1.2014年12月22日の週の相場概況:日経平均は続伸、掉尾の一振(とうびのいっしん)へ。

12月22日の週の株式市場は、15日の週の流れを受け継ぎ続伸しました。前週の日経平均は、12月18日に前日比390.32円高、19日に411.35円高と大幅高しました。今週も22日は13.73円高でしたが、24日は219.09円高となり、17,800円台に入りました。もっとも、25日は45.48円安と小幅安しており、外人投資家かクリスマス休暇入りした影響が出ているようです。26日も前場は小安くなっています。来週に向けて、掉尾の一振(とうびのいっしん)が期待されるところです。

今年2014年も、年間を通してみると、相場の上下運動が比較的激しい年でした。日経平均は4月11日のザラ場安値13,885.11円から12月8日のザラ場高値18,030.83円まで上昇しました。ただし、年間を通してみると、1月から5月までの比較的長い調整、10月、12月の短期調整と、比較的きつい調整が3回ありました。

来年2015年も、私が予想するところ、日経平均は2万円以上を目指す展開になるとは思いますが、年間で複数回のきつい調整の可能性がある、上下の振幅の激しい相場展開になる可能性もあります。

当面は円安をどう考えるかがポイントになると思われます。円安が続けば日経平均は上昇すると思われます(これまではそうでした)。日銀の大幅金融緩和が続き、消費税増税を先送りして財源が乏しい中でも経済対策を行うようなので、円安要因には事欠きません。また、株価が上がって日本の投資家のリスク許容度が増せば、外貨建て資産に目が向くことにもなるでしょう。これも円安要因です。

しかし、これ以上の円安が本当に日本経済にとって良いことなのかという疑問もあります。円安デメリットが、輸入物価の上昇、燃料代の上昇や実質賃金の目減りという形で、株式市場の外で広い範囲に拡大している可能性があるのです。10-12月期GDPなど今後出てくる経済指標でそのことが明らかになると思われます。

ただし、円安を含むアベノミクスが日本経済を良くする方向に効かなくなったとしても、誰もその対案、修正案を持っていないのが現状だろうと思われます。後述するように、円安によって日本の主力産業たる自動車、電機などにとっては円安メリットが発生すると思われます。しかしながら、円安が日本経済と株価に各々逆方向の効果をもたらすとしたら、相場の動きは複雑なものになる可能性があります。

原油安の効果をどう判定するかという問題もあります。原油安は、日本経済全体にとって燃料代低減という良い効果をもたらします。しかし、悪いこともあります。自動車セクターで見ると、原油安はアメリカでは自動車販売の増加要因ですが、日本メーカーが得意な小型車ではなく中大型車が売れる要因になります。また、欧米の資源産業、資源国経済や新興国通貨にとってマイナス要因になる場合がありますが、これはグローバル産業としての自動車産業にとって、マイナス面にもなりうるものです。

このように、2015年に予想される現実は、必ずしも良いことばかりではないことを念頭においておいたほうが良いと思われます。株式市場の基調は強いと思われますが、セクターと銘柄を選別して投資したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:週足

2.中小型株は反発したが、割高感が残る。

中小型株の各指標(東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数)は、週初から週央にかけて軟化しましたが、26日前場に急反発しました。

日経平均が軟化すると、中小型株に資金が向かう構図は変わっていないようですが、注意しなければならないこともあります。

まず、マザーズ、ジャスダックで、企業実態や利益成長率以上に買われすぎた銘柄が数多く出てきたということです。売上高が極端に少ない赤字会社の時価総額が1,000億円を超えるケースや、20~30%程度の増益率でPERが100~200倍を超えるケースなどが出ています。また、IPOラッシュですが、公募価格と初値の乖離が大きくなっていること、初値をつけてからの株価の上昇率も大きいことなどです。

一方で、東証1部には好業績でPERが10~20倍台の割安株が多くあります。このため、クリスマスにかけて中小型株から東証1部の大型株への資金シフトがおきた模様です。この動きが象徴的に現れたのが、今週に入ってからのミクシィ株の動きと思われます。ミクシィ株は19日終値から24日終値まで16.3%下落しました。クリスマス期間の「モンスターストライク」の課金ランキングはアップストアは2位でしたが、グーグルプレイは1位で順調です。中国での無料ダウンロードランキング、課金ランキングは大きく下がっていますが、これは配信し始めたばかりなので仕方がありません。考えられるのは、年末の税金圧縮のための損出しと、東証1部への資金シフトです。ミクシィのPERは割安ですが、新興市場で最も売買代金の大きいミクシィ株に資金シフトの動きが象徴的に現れた可能性があります。

