(1)2014年9月29日の週の相場概況:円安と日銀短観発表で、景気への懐疑的見方が出て、日経平均株価は大幅下落。

9月29日の週の株式市場は、前週から一変し、大幅下落しました。

日経平均株価は9月25日にザラ場高値16,374.14円をつけ、昨年来高値を更新しました。しかし、その後は一進一退の展開となりました。ドル円レートは、今週(9月29日の週)に入ると、1ドル=109円台前半から、じりじりと1ドル=109円台後半へ入り、10月1日には一時110円台に入りましたが、この辺りから、中堅中小企業関係の経済団体から円安の弊害を気にする声、例えば、円安による輸入物価上昇を気にする声が出始めました。

更に、10月1日に日銀短観が出ると、不安の声がある程度裏付けられることになりました。業況判断DI(「最近」のDI、最近の見方で「よい」とする判断の社数から「悪い」とする判断の社数を引いたもの)は、大企業の製造業が前回6月調査からの変化が+1ポイントになったのに対して、同じ大企業の非製造業では-6ポイントと、業況判断が大きく低下しました。不動産などで消費税引き上げ後の反動が続いていることが要因となっています。大企業全産業の業況判断DIも前回調査比-3ポイントとなりました。

また、中堅企業、中小企業は、全産業・最近の前回調査からの変化が各々-3ポイント、-2ポイントとなり、円安や消費税に対する懸念をある程度裏付けるものになったと思われます。

この中で、10月1日は為替レートが一時1ドル=110円台に入ったにもかかわらず、日経平均株価は下落しました。

続く10月2日は、欧州の景気指標が悪化したこと、10月1日のNYダウが前日比238.19ドル安と大幅安になったことを受けて、日本の株式市場はほぼ全面安となりました。欧州とアメリカの株価下落に伴い、円が買われ、為替レートは1ドル=108円台後半になりました。そのため、これまで先駆して上げてきた自動車などの輸出・グローバル関連が大幅安しましたが、加えて、建設、不動産などの内需関連株も下落しました。この結果、日経平均株価は前日比420.26円安の15,661.99円となりました。

10月3日の相場も、前場段階で日経平均は小幅下落しています。3日夜のアメリカ雇用統計を見定めたいという考え方があると思われます。チャートを見る限り、日経平均の上昇トレンドが終わったわけではないと思われますが、一定の調整に入った可能性があります。

10月6日の週からは、アメリカ企業の7-9月期決算、10月20日の週からは日本企業の7-9月期決算が始まります。中小企業、中堅企業や未上場企業と、上場企業のファンダメンタルズは全く同じではありません。上場企業の実態を見定めたいと思います。全くの私見ですが、緩やかな円安が続き、自動車中心に円安メリットを伴って増益が続くならば、円安が日本の株式市場にとって悪材料になる理由は大きくはないと思われます。

また、日本株の上昇は、地価の上昇とも結びつき、経済の様々な面で「資産効果」を発生させる可能性があります。好業績の割安株に対しては押し目買いの機会が来る可能性があります。

グラフ1 日経平均株価:週足

(2)マザーズ、ジャスダック、東証2部ともに下落。中小型株は調整入りか。

中小型株も、マザーズ、ジャスダック、東証2部ともに下落しました。これもチャートを見ると、日経ジャスダック平均、東証2部指数は、今の上昇波動が終了したわけではなく、過熱気味だったところ調整に入ったにとどまっていると思われます。

一方で、東証マザーズ指数は異なるチャートを描いています。今回の上昇波動の高値は前回高値を更新できませんでした。マザーズ銘柄は成長期待の大きい小型株、ジャスダックは安定成長株、東証2部は成熟産業の小型株という色彩ですが、マザーズ銘柄は成長期待が高い分だけPERが高く、あるいは、業績から離れた水準のPERになっている場合があり、その反動が出始めていると思われます。チャートを見ると、52週移動平均線に接触しつつある現水準で下げ止まるのか、あるいは更に下がって5月安値(633.02ポイント)まで見ることになるのか、注視が必要でしょう。私は、国内景気は多少悪化気味とは言え、不況になったわけではないので、あとは個別企業の中身次第だと考えます。

逆に、ジャスダック、東証2部、そして東証1部の中小型株は、PER水準が相対的に低い銘柄が多く、銘柄にもよりますが、押し目での買いが入り易い傾向はあると思います。

このように、中小型株は銘柄によって株価形成のあり方にばらつきがあります。そのため、銘柄によっては、これから大きく下落する銘柄も出てくる可能性があるため、警戒が必要になっています。例えば、10月2日の相場では、ミクシィの下落率はコロプラや他のゲーム株に比べて低く、CYBERDYNEは上昇しました。ミクシィは後述のように課金売上高の急増が予想されていること、CYBERDYNEは「作業支援用HAL」の建設現場向けレンタル開始が評価されています。報道によれば月間レンタル代12~14万円で貸し出すとのことで、当面は大林組に5台レンタルします。本格化するとCYBERDYNEの黒字化に寄与すると思われます。

当面は、各銘柄のファンダメンタルズに注意しつつ、場合によっては、ポジションの縮小、整理も検討する必要があると思われます。ただし、有望銘柄が単に需給的要因によって下落した場合には、投資するチャンスにもなると思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

グラフ5 東証各指数(2014年10月2日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(3)セクター・銘柄コメント

アメリカの新車販売が好調

アメリカの調査会社AUTODATAによると、9月のアメリカ新車販売台数は、前年比9.4%増となり、引き続き好調でした。特に採算の良いライトトラック(ピックアップトラックやSUVなど)が16.5%増となっており、自動車販売全体の収益性が上がっていることがわかります。

