(1)2014年9月16日の週の相場概況:1ドル=109円台入りで日経平均は16,300円台に続伸。

9月16日の週の株式市場は、アメリカの金融政策が変更され、来年にも利上げかという観測から、前週に続き為替レートが円安になりました。ドル円レートは9月17日に1ドル=108円台に入ってからも引き続き円安方向に向かい、9月19日には109円台前半に入りました。ユーロ円レートも19日に今年5月以来の1ユーロ=141円台に入りました。

持続的な円安を受けて、自動車、電子部品などの円安関連株が上昇しました。円安メリットが大きい自動車セクターでは、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、デンソーなどが上昇しました。円安メリットだけでなく、アップルのiPhone6関連や自動車関連として村田製作所、ヒロセ電機、アルプス電気、ローム、日本電産などの電子部品株も上昇しました。

また、アリババのIPO価格上昇と円安による含み益増加に関連してソフトバンクが上げ続け、金融、不動産も上昇するなど、円安関連に関わらず幅広いセクターが上昇しました。

ただし、建設関連は下落するものもありました。大成建設、大林組などの大手ゼネコンの株価が振るわず、建機レンタル会社のカナモト、西尾レントオールが下落しました。西尾レントオールは6、7月の売上高の伸びが一時的と思われますが鈍化した模様で、1-3Q累計決算が好調にもかかわらず通期見通し(2014年9月期)を修正しなかったことが嫌気されている模様です(ただし、19日引け後に上方修正を公表)。

また、業績の大幅下方修正を発表したソニーが大幅安となりました。

この結果、日経平均株価は9月18日終値で16,067.57円(前日比178.90円高)、19日前場では16,300円台に乗せ年初来高値を更新しました。16,300円台は昨年12月以来となります。

グラフ1 日経平均株価:日足

(2)中小型株はまちまち。ミクシィなどゲーム株が上昇した。

一方で、中小型株はまちまちの展開でした。指数を見ると、東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数ともにゆっくりした動きにとどまりました。

この中で、ミクシィを筆頭にゲーム株が上昇しました。コロプラ、ガンホー、エイチームなどが上昇しました。

一方で、ソディックが下落し、上述の建機レンタル会社が下落するなど、中小型株の中には下落するものもありました。

傾向として円安が持続しそうな雰囲気であり、日経平均も当面は持続的な上昇が期待できそうです。トヨタ自動車のような超大型株でも9月に入って8%以上上昇する相場ですので、規模に関わらず、業績の良好な銘柄、時流に乗った銘柄に投資したいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証2部総合指数:日足

グラフ5 東証各指数(2014年9月18日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)銘柄コメント:ソニー、ミクシィ、富士重工業

ソニー

ソニーは9月18日付けで2015年3月期業績見通しを大幅に下方修正しました。営業利益1,400億円から営業損失400億円へ、最終損失も500億円から2,300億円へ拡大するという内容です。

会社側は、8月の1Q決算説明会において、モバイル・コミュニケーション(MC)事業の赤字転落という事態に対して、同部門に計上している営業権、無形固定資産の減損の可能性を指摘していました。今回の下方修正は、その指摘通り、MC事業の営業権約1,800億円全額の減損によるものです。下方修正に追い込まれた要因は、「エクスぺリア」シリーズの中級品が、海外市場において中国製スマートフォンとの競争に敗れたということです。

下方修正は今回で終わりではありません。MC部門では約1,000人のリストラを行います。中級品の生産体制のリストラです。当初計上された構造改革費用1,350億円も使うと思われますが、追加で必要な費用も数100億円規模で発生する可能性があります。

また下方修正に伴って、今期無配を発表しました(前期は25円配)。

1Q決算を見ると、これまで通り、映画、音楽、金融が堅調です。ゲームも海外でプレイステーション4が売れています。また、テレビ、イメージング(デジカメ等)の黒字が拡大しています。この利益拡大が持続的かどうかは2Q以降の結果を確認する必要がありますが、この黒字が定着すれば、あとの問題はMC事業のみということになるでしょう。

この考え方には異論もあるでしょうが、ソニーのリストラも最終局面に入ってきたという感触があります。

これは8月29日付けの当欄の特集「音楽業界」で指摘したことですが、ソニーは見る角度によって見方が変わる会社です。世界的な映画会社、音楽会社を同時に持つ会社は、実はソニー以外にはありません。世界的なゲーム会社も含めると、グローバルに映画、音楽、ゲームの3事業を展開しているのは、実は世界でソニーだけなのです。

映画、音楽両部門の時価総額を測ると、大雑把ですが、各々1.5~2兆円あると思われます。先進国に加えて、新興国で事業が拡大していることが、両部門の価値を高めています。例えば、今期会社予想では映画、音楽の営業利益は合わせて1,130億円です。これが、年率10%で10年成長すると営業利益は2,930億円、税率を大雑把に35%とすると、当期純利益は約1,900億円、PER20倍で3兆8,000億円となります。10年は長いようですが、音楽も映画も息の長い事業なので、長期投資になるのです。