中小型株の中でも、マザーズは循環的に大きな調整に見舞われています。中小型株でも銘柄選別が重要になってきたと思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

グラフ5 東証各指数(2014年12月25日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

3.特集:2015年のセクター見通し1(自動車、電機)

今回と次回の2回にわたって、2015年に活躍が期待されるセクターと銘柄を概観したいと思います。

表1 自動車、電機等の円安メリット(試算)

自動車

2015年の投資テーマの重要ポイントは、1ドル=120円前後の円安による円安メリットを最大限享受するセクターはどこかということです。2014年年初は1ドル=105円台前半からスタートしましたので、年間で約15円の円安になりました。

言うまでもなく、日本経済で円安メリットを最大限受け取るセクターは自動車であり、その次に電機、精密となると思われます。自動車、電機などの各社がどの程度の円安メリットを得て、それがどの程度営業利益を押し上げるかを試算したものが表1です。各社のドル円、ユーロ円の為替感応度から、今期、来期の営業利益上乗せ幅を単純に試算したものです。ただし、新興国通貨などドル、ユーロ以外の通貨の影響は考慮していません。

これによれば、日本で最も円安メリットを享受する会社はトヨタ自動車です。足元の円安が年明けから来年度も続けば、2015年3月期営業利益は円安メリットが加わって2兆7,000億円台、2016年3月期は同じく3兆1,000億円台になると試算されます。2016年3月期は販売費や研究開発費の増加分を差し引かなければなりませんが、販売増加の効果、合理化効果が加わりますので、営業利益が3兆2,000億円程度になる可能性もあります。

他の自動車メーカー、日産自動車、富士重工業、マツダも今期、来期ともに円安メリットが増益に貢献します。今期はさえない本田技研工業も来期は円安により増益率が大きくなると試算されます。

ただし、実際にどの自動車メーカーを投資対象として選ぶかは、各社の自動車の売れ行き、車のラインナップなどを加味して選択する必要があります。まず、国内販売が不振で、タカタのエアバックリコール問題が日本の自動車メーカーの中で最も重い本田技研工業は見送りたいと思います。円安メリットが大きいものの、ロシアなどの新興国通貨の扱いが比較的大きな日産自動車も同様です。

ここでは円安メリットが大きく、アメリカでの販売が堅調で、国内販売の減少率が一桁に止まっているトヨタ自動車、アメリカでの販売が好調な富士重工業をまず選択したいと思います。この2社については、トヨタ自動車は中大型車の車種が多く、アメリカで予想される原油安による小型車販売の減少を補うことが出来ると思われます。富士重工業は燃費以外の魅力を打ち出した車でファンを獲得しており、原油安のダメージはないと思われます。

一方マツダは、原油安は小型車販売には逆風となると思われます。ただし、小型車のデミオ(マツダ2)から中型SUVのCX-9まで比較的幅広い車種構成を持っていること、メキシコ工場の稼働率上昇によって海外生産を拡大させていることが注目点です。マツダも有望と思われます。

デンソー、アイシン精機などの自動車部品メーカーは、既に完成車メーカーとともに世界展開を進めているため円安メリットは大きくありません。ただし、トヨタ自動車は低燃費技術や自動運転技術の拡大に対応するために、系列部品メーカーの事業再編に入っています。自動ブレーキ関連はデンソーからアイシン精機に集約化、自動車用シートはトヨタ紡績に集約するなどです。これによってデンソーは自動車部品の中でもエレクトロニクス関連に開発を集中させ、アイシン精機は機械系部品に集中することになります。こうして研究開発と生産を効率化するのです。

また、デンソー、アイシン精機などの自動車部品メーカーは燃料電池車(FCV)向け部品も手掛けています。トヨタ自動車は本気でFCVを普及させるつもりです。FCV関連は長期的な投資対象になる可能性があります。

自動車部品メーカーの中には、オイルシールメーカーのNOKのように、スマートフォン向け回路基板に進出して大きな成功を収めている会社もあります。自動車部品メーカーには業績堅調な会社が多く、重要な投資対象と思われます。

