1.2015年9月28日の週の相場概況:日経平均株価は17,000円を割った後反発した

9月28日の週は、前週の地合いを引き継ぎ、安く始まりました。中国経済の不透明感に加え、独フォルクスワーゲンの不正ソフト事件の影響がドイツと欧州経済全体に拡大することへの懸念、更に原油安に反応したオイルマネーの日本株売りの観測に、これらの悪材料を受けての空売りなどが重なりました。日経平均株価は、29日に前日比714.27円安の16,930.84円となり、17,000円を割りました。9月24日に18,000円を割ってからわずか3営業日です。

一方で、個別銘柄には割安感も出てきました。NYダウが9月29、30日と上昇していることも支援材料となり、日経平均株価は9月30日に前日比457.31円高の17,388.15円と、17,000円台を回復しました。続く10月1日は、前日比334.27円高の17,744.22円となって、17,000円台後半へ入りました。急落していた自動車株、電子部品株の主だった銘柄が買い直されたほか(例えば、トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、ソニー、村田製作所、日本電産など)、任天堂、ミクシィなどのゲーム株、値頃感が出てきたマザーズ銘柄などが幅広く物色されました。これまで売ってきた向きの買い戻しも入ったようです。

この動きが続いて早期に18,000円台を回復するのか、再び下を向いて調整が長期化するのか、確認するにはいま少し時間が必要です。ただし、主力銘柄のチャートを見ると、29、30日にダブルボトム、あるいはトリプルボトムをつけている銘柄もあり(例えばトヨタ自動車や村田製作所、楽天証券では9月30日付けで村田製作所のアナリストレポートを発行しました)、底値がかなり固まってきた主力銘柄が増えていると思われます。銘柄を選んで投資したい局面と思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:週足

グラフ3 日経平均株価:月足

グラフ4 東証マザーズ指数:週足

グラフ5 ドル円レート:日足

グラフ6 ユーロ円レート:日足

グラフ7 東証各指数(2015年10月1日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.セクターコメント1:電子部品-「iPhone6s」シリーズの売れ行き順調-

「iPhone6s」シリーズの出足は順調

9月25日(金)に世界12カ国(アメリカ、カナダ、中国、日本、ドイツ、フランス、イギリス、香港、シンガポール、プエルトリコ、オーストラリア、ニュージーランド)で「iPhone6s」「同6sPlus」(以下「iPhone6s」シリーズ)が発売されました。アップルは9月28日付けプレスリリースで、「6s」シリーズは発売後3日間で1,300万台以上売れたと発表しましたが、1年前の「6」シリーズが発売後3日間で約1,000万台売れたので、出足は約30%増ということになります。昨年初期発売国に入っていなかった中国が今回は入っていることを考慮する必要はありますが、1,300万台は評価して良い数字でしょう。

なお、販売国は10月9日までに合わせて40カ国以上になり、年末までには130カ国以上になる予定です。

私は、9月25日の「6s」シリーズ発売後、東京の家電量販店、直営店で売れ行きを観察しています。発売直後の9月26日(土)は、「6s」はNTTドコモ、auでローズゴールドを除く全色、全機種(16GB、64GB、128GB)で在庫がありソフトバンクは全色、全機種で在庫がありました(新宿の量販店で)。一方、「6sPlus」はNTTドコモ、auでは全く在庫がなく、ソフトバンクで一部の色と機種だけで在庫が少しある程度でした。26、27日の段階では「6sPlus」は入荷そのものが少なく、事前予約した人にもまだ行き渡っていない模様でした。

また、27日以降は、「6sPlus」だけでなく、「6s」でも店によっては不足し始めている色、機種が出ている模様です。直営店では、量販店よりも早く「6s」で不足している色と機種が出ているようです。このように見ると、日本でも「6s」は順調に売れていると思われます。10月1日時点で「6sPlus」は予約した場合の納期が約1カ月、「6s」も当日入手できる色と機種が少なくなりつつあるようです。特に、小さい店舗や販売チェーンでこの傾向が強くなってきた模様です。

アメリカの店頭販売状況は不明ですが、アップルのウェブサイトから買う場合の納期は、「6s」であれば、色、機種を問わず3~5営業日です。一方「6sPlus」は、ローズゴールドの全機種が3~4週間、それ以外の色と機種でも2~3週間かかります。

「6s」と「6sPlus」の生産比率は7対3と言われていますが、実際には「6sPlus」は生産が進んでいない可能性があります。もしそうなら、9月以降「6s」以上に「6sPlus」の生産が増加する可能性があります。

