(1)2014年10月6日の週の相場概況:日経平均株価は続落。

10月6日の週の株式市場は、前週に続き続落しました。

日経平均株価は10月3日にザラ場で15,500円台まで下げましたが、今週に入り10月6日には先週末のNYダウの上昇や政策期待から前週末日182.30円高と上昇しました。しかしその後は、一日に100円以上下げる展開となり、10月9日にはザラ場で15,400円台に入り、先週安値を下回る水準まで売られました。

更に、10月9日のNYダウが世界経済の先行き不透明感から前日比334.97円安と大幅安となり、これを受けて10月10日の日経平均も前日比200円以上安い15,200円台に入りました。

チャートの形、位置も悪化しており、日経平均日足を見ると、75日移動平均線を割り込んで200日線に接近する事態となっており、15,000円の節目まで下落する可能性がないとはいえない状況です。週足も下値抵抗ラインに接触してしまいました。

ただし、チャートでも日足のボリンジャーバンドを見ると、下限線である-2σを割ったところなので、ここから更に下がることがあれば買ってみたいところではあります。10月20日の週から2015年3月期2Q決算が始まるため、決算に注意したい季節も到来しました。買い出動に備えて銘柄を選別したいところです。

今回の日経平均下落の要因を考えると、世界経済の不透明さとともに円高です。10月1日に大きな節目である1ドル=110円を付けてから、円高方向に振れています。特に9日にはアメリカの低金利政策長期化の見方がでてきたため、1ドル=107円台に入ってしまいました。10日も107円台後半です。私は、今回の円高は節目に達した後の押し目であり、アメリカの景気のよさを考えると、ドル高円安方向にいずれ戻ると考えています。

もう一つの要因は、日銀と安倍政権との間に為替レートを巡って意見の対立が目立つようになったことです。日銀短観の公表(10月1日)の前から中小企業団体などから円安のデメリットを指摘する声が上がるようになりました。これに安倍政権が同調する姿勢を見せていますが、日銀総裁は逆に円安の景気刺激効果を再確認する発言をしています。私としては、持続的な円安となることで、グローバル企業の業績が伸び、株価が上昇し、地価が上昇し、「資産効果」が発揮されて内需企業の業績も良くなって、景気が長期的に拡大するシナリオに賛成です。円安でデメリットを被る会社や個人よりも、利益を得る企業、個人のほうが多いからこそ、円安になると株価が上昇するのでしょう。

特に、株価、地価の上昇による「資産効果」が、景気に対して強いポジティブな効果をもたらしていることを認識する必要があります。そして、逆に円高になって株価が下がると、逆の「資産効果」が発生しかねないことに注意する必要があります。円安懐疑論を唱える人たちが、円高賛成とは限りませんし、多くの人たちが現水準での安定を望んでいるのかもしれませんが、多くの場合、為替相場に安定はありません。円安が迷惑なら円高がいいのかと、為替市場がそう考えてしまって円高が続くことを喜ぶ人もまた少ないと思われます。

円安になっても設備投資が回復していないという疑問もあるようです。過去長きに渡った円高局面で、多くの輸出産業の工場が海外に移転しました。円安局面が始まったのが、2012年11月からですから、まだ2年弱です。特に1ドル=100円を超えてそれが定着したのが2013年11月以降ですから、海外に流出した工場が日本に戻ってくる、あるいは、輸出専門の工場を日本国内に新設することを輸出企業が決断するにはまだ時間が必要です。設備投資の決断には時間がかかるのです。円安の経済効果は長い目で見る必要があると思われます。

グラフ1 日経平均株価:週足

(2)中小型株の各指数も微妙な位置に来た。

中小型株の各指標(東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数)も、微妙な位置に来ています。

東証マザーズ指数は、10日に200日移動平均、52週移動平均を割り込みました。調整が少し長期化する可能性があります。ミクシィの株価が三角保合いになっていること、CYBERDYNEの株価が下がりはしないものの横ばい圏に入っていることが響いていると思われます。両社とも株価の立ち直り、再上昇には、11月の2Q決算発表を待たなければならないかもしれません。

