーエムブレムif 白夜王国・暗夜王国」184万本、過去のヒット作の追加分が寄与しました。Wii U用ソフトは、2,440万本から2,736万本へ増加しましたが、これは、「Splatoon」427万本、「スーパーマリオメーカー」352万本などの寄与によります。

また、今回の決算で目立ったのが、ハード、ソフト売上高以外の、「ゲーム専用機ハードウェア・その他」の売上高、2015年3月期382億円、2016年3月期520億円、「ゲーム専用機ソフトウェア・その他」2015年3月期206億円、2016年3月期280億円です。「ゲーム専用機ハードウェア・その他」はamiiboや周辺機器の売上高であり、増加分はamiiboの寄与と思われます。「ゲーム専用機ソフトウェア・その他」は主にソフトのダウンロード販売です。特にamiiboとダウンロード販売は業績に寄与したと思われます。

販管費は2015年3月期1,898億円から2016年3月期1,881億円に減少しました。広告費の減少が寄与しています。

この結果、3DS用ソフト、Wii U用ソフトのヒットや、amiibo、ダウンロード販売などの貢献によって営業増益となりました。

表1 任天堂の業績

表2 3DS、Wii Uのハード販売台数、ソフト販売本数:通期ベース

2017年3月期も会社予想は増益見通し

会社側は2017年3月期業績見通しを、売上高5,000億円(前年比0.9%減)、営業利益450億円(36.9%増)としています。ハードウェア見通しは、3DSが500万台(前年比26.4%減)、Wii Uが80万台(75.5%減)であり、Wii Uは後述の「NX」発売によってハード販売を大幅に縮小させる方向に向かいます。

ソフトウェアもWii Uは1,500万本(45.2%減)と急減する見通しですが、3DSは5,500万本(13.4%増)へ増加する見通しです。3DS用ソフトでは、2016年冬に「ポケットモンスター サン・ムーン」を発売すること、2016年2月にアメリカで発売した「ファイアーエンブレムif 白夜王国・暗夜王国」の追加販売が見込めることなどによります。

更に、2017年3月期に新型機「NX」が発売されます。これの寄与、特にソフト販売の寄与が2017年3月期会社予想に織り込まれている模様です。

謎の新型機「NX」、2017年3月に発売へ

今回の決算発表の目玉は、ベールに包まれた謎の新型機「NX」が2017年3月に発売されることが決まったことです。

「NX」の詳細は今回も明かされませんでした。年内に発表する場を設けるということでしたが、おそらく年末と思われます。任天堂はソニーに対して家庭用ゲーム機市場で劣勢であり、新型機の詳細を早く開示するメリットはありません。

また、2017年3月と発売がまだ先となります。立ち上がりとその後の成長に十分な自社製ソフトを揃えてから発売したいというのが会社側の意向であり、そのため新型機の発売としては遅れます。ただし、3DS、Wii Uの苦戦は、十分な自社製ソフトを揃えないまま発売したことによります。全く私の意見ですが、発売後2年間は実弾(優良ソフト)を打ち続けることが出来るぐらいの量の任天堂製優良ソフトを準備中と思われます。

もしそうならば、NXが成功する可能性は高くなると思われます。2017年3月に発売する際のハードの販売数量も、300万台以上用意すると思われます。これは今の経営者は在庫を恐れて事業機会を失うことはしないだろうと思われるからです。3月に発売するという決断も、劣勢の任天堂がクリスマスシーズンに発売し、ソフトが充実しているプレイステーション4と競合するよりも、ゲームの閑散期である3月に発売するほうが成功し易くなるという判断からと思われます。例年3月は新作の本数がクリスマスシーズンに比べると少ないため、NXが発売されるとゲーム好きが購入する可能性が大きくなると思われます。

