1.2015年5月18日の週の相場概況:日経平均株価は2万円台に乗せた。

5月18日の週の株式市場は、先週末からの強い動きを引継ぎ、順調に推移しました。日経平均株価は、5月15日から5月20日まで毎日100円以上上昇し、5月19日には終値20,026.38円と4月28日以来の終値2万円台を回復しました。その後も順調で、5月21日にはザラ場高値20,320.90円と年初来高値を更新しました。5月22日後場入り段階でも20,200円台を維持しています。

この背景には、NYダウ、欧州株が順調に推移していること、為替レートが1ドル=120円台に戻してきたこと(5月20日、21日には一時1ドル=121円台に入りました)、20日発表の2015年1-3月期実質GDPが年率換算で前期比2.4%増と良い数字だったこと、日本企業の2015年3月期決算が概ね評価できるものであったことが挙げられます。

日経平均株価は引き続き堅調な推移が予想されます。自動車、電機などの主力株中心に前向きに臨みたいと思います。。

グラフ1 日経平均株価:日足

2.中小型株の各指数は順調に戻す。

東証マザーズ指数が上昇に転じてきましたが、ミクシィ株上昇の影響が大きいと思われます。日経ジャスダック平均、東証2部総合指数も上昇が持続しています。引き続き銘柄を見つけたい局面と思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証2部総合指数:日足

グラフ5 東証各指数(2015年5月21日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

3.特集:ゲーム株―ゲーム戦国時代、ガンホー、ミクシィ、そしてNintendo-

今回の特集はゲーム株です。ゲームセクターの2015年3月期決算を振り返って、2016年3月期を展望したいと思います。

大きな変化があった2015年3月期1-3月期、ガンホーが前期比増収増益に

2015年3月期1-3月期(前4Q)は重要な四半期でした。後で振り返ると、ゲームの歴史を大きく変えることになった時期と判定されるかもしれません。

まず業績を改めて見ると、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの四半期ベース売上高と営業利益が2014年7-9月期を底にして、回復してきました。回復の程度を前期比(前四半期比)で見ると、売上高は2014年10-12月期4.5%増、2015年1-3月期10.9%増、営業利益は同6.0%増、13.6%増でした。急成長が続いているミクシィは別ですが、コロプラの売上高が3.8%増、0.7%増、営業利益が7.8%増、11.2%増とそれまでの伸びから大きく鈍化しているのと比べると、ガンホーの再成長は目立ちます。

グラフ6、7を見ると、ガンホーを追いかけてきたミクシィが1-3月期に遂にガンホーと並び、ガンホーは抜かれまいと企業努力をして「パズドラ」の売上高を回復させたと見ることが出来ると思われます。また、この両社の競争にコロプラ、サイバーエージェントゲーム部門のような準大手クラスが圧迫されて、成長率が大きく鈍化したように見えます。

足元の課金売上高ランキングを見ると(表2)、4-6月期はミクシィの売上高と営業利益がガンホーのそれを抜く可能性が高いと思われます。しかし、ガンホーもそのまま業績が落ち込んでいくことをよしとする会社ではなく、「パズドラ」を長く続くゲームにするための努力を続けている会社であることが、1-3月期決算に現れたと思われます。

グラフ6 ネイティブアプリゲーム大手の売上高
(単位:百万円、出所:各社資料より楽天証券作成)

グラフ7 ネイティブアプリゲーム大手の営業利益
(単位:百万円、出所:各社資料より楽天証券作成)

グラフ8 ネイティブアプリゲーム大手の営業利益率
(単位:百万円、出所:各社資料より楽天証券作成)

ミクシィは業績好調続く

ミクシィの業績は、先週の本稿で報告したように、好調が続いています。2016年3月期業績予想の会社前提は、ベース業績を1-3月期の4倍として、予想される経費の増加分を差し引いたものです。会社予想では売上高が1-3月期から伸びないことになっていますが、グラフ6、7を見る限り、4-6月期に売上高と営業利益が急減速し、ほぼ横ばいになるとは考えにくいものがあります。「エヴァンゲリオン・コラボ」のようなコラボ、イベントが続いています。8月2日に「モンストフェスティバル」が開催されますが、そこで行われる「モンストグランプリ」では、モンストの派生版ゲームである「モンストスタジアム」のタイトルマッチが行われる予定です。「モンスト」は引き続き盛り上がっていくと思われます。4-6月期の業績鈍化が軽微であった場合は、2016年3月期の会社予想営業利益800億円は、900~1,000億円程度になる可能性があります。