表2 アメリカ、日本の新車販売台数

電機

ここでは民生用電機と電子部品を取り上げます。電子部品は、村田製作所のチップ積層セラミックコンデンサのような、世界的にシェアが高い重要部品を日本国内で生産する傾向があり、自動車ほどではありませんが比較的円安メリットがあります。特に、村田製作所の円安メリットが大きくなります。

電子部品メーカーの焦点は、スマートフォン向けと、自動車向けの需要です。村田製作所の業績は、世界のスマートフォン需要に左右されるようになっています。スマートフォンの中身は年々高度化し、多くの高い部品を使うようになっているため、来期も村田製作所の好業績は続く可能性があります。

また日本電産は、パソコン用HDD向けスピンドルモーターが主たる収益源だった会社から、自動車、家電、産業用向けモーターが成長ドライバーの会社に変化が進行しつつあります。自動車向けでは、ミリ波レーダーなど自動運転向け部品も開発するようになっているため、今後の変化に注目したいと思います。

民生用電機メーカーは、既に海外生産が大きくなっているため、円安メリットは大きくありません。ソニーのように、プレイステーション4のハードウェアの全量、テレビの大半を海外生産しているためドルベースでは円安がデメリットになる会社もあります。ソニーは今期は対ユーロ円安のメリットが大きくなるため、対ドルの円安デメリットを打ち消して全体では円安は業績にプラスになります。

ただし、足元の為替レートが来期も続くと、ソニー全体では円安デメリットが発生する可能性があります。ソニーの今期は営業赤字の見通しですが、これはスマートフォン事業の減損によるものです。来期の業績回復幅がどの程度になるかが焦点です。また、今回の映画部門の情報流出が業績にどの程度ダメージを与えるかも焦点になります。もっとも、今期2Qまでの業績は、着実に回復しているので、業績回復に対しては一定の期待を持ってよいと思われます。

パナソニックも円安メリットは大きくありませんが、自動車向け、住宅向けを成長ドライバーにしようとしています。自動車向けでは電気自動車大手のテスラモーターズ向け電池の供給や、海外メーカー向けが中心ですが運転席のディスプレイユニットなどの注目分野があります。

グラフ6 村田製作所の用途別売上高
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

家庭用ゲーム

自動車、電機以外では、任天堂の円安メリットの大きさに注目したいと思います。任天堂は、ハードウェアは主に海外で生産しますが、自社製ゲームソフトは主に日本で開発するため、円高の時代は固定費負担が重く、また12月12日付けの本稿でも指摘したように、3DS、Wii U発売時の任天堂の経営政策にも失敗があったため、2014年3月期まで3期連続営業赤字になりました。しかし、今期はヒットしているソフトが自社製、サードパーティ製ともに何作も出ているため、業績が回復しています。更に円安メリットが加わっているため、今期会社予想営業利益400億円は上乗せになる可能性が大きいと思われます。来期も世界で通用するヒット作が出れば、業績改善が続くと思われます。

多様な投資手法を考えたい

家庭用ゲームでは優良銘柄は限られていますが、自動車、電機は、投資対象が幅広くあります。1~2銘柄への投資では、必ずしも今の動き、自動車、電機にまたがる技術革新の動き、トヨタグループの再編の動き、スマートフォン中心に通信技術の革新の動きを捉えることは難しくなっています。

そこで考えてみたいのが、トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、デンソー、NOK、村田製作所、日本電産、ソニー、パナソニックなどの個別銘柄への投資に加えて、業種別ETF(上場投資信託)や専門投信への投資です。業種別ETFは日本ではまだ人気があまりありませんが、セクター選択だけで投資が出来ます。自動車・輸送機器と電気機器のETFに投資すると、自動車、電機の広い範囲に網を掛けることが出来ます。分散投資によって運用を安定化させる効果も期待できると思われます。

また、トヨタグループに関心がある向きには、個別株や業種別ETFに比べ取引コストが高く、中長期投資になりますが、「トヨタグループ株式ファンド」があります。トヨタグループの企業に集中的に投資する投資信託です。

2015年も株価上昇が期待されますが、相場の振幅が大きくなる可能性もあります。多様な投資手法を考えても良いのではないかと思われます。

<年末のご挨拶>

2014年5月から開始した「楽天証券投資Weekly:セクター・投資テーマ編」ですが、お読みいただきありがとうございました。
来年2015年も、どうぞよろしくお願い致します。
よいお年をお迎えください。