1.2015年6月29日の週の相場概況:ギリシャ問題が長引く中、日経平均株価は大幅下落の後、反発した。

6月29日の週の株式市場は、大幅下落から始まりました。前週まで合意するかに見えたEUとギリシャとの交渉が、突然暗礁に乗り上げ、合意が困難な状況になってきました。ギリシャは7月5日に、EUが主張する緊縮策を受け入れるかどうかを決める国民投票を実施する予定ですが、これに対してギリシャ首相が国民に反対票を入れるよう呼び掛けるなど、全く不可解な展開となっています。ギリシャがEUとユーロ圏から離脱する可能性が出てきました。ただし、一方でギリシャ国民の中に「賛成」を支持する意見が増えていると報道されるなど、事態は流動的です。

株式市場は、この問題に関して最悪の状況を織り込みつつあるようです。ギリシャは小国であり、ギリシャ国債を保有しているのは主にIMFなどの公的機関です。ギリシャ破綻は想定内の事項になりつつあるようにも思われます。

日本の株式市場は週初に大きく下落し、日経平均株価は一時2万円トビ台まで下落しました。その後、反発しましたが、その後は再びもたついた動きになっています。7月3日は午後1時現在で前日比約60円安の20,400円台です。7月5日のギリシャ国民投票の結果に注目する必要はありますが、結果がどうであれ、この下落を押し目買いの機会ととらえてもよいと思われます。

為替が1ドル=123円近辺にやや戻っていることから自動車(トヨタ自動車、富士重工業、マツダ)、スマートフォンビジネスに注目して電子部品(村田製作所、日本電産、アルプス電気、ソニー)、好業績割安株としてのゲーム株(ミクシィ)、オリンピック関連施設とリニアモータカーの本格着工を控えている大手建設(大成建設、清水建設など)などに投資妙味を感じます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証各指数(2015年7月2日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

2.特集:スマートフォン関連の電子部品メーカー・続き(ソニー、アルプス電気)

今週も前週に続き、スマートフォン関連銘柄を、電子部品セクターから見て行きます。

ソニーが大型資金調達を発表。目的はイメージセンサー。

6月30日、重要なリリースがソニーから出されました。総額約4,400億円の資金調達を主に公募増資と新株予約権付社債の発行によって調達すると言うもので、資金の多くはスマートフォン、タブレットPC用のイメージセンサーの生産能力増強と研究開発に充当されます。

主な内容は次の通りです。

(1).発行証券と手取り額

  • 国内、海外での公募増資と第3者割当増資により3,215億円(手取り概算額)を調達する。発行株式数は合計9,200万株。公募増資の払込日は7月21~23日のいずれかの日。ただし、発行価格等決定日の5営業日後の日とする。
  • 公募による第6回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行で、1,198億円(概算)を調達する。払込日は、7月21~23日のいずれかの日。ただし、転換価額等決定日の5営業日後の日とする。130%コールオプション条項が付いており、株価が20連続取引日にわたり転換価額の130%以上であった場合、2020年7月21日以降、残存する本社債の全部を繰り上げ償還することができる。

(2).資金使途

ソニーのプレスリリースによれば、今回の資金調達概算4,413億円の資金使途は次の通り。

  • スマートフォンやタブレットPCのカメラに使われる積層型CMOSイメージセンサーの生産能力増強のための設備投資に1,880億円(2016年9月末までに充当)。
  • モバイル向け、一眼カメラ向け等CMOSイメージセンサーの画質向上に寄与する研究開発に1,335億円(2016年9月末までに充当)。
  • デバイス分野におけるカメラモジュール向けライン構築に関する設備投資に270億円(2016年6月末までに充当、カメラモジュールはスマートフォン、タブレットPC用)。
  • デバイス分野における新モデル対応や生産性改善等のために経常的にかかる投資資金に170億円(2016年3月末までに充当)。
  • デバイス分野における新規事業のための開発設備投資資金に70億円(2016年3月末までに充当)。
  • 社債の償還資金に250億円(2015年12月18日に償還期限が到来する第20回無担保社債の償還資金)。
  • 2016年6月末までに返済期限を迎える長期借入債務の返済に438億円を充当。

(3).希薄化

プレスリリースによれば、公募増資等による希薄化率(増加株式数÷2015年5月31日現在の発行済み株式総数)は7.86%、新株予約権付社債の潜在株式数による希薄化率は1.94%になります(想定転換価額を6月29日終値3,773円の140%である5,283円として計算)。合わせて希薄化率は9.8%となり、かなりの大型資金調達と言えます。

