1.2015年10月19日の週の相場概況:安川電機と東京製鐵の2Q決算で雰囲気が変わる

10月19日の週の株式市場は、戻りの展開となりました。週初は安く始まったものの20日からは持ち直し、21日は前日比347.13円高の18,554.28円となりました。

21日の株価上昇の背景は2つあると思われます。

一つは、10月20日発表の安川電機と東京製鐵の2016年3月期2Q決算が思いのほか良好だったことです。安川電機の営業利益は1Q91億円(前年比33.8%増)に対して2Qは99億円(同22.2%増)と順調でした。地域別売上高ではアメリカが1Q204億円(39.0%増)、2Q225億円(30.1%増)と好調でこれが業績を牽引しましたが、株式市場が心配していた中国向けは1Q236億円(13.5%増)、2Q237億円(12.9%増)とこれも堅調でした。株式市場では中国向けが減るかもしれないという心配があったと思われます。

会社側の通期営業利益見通しは365億円と従来予想が据え置かれましたが、これも下方修正がなかったことから株式市場では安心感に結びついたと思われます。安川電機株は21日に10.1%上昇しました。

東京製鐵も、営業利益は1Q42億円(7.5%増)、2Q30億円(54.1%増)でした。国内の鋼材需要が堅調で鉄くず価格が下がったことが寄与しました。この決算も株価を刺激し、東京製鐵株は12.6%上昇しました。

もう一つは、10月21日付け日経新聞に掲載された電子部品受注の順調な拡大を伝えるニュースです。今回の決算の大きな注目点の一つは、「iPhone6s」シリーズの日本企業への寄与がどの程度なのかと言うことです。日本の大手電子部品メーカーの7-9月の受注額合計が過去最高となり順調に拡大しているというニュースは、中国スマホのスローダウンや「iPhone6s」への売れ行きへの懸念をある程度払拭したと思われます。21日には、村田製作所、日本電産など、「iPhone」関連株の株価が上昇しました。

22日の日経平均株価は反落し、前日比118.41円安の18,435.87円となりましたが、チャートを見ると、緩やかな戻りの過程に入っていると思われます。決算の内容によっては、本格的な再上昇が期待できると思われます。

22日木曜日までの株式市場を見ると、安川電機、東京製鐵、電子部品受注のニュースが株式市場の雰囲気を変え始めていると思われます。また、23日は11時現在で400円以上上昇し、18,800円台に入っています。後述のように日本電産の決算については見方が分かれると思われますが、中長期的にはポジティブに受け取ってよいと思われます。

先週も指摘しましたが、株式市場の今の位置は、中長期的な買い場となっている可能性があります。決算を見ながらですが、前向きに投資を考えたいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:週足

グラフ3 日経平均株価:月足

グラフ4 東証マザーズ指数:週足

グラフ5 ドル円レート:日足

グラフ6 ユーロ円レート:日足

グラフ7 東証各指数(2015年10月22日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.決算コメント:日本電産

10月19日の週から、日本企業の2016年3月期2Q(7-9月期)決算が始まりました。今回から数週間に渡って、主な企業の2Q決算をレポートします。

日本電産

決算発表シーズンの最初の頃に日本電産の決算発表があります。今回の決算説明会では永守社長から直接足元の状況と今後の見通しについて説明がありましたが、これは電子部品やそのユーザーセクターの今後を見通す上で重要な意見です。

先行投資負担はあるが、業績は順調に拡大中

日本電産の2016年3月期2Qは、表1のように、売上高3,023億1,100万円(前年比21.3%増)、営業利益311億500万円(15.7%増)となりました。売上高は順調に伸びましたが、営業利益の伸び率は2015年3月期1Qから2016年3月期1Qまでの前年比20~30%台の増益率に比べ見劣りがするものとなりました。この要因は後述のように、HDD向けスピンドルモーターの新規受注分について内製化が十分進んでいないこと、高級スマートフォン向け「触覚デバイス」に使われる振動モーターの生産立ち上げにかかるコストの増加、車載事業に対する先行投資などの先行投資負担などが発生したためと思われます。

個別部門の2Qの実績を見ると、「精密小型モータ」は、18.0%増収、16.1%営業増益となりました。営業利益率は前年同期の15.5%、今1Qの17.0%から低下し、15.3%となりました。市場シェア85%に達するHDD向けスピンドルモーターで、撤退した競合メーカーがあったため、その分の受注と生産が2Qから始まりましたが、部材の内製化が遅れており、これが営業利益率低下要因となりました。

売上高の内訳を見ると、「HDD用モータ」が568億6,600万円(前年比19.5%増)、「その他小型モータ」が615億8,900万円(16.6%増)となりました。

