1.2015年3月23日の週の相場概況:日経平均株価は2万円を目前に調整に入った。

3月23日の週の株式市場は、週初は好調に上げる局面もありました。しかし、週央にかけてもたつき始め、週後半になってNYダウが経済指標の悪化によって大きく売られると、日経平均株価も軟調になりました。2万円を目前にして、調整に入ったと思われます。やはり2万円台乗せは大仕事だったということでしょう。為替レートも円高に振れ、一時1ドル=118円台に入りました。このため、自動車株、電子部品株など為替敏感株が売られました。

ただし、来週から4月相場入りです。企業業績の上方修正が出てくるとともに、2016年3月期見通しの概要が少しずつ分かってくる時期でもあります。この調整期間中に投資するセクター、銘柄を探したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

2.東証マザーズ指数と日経平均株価の関係に注目したい。

中小型株の各指数を見ると、日経平均とTOPIXの動きに対して、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数は、同じ方向に動いています。

これに対して、東証マザーズ指数は2014年11月下旬に一旦ピークをつけた後、緩やかに下降しており、日柄調整中だったと思われます。ところが、グラフ5のように2012年11月14日を起点としたインデックスを見ると、3月23日の週になって上昇中の日経平均と下降中の東証マザーズ指数が接触しました。経験則でいえば、今後数カ月間東証マザーズ指数が上昇してもおかしくないと思われます。

マザーズには高PERで業績がぱっとしない銘柄が多いため、銘柄選択には苦労しますが、ミクシィ、VOYAGE GROUPのような業績の裏付けのある低PER株を探してみたいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証2部総合指数:日足

グラフ5 東証各指数(2015年3月26日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

3.特集:音楽業界-ソニー、アミューズ、エイベックス・グループ・ホールディングス、JVCケンウッド

構造変化進む音楽業界

音楽は、人間にとって最も身近な娯楽です。投資額も映画やゲームに比べて少なくて済むため、世界には沢山の音楽会社があります。その国に根付いた地場産業であると同時に、グローバルビジネスでもあります。この音楽の世界で、日本は世界第2位の市場です(表1)。また、国民1人当たりの音楽CD購入額では世界最大の国です。日本はアメリカと並ぶ世界最大規模の音楽大国なのです。

表1 2013年世界の音楽産業:国別上位10位まで

世界の音楽業界は過去10年以上大きな構造変化に見舞われてきました。2003年4月にアメリカのアップルが、音楽配信サービス「iTune Music Store」(現iTunes)を開始しました。アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」の購入者が、著作権管理機能をもった音楽サイト「iTune Music Store」から、アルバム単位、あるいは1曲単位で楽曲を購入する仕組みです。

iTune Music Storeは、アルバムの制作販売が事業の主力だった当時の世界の音楽業界に衝撃を与えました。iTunesと敵対するのか、受け入れるのか、あるいはどう受け入れるのかで、世界の音楽会社の将来が大きく左右されることになりました。安値でiTunesに楽曲を提供したEMIはその後急速な業績の悪化に見舞われました。単純に1曲1ドルで配信するのではなく、人気に応じて価格を変えたり、アルバムごとに価格を変えて売ったソニー・ミュージックエンタテインメントとユニバーサル・ミュージック・グループは生き残り、EMIを分割買収しました(制作部門はユニバーサル、音楽出版はソニー)。その結果、グローバルに展開する音楽会社は、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージック・グループの3強(ワーナーミュージックは規模が小さいため、実質的には2強)となりました。

また、ここ数年でiTunesの他にも音楽配信や映像配信サービスが出てきました。欧州のストリーミング型音楽配信サービス「スポッティファイ」(ソニーと提携した)や、日本のdVideo、UULA(いずれもエイベックスが運営)です。特にストリーミング型音楽配信にどう対応するかが、音楽会社の課題になっています。

ライブブーム続く日本市場

日本市場でも、2000年代後半までアルバムが売れない時代が続きました。iTunesや携帯電話向け音楽配信は増えましたが、YouTubeなどの無料配信で視聴するリスナーも増えたため、音楽市場全体では低迷する状態が続きました。