ただし、これまでのソニーには、エレクトロニクス部門の赤字というネガティブな材料がありました。映画、音楽という輝く宝石が二つあるにも関わらず、エレキの不採算が影になってしまい、その輝きを覆い隠してしまっているのです。ところが、経営者が本気でMC事業を含むエレキをリストラしようとして、それに成功すれば、音楽、映画の時価総額が、正しくソニーの時価総額に反映される可能性があります。

ここでソニーが無配転落するということを考慮する必要があります。無配転落は企業にとって恥です。ソニーは利益剰余金は豊富にありますが、単年度の業績だけを見れば決して配当できるような業績内容でないにも関わらず、配当を続けてきました。この配当にひかれてソニー株を持ち続けた投資家もいると思われますが、無配転落によって、ソニー株を売却する投資家が増える可能性があります。

しかし、株価次第では新たな投資家も増えると思われます。ソニーの世界的なエンタテインメント会社としての側面や、ゲーム会社としての側面、イメージセンサーのような競争力の高い電子部品に焦点を当てた投資家です。要するに、成長に対する要求が強い投資家と言ってもよいでしょう。

このように無配転落によって、ソニー株の需給関係は大きく変わる可能性があります。このことそのものが一つの投資機会だと思われます。また無配転落は、経営者が不退転の決意でリストラを実行して会社を立て直すという決意表明であるとも読み取れます。

このような観点から見ると、大幅下方修正、無配転落に伴う今回の株価の下落は、中長期的な投資機会を提供するものであると思われるのです。

表1 ソニーの部門別営業利益

表2 ソニーの部門別営業利益

ミクシィ

ミクシィの業績急拡大を指し示すいくつかの数字が出ています。

まず、「モンスターストライク」の無料ダウンロード件数です。9月14日に1,300万人に達しました(9月16日発表)。遡ると、8月25日に1,200万人、8月12日に1,100万人に達していますので、ややペースは落ちたものの、順調な拡大です。国内、海外の内訳は開示されていませんが、ほとんどが国内と思われます。

このダウンロード件数の増加に伴い、アップストア、グーグルプレイで課金売上高トップになる日が増えています。アップストアでは、7月に5日、8月に3日だったものが、9月になると19日までにトップの日が7日ありました。活発に遊ばれている様子が伺えます。LINEとのコラボレーションの成果も出ていると思われます。この調子で伸びると、いよいよガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」に並ぶ日が見えてくるでしょう。

また、9月18日付けで、今後の海外展開の方針を発表しました。10月に北米で、12月までに韓国で配信開始する計画です。今は海外は台湾のみで配信しています。

「モンスト」の海外戦略が動き出すことになります。海外は日本に比べて難しい市場ですが、動きを注視したいと思います。

グラフ6 ネイティブアプリの大型ゲーム累計ダウンロード数
(単位:万DL、各社資料より楽天証券作成、コロプラは端末ごとの重複ダウンロードを含む、それ以外はネット表示)

グラフ7 モンスターストライクの課金売上高順位
(出所:App Annieより楽天証券作成)

富士重工業

先週の特集で自動車セクターを取り上げましたが、その補足です。為替レートが更に円安になったため、円安メリットを改めて試算しました。9月以降1ドル=109円、1ユーロ=141円が続くと仮定して、年間の営業利益に対する円安メリットを試算し、12分の7を掛けて、会社予想営業利益に加えてみました。ここまで円安になると、トヨタ自動車以下の主要メーカーに全て株価が動く程度の円安メリットが発生することがわかります。

特に注目したいのが、販売地域が日本、アメリカ、欧州などに限られる富士重工業とマツダです。円安メリットを加えた営業増益率がマツダが最も高いことが注目されます。

また、富士重工業は、アメリカで20%以上販売台数が伸びています。国内販売は消費税増税前の駆け込みの反動が長引いており、8月にようやく回復の兆しが見えてきたところですが、北米販売の好調が補っており、工場稼働率は100%を維持しています。日本では6月に「レヴォーグ」、北米では7月に「レガシィ」の新車を発売しており、これが今期、来期に寄与する見込みです。

来期2016年3月期は新車はありませんが、2017年3月期は富士重工業の業績躍進の原動力となった名車「インプレッサ」のフルモデルチェンジと、新型SUVの発売が予定されています。世界シェア1%の会社ですので、成長の余地は大きいと思われます。「インプレッサ」のフルモデルチェンジ後は、「フォレスター」「XV」などSUV系のフルモデルチェンジも予想されます。

トヨタ自動車は来期に予想されるプリウスのフルモデルチェンジから新しい新車サイクルに入っていくと思われますが、富士重工業も今期から新しい新車サイクルに入り、それが今回の円安と重なっています。円安の動きが長期化すれば、それが富士重工業の持続的業績拡大を支援すると思われます。

表3 自動車各社の円安メリット(試算)

表4 アメリカの新車販売台数:前年比