(1)2014年11月17日の週の相場概況:衆議院21日に解散。円安進行し日経平均株価は高値で揉み合う。

11月17日の週の株式市場は、高値で揉み合う展開となりましたが、頭打ち感も出てきました。11月18日に安倍首相が衆議院解散と消費税増税の延期を表明しました。21日午後に衆議院解散となり、衆議院選挙は12月2日公示、14日投開票となります。また、消費税増税(8%→10%)は2015年10月から2017年4月に延期されることが与党の公約となります。

この動きを受け円安が進行しました。ドル円レートは、10月30日に1ドル=109円台でしたが、19日に一時1ドル=118円台に入り、20日は118円台半ばで推移するようになりました。ただし、21日は117円台になりました。ユーロ円レートも10月30日に1ユーロ=137円台だったものが、一時148円台となり現在は147円台半ばです。ドル円、ユーロ円は各々11月に現時点までに約7%、最大で約8%の円安になりました。

円安の動きを受けて先週まで日経平均は高値追いの動きでしたが、今週18日の安倍首相の衆議院解散発言を受けて動きが鈍り、高値揉み合いの形となりました。円安メリットが大きい自動車や電子部品は基調的には上昇が続いていますが、それ以外のセクターはまちまちの動きになっています。

今後の焦点は、安倍首相が考えているような獲得議席数で与党が勝利するかどうかです。自公両党は20日に絶対安定多数(266議席)を超える270議席を勝敗ラインとしました。これに先立って安倍首相は与党過半数(238議席)を勝敗ラインとしましたが、今回の選挙は現有議席(326議席)を減らす可能性がある選挙です。何のためにやる選挙なのかよくわからないという意見は、株式市場だけでなく、世論の中に多いと思われますし、もし、大きく与党が大きく議席を減らした場合のことを考える向きもあると思われます。安倍首相の衆議院解散発言の後で円安進行にもかかわらず日経平均の上値が重くなった背景には、選挙の結果を不透明視する見方があると思われます。

当面は、円安メリットが確実に見込まれる自動車、電機の中の業績好調組(トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、ソニー、パナソニック、村田製作所など)や内需拡大で業績好調な建設・建設関連(大成建設、大林組、清水建設、カナモト、西尾レントオールなど)、ゲームの中で業績好調組あるいは回復組(ミクシィ、任天堂など)などに選別して注目したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:週足

(2)中小型株の勢い鈍る

中小型株の各指標(東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数)を見ると、先週に続き東証マザーズ指数は調整色が出てきました。日経ジャスダック平均、東証2部総合指数も、上昇基調は維持しているものの、上昇ピッチは鈍くなっています。

最近の流行である直近上場銘柄への集中物色も、急上昇の後、短期間で下落に転じるようになりました。ミクシィ、CYBERDYNEなど動きの鈍った主力株からの乗り換えは続いていると思われますが、これまで騰勢が続いていたトレックス・セミコンダクター、FFRIが頭打ちになったり、あるいは下落に転じ、代わって出てきたSHIFTも短期間の上昇で下落し始め、20日はストップ安、21日前場も続落しています。公募価格と初値の乖離が大きくなるにつれ、高値を追う妙味が薄れてきた可能性があります。新規上場ラッシュですが、公募価格と初値の乖離には注意が必要です。

既上場の主力株でも、ミクシィのように、業績絶好調でPERが10倍台の銘柄もあれば、CYBERDYNE、ユーグレナのように、期待先行で買われた結果、今期業績見通しからかけ離れた時価総額になっている銘柄も見られます。新興市場の動きには注意が必要になってきたかもしれません。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

グラフ5 東証各指数(2014年11月20日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)銘柄コメント:円安メリット関連

自動車、電機に円安メリット銘柄が多い

表1は円安メリットを受ける銘柄の一部をリストにしたものです。円安メリット銘柄はこれ以外にもありますが、主なものだけ並べました。

表1 自動車、電機等の円安メリット(試算)

