1.2015年6月22日の週の相場概況:日経平均株価は反発、一気に高値を抜く。

6月22日の週の株式市場は、週初から急反発しました。ギリシャ問題が解決に向かいそうという観測がでてきたため、自動車、電機などの輸出関連から、建設、ゲームなどの内需関連まで、幅広いセクターと銘柄に買戻しが入りました。為替レートが1ドル=123円台に多少ながら円安方向に振れてきたことも、反発を支援しました。

その結果、日経平均株価は6月24日にザラ場高値20,952.71円、同日終値20,868.03円を付けました。年初来高値を更新するとともに、ネットバブル時の高値、2000年4月の20,833.21円をわずかに抜き、1997年6月高値20,910.79円に接近するところまで来ました。25、26日はやや下落しており、急な反発によってある程度の高値警戒感も出ており、またギリシャ問題がもたついているという懸念材料もありますが、相場の基調には強いものがあると思われます。

相場の勢いが強い背景には、ネットバブル時とのファンダメンタルズと株価水準の違いがあると思われます。例えば、トヨタ自動車のPERはネットバブルのピークである2000年4月で約40倍でした。今は会社予想ベースで約12倍ですが、今期は過去最高益更新の見込みです。他の銘柄を見ても、一部の新興市場株を除いて、概ねPERが適正水準かそれ以下の銘柄が多く、多くの銘柄に割高感は出ていないと思われます。

新興市場の基調も強く、東証マザーズ指数は、6月22日に終値で節目となる1,000ポイントを超えました。25、26日は下落していますが、これはミクシィ株の影響が大きいためと思われます。

引き続き、好業績割安株中心に投資したい局面と思われます。

グラフ1 日経平均株価:月足

グラフ2 日経平均株価:日足

グラフ3 東証マザーズ指数:日足

グラフ4 東証各指数(2015年6月25日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ5 ドル円レート:日足

2.特集:スマートフォン関連の電子部品メーカー(村田製作所、日本電産、ソニー、TDK、NOK)

今年も「iPhone」関連ビジネスが始まった模様

今週はスマートフォン関連銘柄を、電子部品セクターから見て行きます。

アメリカの調査会社IDCによれば、スマートフォンの世界出荷台数は、2014年に13億110万台(前年比27.6%増)と大きく伸びました。アップルが25.6%増と好調だったほか、中国スマホのレノボ、ファーウェイが、各々50%以上の伸びを示しました。2015年1-3月期は市場全体が前月比16.6%増で、サムスン電子は不調でしたが、アップルが40.0%増、レノボが49.2%増でした。

スマートフォン関連のビジネスは、端末の出荷台数が伸びるにつれて、年々巨大化しています。端末、部品、アプリ、販売、通信と、影響は多岐にわたり大きくなっています。日本企業にとっては、電子部品とゲームの各社にとって重要な市場ですが、特に電子部品では、高級スマートフォンに各種の日本製電子部品が搭載されています。日本の電子部品メーカーにとっては、スマートフォンは成長ドライバーとなっているのです。

スマートフォンの需要のピークは毎年10-12月期に到来します。そのため、夏から冬にかけて端末生産がピークを迎えます。部品の商談と調達は春から冬にかけてになります。と言うわけで、今は、電子部品会社は既に商談のシーズンに入っていると思われます。

ただし、電子部品会社は、顧客の動きを言いません。従ってここでは、様々な報道を元にスマートフォン向け電子部品の動向を探ることにします。

スマートフォン市場を牽引している企業は、何と言ってもアメリカのアップルです。メーカーとしてはサムスン電子が1位でアップルが2位ですが、単一機種としては「iPhone6」が世界で最も良く売れているスマートフォンであり、同時に世界で最も高級、高性能のスマートフォンです。特に、アップルは最新の技術を惜しみなくiPhoneに注ぎ込むことで知られています。

「iPhone6」の次の機種がどのような名前になるのかはわかりません。ただし、巷間「iPhone6s」と言われており、今年9月に発売されると言われています。その部品商談が既に始まっていると言われています(これまでのタイミングを考えると、実際にそうなっている可能性は高いと思われます)。また、2年後の「iPhone7(仮称)」の商談も始まっていると言われています。