また、大手スマートフォンメーカーの新型高級スマートフォン(「iPhone6s」シリーズと思われます)に装着する「振動モーター」の生産立ち上げにかかるコストもかかったと思われます。振動モーターは「iPhone6s」シリーズから採用された「3D Touch」に使われる部品で、日本電産と中国のAACテクノロジーズが生産していると言われています。従来から携帯電話やスマートフォンに組み込まれてきたバイブレーター用の回転モーター、リニアモーターよりも精密製品であり、かつ大量生産が必要になります(上記の「その他小型モータ」に入る)。

「車載及び家電・商業・産業用」は、28.4%増収、23.1%営業増益でした。1Qの25.4%増益と同様に高い伸びが続いていますが、これも営業利益率は前2Q、今1Qから低下しました。

売上高を見ると、「車載」は701億3,900万円(51.8%増)、「家電・商業・産業用」は687億29万円(11.0%増)でした。車載用の伸びの大きさが目立ちますが、電動パワーステアリング用などのモーター、日本電産エレシスのADAS(先進運転支援システム、自動ブレーキ、ミリ波レーダーなどと、そのセット)の増収と、前期に買収したNIDEC GPM(旧GPM)の寄与がありました。

事業、顧客が急速に拡大しているためと思われますが、この事業分野でも各種の先行投資を行っていると思われます。

このほか、「機器装置」は前年水準が高かったため一桁増益、「電子・光学部品」は構造改革の効果で大幅増益となりました。

会社側は2016年3月期通期の業績見通し、売上高1兆1,500億円(前年比11.8%増)、営業利益1,300億円(17.2%増)を変更していません。売上高は会社予想を上回る可能性が大きいと思われますが、営業利益への上乗せはあったとしても50~100億円程度に止まる可能性があります。スマートフォン向け、自動車向け両方に大きな事業チャンスがあるため、先行投資が必要になっています。

会社側は通期の設備投資計画を従来計画の720億円から900億円に上方修正しました。増額分180億円のうち120億円がハプティック関連(振動モーター)、60億円が自動ブレーキなど車載関連への増強投資です。

表1 日本電産の四半期全社業績

表2 日本電産の製品グループ別業績推移

表3 日本電産の通期業績

高級スマートフォン向けと自動運転関連に注目したい

下に「iPhone6s」の使用感想文を書いておきますが、振動モーターなどからなるハプティックデバイス(3D Touch)はまだ初期段階であり、今後数年かけてよりよいものに改良されていくと思われます。振動モーターは「6s」「6sPlus」に各1個搭載されているだけですが(ただし、大きさが違うので、価格も違うと思われます)、来年以降は複数個搭載される可能性があります。アップルは、先端技術と大量生産の両方を要求する会社であり、この両方を満たせる会社はどの分野でも多くはありません。

また、バイブレーター以外に動く部分がなかったスマートフォンに、新しいユーザーインターフェースとして「動く部分」ができたことは、スマートフォンに精密小型モーターが搭載されることになり、当社にとっては画期的な技術進歩です。当社にとって、大きなシェアが狙える成長分野と言えます。

またスマートフォン以外の分野の需要も期待できます。会社側によれば、自動車向け居眠り防止装置用に振動モーターを受注しました。ゲームなど様々な分野からの引き合いも多い模様です。

今期の振動モーターの売上高が推定で1,000億円前後(バイブレーター用を含む)ですので、2~3年後にこれが倍以上に膨らむ可能性は十分あると思われます。会社側によれば、近い将来振動モーターを中心とするハプティック市場が5,000~6,000億円になるということです。

もう一つの有望分野は、自動運転関連です。本田技研工業から2014年に買収した日本電産エレシスは同社向けに自動ブレーキシステムやADAS(先進運転支援システム)に使うミリ波レーダーなどを納入しています。

2020年を目掛けて世界の自動車メーカーが自動運転システムを自動車に標準装備しようとしています。その中で、既に日本電産は本田技研工業に自動ブレーキシステムを納入しています。このことが持つ意味には実に大きいものがあります。まず、国内外で誰もが名前を知っている「HONDA」に自動ブレーキを販売しているという大きな実績があると言うことです。日本メーカーで自動運転関連のシステムを実際に自動車メーカーに納入しているのは、デンソー、日立(子会社の日立オートモーティブシステムズが富士重工業の「アイサイト」を生産している)、日本電産などまだ少数です。

また、日本電産は本田技研工業の部品納入業者の中で、ホンダ直納が出来る「Tier1」(ティアワン)になっています。大手自動車メーカーのTier1は望んで得られる地位ではありません。日本電産は1995年に車載用モーターに参入しましたが、長くTier2(Tier1の自動車部品メーカーにモーターを納入する)あるいはTier3でした。本田技研工業のTier1で自動ブレーキ関連を納入している実績は、海外市場開拓で大きな力になっていると思われます。