このような音楽業界の不振の中で、2000年代後半から新しい流れが生まれてきました。ライブブームです。グラフ6のように、レコード生産額が減少する中で、コンサート・ライブ売上高が増加してきました。楽天証券の推定では、2014年のコンサート・ライブ売上高は約2,600億円(前年比12%増)になっています。この金額は2006年の925億円の2.8倍です。2015年に入ってもライブブームは続いており、強い基調が続いています。

グラフ6 日本の音楽産業
(単位:百万円、暦年、出所:音楽ソフト生産高、音楽ダウンロード売上高は日本レコード協会、
コンサート・ライブ売上高はコンサートプロモーターズ協会、
2014年のコンサート・ライブ売上高は楽天証券推計)

ライブに強いアーティストが数多く出ています。J-POPやダンスグループで、「EXILE」、「EXILE TRIBE」、「福山雅治」など、K-POPで「東方神起」、「SUPER JUNIOR」、「BIGBANG」、女性ユニットで「AKB48」やここ数年で急成長してきた「ももいろクローバーZ」などです。ライブも大掛かりになり、スタジアムが足りなくなってきています。スタジアム、アリーナを予約するには大手プロダクション、大手レコード会社と、人気アーティストが有利になっています。

このようにライブが大ブームになったのは、ライブ映えのする数多くの大型アーティストが輩出してきたことがあります。また、芸能プロダクションやレコード会社も、レコードを制作して売るよりも、ライブの集客力を高めて、より高いチケットを売り、ファンクラブ(会費が獲得でき、ライブの常連化が期待できる)の人数を増やし、グッズを数多く販売する経営にシフトしていきました。レコード会社にとっては、アーティストと契約する際に、楽曲のレコード化権とともに、マネジメント契約、ライブ興業権の獲得が重要になってきました。

このようにアーティストに対して一貫サービスが提供できる会社としては、日本ではソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサルミュージック、エイベックス・グループ・ホールディングスの3社ですが、この3社はレコードのプロモーション能力でも際立って高い能力を持っています。

見方を変えると、iTunesのような配信システムに対して、音楽を作る存在(音楽会社とアーティスト)の地位、優位性が相対的に上昇してきたと言ってよいと思われます。

ここでは、ソニー、アミューズ、エイベックス・グループ・ホールディングス、JVCケンウッドの4社を取り上げて、各社の音楽戦略を分析します。

表2 コンサート・ライブ会場規模別動員数

表3 アーティスト別ライブ動員数

グラフ7 スタジアム、アリーナの公演数、動員数
(暦年、出所:コンサートプロモーター協会より楽天証券作成)

グラフ8 スタジアム、アリーナの1公演当たり動員数
(単位:人/本、暦年、出所:コンサートプロモーター協会より楽天証券作成)

主要音楽会社の事業状況

ソニー

ソニー・音楽部門(ソニー・ミュージックエンタテインメント)は、世界2位の音楽会社です。1位はフランスのVivendi(ヴィヴェンディ)傘下のユニバーサル・ミュージック・グループ、3位は投資ファンド傘下のワーナーミュージック・グループです。

世界展開している音楽会社は世界でこの3社だけであり、世界市場で活躍したいアーティストはこの3社のうちどれか、出来れば大手のユニバーサルかソニーと契約することになります。そのため、大手3社、特にユニバーサルとソニーには、世界的に評価の高いアーティストが数多く在籍しています。

ソニーの場合、海外では「ビヨンセ」、「セリーヌ・ディオン」、「ブリトニー・スピアーズ」、「ジャスティン・ティンバーレイク」、「ワン・ダイレクション」、「アデル」、「ダフト・パンク」、「アヴリル・ラヴィーン」、「マイリー・サイラス」などです。