特に自動車の円安メリットの大きさがわかります。足元の1ドル=117円台、1ユーロ=147円台が続けば、トヨタ自動車で今期約19%の営業増益になります。更に来期一杯今の為替レートが続けば、117円-109円=8円の対ドル円安、147円―142円=5円の対ユーロ円安が来期見込まれるため、ドルで3,200億円、ユーロで200億円の円安メリットが来期も見込まれることになります。今期営業利益は会社予想2兆5,000億円に対して円安メリットを加味すると2兆7,000億円、来期は3兆円以上になると試算されるのです。また、来期はプリウスの新車(フルモデルチェンジ)発売という大きなイベントもあります。来期営業利益3兆1,000~2,000億円、営業増益率14~19%のレンジになる可能性があります。投資妙味としては十分だと思われます。

富士重工業、マツダのような、会社の規模に対して円安メリットが大きな会社は、より一層大きな増益率になると思われます。

一方で、本田技研工業のように北米での販売が思わしくない会社は円安メリットの享受には限りがあります。タカタのエアバック事故に伴うリコール台数が最も多いのは本田技研工業です。自動車への投資にも選別は必要だと思われます。

この他の銘柄では、ソニーは対ドルでは円安デメリットになりますが、対ユーロではメリットになり、足元の円安では差し引きでメリットになります。また、村田製作所のような大手電子部品メーカーでは、国際競争力の強い電子部品を日本国内で生産する傾向が強いため、円安メリットがあります。村田製作所はiPhoneをはじめとするスマートフォブームにより、2Q決算で通期見通しを上方修正しましたが(営業利益見通しを1,440億円から1,700億円に上方修正)、円安で更に上乗せが見込めそうです。

任天堂も営業段階で円安メリットが発生します。また、9月末で外貨建て現預金を20億8,300万ドル、6億3,400万ユーロ保有しています。9月末レートは、1ドル=109.45円、1ユーロ=138.87円ですので、外貨建て現預金の評価益(営業外損益の為替差益)がドルで178億ユーロ円で57億円、計235億円発生することになります。上期の為替差益が155億円ですので、今の為替レートが続けば経常利益を押し上げることになります。

マクロでは円安メリットだけではない

ただし、日本経済全体を見ると円安メリットだけではありません。11月に入ってからの急速な円安は、12月以降輸入物価を押し上げることになります。特に注意したいのがエネルギーコストの上昇です。灯油価格は足元では夏に比べ下がっていますが、輸入コスト上昇によって再び上昇する可能性があります。電気代も同様です。特に今年は北海道では冬の到来が昨年よりも2~4週間早く、11月中旬から本格的な雪になっています(昨年は12月から本格的な雪でした)。北海道、東北、北陸と、寒冷地がこれから冬になっていきますが、今年も厳冬が予想されています。灯油代、電気代が嵩む中で急速な円安になっているわけであり、かなり広い地域で円安デメリットが顕在化しそうです。

基本的に円安メリットが発生するのは、輸出が多いか、グローバル展開している大企業であり、下請け企業へのメリットは薄くなります。株価上昇の資産効果も、国民の全てが享受するわけではありません。内需系企業でも建設関連は輸入資材価格の上昇を転嫁できますが、そうでない場合は円安デメリットになる可能性があります。

あるいは、円安メリットがある自動車業界でも、円安デメリットを被っている地域や所得階層で軽自動車の売れ行きが落ち込むことも考えられます。消費税は3%の上昇で済みましたが、11月に入ってからの円安は最大8%です。全ての商品というわけではありませんが、物価を押し上げる要因になると思われます。

マクロで総合すると円安は日本経済にメリットだと思われますが、今回の円安は急すぎます。国民の数、企業の数から見ると、円安デメリットが発生する範囲は決して狭いものではありません。特に燃料代、電気代がかかる冬場には厳しいものになると思われます。その意味で、この時期に衆議院選挙をやる意味が良くわかりませんし、また、政治の安定性から見た場合に不透明感が強くなると思われます。

また、注意したいのは今後です。消費税率引き上げを延期した場合、これが国の財政への信認を低下させ、歯止めのない円安に陥るリスクがないわけではありません。要するに円急落リスクです。更に、円の一方的な下落は、アメリカの産業界、特に自動車業界から反発が出る可能性がないわけではありません。これは日本の自動車業界に対するリスクです。

このように、今回の急速な円安は、単に計算上の円安メリットだけでなく、国民経済、国際関係にまたがる円安デメリットを発生させるリスクをはらんでいます。このことに注意したいと思います。