また、2015年3月期決算説明会において、会社側は、「モンスト」の3DS用ソフトの開発、アニメ制作などのマルチプラットフォーム戦略とともに、「モンスト」以外のソフトの配信計画を発表しました。「モンスト」開発の中心人物である元カプコンの岡本氏のチームに、ミクシィ社内のチームを加えた数チームの開発タイトルの中から、年末までに1タイトルを選抜して配信開始する計画です。来年以降も1年に1タイトルのペースで、全くの新作ソフト(ただし、コンセプトは「みんなでわいわい遊べるゲーム」)を配信する計画です。

これらの計画の中でも、新ソフトの配信計画は、ミクシィが持続的成長を志向していることを示すものとして高く評価されます。

表1 ミクシィの業績

表2 「モンスターストライク」が課金売上高ランキングで
1位になった日数:日本

「ハードコア」ゲーム会社の成長

ガンホー、ミクシィの大手2社が大きな成果を上げている中で、準大手クラスの業績が停滞し始めたことは見てきたとおりです。一方で、準大手よりも企業規模が小さい中堅、中小規模のゲーム会社の中には、「ハードコア」という一種のマニア向け市場で業績が伸びている会社が出ています。

「ハードコア」の代表作は、「剣と魔法のログレス いにしえの女神」(マーケティングはマーベラス、開発、運営はAiming)や「ユニゾンリーグ」(エイチーム)です。「パズドラ」や「モンスト」のように大勢の人たちが遊んでいるゲームとは少し違ったゲームをしたいと言う人たちが遊んでいます。ゲームジャンルとしては、MMORPG(大規模多人数オンラインRPG)が多いようです。時間をかけて遊ぶタイプのものが多く、ゲームユーザーはゲームの初心者が多いですが、いわゆる「ハマッてしまう」ゲームです。課金比率は「パズドラ」や「モンスト」に比べてはるかに低いようですが、課金する人の中には月間数万円課金する人がいます(「ログレス」の場合)。「剣と魔法のログレス いにしえの女神」が配信開始されたのは、2013年12月ですが、1年以上着実にMAUを増やしてきました。最近ではエイチームの「ユニゾンリーグ」が着実にプレイヤーを増やしている模様です。

グラフ9、10、11は、Aimingとエイチーム・エンターテインメント事業の業績です。Aimingの業績が急拡大している様子がわかります。エイチームは、ユニゾンリーグの成果が2015年2-4月期決算(6月発表)に表れると思われます。

グラフ9 「ハードコア」ゲーム会社の売上高
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、エイチームは7月決算であり、
2015年1-3月期を2015年2-4月期と読み替える。)

グラフ10 「ハードコア」ゲーム会社の営業利益
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、エイチームは7月決算なので、
2015年1-3月期を2015年2-4月期と読み替える。)

グラフ11 「ハードコア」ゲーム会社の営業利益率
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、エイチームは7月決算であり、 2015年1-3月期を2015年2-4月期と読み替える。)

任天堂のネイティブアプリゲーム参入

大手(年商1,000億円以上、ゲームの月商100億円以上)が伸張し、年商200億円前後から600億円程度(コロプラの規模、ゲームの月商は数十億円)までの準大手が伸び悩み、その下の年商数十億円から百数十億円クラス(ゲームの月商は数億円から10数億円)の中でいわゆる「濃い」ユーザーに評価された中堅ゲーム会社が伸びているのが今の日本のネイティブアプリ市場です。

この中に任天堂が参入してきます。年末までに1作を配信開始し、2017年3月末(来期末)までに計5作を配信開始する計画です。グローバルに配信し、億人単位でユーザーを集め、幅広く薄く課金する目論見です。任天堂が狙うユーザー層は、子供、女性、家族層であり、ゲーム専用機(3DS、Wii U)や開発中の次世代機「NX」(発売時期未定だが2017年以降か)との「喰い合い」が起きないようにする方針です。

私が任天堂の説明会や個別取材を通じてイメージした任天堂のスマホゲームの姿が表3です。ミクシィとアメリカのキング社(「キャンディ・クラッシュ」の開発メーカー)と比較しています。多くの日本メーカーは、多くのユーザーを集めてわずかな課金ユーザーから比較的高い月額課金を得ています。ミクシィとガンホーは、課金の範囲が異例に広いメーカーです。一方でキングは、グローバル展開することで非常に多くのユーザーを集めながら、ほんの少数のユーザーから日本から見れば小額課金を得ています。

