(1)2014年8月25日の週の相場概況:日経平均は再び下を向く

8月25日の週の株式市場は、日経平均と大型株がもたつく展開となりました。

先週末22日のアメリカ、ジャクソンホールにおけるイエレン公演の中身は、急な利上げを示唆するものではなかったため、22日、25日と1ドル=104円台に入ったドル円レートは、再び1ドル=103円台後半に戻りました。

それに伴い、ドル円レートが1ドル=103円台後半から104円台に入る過程で動意付いていたトヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダなどの自動車株が頭を抑えられることになりました。

また、5月13日に内閣府が発表した2014年4-6月期の実質GDP速報が季節調整済みで前期比実質1.7%減、年率換算で同6.8%減の大幅減となりました。消費税導入後の反動によるものであり、個人消費と住宅投資がネガティブな影響を受けています。このGDP速報が株式市場に波紋を広げています。

個別企業を見る限りでは、自動車のように消費税導入の反動が会社側の想定内だったセクターもありますが、GDP速報をきっかけに日本経済の実態を疑う向きも出てきたようであり、それが株式市場の重しになっているようです。

一方で、建設株が活況でした。大成建設は伸び悩みましたが、大林組、清水建設、熊谷組、西松建設、鉄建建設などの大手、準大手のゼネコン、NIPPO(道路舗装)、ライト工業(法面工事)などの専門業者、カナモト、西尾レントオールのような建機レンタル会社が上昇しました。28日だけ見ると、他の建機メーカーに比べ国内比率が高いタダノ(クレーンメーカー)も上昇しました。

建設株、建設関連株が上昇している理由は、まず、東海旅客鉄道(JR東海)が、26日に国土交通省に対してリニア中央新幹線の認可申請を行ったことです。国土交通省の認可が下り次第着工となる見込みであり、10月にも着工すると報じられています。2027年の品川-名古屋間開業に向けて、5兆5,235億円のビックプロジェクトが始動します。全長286キロのうち86%がトンネルであり、前例のない難工事になると思われます。日本の建設業界の総力を挙げたプロジェクトになるでしょう。

また、建機、ダンプカー、建機レンタルなどの建設関連や、不動産業界へのインパクトも大きなものがあります。例えば、品川-田町駅間の広大な土地に東日本鉄道(JR東日本)による総額約5,000億円と言われる再開発計画が浮上していますが、泉岳寺界隈では2年ほど前から地上げが始まっていると言われています。名古屋でも中心部は既に再開発が活発です。リニア中央新幹線の波及効果は今後様々な分野に現れてくるでしょう。

建設株を支える要素は他にもあります。東京で相次ぐ大型再開発、東北の復興、2020年東京オリンピック・パラリンピック、そして昨今の異常気象による災害への対策です。最後の災害対策については、2020年オリンピックに合わせて日本に来るであろう観光客へ向けた対策としても必要になります。

このように、建設業界は重要案件が目白押しになっており、人件費、資材費の上昇を受注単価の上昇で吸収できるようになってきました(今はコストアップを吸収できなければ、ゼネコンも専門会社も受注しません)。建設株、建設関連株は息の長い相場になる可能性があります。

グラフ1 日経平均:日足

(2)東証2部銘柄の物色続く

マザーズでは、主力株の一つであるミクシィが週前半に順調に戻したものの後半は下落し、コロプラ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、KLabなど他のゲーム株もさえない展開でした。CYBERDYNEも同様の展開でした。新興市場にとってホットな夏が終わろうとしていますが、少々調整が必要かもしれません。東証マザーズ指数は8月25日まで上昇した後反落しています。

一方で日経ジャスダック平均と東証2部総合指数の強い動きが続いており、上値を追っています。特に東証2部総合指数がそうです。日本の中小型株には2通りあり、一つはマザーズ上場企業のような急成長株を含む成長株(最近の代表例はミクシィとCYBERDYNEでしょう)、もう一つは東証1部、2部の中小型企業やジャスダック上場企業のような安定成長型の中堅企業です。

特に、東証2部に中堅企業が多くなっており、いつもは地味な存在ですが、これら中堅企業の掘り起しを株式市場が行っているようです。

具体的には、金属3Dプリンタの秋発売を発表したソディック、電力用半導体の日本インター、医療器具の朝日インテック、産業用清掃機器の蔵王産業、低価格家電のツインバード工業、ボーイング向け化粧室、厨房のジャムコ、各種建設用資材の商社と施工業者である丸藤シートパイルなどです。