日経ジャスダック平均、東証2部総合指数も、チャートが崩れてきました。マザーズ、ジャスダック、東証2部には様々な中小型株が上場していますが、その多くは成長企業にせよ、安定成長型の中堅企業にせよ、内需型の企業が多いです。例えば、ゲーム、インターネット、情報通信関連で時価総額1兆円未満の会社の多くは内需型企業です。これらの業種で円安デメリットが発生しているようには見えませんが、実際にどの程度成長しているのか、2Q決算を確認したいと思います。株価が更に突っ込めば買いたい銘柄も多いと思われますが、各指数ともに、微妙な中途半端な位置にあります。反発するのか、更に下落するのか、見定めたいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

グラフ5 東証各指数(2014年10月9日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)銘柄コメント1:SIMフリーiPhone6と日本通信

「iPhone」にSIMフリー版がある

スマートフォンにある程度詳しい方なら、「iPhone」にSIMフリー版があることをご存知と思います。日本ではNTTドコモが2011年4月以降発売した携帯電話、スマートフォンを除く大半の端末にSIMロックがかかっており、携帯電話会社の認証を行うSIMカードを勝手に取り外して他社やMVNO業者のSIMカードを差し込むことが出来なくなっています。いわゆる「白ロム」端末(最初からSIMカードが入っていない「SIMフリー」端末、自分で携帯電話会社やMVNOを選ぶ)も未だにほとんど販売されていません。

SIMフリーiPhoneは、2013年11月にアップルの日本法人が「iPhone5s」のSIMフリー版を発売したのが最初です。「iPhone6」シリーズ(4.7インチの「6」と5.5インチの「6Plus」)では、大手携帯電話会社向けと同時にSIMフリー版が発売されています。アップルのウェブサイトのオンライン販売か、アップルストア各店舗で毎日入荷する分を各店舗のウェブサイトから予約して店舗で受け取ることで入手できます。オンライン販売では出荷に「6」が7-10営業日、「6Plus」が3-4週間かかりますので、量販店や携帯電話会社の直営店並かそれ以上に時間がかかります。一方、アップルストア各店舗では、毎日の入荷数が少ないため、夜12時にその日の予約が開始されると直ぐに予約が埋まりますが、その日のうちに入手できます。

こうやって入手した「iPhone6」シリーズは、もちろん各携帯電話会社でも契約できますし、日本通信やインターネットイニシアティブなどのMVNO(仮想移動体通信事業者、自前の通信設備を持たず、それを大手携帯電話会社から借りて事業を行う事業者)と契約しても良いのです。

都内のアップルストアに行ってみると、このようなSIMフリーiPhone6を購入する人は外国人が多いということです。外国での転売目的もあると思われますが、自分で海外で使うために購入する人も多いようです。

密かに人気が出始めている「SIMフリーiPhone6」

ただし、購入者には日本人もいます。日本通信がSIMフリーiPhone6をターゲットにした格安大容量SIM「Platinum SIM for iPhone」(容量7GBに1年継続オプションで1GBが追加される。月間料金3,980円。電話は30秒20円)を9月19日に発売しました。ネット通販やヨドバシカメラなどの量販店で購入できます。販売数量は定かではありませんが、会社側が想定していたよりも出足が良い模様です。

実はこのSIMフリーiPhone6が、iPhoneファンや一部の技術系専門誌などで注目されているのです。理由は、用途をデータ通信にほぼ限定すると、ソフトバンクやNTTドコモなどの携帯電話会社と契約するよりも端末料金を含めた利用料が安くなるためです。SIMフリーiPhoneはその販売台数や購入者層がどういう人たちなのか、実態がわからないので想像になりますが、スマートフォンやiPhoneの内容に通じ、料金にも詳しいヘビーユーザーではないかと思われます。SIMフリーiPhone6と日本通信の「Platinum SIM for iPhone」の組み合わせと、ソフトバンク、NTTドコモのiPhone6との料金を比較したものが表1です。端末代金は一見すると高いですが、24カ月で割ると、そうでもありません。また、アップルローンやクレジットカードの分割払いを使うことが出来ます。