現状では、楽天証券では、「6」シリーズの生産販売台数2.2億台に対して、「6s」シリーズを2.5~2.6億台と予想していますが、今後の人気次第ではこの数字を上回ることもあり得ると思われます。

アルプス電気が今上期業績見通しを上方修正した

このように「iPhone6s」シリーズの売れ行きが注目される中で、電子部品大手のアルプス電気が、2016年3月期2Q累計業績予想を上方修正しました。内容は以下の通りです。

表1 アルプス電気の業績予想

表2 アルプス電気のセグメント別内訳

グラフ8 アルプス電気の四半期売上高
(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ9 アルプス電気の四半期営業利益
(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

アルプス電気は、高級スマートフォン向けに、カメラのオートフォーカス用アクチュエータと手振れ補正用アクチュエータを生産販売しています。おそらく、これが収益ドライバーになっていると思われます。グラフ9を見るとわかるように、今1Q(2015年4-6月期)の業績水準が高かったですが、これは「iPhone6」シリーズなど高級スマートフォンの人気によるものと思われます。

ちなみに、「iPhone6」シリーズから通常版は従来通りオートフォーカスのみですが、大判の「Plus」にはオートフォーカスと手振れ補正機能が装備されています。

9月28日付けの会社側業績上方修正の中身を見ると、今1Qに続き今2Qの業績水準も高かったことが、特に営業利益からわかります。これも高級スマホが寄与していると思われます。

また、会社側のコメントを読むと、中国スマホ向け、自動車向け電子部品も伸びた模様です。

会社側は、現時点では7月29日の1Q決算発表時の2016年3月期通期の業績見通し、売上高7,670億円、営業利益545億円を修正していません。しかし、上期が好調で、通期見通しが変更なしとすると、下期は前年比で二桁減益となってしまいます。高級スマホの人気が高いことや、例年2Qから3Qにかけてスマートフォン需要が盛り上がることを考えると、2016年3月期通期の営業利益は、会社側上期見通しの営業利益310億円×2+αと考えてよいと思われます。単純計算すると、営業利益600~700億円となりますが、700億円に達する可能性もあると思われます。

電子部品大手に投資妙味を感じる

このように、大手電子部品メーカーの中で、業績見通しの上方修正を行う会社が現れたことで、村田製作所、日本電産、TDKなどの業績も注目されます。

電子部品大手の株価は、日経平均株価の下落に伴って大きく下落してきました。その結果、PER水準が下がり投資しやすくなっていると思われます。株価下落の一つの要因となった中国スマホの変調は、現時点で特に大きく現れていないようであり、業績に対しては「iPhone」向けの寄与のほうが大きくなると思われます。これは端末価格の高い「iPhone」向け部品のほうが中国スマホ向けよりも価格が高く、電子部品メーカーにとって採算が良いと思われるからです。電子部品大手に投資妙味を感じるところです。

3.セクターコメント2:自動車-VW問題が世界に拡大-

先週からお伝えしているフォルクスワーゲン(VW)の違法ソフト問題ですが、深刻さを増しています。

組織ぐるみか

報道によると、VWが不正ソフトの導入を決めたのは、2,005~2006年ということです。VWはその当時からアメリカでの販売で苦戦していましたが、アメリカの厳しい環境規制を回避する方法として、違法ソフトによる規制のすり抜けが考え出された模様です。歴代経営陣が関与し、組織ぐるみだった疑いが強まっています。実際に他社のトップも、これだけ大規模な不正は個人の力では無理と言っています。

訴訟が増えてきた

VWに対する訴訟が増えてきました。株価下落に対する損害賠償、刑事告発、車の価値低下に対する損害賠償、当該の不正ソフトを搭載した車の購入代金を返せというものなどです。訴訟はアメリカだけでなく、欧州や韓国、オーストラリアでも起こっています。

注目されるのは、29日にアメリカのテキサス州ハリス郡が、VWの米国法人に1億ドル(約120億円)超の民事制裁金の支払いを求めて提訴したというニュースです。ハリス郡では約6,000台のVWのディーゼル車が販売されたと言うことですが、環境汚染物質による健康被害を訴えたものです。単純計算ではVW車1台につき、約200万円の制裁金になります。

このような訴訟が怖いのは、1台の不正車、1種類の不正に対して、様々な角度からの制裁金、賠償金が要求されると言うことです。例えば、不正車を中古に下取りに出すときに、果たしてまともな価格で中古車ディーラーが買ってくれるか、わかりません。VWが行おうとしている改修(とりあえず、不正車約1,100万台のうち、VWブランドの約500万台が対象になります)では、ソフトウェアを改良して排ガス浄化装置がまともに機能するようにするようですが、その場合、燃費が悪化すると言われています。従って、改修後の車でも下取り価格が維持されるとは限りません。このように、不正車の所有車の車の価値が低下したときに、それを補填せよという訴訟が起こるのは当然でしょう。この中古車の問題が顕在化すると、VW車に限らず、新車販売全体に影響しかねないため、厄介な問題です。