このような普段は地味な銘柄群(しかも、必ずしも足元が増益基調の銘柄ばかりではありません)が物色されることに対して、相場の手詰まり感を指摘する声もあります。しかし私は中小型株のファンダメンタルズを見る限り、これは循環物色の一環であり、底上げであると考えています。例えば、蔵王産業は1Q(4-6月期)が12%営業増益でPER11倍台、PBR0.8倍、日本インターは同じく1Qが36%営業増益でPER28倍、丸藤シートパイルは1Qが30%営業減益でPER28倍ですが、PBRは0.6倍です。蔵王産業、丸藤シートパイルのように建設関連の銘柄もあります。このような銘柄群を幅広く見つけようという動きがあるようです。

例えば、東証2部やジャスダックが底上げされている間に、マザーズや東証1部の中小型成長企業が十分調整すれば、再び日経平均、新興市場ともに上値を指向する局面が到来する可能性があると考えています。

逆に考えれば、ミクシィ、コロプラのようなゲームの好業績株は、長い目で見た買い場にある可能性があります。

グラフ2 東証2部総合指数:日足

グラフ3 東証マザーズ指数:日足

グラフ4 日経ジャスダック平均:日足

グラフ5 東証各指数(2014年8月28日まで)を 2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)特集:音楽業界

日本は世界第2位の音楽大国

今回の特集は音楽業界です。音楽は人間にとって最も重要で、最も身近にある娯楽です。しかし同時に、世界的なエンタテインメントビジネスでもあります。日米欧の先進国では成熟してはいますが、音楽ダウンロードや聞き流し型のストリーミングサービス中心に着実な成長が見込めるビジネスです。また、新興国市場が立ち上がりつつあり、音楽市場にとって長期的な成長エンジンになりそうです。

世界の音楽市場(アルバム販売、音楽ダウンロード、各種権利収入の合計)は、2013年暦年で150億2,900万ドル(約1兆5,000億円)、前年比3.9%減でした(国際レコード産業連盟(IFPI)による)。国別にはばらつきはありますが、地域別には、北米、欧州、南米が増加しています。特に南米でダウンロード販売が増えています。

新興国市場はまだ小さいですが、拡大が始まっているようです。新興国市場はこれまで海賊版、無料ダウンロード、違法ダウンロードが多い市場でしたが、どの国でも所得水準が高くなるにつれ、人と違ったものを聴きたい、良い音源で聴きたいと言う欲求が出てくるのです。また、テレビが普及するに連れて、テレビドラマやコマーシャルで流す音楽の権利収入も無視できなくなります(ソニーが強い分野です)。

一方で、日本は減少しました。日本はアメリカに次ぐ世界第2位の音楽大国であり、一人当たり音楽消費額は世界トップです。しかし、アルバム販売が傾向的に減少しています。ダウンロード販売もフィーチャーフォン向けが減少したことが響いています。

ただし、足元ではアルバム販売の減少が一巡しています。「AKB48」などの人気グループが新作アルバムにファンとの握手会チケット、ファンミーティングの抽選券や「総選挙」の投票券を同梱するなどの工夫を続けており、これが底支えしています。またダウンロード販売は、スマートフォン向けに増加していることから、底打ちする気配があります。

表1 世界の音楽産業:国別上位10位まで(2013年)

グローバル企業は3社のみ、後は多くの地域会社

音楽産業は、グローバル市場と各国、各地域の市場に分かれています。人間にとって最も身近で重要な娯楽であることから、国民性、民族性に強く依存する業界ですが、一方で、グローバルビジネスでもあります。また、特定のミュージシャンをヒットさせるために、音楽会社、プロダクションなどの会社の力が重要ですが、一方で、ミュージシャン、プロデューサー、作詞家、作曲家などの個人の才能が重要な業界でもあります。

グローバルに活動する音楽会社は、ユニバーサル・ミュージック・グループ(フランスの複合企業「ビベンディ」子会社)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(ソニー子会社)、ワーナー・ミュージック・グループ(投資会社傘下)の3社です。2013年10-12月期の日本を除く世界市場での市場シェアは、ユニバーサル40%、ソニー32%、ワーナー17%、その他11%です。例えば、アーティストが世界を目指そうと志す時には、どこの国であってもこの3社のうちどれか、特にユニバーサルかソニーと契約すると近道になります。