実際に、今2Qに自動ブレーキ用モーターの大型受注(1,000万個)が欧州の大手自動車部品メーカーからあった模様です。

今後の成長を考えると、高級スマートフォン向け部品と自動運転関連の両方を事業化している会社は重要な投資対象と思われます。過去数年間、HDD市場が縮小してきたため、当社の主力事業である精密小型モーター事業は、どちらかと言えば守勢の中でシェアを上げて利益率を上げる戦略だったと思われます。それが、高級スマートフォンに振動モーターが搭載されることになって、拡大ができるようになって来ました。車載向けの攻めの姿勢だけでなく、エレクトロニクスでもハプティック関連で攻めの姿勢に転換してきたと思われます。

当面は先行投資負担があると思われますが、高級スマートフォンと自動運転という豊かな成長分野を持った会社です。中長期的なスタンスで投資を考えたいと思います。

グラフ8 日本電産のセグメント別営業利益
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

3.セクターコメント:「iPhone6s」を使ってみた

9月25日に「iPhone6s」が発売されて1カ月弱経ちました。日本では「6s」はローズゴールド以外は直ぐに入手できますが、「6sPlus」は入手するのに予約して3~4週間待つ状態が続いています。店頭で聞くと、入荷が少ない上に予想を上回る予約が「6sPlus」に入っていると言うことです。私も10月17日に「iPhone6s」を買いました。全くの個人的感想ですが、思うところを書きます。

  • (1)まず単純に性能がよくて使いやすい

単純な話ですが、私は「iPhone5」(16GB)から「6s」(64GB)への買い替えなので、性能が格段に違っています。画面が大きくてきれい、CPUが強力なので動作が速い、それと電池の持ちが非常に良いです。「5」は電話したり、メールやネット検索を長時間行って通信機能を使うと、見る間に電池がなくなりましたが、「6s」はそうではありません。性能が上がった分単純に使い易くなったと思います。

  • (2)「Plus」のほうがよかったかも

「6s」を使ってみて、なぜ「6sPlus」の人気が大きいか分ったように思います。大きいほうが使い易く、かつ、電話、メール、小型のパソコン、テレビ、ゲームなど、日常生活に必要な機能、動作の大半が1台の「6sPlus」で揃うと思います。新聞を読むには画面の大きい「6sPlus」のほうがよいですし、テレビを見るときもそうです。もちろん、大きなテレビで見たい人はテレビを買うでしょうし、音楽を聴くには大きすぎるならiPodを買うでしょう。大きいパソコンが必要な人もいるでしょうから、全てが「6sPlus」でできるわけではありません。ただし、多くのことが「6sPlus」だけでできるようになると思われます。ちなみに、ゲーム好きの人は、昨年9月発売の「6」シリーズから「6Plus」を買っている人が多いようです。

  • (3)「3D Touch」の評価はまだこれから

今回の「6s」シリーズの特徴の一つは、「3D Touch」です。画面の押し方の強弱によって、画面の倍率が変わったり、違うページに移ります。あるいは、写真を押すと「ポツ」と反応が返ってきて、写真が大きくなります。これが振動モーターの動きです。今のところ私が確認できたのはこれだけですが、おそらくまだアプリケーション不足だと思われます。これからの変化に期待したいと思います。

  • (4)「iPhone」は大型になって個人のライフスタイルを変えるのではないか

巷間言われているところによれば、「6s」と「6sPlus」の生産比率は7対3と言うことです。ただし、日本では今のところ、店舗に対する「6sPlus」のまとまった入荷がない模様なので、生産が遅れている可能性があります。予約は、比率は分りませんが、「6sPlus」に予想以上の予約が集まっています。もしこの状態を是正するためにアップルが「6sPlus」を増産しているならば、「Plus」のほうが原価が高く、部品の数も多いため、電子部品メーカーにとってはプラスになると思われます。

「iPhone」はアメリカで2007年に、日本では2008年に発売されましたが、個人の生活を大きく変えてきました。そして、2014年の「6」シリーズから、更に個人のライフスタイルを変えはじめたのではないかと思われます。要するに、高性能化、多機能化とともにサイズが大きくなって、個人が持つ電子機器(テレビなどのデジタルAV機器、パソコン、スマートフォンなど)の中核になり始めているように思われます。

また、高性能化、多機能化、大型化が進むにつれて、価格も高くなっており、日本の電子部品メーカーのビジネスにとって、「iPhone」は中核分野になっていると思われます。日本電産以外では、村田製作所、ソニー、TDK、アルプス電気、日本航空電子工業、NOKなどの、いわゆる「iPhone」関連銘柄の決算が注目されます。特に、村田製作所、日本電産に投資妙味を感じます。