また、アップルウォッチなどのウェアラブル端末の市場も出来てきました。電子部品メーカーの役割は重要になっています。

表1 主要スマートフォンメーカーの出荷台数

表2 ウェアラブル端末の世界出荷予測

世代ごとに高級部品の数が増えていく

スマートフォンに限りませんが、電子機器、通信機器は高性能化、高級化するにつれて、中に入る電子部品は高性能になります。従来のスマートフォンは、小型化し高性能化すると部品が小型化、高級化しました。一方で、「iPhone5s」が「iPhone6」「同6Plus」に移行するときに、画面サイズが4インチの「iPhone5s」から、4.7インチの「6」、5.5インチの「6Plus」に大画面化しましたが、部品の高級化が続いているようです。これは、大画面化に伴いバックアップライトのために電力消費が多くなったことと、電話の通話時間を延ばしたいというニーズに応えるために、電池の面積が大きくなったため、電子部品を搭載するスペースが狭くなったことによる模様です。今後通信規格がLTEからLTE-Advancedに移行するときにも、高級部品の搭載点数が増えると思われます。大まかなトレンドを示したものが表3です。

表3 スマートフォンに搭載される電子部品の個数

次世代技術「触覚デバイス」

今後重要になってくる技術が「触覚デバイス」です。これはウェアラブルデバイスの「アップルウォッチ」で使われている技術ですが、メールを受信したり、端末からユーザーに対して何らかの通信があるときに、振動やタップでユーザーに知らせるものです。あるいは、画面に触れたときに振動で何か(心臓の鼓動など)を知らせる機能です。

「触覚デバイス」にとっては、超小型の振動モーターと、振動モーターを組み込んだ振動デバイスを装着する極薄のフレキシブルプリント回路(FPC)などが重要技術と言われています。「アップルウォッチ」の次には「iPhone6s」で使われるとも言われています。アップルが使う技術は、他の高級スマートフォンメーカーも追随するケースが多いため、今後数年間で触覚デバイスは高級スマートフォンや様々なデバイスにとって重要な技術になっていくと思われます。

様々なスマートフォン用電子部品の役割と市場シェアを表4に示します。

表4 主なスマートフォン用電子部品の概要

注目企業

ここでは、村田製作所、日本電産、ソニー、TDK、NOKの5社を挙げます。

まず、グラフ6、7を見てください。電子部品大手7社の四半期ベースの売上高と営業利益のトレンドを見たものです。繁忙期である2015年3月期3Q(10-12月期)の売上高で見た場合、最大手は京セラで、村田製作所、TDK、日本電産、アルプス電気、日本航空電子、ヒロセ電機と続きます。一方、同じく前3Qの営業利益で見ると、村田製作所、京セラ、TDK、アルプス電気、ヒロセ電機、日本航空電子の順となります。営業利益のトレンドを見ると、勢いの良いのは村田製作所、日本電産、TDK、アルプス電気、日本航空電子になります。

営業利益率で見ても(グラフ8)、村田製作所の営業利益率の改善具合は注目できます。日本電産はブレがなく安定的に比較的高い利益率を出しています。また、日本航空電子の営業利益率が急速に改善していることがわかります。一方、売上高が最大の京セラの営業利益率が他社に比べ低いことがわかります。

各社とも顧客動向は不明ですが、村田製作所、TDKなど売上高、営業利益が増加して、営業利益率が傾向的に上昇している会社では、高級スマートフォン向けの事業が増加していると思われます。京セラは、太陽電池事業の採算が悪く、これが全体の足を引っ張る形になっていると思われます。スマートフォン向けは多くないように思われます。

このように、電子部品メーカーで伸びている会社は、高級スマートフォンを生産しているスマートフォン大手との取引が多いと思われます。例えばアップルの場合は、各種報道から推察できますが、電子部品を調達するときに、値段よりも、先端技術と生産能力を重視する傾向があります。これは、スマートフォンの中で「iPhone」だけが、購入者がスペックを確認しなくても「iPhone」という名前だけで安心して買っていくという意味で、「ブランド」構築に成功した会社だからです。そのために、最も高い「iPhone6 Plus」の128GB版(日本のアップルストアで購入すると12万2,800円します)でも購入者が多いのです。しかも、「iPhone5s」「同5c」「6」「6Plus」の4機種だけで、2014年に1.9億台を売っています。1機種あたりの販売量が他社に比べ大きくなるため、部品ごとの調達数量も大きくなります。そのため、部品の価格交渉はもちろんですが、先端技術と生産能力が重要になると思われます。

また、「iPhone」で採用された技術は、他の大手でも採用される傾向が強く、その時には関わった電子部品メーカーから部品を調達する傾向もあるようです。

このように見ていくと、電子部品メーカーで銘柄選択するときには、ここ数年間のスマートフォンブームの中で売上高と営業利益が伸びている大手であること、重要部品の世界シェアが高く、生産能力も十分に持っていること、先端技術の開発に熱心であること、などの観点で選びたいと思います。

グラフ6 主要電子部品メーカーの売上高
(単位:億円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ7 主要電子部品メーカーの営業利益
(単位:億円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ8 電子部品大手7社の営業利益率
(単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ9 iPhone出荷台数
(単位:万台、四半期ベース、出所:Apple社資料より楽天証券作成