(4).評価できる点と疑問点

まず、イメージセンサーの設備投資、研究開発に資金を集中することは高く評価してよいと思います。主にスマートフォン、タブレットPCに使われる積層型CMOSイメージセンサーの設備投資に1,880億円、一眼カメラ向けも含めた研究開発に1,335億円、計3,215億円を投じます。それ以外にもスマートフォン、タブレットPC用カメラモジュールのライン増強など、スマートフォン、タブレットPC向けイメージセンサーの周辺分野を強化します。負債の返済を除く3,725億円をイメージセンサー関連につぎ込むことになります。ソニーはイメージセンサーで勝負に出たのでしょう。

前週の特集「スマートフォン関連の電子部品メーカー」でも述べたとおり、スマートフォンでカメラは重要な部品であり、特に「iPhone」のような高級スマートフォン向けの高級イメージセンサーはソニーがトップシェアを持っています。そして、「iPhone6」シリーズの売れ行きが好調なため、高級イメージセンサーが品不足になっている模様です。

これは、高級スマートフォンに装着されている高級電子部品のいずれにも言えることですが、イメージセンサーのように品不足の部品が出ていることを見ると、投資採算は良好と考えられます。

高級イメージセンサーの需要は伸び続けると思われます。2014年7-9月期から「iPhone6」シリーズの生産、販売が始まっています(販売は2014年9月から)。アップルの開示資料によると「iPhone」販売台数は、2014年7-9月期3,927万台(前年比16.2%増)、10-12月期7,447万台(45.9%増)、2015年1-3月期6,117万台(39.9%増)です。2015年4-6月期の前年比が30%程度伸びるとすると4,800~4,900万台、2014年7月~2015年6月の1年間で約2.2億台の「iPhone」の販売台数が見込まれます(この大半が「iPhone6」シリーズと思われます)。2015年7月から次の「iPhone6s」シリーズの量産が始まり、9月には発売されると言われていますが、2015年7月~2016年6月の「iPhone」販売台数は、前年比20%程度の伸び(約2.6億台)が十分可能と思われます。

韓国、中国のスマートフォンメーカーが高級スマホでアップルに追随することが予想されますが、追随する場合、主要部品を「iPhone」と同じメーカーから仕入れることが多く、これも高級部品の需要増加に結びつくと思われます。

従って、高級スマートフォンの需要が拡大する限り(実際にそうなる可能性が高いと思われます)、高級イメージセンサーの需要拡大が続くと思われ、ソニーの今回の決定は正しいと評価されます。

また、調達資金の一部を債務の返済に使うのは、財務内容改善のために必要なことでしょう。投資が必要なのはイメージセンサーだけでなく、映画、ドラマのヒットが今一つ出ないため事業へのてこ入れが必要な映画部門、世界トップを目指せる状態にある音楽部門、ネットワーク投資だけでなく自社製ソフトへの投資も必要なゲーム部門などです。この機会にある程度の財務内容改善が必要と思われます。

一方で、ソニーは前期無配なのに、何故大型資金調達なのかという問いはあると思います(ただし、今期は復配する予定)。会社側には、大型投資によってイメージセンサー首位の地位を不動のものとして、需要拡大の恩恵をフルに享受したいという考えと、ついでに財務内容もある程度改善したいと言う考えがあると思われます。なお、2015年3月期で、ソニーは「モバイル・コミュニケーション」と「その他」を除く全部門の黒字化を達成しており、全社での黒字化も実現しています。株価も上昇しました。従って、大型資金調達を行うに当たって、経営上の「筋」はかなり通していると思われます。

グラフ6 iPhone販売台数と前年比
(単位:万台、%、出所:Apple社資料より楽天証券作成、
出荷台数は左目盛、前年比は右目盛)

グラフ7 ソニーの半導体売上高(外部顧客向け)
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、
半導体の中にイメージセンサーが含まれる)

表1 CMOSセンサーの市場シェア

スマートフォンでカメラは重要

スマートフォンの用途は、単に電話とメール、インターネットの閲覧に止まりません。ゲーム、音楽、映画のエンタテインメントを楽しむデバイスでもありますが、重要なのは静止画、動画のカメラです。写真やビデオ撮影が最も親しみ易い身近な「遊び」であり、SNSと写真、動画の組み合わせが、インスタグラム、ピンタレストなどの写真SNSや、YouTubeなどで盛んに楽しまれるようになっています。

更に、「iPhone」中心に高級スマートフォンのカメラの性能は高級一眼レフ、高級ビデオカメラに近いものにもなりつつあり、実際に、高級スマートフォンで映画やドラマを撮影して楽しむこともできるという驚くべき時代になっているのです。