ソニー・音楽部門の売上高の40%前後が日本部門と推定されます。日本では最大手であり、「西野カナ」、「乃木坂46」、「アンジェラ・アキ」、「KANA-BOON」、「the GazettE」、「中島美嘉」、「L’Arc-en-Ciel」など、超大物から若手まで多数のアーティストと契約しています。最大手だけあって、「L’Arc-en-Ciel」のような超大物と契約している一方で、「KANA-BOON」、「the GazettE」、「Nothing's Carved In Stone」、「SPYAIR」のような技巧的に優れた若手のJ-ROCKバンド、ビジュアル系バンドを集めていることが一つの特徴です。

一方で、今大流行している女性ユニットは「西野カナ」、「乃木坂46」の人気が大きいぐらいで、あまり話題になりません。最近は女性ユニットの「Flower」に注力しており、成果が期待されます。

アーティストマネジメントにも注力しています。「西野カナ」、「木村カエラ」、「氣志團」、「電気グルーヴ」、「PUFFY」などと契約しています。「西野カナ」、「電気グルーヴ」、「PUFFY」はレコード化権でも契約しており、この方面では一定の成果があるようです。

ライブハウス運営も手掛けています。100%子会社の「Zeppホールネットワークス」でZeppブランドで全国6カ所でライブハウスを経営しています。

このように、ソニーはレコード制作、マネジメントからライブハウス運営まで通貫するビジネスモデルを持っています。日本の音楽市場に対しての貢献という観点から見てもソニーの存在感は大きいのです。

ソニー・音楽部門の業績は堅調ですが、円安に助けられている面もあります。ソニーの第二次中期計画では、音楽部門は、映画、ゲーム、デバイスの各部門とともに、成長牽引領域に位置づけられました。今よりも成長させるために本社主導での投資が始まると思われます。

世界の音楽市場を見ると、日米欧の先進国市場では、良いアーティストが評価される土壌が確立しており、新興国市場では、所得水準が上昇するにつれて、良い音源で聞きたい、人とは違ったものを聞きたいという、有料音楽に対する需要が少しずつ出ている模様です。ソニー・音楽部門の成長に期待したいと思います。

グラフ9 ソニー・音楽部門の業績
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、
2015年3月期外部顧客向け売上高は楽天証券推定)

アミューズ

今の日本で最もライブブームの恩恵を受けているのがアミューズです。音楽アーティストが多く所属している老舗の芸能プロダクションです。ライブでは、「福山雅治」、復活してきた「サザンオールスターズ」の2大看板に加えて、若手の「ONE OK ROCK」がアメリカ西海岸で活動していたところ、大きく成長してきました。新作アルバム「35xxxv」の評価が大変高くなっています。2015年5~7月に日本でツアーを行う予定です。

また、将来が期待されるのが、「BABYMETAL」です。女性3人組のアイドルグループですが、楽曲はヘビーメタル調のもので新しい感覚の女性ユニットです。

「AKB48」、「ももいろクローバーZ」、「E-girls」と、ライブ集客力の大きい人気女性ユニットを如何に育成し、大型化していくかが、芸能プロダクションとレコード会社の大きな課題になっています。アミューズでは2014年から「BABYMETAL」をまずイギリスのロックフェスティバルに出演させ、更に欧米でのライブ活動を開始しました。そこで高評価を受けたことを背景に日本でのライブ活動を今年から活発化させる模様です。「BABYMETAL」の2015年3月期の日本でのライブ動員数は2~3万人でしたが、来期は10万人以上の集客を期待してよいと思われます。

業績は順調に拡大中です。2015年3月期会社予想営業利益は、前回予想の33億円(前年比9.4%減)から41億円(12.5%増)に上方修正されました。上方修正要因は,DVDのロイヤルティの増加、「ONE OK ROCK」のアルバム売上高好調と、「福山雅治」、「BABYMETAL」のグッズ販売の好調です。「BABYMETAL」の数千円するTシャツ、パーカーが売れていますが、1人で何着も買うファンがいると思われます。「BABYMETAL」の大型化を予想したファンの先物買いの側面もありそうです。2016年3月期は、各アーティストともにライブ中心に活動が活発になると思われるため、10~20%営業増益が期待できると思われます。