任天堂が投資家に語っているゲームのイメージは、これらのいずれとも違います。グローバル展開することで数多くのユーザーを集めますが、課金の範囲を広くとって、薄く課金します。表3はあくまでも一つの試算ですが、配信開始後1年で2,000万ダウンロードを実現し、そのうち半分がマンスリーアクティブユーザー(MAU、月1回ゲームする人)になって、更にMAUの40%が月間平均1,000円課金すると仮定した場合で、任天堂の収益取り分を70%とした場合に、任天堂が受け取る営業利益が約170億円になると言うものです。2年で約340億円になります。5作全ての成功は無理でしょうが、2~3作成功すれば、3年程度で700~1,000億円の営業利益を上げることも決して不可能ではないのです。

表1はミクシィの業績ですが、「モンスト」配信開始が2013年10月ですから、配信開始後2年で年間営業利益800億円が実現できるということ(実際には900~1,000億円が可能と思われること)を考えれば、任天堂がミクシィのようになれると考える株式市場の参加者は少なくないと思われます。

これはあくまでも私のイメージを数字で示したものですが、実際にこのようなゲーム運営は誰もやったことがありません。任天堂のパートナーとして運営を担当するディー・エヌ・エーは最初にガチャを発明した会社であり高額課金の経験は豊富ですが、幅広いユーザーに薄く課金する運営はやったことがないと思われます。任天堂が幅広いゲームユーザーに薄く課金するに適したゲームを開発したとしても、ディー・エヌ・エーの運営がうまくいかない場合もあると思われます。これについては、配信開始してしばらくたたなければ、なんとも言えません。

なお、任天堂はマリオなどの自社IP(知的財産)を使ったアトラクションに関して「ユニバーサル パークス&リゾーツ」と提携しましたが、これの成果がユニバーサルスタジオでの任天堂キャラクターのアトラクションとなって現れたときには(時期は未定ですが)、任天堂のゲーム全般に対して、特に海外でポジティブな影響があると思われます。

表3 例えばの話で、任天堂のスマートフォンゲームの業績寄与を予想してみると、

任天堂のインパクト

もし任天堂がうまくこの市場に参入できたならば、世界のゲーム会社、特に日本のゲーム会社にとって大きなインパクトになると思われます。

まず第一に、任天堂は最初から新興国を含む世界市場を対象にしています。日本企業の海外展開は、ミクシィが台湾、香港で課金売上高ランキング上位に食い込んだぐらいで、アメリカ、中国などの大市場では、今のところ成果が振るわないものとなっています。ガンホーも同様です。逆にキングは日本で大量広告を行っているにも関わらず、5位以内に入れません。もし任天堂が海外市場でも成功すれば、日本のゲーム会社にとっては、任天堂が海外市場攻略のお手本となるでしょう。

第二に、業界各社に与える影響です。日本市場では、任天堂はまずゲーム月商数十億クラスの準大手クラスの市場に入り、その後大手の領域を目指すと考えられます。ネイティブアプリゲーム市場は任天堂にとって未知の市場なので、開発、運営能力が高い大手企業の市場で成功するには時間がかかると思われます。ただし、コロプラやサイバーエージェントにとっては、任天堂の参入は打撃となる可能性があります。

また、任天堂が目指しているゲームの課金スタイルが、「広範囲低額課金」であり、既存の「狭い範囲の中高額課金」ではないことには注意する必要があります。ガンホー、ミクシィを除く大半の日本のゲーム会社はある程度高額課金に依存しています。ユーザーが任天堂の課金スタイルを選択するならば、課金の面から対応できない会社が出てくる可能性があるかもしれません。

中堅のハードコアゲーム会社への影響はユーザー層の違いからあまり考えられませんが、これも高額課金に対する影響が出る可能性も考えられます。

また、大手、準大手、中堅ともに、任天堂の成功によって、ユーザー層が子供、女性、家族層に拡大するならば、中長期的な良い影響があると思われます。

注目銘柄

このように、2016年3月期のゲーム市場も、投資する面白さには事欠かないと思われます。ここでは、注目銘柄として、ミクシィ、任天堂、エイチーム、Aimingを挙げたいと思います。

この中で最も注目したいのはミクシィです。理由は単純で、業績が良くPERが低いこと、複数のゲームタイトルで会社を持続的に成長させる意欲を会社が示していることです。今のPERは会社予想ベースで8倍台であり、業績と比べると割安感が感じられます。

任天堂は世界のゲーム市場を変えるかもしれないという可能性があります。ただし、今はスマホゲームの配信前であり、結果が出るのは来年になってからでしょう。今は試算を元に議論するしかなく、株価も上下運動が激しいと思われます。投資妙味は感じますが、注意も必要でしょう。

エイチーム、Aimingについては、いずれも今期上方修正の可能性があります。エイチームは「ユニゾンリーグ」の、Aimingは「ログレス」の好調からです。