1.2015年9月24日の週の相場概況:日経平均株価は再び18,000円台を割り込む

9月24日の週は、連休で24、25日の2日のみですが、株式市場は24日に大きく下落しました。9月24日の日経平均株価は、前週末比498.38円安の17,571.83円で引けました。9月16、17日のFOMCで9月の利上げは見送られましたが、イエレン議長の記者会見が年内利上げの意欲を示す内容だったため、18日の日経平均株価は前日比362.06円安の18,070.21円となりました。5連休後の24日は、アメリカ時間の18日に明らかになった独フォルクスワーゲンが行っていた排ガス不正のニュース(後述)が響き、自動車株が全面安となるなど、日経平均株価は更に下落しました。この結果、24日の日経平均株価は9月14日以来の18,000円割れとなりました。

これまでも述べましたが、18,000円は日経平均株価にとって重要な節目です。これを大きく割り込んだ状態が続くようなら、次の節目は16,000円となり、調整が長期化する可能性があります。その意味で、日本の株式市場は重大な局面を迎えていると言えます。

ただし、先週から今週にかけての売りには、連休のために立会い日数が少ないことに備える予防的な売りも多いと思われます。25日の前場は反発し、日経平均株価は17,700円台まで上げています。週明けの株式市場に注目したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:週足

グラフ3 日経平均株価:月足

グラフ4 東証マザーズ指数:週足

グラフ5 ドル円レート:日足

グラフ6 ユーロ円レート:日足

グラフ7 東証各指数(2015年9月24日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.特集:自動車セクター-業績堅調、VW問題が波乱要因に-

日本の自動車セクターの業績は堅調

今週の特集は自動車セクターです。結論を先に言えば、銘柄を選んで投資したいセクターです。投資対象は、トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、デンソーの4社です。

日本の自動車セクターの業績は堅調ないし順調と言ってよいと思われます。日系メーカーにとって最重要市場であるアメリカでは、中大型(排気量2,000cc以上)のライトトラック(SUVとピックアップトラック)が順調に伸びています。アメリカの自動車市場では、中小型の乗用車から中大型のSUV、ピックアップトラックへの需要シフトが2014年から起こり始め、2015年に入ると目に見える形ではっきりとしてきました(グラフ8、9)。景気回復と株高、地価上昇による資産効果、ガソリン価格の低下が、アメリカ人の本来の好みである大排気量車への嗜好を顕在化させたと思われます。自動車の採算は、排気量と販売価格にほぼ正確に比例すると考えられます。日系自動車メーカーが本来得意な小型車の販売は悪化していますが、中大型車の販売好調が日系自動車メーカーの業績を牽引していると思われます。

このようなSUV、ピックアップトラックの好調に対応して、トヨタ自動車を初めとする日系メーカーが中大型車を増産しようとしています。現状はトヨタ自動車ではピックアップトラックの「TACOMA(タコマ)」などがディーラーに車が届くと直ぐに売れる状態が続いており、品不足になっています。

また、アメリカの自動車市場は幅の広い市場でもあり、SUV、ピックアップトラックのみが売れているわけではありません。アメリカ人の車好きに焦点を絞ったスバル車も、SUV、セダンともに良く売れており、品不足になっています。レガシィなどの車種の在庫水準が低いため、富士重工業では少しずつ増産していますが、間に合わないので、2016年に前倒しで生産能力を拡充する計画です。

更に、円安メリットが加わります。トヨタ自動車を例に取ると、2015年3月期の平均為替レートは1ドル=110円、1ユーロ=139円でした。2016年3月期1Q決算時点での、今期前提レートは、1ドル=117円、1ユーロ=127円ですので、足元の1ドル=119~120円台、1ユーロ=134円台が続けば、1ドル1円の円安で約400億円、1ユーロ=1円の円安で約40億円の営業利益に対する円安メリットが発生するため、対ドル円安になっているメリットが大きいのです。この傾向は、本田技研工業、日産自動車、富士重工業も同様です。ただし、例外はマツダであり、対ドルよりも対ユーロの円安メリットのほうが大きいため、足元の対ユーロ円高は、会社側業績見通し下方修正の要因になる可能性があります。

表1 アメリカの新車販売台数:前年比

グラフ8 アメリカの新車販売台数(年率換算)
(単位:100万台、出所:AUTODATAより楽天証券作成、年率換算値はAUTODATA)