この中で日系メーカーの実績も目立ちます。トヨタ自動車は全体の伸びは1.7%増ですが、ライトトラックは16.0%増で、4月以降は6月を除いて二桁の伸びになっています。この伸びが続き、1ドル=108円台の円安水準が続けば、通期業績の上方修正要因になると思われます。

それ以上に目立つのが、マツダと富士重工業です。マツダは乗用車の伸びは鈍くなっていますが、ライトトラックの二桁増が続いています。富士重工業は乗用車、ライトトラックともに二桁増が続いています。富士重工業の場合は、7月に発売した旗艦車種「レガシィ」の新車や、「フォレスター」、「XVクロストレック」などのSUVのいずれもが好調です。マツダ、富士重工業ともに円安感応度の大きな会社ですが、一方で為替予約も行っており、今の円安が続くならばある程度の為替差損が営業外損益に計上されると思われます。そのため、経常利益の伸びが営業利益の伸びほど高くなるとは限りません。しかし、足元の円安傾向がこの先も続くならば、円安メリットが来期(2016年3月期)の業績にはフルに寄与すると思われます。

本田技研工業は、伸びが小さい状況が続いています。この要因は、2011年春に北米で発売した新型シビックの事実上の失敗です。ただし、通常の新車サイクル(5~6年)を1年以上前倒しにして、2015年中に北米でシビックの新車を発売する可能性があります。もしそうなって、成功すれば、北米で盛り返すことが出来ると思われます。

このように見ると、足元で起きている自動車株の急落は、落ち着けば中長期での買い場となる可能性があります。

表2 アメリカの新車販売台数:前年比

表3 自動車各社の円安メリット(試算)

「iPhone6」シリーズ、販売好調

9月19日に日本で発売された「iPhone6」シリーズ(「6」と「6Plus」)の売れ行きが好調です。ディスプレイは「6」が4.7インチ、「6Plus」が5.5インチで、ユーザーの体格や手の大きさにもよりますが、大きくなったことについては概ね好評のようです。

この中で、ソフトバンク、au(KDDI)は他社からの「のりかえキャンペーン」、「機種変更キャンペーン」を活発に行っています。

特にソフトバンクが積極的で、例えば「6Plus」ののりかえキャンペーンでは、固定通信のホワイトBB加入を条件に(スマホBB割)、10ヶ月間に限って最低で月額4,238円で「6Plus」が使えることが売りになっています。スマホBB割がない場合でも月5,760円ですから、かなりの実質値引きと言えます。

また、スマートフォンの下取りサービスも、ソフトバンク、au、NTTドコモの各社が行っています。ただし、NTTドコモは、のりかえキャンペーンや機種変更キャンペーンを行っていません。これが、販売実績の差になっている模様です。ソフトバンクとauは「6」「6Plus」ともに予約待ちの機種が多いのに対して、NTTドコモは、販売店にもよりますが、多くの機種が予約なしで入手できます。量販店での9月19~28日までの累計販売シェアは、ソフトバンク43.2%、au32.5%、NTTドコモ24.3%となっています(BCNランキング)。

iPhoneユーザーは、スマートフォンユーザーの中でも、通信料やコンテンツに比較的多くのお金を使う傾向があると言われています。ソフトバンクとau(KDDI)が、先行してこの優良スマホユーザーを囲い込んでおり、NTTドコモは現時点では劣後しています。この状態が続くと、携帯電話会社各社の将来業績の格差に繋がる可能性があります。

世界市場でも「iPhone6」シリーズは好調な販売が予想されます。中国では10月17日に発売される予定です。先行して販売されたアメリカ、欧州、日本などでは、11月下旬からクリスマス商戦を迎えます。今後の売れ行きが注目されるところです。

グラフ6 iPhone出荷台数(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予は楽天証券予想)

「iPhone6」シリーズはゲーム機としての性能が「プレイステーション3」並みと言われています。単なるスマートフォンとしてだけでなく、ゲーム機、エンタテインメント機器としての色彩も強くなっています。そこで、今後のスマートフォンも、高級機種については、ゲーム機、エンタテインメント機器としての能力が要求されることになると思われます。その場合、部品も高級部品が使われることになり、高精細ディスプレイも必要になります。チップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタ、WiFiモジュール、LTEや4Gに必要になるデュプレクサで高いシェアを持つ村田製作所、高級スマートフォン向けの高精細ディスプレイで、ジャパンディスプレイ、シャープに注目したいと思います。

「iPhone6」シリーズの販売好調は、ネイティブアプリゲームにも影響を与えている可能性があります。グラフ7は、ミクシィの「モンスターストライク」の課金売上高ランキングを示したものです。9月に入って課金売上高が1位になることが多くなっています。それまでは、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」が1位、「モンスターストライク」2位が定位置でした。

また、グーグルトレンドで検索ワードの人気度をグラフ化してみると、最近急速に「モンスト」の人気度が上昇していることがわかります(グラフ8、9)。特に、9月19日を境にして「モンスト」の人気度が急上昇しています。現在は、「パズドラ」と「モンスト」が激突しているのです。

これは、ミクシィが9月19日から「モンスターストライク」において、LINEでつながる友人との協力プレイが可能になるバージョンアップを行った効果があると思われますが、「iPhone6」販売開始の効果もあると思われます。

このように、「iPhone6」は様々な分野に影響していると思われます。売れ行きに注目したいと思います。

グラフ7 モンスターストライクの課金売上高順位(出所:App Annieより楽天証券作成)

グラフ8 グーグルトレンドで見るネイティブアプリゲームの人気度(過去12ヶ月間)

グラフ9 グーグルトレンドで見るネイティブアプリゲームの人気度(過去30日間)