ソフトバンク、NTTドコモともに電話かけ放題のサービスが月間2,700円で提供されていますので、電話を多く使う人はソフトバンクなどの大手携帯電話会社と契約したほうがよいと思われます。一方で、データ通信中心に使う人、電話はIP電話を中心に使う人、ゲーム、音楽、映画・ドラマの視聴などで大容量が7~8GB程度までの大容量が必要な人、あるいは、家のパソコンはiPhone6のデザリング機能で済ませるなど、通信はどこでも全てiPhone6で済ませたい人は、SIMフリー版を検討してみる価値があります。

表1 SIMフリー「iPhone6」シリーズと大手携帯電話会社との料金比較

需要が増えると日本通信の業績に寄与する可能性がある

SIMフリーiPhone6用SIMカードは、人気が出てある程度の市場になると、日本通信などのMVNO業者の業績に少なからぬ寄与があると思われます。グラフ6は日本におけるiPhoneの出荷台数を示したものです。2015年3月期のiPhone全体の出荷台数を1,700~1,800万台とすると、iPhone6シリーズは900~1,000万台と予想されます。

このうち、ほんの数%、全くの推定ですが2%がSIMフリー版とすると、18~20万台、このうち15~20%のシェアを日本通信が獲得すると仮定すると、2.7~4.0万契約を獲得できることになります。6月末の日本通信の月額課金SIM(個人向け)の契約残高が約9万件ですので、日本通信にとって決して小さくない数字だということがわかります。また、2.7万件の契約を年間ベースに直すと、売上高は2.7万件×3,980円/月×12カ月=約13億円になります。4万件なら約19億円になります。注意したいのは、2015年3月期1Qの月額課金SIMの月間平均単価が1,845円であり、「Platinum SIM for iPhone」の月間料金が3,980円と2倍以上あることです。

また、来期2016年3月期のiPhone出荷台数を1,900~2,000万台として、その2%がSIMフリー版とすると、38~40万台、そのうち15~20%を日本通信が獲得できれば、5.7~8.0万件になります。これを年間ベースに直すと、売上高は27~38億円になります。日本通信の2015年3月期会社予想売上高は62.3億円です。5.7~8.0万件の大容量SIMカードの契約が毎年積みあがっていけば、3年程度で今の売上高が倍以上になる可能性もあるのです。

つまり、iPhoneは市場が大きいため、今のところほんの「隙間」でしかないと思われるSIMフリーiPhone6も、日本通信の企業規模からすれば、当たると大きな話になるということです。

高級機と大容量SIMカードの組み合わせに商機がある?

率直に言って、これまでMVNO業者が目指してきた格安スマホ端末と1~2GB程度の小容量低価格SIMカードとの組み合わせは、必ずしも上手くいっていません。来年度にスマートフォンのSIMフリー化が原則として実現しそうなので、事情が変わる可能性はあります。ただし、日本のスマートフォン市場が大手携帯電話会社の積極的な販促費投入によって、iPhoneのような高級機優位の市場になっていること、それを日本の消費者が好んでいることも事実だと思われます。そのため、日本通信のような大手MVNO業者が成長する道は、中級品と格安SIMカードの組み合わせよりも、高級機に大容量SIMカードを組み合わせて如何に安く使うかというニーズを開拓したほうが良いのかもしれません。

その意味で、SIMフリーiPhone6と日本通信の「Platinum SIM for iPhone」の売れ行きが注目されます。まだこの市場が持続するのか、大きくなるのか、不明な点は多いのですが、今後も売れ行きがよければ、日本通信の2Q、3Qの業績や決算説明会での会社側のコメントに変化が現れる可能性があります。