グラフ9 アメリカの新車販売台数(年率換算)の前年比
(単位:%、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

表2 自動車の円安メリット(試算)

自動車景気は国によってばらつきがあるが、日本は一部で回復感も

アメリカ以外の国や地域を見ると、日本は、軽自動車の不振が続く中、登録車の回復が見られるようになってきました。会社と車種によってばらつきがありますが、例えばトヨタ自動車のレクサスブランドの前年比が今年4月から前年を大きく上回っています。思いつくのは株高による資産効果と好景気です。あるいは、マツダは新型デミオが評価されて、大きな伸びになっています。この状態が続けば、国内の登録車市場にはある程度の回復感が出てくる可能性があります。

一方、中国は前年割れが続いており、トヨタ自動車、本田技研工業は新車効果で伸びていますが、大勢としては良くない状況です。タイ、インドネシアなどのアセアンも月によって振れはありますが、前年比マイナスが続いています。中国を含むアジアで例外はインドであり、市場が堅調に成長しています。

最後に欧州です。8月までは景気回復の効果で、順調に伸びています。ただし、後述の「VW問題」で不透明感が強くなってきました。

表3 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

グラフ10 各国新車販売台数:月次前年比1
(単位:%、出所:アメリカはAUTODATA、その他は各国自動車工業会より楽天証券作成)

グラフ11 各国新車販売台数:月次前年比2
(単位:%、出所:各国自動車工業会より楽天証券作成)

富士重工業とトヨタ自動車に注目したい

投資対象としては、まず、アメリカ市場に重点を置いている富士重工業を選びたいと思います。

次はトヨタ自動車です。日系メーカーでアメリカでの中大型車の車種が最も豊富です。SUVの「HIGHLANDER(ハイランダー)」「4RUNNER(フォーランナー)」、ピックアップトラックの「TACOMA(タコマ)」が順調に売れています。

もっともリスクもあります。トヨタ自動車にとっては、旗艦車種である「プリウス」「カムリ」の前年割れが続いていることは好ましいことではありません。今年12月から来年初頭にかけて日本を皮切りに新型「プリウス」を発売しますが、アメリカでの売れ行きが気になるところです。中小型のセダンが売れない問題は富士重工業を除いて、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車に共通する問題です。各社がこの問題にどう対応するのかが、今後の業績を見る焦点の一つでしょう。

表4-1 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:1

表4-2 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:2

表5 富士重工業:アメリカの車種別新車販売台数

フォルクスワーゲン問題(VW問題)

9月18日、アメリカ環境保護局(EPA)は独フォルクスワーゲン(以下VW)と傘下の独アウディの一部車種で、大気浄化法違反の疑いが生じたと発表しました。EPAによると、VWとアウディは、排ガスに関する試験をクリアするために、違法なソフトウェアを使っていました。このソフトウェアを使うと、排ガス試験の際には排ガス浄化機能が働いて基準を満たしますが、実際の運転時には機能が大きく低下します。通常走行している時に、窒素酸化物が最大で基準の40倍になる場合があると言います。対象車種は2008年以降にアメリカで販売されたディーゼル車5車種、計48.2万台。大気浄化法違反の制裁金が1台あたり最大3万7,500ドルになるため、単純計算で最大180億ドル(1ドル=119円換算で約2.1兆円)の制裁金が課される可能性があります。

また、不正対象の車種は全世界で約1,100万台になります。ヨーロッパでも不正行為を行っていた模様ですが、他メーカーにもこの問題が波及し始めています。

更に、アメリカでは民事の集団訴訟が始まりそうです。これが国際的に伝播すれば、EPAの制裁金だけでは済まなくなるでしょう。

表6 主要自動車グループのグローバル販売台数

VW問題の世界自動車産業への影響

VW問題が世界の自動車産業に与える影響を考えてみたいと思います。

  • VWの信用の問題

まず、当然のことですが、フォルクスワーゲンの信用は失墜するでしょう。「環境」は自動車メーカーを考えるときに重要なキーワードですが、フォルクスワーゲンは汚い排ガスを長年にわたって撒き散らしても、当局から指摘されるまで直さなかった「反環境的」姿勢の会社と世間から思われるでしょう。