NXのスペックは開示されていませんが、成功する条件から想像は出来ます。まず、NXは据置機と思われますが、これは会社側がWii Uのビジネスを早期に終わらせる意向と思われることから分ります。性能はプレイステーション4と同等かそれ以上であれば成功する可能性が高くなりますが、これはWii Uが失敗した理由の一つがWii Uの性能の低さであり、そのことが一部の優良サードパーティに敬遠されたためと言われているからです。また、今後の家庭用据置機にはVR(バーチャルリアリティ)への対応が不可欠となると思われますが、この場合、高性能CPUの搭載が必要になります。体感を含めた臨場感の重要性は、任天堂がWiiのビジネスで実体験したことです。

なお、グラフ7、8に示したNXのハード、ソフトの楽天証券予想は、NXハードが2017年3月期300万台、2018年3月期1,500万台、ソフトが同じく1,300万本、7,000万本です。

株価は、決算発表後下落しています。NXの詳細に関する開示がなかったことや、円高を嫌気しての下落と思われます。ただし、1年以上の長期なら、今の局面は買い場と思われます。任天堂の中長期的な変化に期待したいと思います。

グラフ7 任天堂:据置型ゲーム機の世代交代図:ハードウェア

グラフ8 任天堂:据置型ゲーム機の世代交代図:ソフトウェア

ソニー(6594)

2016年3月期は大幅増益

2016年3月期は表3のように大幅増益となりました。

表4、5のセグメント別損益のように、ゲーム&ネットワークサービス、イメージング・プロダクツ&ソリューション(デジタルカメラなど)、ホームエンタテインメント&サウンド(テレビ、オーディオなど)、音楽が大幅増益となりました。また、モバイル・コミュニケーション(スマートフォン)の赤字が大幅に縮小しました。その他の項目も、パソコン事業の終息によりサポートが減少したため黒字となりました。

一方で、デバイス部門はカメラモジュールの減損やイメージセンサー事業の悪化で赤字転落、映画は映画興行収入等の減少で減益、金融は株式相場の下落、4Qにマイナス金利の影響が出たこと、それに伴って繰延保険契約費償却費及び責任準備金繰入額が増加したことにより減益となりました。金融部門の営業利益は3Q522億円から4Q171億円に急減しました。

表3 ソニーの業績

表4 ソニーのセグメント別営業利益:四半期ベース

熊本地震の影響で2017年3月期業績予想は未開示

2017年3月期会社業績予想は、会社側は4月28日の決算発表時には公表しませんでした。これは熊本地震により当社デバイス部門の熊本テクノロジーセンター(以下熊本テック)が被災し、現在も稼働を停止していること、熊本テックの主力生産品目がデジタルカメラや監視カメラ向けイメージセンサーであり、これが当社製品の多くに使われているためです。また、熊本地震の影響で他社からの部品供給に影響が出ている製品もあります。具体的には以下の通りです。

  • 熊本テックの部品の生産停止によって、デジタルカメラ等のイメージング・プロダクツ&ソリューション分野の製品の大半が影響を受けている。
  • 同様に、熊本テックでは、モバイル・コミュニケーション分野のスマートフォンの一部のイメージセンサーの生産とカメラモジュールの一部工程を行っている。このことが同部門の業績に影響する可能性がある。
  • プレイステーション4の一部の部品の調達(他社からの調達)に支障が生じる可能性があるが、深刻ではない模様。
  • ホームエンタテインメント&サウンド分野の中で、ブルーレイディスクプレイヤーの一部機種で部品調達に支障が生じる可能性があるが、深刻ではない模様。テレビへの影響は軽微と思われる。

このため会社側は、映画、音楽、金融を除いて業績見通しを公表しませんでした。全ての事業と全社の見通しは、5月24日を目処に公表される模様です。

表5 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

地震の影響だけでなく、金融事業の動きで全体の営業利益が変動する可能性がある

決算説明会における会社側の説明を元に各部門の営業利益を想定して、全体の営業利益を試算してみました。それが表5の2017年3月期楽天証券試算です。熊本地震の被害とその復旧が行われている最中であり、より正確な情報は5月24日に予定されている通期会社予想の公表を待つべきですが、表5はそれまでの一応の目安です。