村田製作所

電子回路の電圧制御に使う「チップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)」の世界最大手です。この他にも、SAWフィルタ、WiFiモジュールなどの重要部品のシェアが高い会社です(表4)。用途別売上高の推移を見ると(グラフ10)、通信向け売上高が大きく成長していることから、特に高級スマートフォン向けに注力していることがわかります。

2015年3月期営業利益は2,145億円(前年比70%増)と大きく伸びました。2016年3月期会社予想は2,500億円(17%増)です。為替感応度は1ドル1円の円安で35億円の円安メリット(営業利益に対して)が発生します。会社前提(1ドル=115円)よりも円安なので、これは上乗せ要因になります。また、北米、中国中心に部品需要が強いと思われるため、会社予想業績には上方修正余地があると思われます。

グラフ10 村田製作所の用途別売上高
(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

日本電産

ハードディスクドライブ(HDD)の駆動に使うスピンドルモーターの最大手ですが、パソコン向けHDDが緩やかに減少しているため、自動車、家電、一般産業用モーターに注力してきました。その転換が成功したことで、順調に利益成長していることが株式市場で評価されてきました。

これに対して、当社がトップシェアを持つ振動モーターはエレクトロニクス最大の成長分野であるスマートフォンで今後重要になってくる部品です。これまでは、携帯電話やスマートフォンのマナーモード用の振動モーターの需要程度でしたが、上述の「触覚デバイス」が普及すると、高級振動モーターの需要が大きく増えると思われます。これは、日本電産にとって、エレクトロニクス向けが守勢にまわっている段階から攻勢に転換することでもあります。業績の上乗せ要因であり、株価の刺激要因でもあると思われます。

営業利益は、2015年3月期1,112億円(31%増)、今期会社予想は1,300億円(17%増)です。振動モータや自動車向け、家電向けの開拓が進んでいること、HDD向けも採算改善が進んでいることから、上方修正余地があります。

ソニー

今のスマートフォンにとってカメラは重要です。静止画、ビデオともに、カメラがスマートフォンを楽しむ大きな動機付けになっています。高級スマートフォンになると、カメラも高級カメラ並みの画質で撮影できるものになっています。カメラの眼には半導体の一種である画像センサ(イメージセンサ)が使われます。

ソニーはスマートフォン向けの画像センサの大手であり、高級版では最大手です。高級画像センサは需要が多く、ソニーも大きな設備投資を行っています。

画像センサーやリチウムイオン電池(これもスマートフォン向けが含まれる)が主体のデバイス部門の営業利益は2015年3月期931億円でした。2014年3月期は電池分野の減損で赤字でしたが、2015年3月期は黒字転換しました。今期の会社見通しは1,210億円です。利益の規模では、金融に次ぐ規模です。ソニー業績の牽引役であり、今後も高い利益の伸びが続くと思われます。

TDK

HDDに使う磁気ヘッドの大手です。HDD用磁気ヘッドはHDDメーカーが内製する場合が多く、外販メーカーはTDKのみです。HDD用磁気ヘッドを中心とする磁気応用製品が従来TDKの収益源でした。ただし、それ以外の電子部品の収益寄与が低く、2013年3月期までは業績は低迷していました。

その状況が変わったのが2014年3月期からです。2013年3月期に行ったリストラの効果とスマートフォンブームの寄与で、SAWデバイス(電波の選別に使う)、インダクティブデバイス(高周波回路に使う)、スマートフォン用リチウムイオンポリマー電池などの一般電子部品の需要が増えたため、全体の収益の中で磁気応用製品の比重が低下し、全体として利益成長が出来るようになりました。2015年3月期には、一般電子部品と電池からの利益が磁気ヘッドの利益を上回るようになりました。

営業利益を見ると、2015年3月期は725億円(前年比98%増)、2016年3月期会社予想は950億円(31%増)です。順調な利益成長が続くと思われます。

NOK

電子機器の中で需要が増えているフレキシブルプリント回路基板(FPC)の世界最大手の会社です。もともとは、自動車部品メーカーであり、オイルシールの世界的なメーカーです。オイルシールは、エンジンなどから潤滑油が漏れるのを防ぐために使う部品です。

オイルシールは自動車生産の伸びに従って安定成長している分野ですが、FPCはスマートフォン向けに急成長している分野です。スマートフォンやウェアラブルデバイスのように、様々な部品を狭い空間に装着するために、薄くで柔軟性の高いFPCが使われます。

2015年3月期はFPCの寄与が大きく、営業利益は671億円(前年比2.1倍)と大きく伸びました。今期は会社側は反動で減益(620億円、8%減)を見込んでいますが、スマートフォン向けの基調は今期も強いと思われるため、上方修正の可能性があると思われます。