また、環境汚染の問題も深刻です。上述のハリス郡のように自治体が訴訟を起こす場合もあれば、個人が訴訟を起こす場合もあるでしょう。

そして最も怖いのは、車の代金を返せ、あるいは、車を無償で取り替えろと言う訴訟が増えることです。不正車は日本円換算で1台200万円以上するので、仮に1,100万台の代金を返金すると、22兆円以上のお金が必要になります。VWのような巨大企業でも払える金ではありません。

VWの財務内容

この事件が発覚してから、VWは7-9月期に対策の為の引当金として65億ユーロ(約8,700億円)を計上すると発表しました。しかし、この程度の引当金で済むとはとても思えません。実際にアメリカ環境保護局(EPA)の制裁金は最大で180億ドル(1ドル=119円で約2.1兆円)になりますが、事件の悪質性を考えると、この上限ではないかもしれませんが、かなり高額の制裁金が課される可能性があります。また、世界各国で起こされている訴訟はまさにこれからです。

では、VWにはどの程度支払う力があるのでしょうか。VWの2015年6月末の貸借対照表を見ると、現金と市場性有価証券(短期有価証券)が合わせて326億9,300万ユーロ(1ユーロ=133円換算で4兆3,481億円)です。また、2015年1-6月期の業績は売上高1,087億7,600万ユーロ(前年比10.1%増、14兆4,672兆円)、純利益55億5,800万ユーロ(0.4%減、7,392億円)となります。2倍すれば、年間の純利益は約1.4兆円になります。業績が悪化しなければ(この前提は今後問題になってくると思われます)、支払い余力は十分あると思われます。

また、資本(IFRS、≒純資産)が961億6,200万ユーロ(12兆7,895億円)あります。傘下には(不正ソフトでケチは付きましたが)アウディ、ポルシェなどの高級車メーカーを擁しています。仮にVWを解体すれば、より多くの支払いができると考える人達は少なからずいると思われます。

このように、VWの財務内容を見ると、このVWという会社が、自分たちの犯した取り返しの付かない過ちによって、大量の訴訟を引き付けるであろうことがわかります。

VWと欧州自動車市場の今後は不透明だが、日系メーカーにとってはチャンスも

報道によれば、VWの金融子会社が発行した債券の利回り(5年債利回り)が、事件発覚前の0.3%台から一時2%台に急上昇しました。この状態が続くと販売金融の資金調達に支障が出て新車販売に悪影響が出る可能性があります。9月のアメリカ新車販売台数は前年比15.8%増(前年同月に比べ営業日が1日多い)で、フォルクスワーゲングループ全体では5.9%増、アウディは16.2%増、VWは0.6%増です。VWブランドのアメリカでの不振は以前からなので、足元のVWブランドの販売は不正事件によって悪化していないように見えますが、金融市場の懸念がVWの新車販売に影響する可能性がでてきました。

今後の焦点は、VWに対するドイツ政府とEUの支援のあり方になる可能性があります。もちろん、これだけ悪質なことを行ったわけですから、無条件で支援してもらえるかわかりませんし、ドイツ政府とEUでは温度差があるかもしれません。

また、ドイツと欧州の消費者が、VWに対してどのような態度を取るのかはより重要なポイントです。

欧州の自動車購入者が、環境、燃費や自動車メーカーの誠実さに関して全く関心のない人達で、ドイツ経済と欧州経済を救うためにVW車を買わなければならないと考えている人達ばかりなら、VW車は欧州で売れ続けると思われます。

しかし、そうでないまともな市場であれば、ドイツ政府やEUがいかに支援しようとも、VW車は売れ行きが悪化する可能性があります。上述のように、金融市場の反応もネガティブです。そうなった場合のVWをどうするのかは政治的な問題でもありますが、もし、欧州の消費者が自動車に対してまともな感覚を持っているならば、欧州の消費者の目が、VW以外の欧州自動車メーカーや米系メーカーとともに、日系メーカーへも向けられる可能性はあると思われます。

もしそうなれば、今の欧州自動車市場における日系メーカーのシェアが低いこともあり、日系各社の販売に目立った変化が現れるかもしれません。欧州で日本車を販売している、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、富士重工業、三菱自動車工業などの売れ行きに注目したいと思います。

表3 ヨーロッパ(EU15+EFTA)の日系メーカー市場シェア

表4 日系メーカーの欧州の業績寄与(2015年3月期)