これによれば、全体の営業利益が増益になるか、減益になるかは、各部門に対する熊本地震の影響だけでなく、金融事業の営業利益によると思われます。会社予想の様にほぼ横ばいの1,500億円になるか、あるいは、前4Qの大幅減益を引きずる形で営業利益1,000億円前後あるいはそれ以下の減益になるかによって、全体の営業利益が変わる可能性があります。それ以外の分野では、イメージング・プロダクツ&ソリューション、デバイス、音楽の不振、減益を、ゲーム&ネットワークサービス、ホームエンタテインメント&サウンドの増益でカバーするという構図です。

会社を引っ張る主役の変化にも注目したいと思います。これまでの会社計画では、イメージセンサーを中心とするデバイス部門が中核的な牽引役で、それにゲーム、金融が続くと言う構図でした。しかし、2016年3月期決算から見えるものは、ゲーム&ネットワークサービスの将来性が最も大きく、成熟部門と思われてきたホームエンタテインメント&サウンドと(熊本地震前までの)イメージング・プロダクツ&ソリューションが意外に成長余地が大きい分野だったということです。逆にiPhone市場が成熟化した後のデバイス部門とマイナス金利が導入された後の金融部門がリスク部門になり始めている可能性があります。

株価を見ると、当面は会社側が熊本地震の影響を把握し、全部門の見通しをまとめるであろう5月24日を待ちたいと思います。その上で(会社予想の中身を分析した上でですが)、今期の営業利益が横ばいか増益になると思われる場合には、ゲームの将来性を評価して中長期での投資を考えたいと思います。

村田製作所(6981)

2016年3月期は4Qが減益に

2016年3月期通期は表6のように増収増益となりましたが、1Q、2Qの大幅増益に対して、3Qは増益率が鈍化し、4Qは減益となりました。会社側はユーザー名を言いませんが、アップルのiPhone減産の影響と思われます。アップル以外のユーザー、中国スマホや韓国系ユーザーへの拡販に注力したため、4Qは1.7%減収となりましたが、設備投資増加による減価償却費増加や研究開発費増加が響き、25.2%営業減益となりました。

なお、グラフ10を見ると、通信モジュールの減少が目立ちます。これは大手ユーザーの現行機種向けのシェアを大きく減らされたためと思われます。逆にこれがなければ、4Qの減益率はより小さくなっていた可能性があります。

2017年3月期は上期、下期とも減益見通し

会社予想では、今期は上期、下期ともに売上高はほぼ横ばいで減益となる見通しです。中国スマホの内部の高度化による増収は期待できそうですが、今年9月発売と思われるiPhone7には大きな期待は出来ないという見方が会社側にあるようです。また、減価償却費が189億円、研究開発費が120億円増加すること、平均為替レートが2016年3月期1ドル=120.14円から2017年3月期会社前提1ドル=110円へ円高となることで、営業利益に対する円高デメリットが355億円発生することも減益要因となります。

なお、設備投資は2016年3月期1,725億円から2017年3月期1,600億円へ減少する見込みですが、建物への投資は増える計画です。新棟に据える生産設備への投資は来期になると思われますが、中身は新製品の生産設備になる模様です。それがスマホ関連なのか、それ以外の新規事業なのかは不明です。いずれにせよ、既存のスマートフォンの大きな伸びには期待できそうにないため、当面は新たな収益源(スマホの新分野か、それ以外の新規事業か)を模索することになりそうです。

株価は当面底値を探る動きと思われます。各製品の売上トレンドの変化など、業績にポジティブな変化が見られるのを待ちたいと思います。

表6 村田製作所の業績

グラフ9 村田製作所の用途別売上高

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ10 村田製作所の製品別売上高

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974)/ソニー(6758)/村田製作所(6981)