<お詫びと訂正>

2014年11月28日付けで発行した当レポートに誤りがありました。CYBERDYNE株式会社の資金調達について書いた部分で、

<誤>⑦新株発行後の発行済み株式数は現在より約7%増えます。また新株予約権付き社債が全額普通株に転換された場合の希薄化率は約14%です。合わせて発行済み株式数は最大約21%増えることになります。

<正>⑦新株発行後の発行済み株式数は現在より7.4%増えます。また新株予約権付き社債が全額普通株に転換された場合、発行済み株式数は同じく5.6%増えます。合わせて発行済み株式数は最大13.0%増えることになります(ただし、転換価額修正条項発動前)。

関係者各位にご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます。

(追記)この度の訂正につきまして、最新レポート(12月5日)にて補足の説明を行っております。

(1)2014年11月25日の週の相場概況:衆議院選挙は12月14日に決定、日経平均株価は高値揉み合い。

11月25日の週の株式市場は、先週に続き高値で揉み合う展開となりました。ただし、28日は、12時50分現在で前日比180円以上高い17,400円台となり、揉み合いから強含む展開になりました。

衆議院選挙は12月2日公示、12月14日投開票となりました。先週の本稿でも指摘しましたが、今回の選挙は、多くの国民にとっても株式市場にとっても、やる意味がよくわからない選挙です。自公与党の獲得議席数も今よりも減る可能性が高く、どの程度まで減るかで「勝敗」が決まるといわれています。企業であれ個人であれ、冬になるにつれ、電気代、灯油代などで円安デメリットを感じやすくなる季節に選挙を行うことと、今回の選挙の意味のわかりにくさが加わって、株式市場の頭を抑えている可能性があります。

為替相場を見ても、これまで円安が進行してきましたが、今週は1ドル=117~118円の小さいレンジで揉み合いとなっています。日本全体では緩やかな円安はプラスと思われますが、今回の円安は急激で、実質所得が減ったり、円安による原材料費の上昇が業績を圧迫したり、円安デメリットを受ける個人、企業の数は多くなっていると思われます。ただし、今週は1ドル=117円台で推移する日が多かったですが、28日には再び1ドル=118円台に入っており、円安傾向には根強いものがあると思われます。27日にやや円高に振れたときに下げた、トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、任天堂など円安メリットが大きい大型株は、28日には戻す展開となりました。

選挙の結果が出るまでは、今のような高値揉み合いが続く可能性があります。今回の選挙は自公が勝ち過ぎれば、即ち現有議席を維持するか上回れば、安倍首相は憲法改正など彼の好きな政治課題に没入するリスクがあります。逆にある程度議席を減らせば、与党は経済政策に集中するしかありませんが、負けすぎれば、政策実行力が妨げられる恐れがあります。選挙の結果を見るまでは、その先のことが見通しにくい状況です。ただし、上値への期待は強い模様で、折に触れて強含む相場展開が予想されます。

大きな流れを見ると、円安の流れは続くと思われます。内需を見ると消費税増税後の反動が長引くなど難しい問題はありますが、一方で、建設市場の活況が簡単に収まる状況ではありません。自動車、電機、建設などの分野で、好業績、割安株を見つける機会だと思われます。

グラフ1 日経平均株価:週足

(2)中小型株は上昇基調だが、懸念すべき動きも

中小型株の各指標(東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数)は、今週は上昇しました。これまで上昇基調だった日経ジャスダック平均、東証2部総合指数だけでなく、もたついていた東証マザーズ指数も上昇し、上値抵抗線に接近しています。日経平均が揉み合いに入った代わりに、中小型株が物色されるという循環物色の流れが生きていると言えます。

ただし、懸念材料も出ています。CYBERDYNEの大型資金調達、ユーグレナの東証1部昇格です。詳細は後述しますが、ネットバブルを思い起こさせるような小規模企業の過大評価と彼らの将来に対する過度の楽観、そしてその裏側で好業績企業が評価されなくなっている実態を観察することが出来ます。新興市場にも東証2部にも業績堅調でPERが適正な状態の割安企業はあるため、堅調な上昇が期待できるとは思いますが、特にマザーズ市場で実態の伴わない株価の過大評価の反動で、近い将来に大きな調整が起こらないとは限りません。このことに注意が必要になってきたかも知れません。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