ソニーとアルプス電気に注目したい

ソニーへの注目理由は、これまで述べてきた通りですが、資金調達額の大きさと、投資の焦点をイメージセンサーに絞っていることを考えると、上述のように勝負に出てきたと言う感があります。そこを評価したいと思います。

スマートフォンにとってカメラが重要であると言うことから、イメージセンサー以外のカメラ部品にも注目したいと思います。アルプス電気では、高級スマートフォン向けのカメラ用アクチュエータ(オートフォーカス用アクチュエータと手振れ補正用アクチュエータ)が好調の模様です。スマートフォンのカメラ部分が高性能化するに従って、高性能のオートフォーカス用、手振れ補正用アクチュエータの需要も増えると思われます。

アルプス電気の業績に対するスマートフォン向けアクチュエータの寄与は大きいと思われます。2015年3月期の営業利益は535億3,400万円(前年比87.6%増)と好調でした。2016年3月期営業利益の会社予想は545億円(前年比1.8%増)ですが、高級スマートフォンの需要増加を考えると20%程度の増益になる可能性があると思われます。会社予想ベースでのPERは約19倍と割高感はないと思われ、投資妙味を感じます。

3.セクターコメント:2015年6月のアメリカ新車販売について(トヨタ自動車、富士重工業、マツダ)

アメリカの調査会社AUTODATAから、2015年6月のアメリカ新車販売台数が公表されました。それによれば、6月は147万6,675台(前年比3.9%増)と堅調に伸びました。中身は、乗用車が67万6,627台(前年比3.7%減)、ライトトラック(ピックアップトラックとSUV)が80万48台(11.4%増)です。乗用車から自動車メーカーに対する収益寄与の大きいライトトラックへの需要シフトが継続中です。

日系メーカーを見ると、トヨタ自動車が乗用車6.1%減、ライトトラック17.5%増、計4.1%増、本田技研工業が乗用車6.6%減、ライトトラック17.6%増、計4.2%増、日産自動車が乗用車3.3%増、ライトトラック30.5%増、計13.3%増、富士重工業が乗用車2.9%増、ライトトラック12.2%増、計7.2%増、マツダが乗用車6.8%減、ライトトラック20.9%増、計3.9%増となっています。

乗用車からライトトラックへの需要シフトが続いている結果、全体の伸びは低くなっていますが、ライトトラックの伸びが各社とも10%以上、最も伸びの大きい日産自動車で30.5%増であり、前年同期比での円安も考慮すると、日系自動車メーカーの北米部門の業績はかなり好調と思われます。

ちなみにメーカーごとの中身を見ると、トヨタ自動車は、HIGHLANDER、4RUNNER、TACOMAなどの中大型SUV、ピックアップトラックが好調です。本田技研工業は、小型SUVの新車「HR-V」が加わりました。日産自動車は主力SUV「Rogue」の大幅増加が寄与しました。富士重工業は、伸び率は低下していますが、Legacy(セダン)、XV Crosstrek(SUV)の伸びが大きく、実質は好調が維持されていると思われます。マツダはミニバンのMAZDA5(プレマシー)が好調で、SUVのCX-5、CX-9が順調に伸びています。

なお、米系メーカーを見ると、GMのライトトラックが5.3%増、フォードが同じく4.7%増と低い伸びとなっており、日系メーカーのライトトラックの伸びが目立ちます。

問題点もあります。トヨタ自動車を筆頭に、日系自動車メーカーは小型乗用車に多大の資金、人材、時間を投資してきましたが、これの売れ行きが悪いことは、今後の新車計画に影響を及ぼす可能性があります。そういう意味では銘柄選別が必要と思われます。

ここでは、富士重工業、マツダ、トヨタ自動車に注目したいと思います。

富士重工業とマツダは、車が売れていることを素直に評価したいと思います。

トヨタ自動車は車種構成が小型車から大型車まで幅広いことが良い特徴です。ただし、私が考える投資上の問題点は、AA型種類株の需要がかなり大きいと報道されていることです。トヨタ自動車のAA型種類株では、価格変動リスクを嫌う投資家が価格変動リスクを甘んじて受ける投資家と同等の議決権を持つことになりますが、この結果、普通株(価格変動リスクがあります)の投資家がトヨタ普通株への投資に疑問を抱く可能性があります。このことが気になる場合は、トヨタ自動車よりも富士重工業、マツダに投資したほうがよいと思われます。

表2 アメリカの新車販売台数:前年比