  • 「クリーンディーゼル」はまやかしだったのか

フォルクスワーゲンを初めとするドイツメーカーが積極的に展開してきた「クリーンディーゼル」は、実はまやかしだったのかも知れません。要するに、ディーゼルはクリーンではなかったし、ディーゼルエンジンをクリーンにするための技術はフォルクスワーゲンにはなかったのです。ひょっとしたらドイツの他のメーカーにもその技術がないのかもしれません。世界トップの自動車部品メーカーでクリーンディーゼルで重要な会社であるボッシュの技術力にも疑問符が付く可能性があります。

  • ヨーロッパの「環境主義」とVW問題

VW問題は、ドイツ政府と欧州の自動車ユーザーにとっても深刻な問題です。世界のどの国もそうですが、欧州も例外なく自動車産業に対して多額の補助金を投入しています。その補助金は国民の税金ですので、欧州の消費者は多くの場合(自分の税金が使われている)国産車を愛用する傾向が強いと言われています。これが欧州で日本を含む外国製自動車のシェアが低い理由だと言われています。

しかし、今回のように他国でも自国でも汚い排ガスを撒き散らしたメーカーを単純に救済することの是非、そのようなメーカーの自動車を購入することの是非は、さすがに問題になるかもしれません。要するに反環境的なメーカーをどこまで救済する必要があるのか、反環境的なメーカーの車を自分の税金が補助金として使われているからと言って買ってよいものかと言うことです。VW問題は、欧州の「環境主義」そのものの問題になりかねないのです。

  • 自動車の環境技術に流れの変化が起こる可能性

ここに至っては、トヨタ自動車以下の日本メーカーこそが、まじめに環境のことを考えてきたと言うことがはっきりしたと思われます。VW問題をきっかけとして、自動車の環境技術に関して大きな流れの変化があるかもしれません。ディーゼルが否定されて、内燃機関ではガソリンエンジンが中心になること、ガソリンの低公害化技術として、ハイブリッドエンジンと超低燃費エンジンが主流になること、ガソリンエンジン以外の電気自動車、燃料電池車の開発がこれまでよりも活発になるかもしれないということです。

自動車関連の株価が下がったところに注目したい

この問題が発覚してからフォルクスワーゲン株は大きく下落しましたが、連休明け9月24日の東京市場でも自動車株が全面安となりました。VW問題が引き金となって、世界の自動車メーカーの信頼性の問題が浮上していることや、グローバルポートフォリオの中での自動車セクターの比率を減らす動きがあることが影響していると思われます。また、デンソーなど日本の自動車部品メーカーにとっては、フォルクスワーゲンは顧客でもあるため、今後予想されるフォルクスワーゲンの販売減少は直接デメリットとなると思われます。

ただし、上述したように、VW問題をきっかけに予想される変化は、日系メーカーにとって決して悪いものではありません。「環境」という側面から世界の自動車メーカーを評価するときに、フォルクスワーゲンを筆頭に欧州メーカーの存在感が大きく後退し、日系メーカーの存在感がこれまで以上に大きくなることが予想されます。

銘柄を挙げると、ハイブリッドカー、燃料電池車でトヨタ自動車が「環境」から見た場合の筆頭でしょう。目先の業績はユーロ安円高で必ずしも振るいませんが、超低燃費技術「SKYACTIV」を持つマツダにも注目したいと思います。ただし、マツダはディーゼル専用車「CX-3」を持つなどディーゼルにも注力してきたため、目先はネガティブに評価される可能性もあります。

また富士重工業は、次の技術的ターゲットが「安全」だけでなく、「燃費」も加わる可能性があります。

市場シェアという面を考えると、上述したように、欧州には国産愛好の考え方が根強くあるため、今回のような大事件が起こっても、欧州自動車市場で日系メーカーがシェアを拡大することは簡単ではないと思われます。ただし、フォルクスワーゲンがGMと並んでトップクラスのシェアを持つ中国では、日系メーカーが技術をアピールすることでフォルクスワーゲンのシェアを喰うことが可能かも知れません。

自動車部品メーカーを見ると、デンソーはフォルクスワーゲン、アウディとも取引がありますが、今1QのVW・アウディ向け売上構成比は4.2%ですので、他社向けの拡販で十分カバー可能です。むしろ、今回の件で、ボッシュに対してデンソーの技術、特にエンジン関連技術が遜色ないことが確認できるならば、デンソーの再評価が可能と思われます。

表7 フォルクスワーゲン(VW)とアウディの国別販売台数と市場シェア