(3)銘柄コメント:CYBERDYNE、ユーグレナ、ミクシィ

CYBERDYNEの大型資金調達をどう評価するか:11月26日、CYBERDYNEは総額410億円の資金調達を発表しました。内容は以下のとおりです。

  • いずれも海外募集(欧州とアジア)ですが、新株発行で211億円、2017年満期ユーロ円建て転換社債型新株予約権付社債で約200億円、合計手取り概算額414億円を調達する計画です。払込期日はいずれも12月12日で、主幹事はドイツ銀行ロンドン支店です。
  • 27日には新株募集価格が3,159円、新株予約権付き社債の転換価額が3,790円に決まりました。
  • 新株予約権付き社債には、普通株への転換価額の下方修正条項が付いており、2015年12月11日までの30連続取引日の終値の平均値が転換価額を下回ったときには、その平均値に修正されます。ただし、下限転換価額が設定されており、転換価額の85%(今の転換価額なら3,222円)が下限転換価額になります。
  • 大株主の山海社長と大和ハウス工業は、ドイツ証券との間で普通株の貸株契約を締結する予定です。
  • なお、新株予約権付き社債の額面総額200億円については、受託会社のDB Trustees( HongKong) Limited 及びエスクローエージェントであるドイツ銀行東京支店との間でエスクロー契約を結び、一定の条件が満たされなければ引き出せなくなります。その条件とは、ロボットスーツHAL医療用について、FDA(米国食品医薬品局)による医療機器承認を取得した場合、または、日本で薬事法に基づく医療機器製造販売承認を取得した場合です。なお、新株予約権付き社債が株式転換された場合は、上記条件にかかわらず、額面相当部分の引き出しができます。
  • 調達資金の使い道は、100億円をグローバル展開へ向けた国内外拠点の基盤整備に、50億円を生産拡充に、200億円をサイバニクス国際先進医療開発拠点の整備資金に、残額を最先端の技術や人材の獲得に使う計画です。
  • 新株発行後の発行済み株式数は現在より7.4%増えます。また新株予約権付き社債が全額普通株に転換された場合、発行済み株式数は同じく5.6%増えます。合わせて発行済み株式数は最大13.0%増えることになります(ただし、転換価額修正条項発動前)。

さて、この大型資金調達を行うCYBERDYNEとはどのような会社かというと、2015年3月期会社予想業績は、売上高7億5,000万円、経常損失5億5,800万円、当期純損失5億7,600万円です。2014年3月期は売上高4億5,600万円、営業損失11億5,400万円、経常損失6億8,200万円、当期純損失6億8,800万円です。営業損失と経常損失の差が大きいのは、政府、地方自治体からの補助金等による補填があるからです。補助金と外部からの資金調達が重要になっている会社です。ちなみに、上記の今期予想業績は下方修正後の数字です。

グラフ5 CYBERDYNEの業績推移
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は会社予想、
2010年3月期~2013年3月期は単独決算、それ以降は連結決算)

同社の主力製品は、介護、医療分野で使う「ロボットスーツHAL」です。ただし、自力で動くロボットではなく、装着する人の動きを支援するものなので、増力装置と言ったほうがよいかもしれません。介護、医療の現場で既に実際に使われています。問題は、売上高が小さく、赤字額が大きいことです。「ロボット」関連銘柄の筆頭として人気の高い銘柄ですが、実態は、設立して今期で11期目になるにもかかわらず、売上高が10億円にも達していない赤字企業です。

成長企業の重要な特徴は、損益にかかわらず、売上高(中身のある売上高です)が急速に、かつ持続的に伸びることだと思います。同社も売上高は伸びていますが、年商数億円規模の企業では、大幅増収の後に大幅減収となることがよくあるため、増収が持続的なものかどうか、より大きな売上高になったときに確認する必要があります。今は上場企業としては売上高が小さすぎます。