これ以外に各国に音楽会社が沢山あります。日本では日本レコード協会の会員会社61社(ソニー、ユニバーサル、エイベックス、ビクターなど大手は全て会員です)からデビューすると、「メジャーデビュー」、それ以外の音楽会社からデビューすると「インディーズ」となります。インディーズ・レーベルは個人でも作れるので、アルバムを作るだけなら個人でも作れる市場です。マーケティング・広告をしてヒットさせようとすると資金力が必要になりますが、最近ではiTunesを代表例とするデジタル音楽配信が世界中に普及しているため、CDのヒットランキングとは全く別に思わぬヒットが誕生することがあります。ちなみに日本市場のシェアは、ユニバーサル17%、ソニー15%、エイベックス12%、キングレコード8%、EMI 6%となっています(2013年10-12月期)。

また、上述のように人の才能に依存することが多い業界です。昨年からヒットしているJロックグループの「KEYTALK」(ビクターエンタテインメント(JVCケンウッド子会社)所属)が今年5月に出したアルバム「OVERTONE」に、日本有数のドラマーである笹渕啓史(ササブチヒロシ)氏がドラム・テクニシャンとして加わっています。同氏は同じくJロックの人気バンドである「KANA-BOON」(キューンミュージック(ソニーの傘下レーベル))が昨年出したファーストアルバム「DOPPEL」にもドラム・テクニシャンとして参加しています。また、自身でもロックバンド「CQ」を作ってそれがヒットし始めています。

笹渕氏の例はほんの一例で、ミュージシャンの人たちは、特定の音楽会社、プロダクションに所属することも多いのですが、個人事務所を立ち上げて自由な音楽活動をすることも多いのです。このような才能が数多く入り乱れて、活気のある音楽市場を形成しているのです。

グラフ6 日本の音楽産業(単位:百万円、暦年、出所:音楽ソフト生産高、音楽ダウンロード売上高は日本レコード協会、コンサート・ライブ売上高はコンサートプロモーターズ協会)

グラフ7 日本の音楽ソフト生産高(オーディオレコードと音楽ビデオの合計、単位:百万円、出所:日本レコード協会より楽天証券作成)

グラフ8 日本の音楽ダウンロード売上高推移(単位:百万円、出所:日本レコード協会より楽天証券作成

ライブブーム

グラフ6は、音楽ソフト(音楽CDと音楽ビデオの合計)生産額、音楽ダウンロード売上高、コンサート・ライブ売上高を重ねたものです。日本の音楽市場は音楽ソフト市場の縮小によって2010年まで減少が続きましたが、その後ゆっくりと回復しています。牽引役となっているのは、コンサート・ライブの大ブームです。特に最近は大型のスタジアム、アリーナで数万人規模で行うライブの回数が多くなっており、これが全体のコンサート・ライブ売上高に大きく寄与しています。

今年は東京の国立競技場が解体され、国立代々木競技場体育館も改修が必要になっています。そのため、特に大型ライブ会場が不足しており、首都圏から全国にかけて会場が取り合いになっている模様です。

もともと日本のライブブームは、「EXILE」(レコードはエイベックス・グループ・ホールディングス)のようなダンスパフォーマンス、「福山雅治」「サザンオールスターズ」(アーティストマネジメント(ライブ興行権含む)は各々アミューズ、サザンオールスターズのレコード会社はビクターエンタテインメント)のようなJ-POP、「東方神起」「SUPER JUNIOR」「BIGBANG」(日本でのライブ興行権はエイベックス・グループ・ホールディングス)のK-POPなどによって、2000年代後半から形作られてきました。そのブームに2010年ごろから、「AKB48」などの女性ユニットが加わりました。最近では「ももいろクローバーZ」のライブ動員数が大きくなっています(スタジアム公演では2日で10万人超)。

1回の全国ツアーで10万人以上集めるような大規模ツアーになると、チケット代とグッズを合わせた客単価が1万円前後になります。音楽CDの売れ行きが良くない今の音楽市場では、ライブは音楽会社やプロダクションにとって大きな収入源です。

ただし、気をつけないといけないのは、楽曲のレコード化権とライブ興行権ないしそれを含むアーティストマネジメントとは別だということです。通常は、音楽会社(レコード会社)がレコード化権を持ち、所属事務所(芸能プロダクション)がアーティストマネジメントを行いライブ興行権を持つことが多いですが、ソニー・ミュージックエンタテインメントは以前から系列プロダクションでアーティストマネジメントを行う例が多いです。エイベックス・グループ・ホールディングスも「東方神起」、「SUPER JUNIOR」、「BIGBANG」や「浜崎あゆみ」についてはライブ興行権を持っていますが、「EXILE」、「E-girls」などはレコード化権のみでライブ興行権は持っていません。アーティストに対する力関係が重要になるため、レコード会社もプロダクションも大手は有利です。