エイベックス・グループ・ホールディングス

J-POP中心に数多くのアーティストと契約しています。レコード契約では、「EXILE」、「3代目J Soul Brothers」、「E-girls」などがヒットしています。「3代目J Soul Brothers」では、1月に発売されたニューアルバム「PLANET SEVEN」がトリプルプラチナ(75万枚以上売れた)に認定されています。今の日本では大きなヒットです。また、ライブ興業権では、「東方神起」、「SUPER JUNIOR」、「BIGBANG」の3大K-POPスターの日本におけるライブ興行権を保有しており、これが業績に寄与しています。

エイベックスの今の問題は、「東方神起」の兵役問題です。韓国の男性アーティストは、19~29歳までに約2年間の兵役義務があります。「東方神起」はメンバーの二人とも既定の年齢に近付いています。恐らく、来期下期には兵役のための休業に入る可能性があります。

その穴をどう受けるかがエイベックスの課題です。まず、若手K-POPで急成長中の「EXO(エクソ)」の日本におけるライブ興業権を獲得しました。高度なダンスパフォーマンスが得意なグループであり、成長が期待されます。また、新しい分野の企画として、世界最高の評価を受けているEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)系DJの「Hardwell(ハードウェル)」と契約し、日本でニューアルバム「UNITED WE ARE」を1月に発売しました。エイベックスとしては、EDMを日本でも広げていきたい目論見です。

J-POPでは「和楽器バンド」が人気になり始めています。和楽器を使った演奏が特徴のグループで、着物中心のコスチュームとアニメソング風の楽曲が話題になっています。

また、ストリーミング配信の合弁会社「AWA」をサイバーエージェントと設立しました。

当面は、「東方神起」が兵役に行った後の2年間の穴をどう埋めるかが課題です。上述の各種の経営施策の効果に期待したいと思います。

JVCケンウッド

JVCケンウッドは、ビクターエンタテインメント、テイチクエンタテインメントの2社を傘下に持っています。この中でビクターエンタテインメントは、1928年に日本ビクター(現JVCケンウッド)の音楽事業部門としてレコード生産を開始した、日本の音楽会社としては老舗中の老舗です。

日本ビクターとケンウッドが企業統合してJVCケンウッドになってからも、音楽事業は続いていますが、JVCケンウッドの業績が苦しい時期が続いたので、音楽事業への投資が少なかったことは否めないと思われます。実際に、アーティストマネジメントやライブ興業権を持っているアーティストは、大手に比べると相対的に少なくなります。

レコード化権を持っているアーティストとしては、「サザンオールスターズ」、「SMAP」、「家入レオ」、「サカナクション」などがあります。ただし、これら有力アーティストとはアーティストマネジメント契約やライブ興業権はありません。

一方で、ビクターエンタテインメントの特徴は、根強いファンを持つベテランアーティストを数多く擁していることです(マネジメント契約していることも多いです)。

例えば、「Plastic Tree(プラスティック トゥリー)」です。ビジュアル系は日本独特の音楽ジャンルであり、幅広いファン層を抱えています。「Plastic Tree」はその源流の一つであり、1993年に結成されたこの分野では歴史のあるバンドです。特徴のある楽曲を数多く発表しており、熱狂的なファンを抱えています。ニューシングルの「スロウ」もファンや批評家からの評価が高いです。最近では、ショーアーティストとして女性からの人気が高く批評家からも評価されている「オナン・スペルマーメイド」とのコラボレーションが話題になっています。

JVCケンウッドのソフト&エンターテインメント部門(音楽部門)の業績は、今期は横ばいが見込まれます。「サザンオールスターズ」のニューアルバム(3月31日発売)の寄与が大きくなる見込みです。また、「Plastic Tree」も含めて契約アーティストのライブ公演回数が増加しているようなので、親会社の業績回復に伴って、音楽部門への投資を増やす可能性もあります。今後の展開に注目したいと思います。