更にCYBERDYNEでは、普通株式、B株の2種類の株式が発行され、B株は普通株に対して10倍の議決権があります。この結果、創業者である社長の山海氏が議決権の約88%を保有しています(2014年3月期有価証券報告書より)。一般の株主には、配当を受け取る権利以外には株主としての権利は基本的にないと考えておいたほうがよいです。

この企業の時価総額が、普通株、B株あわせて3,175億円、普通株のみで1,872億円で評価されています(11月27日終値3,355円ベース。マザーズに上場されているのは普通株)。この高い評価を利用した大型資金調達というわけです。私の経験から言うと、このような状態の企業が大型調達を実施する場合、経営者が自社の株価が過大評価されていて、調達するには今しかないと考えている可能性があります。また、企業実態を大きく上回る資金調達を行うのは、取れるときに取っておこうとする考えかもしれません。今後持続的に成長する自信があるならば、通常は成長に伴って段階的に資金調達するのが普通です。

CYBERDYNEの今後の業績が今回の資金調達を十分説明できるものでない場合は、CYBERDYNEの株価だけでなく、今後のマザーズ市場の動きにも影響が出る可能性があります。

ユーグレナが東証1部昇格

もう一つは、ユーグレナの東証1部上場です。中身は健康食品メーカーです。ミドリムシが健康に良い、環境に良いとする意見を否定するつもりはありませんし、最終的にこの問題は信じるか信じないかの問題かもしれません。しかし、ここでの問題はユーグレナの株価が企業実態から大きく乖離しているのではないかということです。同社の2014年9月期は売上高30億4,600万円(前年比45.6%増)、営業利益1億4,200万円(19.4%減)、経常利益1億9,100万円(27.7%減)、当期純利益1億1,800万円(75.5%減)です。2015年9月期は補助金があって経常増益ですが、実態は研究開発費負担で増収ながら営業減益になる予想です。資金調達によって純資産は104億円と潤沢です。

売上高規模が今期予想で47億円と大きく、急増している点はCYBERDYNEよりましだと言えますが、この会社も時価総額1,238億円と今の業績と財務内容からすると、相当高い水準にあると思われます。

グラフ6 ユーグレナの業績推移
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は会社予想、
2010年9月期~2012年9月期は単独決算、それ以降は連結決算)

業績好調なミクシィは割安に放置

CYBERDYNEやユーグレナのように企業実態から大幅に上方乖離した時価総額になっていると思われる銘柄がある一方で、相変わらず割安に放置されているのがミクシィです。

表1は「モンスターストライク」がアップストア、グーグルプレイで課金売上高1位になった日数を数えたものです。10月に続き11月も好成績で、11月の1位日数は10月のそれを抜きました。ガンホー・オンライン・エンターテイメントのキャンペーン、イベント時の「パズル&ドラゴンズ」の売上高が「モンスターストライク」のキャンペーン、イベント時の売上高よりも大きいために、ミクシィの月次売上高がガンホー・オンライン・エンターテイメントのそれを上回るまでにはまだ少し時間がかかりそうです。ただし、間合いは直実に詰まっていると思われます。

今期営業利益の会社予想は450億円ですが、今の調子だと50~100億円程度上乗せになる可能性があります。PERは楽天証券予想ベースで13倍です(楽天証券の今期予想営業利益は500億円、EPS400.4円)。

今のマザーズ市場には一種のひずみが生じ始めているのかもしれません。このようなひずみは拡大することもありますが、まともな見方が行き渡れば縮小するというのがこれまでの経緯です(例えば、1998~2000年にネットバブルが拡大して破裂、縮小したようなものです)。ひずみが拡大するときには、CYBERDYNEを見習って無茶な資金調達を企てる小規模企業が大量発生する可能性があるため、注意が必要です。

ただし、中長期的に見れば、一定以上の規模を持った業績がしっかりした割安株は再評価されるだろうというのが私の考えです。

表1 「モンスターストライク」が課金売上高ランキングで1位になった日数