当面は、ライブブームが続くと思われます。また、音楽ソフト生産とダウンロード販売にも底打ち感が出ています。日本の音楽市場は持続的な成長が続くと思われます。

グラフ9 スタジアム、アリーナの公演数、動員数(暦年、出所:コンサートプロモーター協会より楽天証券作成)

グラフ10 スタジアム、アリーナの1公演当たり動員数(単位:人/本、暦年、出所:コンサートプロモーター協会より楽天証券作成)

注目銘柄

ソニー

ソニーは見る角度によって見え方が違う会社です。デジタル家電メーカーとしての会社は、ようやく黒字転換して来ましたが、販社、本社部門などまだまだ構造改革が必要です。一方でソニーは、世界的な音楽会社であるソニー・ミュージックエンタテインメントと、制作費数百億円をかけた大作を全世界に配給する能力を持つ「ハリウッドメジャー」の1社であるソニー・ピクチャーズエンタテインメントを傘下に持っています。世界的な音楽会社と世界的な映画会社を同時に持っている会社は、実は世界でソニーだけです。そういう意味でソニーは世界有数のエンタテインメント会社なのです。

昨年7月の報道によると、ソフトバンクはユニバーサル・ミュージック・グループの親会社ビベンディに対して、現金85億ドルでユニバーサル・ミュージックの買収を提案しましたが、ビベンディから拒否されました。世界の音楽市場は先進国よりもはるかに人口が多い新興国市場が立ち上がりつつあり、世界的な音楽会社の価値は85億ドルでは釣り合わないということでしょう。少なめに見積もっても、ソニーの音楽部門で1.5~2兆円以上、既に新興国市場が収益化し始めている映画部門も1.5~2兆円以上、合わせて3~4兆円以上の企業価値(時価総額)があると思われます。ソニーの時価総額は現在2兆円ですが、このギャップはソニーの長期的な投資妙味を示しています。このギャップが今後どうなるのか、興味深いところです。

アミューズ

日本を代表する芸能プロダクションの一つで、特に音楽に強い会社です。「福山雅治」「サザンオールスターズ」「Perfume」「ポルノグラフィティ」など、これも日本を代表するアーティストが所属しています。これらアーティストのライブ興行権を持っているため、業績はこれらアーティストのライブ売上高の動きに左右されます。

今期は下期に「福山雅治」の追加ライブがあり、会社予想(減益見通しです)に対して上積みが見込めそうです。来期は、「サザンオールスターズ」のニューアルバムと全国ツアーが予想されます。また、若手が育ってきており、アメリカで活動している「ONE OK ROCK」、欧州でのツアーが成功した「BABYMETAL」が、国内、海外ともに通用するアーティストになりつつあります。来期は増益転換が期待できそうです。

エイベックス・グループ・ホールディングス

K-POPの大物「SUPER JUNIOR」「東方神起」「BIGBANG」の日本におけるライブ興行権を持っています。ただし、この3グループのうち、「SUPER JUNIOR」は活動の主軸を中国、アセアンに移しており、「東方神起」「BIGBANG」は限界まで働いています。新しいアーティストが欲しいところです。

夏になるとa-nationが盛大に開催されます。もともとは株主向けの催しでしたが、今は他社所属アーティストも数多く出演する一大イベントになっています。2014年夏は昨年よりも規模を拡大して開催されます。他の音楽会社でこれだけの大イベントを主催する会社はありません。底力は十分にある会社です。

今期は上期は減益ですが、通期では音楽配信事業の採算好転、ニューアルバムの発売などで増益が見込まれます。

JVCケンウッド

ビクターエンタテインメント、テイチクエンタテインメントの老舗音楽会社2社を傘下に持っています。ビクターは、Jロック、テイチクはJポップと演歌に注力しています。主力アーティストは、サザンオールスターズ、SMAP、家入レオ、KEYTALK、斉藤和義、関ジャニ∞などです。ライブ興行権を持っているアーティストが少ないところが問題ですが、これは若手を育成するしかなさそうです。

JVCケンウッドとしての業績はようやく黒字転換してきたところです。前下期に行った希望退職の効果が今期に出てくる見込みです。海外向け業務用無線に強い会社です。アメリカのガーミンとアメリカで主流の簡易型カーナビで提携しています。

また、ロボットと自動運転のベンチャー企業であるZMPと資本業務提携しています。今後、自動運転やロボット分野での共同事業が進む可能性があります。