グラフ6 日本のiPhone出荷台数
(単位:万台、出所:2014年3月期まではMM総研、予想は楽天証券

(4)銘柄コメント2:LINE関連

LINEは10月9日に開催した事業戦略説明会で今後導入する新サービスを発表しました。地図、決済、SNS、音楽、ゲームの各分野で新しい取り組みを始めます。

この中で注目されるのが、音楽とゲームです。音楽では、ソニー・ミュージックエンタテインメント(ソニー子会社)とエイベックス・デジタル(エイベックス・グループ・ホールディングス子会社)と「LINE MUSIC」を立ち上げ、サブスクリプション型音楽ストリーミングを年内に開始する模様です。具体的な計画は後日発表されるようですが、リスナーの嗜好にあった音楽をセレクトして流しっぱなしにするタイプの音楽サービスになると思われます。

日本の音楽市場では、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサル・ミュージック・グループ、エイベックス・グループ・ホールディングスが音楽の開拓、制作能力、有力アーティストと楽曲の蓄積だけでなく、マーケティングで抜きん出た力を持っています。このうちの2社と組んだことは、優秀政策と考えてよいと思われます。ソニー、エイベックスに対する寄与も期待できると思われます。

ゲームでは、サイバーエージェント、グリーと各々ゲーム開発の共同会社を作ります。これも詳細は後日発表される模様です。株価には良い影響が見られます。10月10日の前場ではグリー、サイバーエージェントともに株価が上昇しています(ソニー、エイベックスもです)。

ただし中身はというと、少々クエスチョンマーク付きです。LINEの収益構造は実質的にゲーム会社になっていると思われます。代表作は、「ディズニーツムツム」(10月10日アップストア全カテゴリーのセールスランキング(課金売上高ランキング)で4位)、「ポコポコ」(同13位)、「ポコパン」(17位)などです。ネイティブアプリゲームの大手、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、コロプラ、LINEと4強の一角を占めています。しかし、トップではありません。激烈なトップ争いをガンホーとミクシィが展開していますが、LINEとコロプラはその次になります。

LINEゲームの性格は、気軽に楽しめるいわゆる「カジュアルゲーム」です。そのため、ゲームジャンルを広げることが課題です。サイバーエージェント、グリーとの提携の目的は、まずそこにあると思われます。ただし、より重要なのは、ネイティブアプリの世界でミクシィの「モンスターストライク」の勢いがあまりにも強すぎ、3位以下のゲームが油断すると弾き飛ばされてしまいかねないということだと思われます。ゲーム事業の変動が大きくなるとLINEの業績全体に直ちに影響すると思われますし、ゲームの重要性が今後低下することは考えられません。世界のネイティブアプリの世界ではゲームの課金額が最も多く、LINE内であっても例外ではないと思われるからです。

では、今回の提携でトップを窺えるのかというと、「?」でしょう。サイバーエージェントは「戦国炎舞-KIZNA-」が10日に9位に入っていますが、上位5にも入っていません。グリーにいたっては、ネイティブアプリ市場での存在感はありません。しかも、かつて未成年者への高額課金で問題になった会社です。LINEユーザーには未成年者も多いため、スキャンダルリスクに注意する必要がありそうです。

結局、今回の発表でわかったのは、LINEは焦っているのではないかということです。収益力強化が必要なのでしょうが、肝心のゲーム事業ではミクシィの勢いが目立つばかりで、打つ手が見出せないのではないでしょうか。ちなみに、LINEとミクシィはゲームで提携しており、このメリットはLINEも受けていると思われます。むしろ今後考えられるのは、ミクシィ=LINEの提携強化ではないかとも思われます。その意味で、ゲーム市場ではミクシィの動きに注意を怠れないでしょう。