(1)2014年7月14日の週の相場概況

日経平均株価はやや戻ったあと一進一退に

7月14日の週の日経平均株価は、一旦戻った後一進一退となりました。7月16日にLINEが東証に上場申請したという報道があり、LINE関連株、エイチーム、アドウェイズなどが上げましたが、上げたのは16日だけで後が続きませんでした。

また、17日には品川駅周辺を約5,000億円かけて再開発する計画について報道があり、熊谷組、西松建設などの中堅建設会社中心に物色されました。品川駅は中央リニア新幹線の始発駅にもなるため、大きなニュースですが、本命であるはずの大成建設、大林組などの大手建設会社はあまり上がりませんでした。報道のなかでは言及されていませんが、何らかの形で関わる可能性がある三菱地所、三井不動産、住友不動産などの大手不動産会社も振るいませんでした。

日経平均株価が一進一退となっている背景には、まず、アメリカで早期引き締め観測が出ていることが挙げられます。アメリカ景気が良好なためです。また、来週22日の週から始まる日本企業の2015年3月期1Q決算を見極めたいと考える投資家も多いと思われます。先週の本稿でも指摘しましたが、1Q決算(4-6月期)は1年の中で最も売上高が少ないため、逆に企業業績の変化が見え易い3カ月でもあります。早速、富士重工業の業績好調を伝える報道もありました。

当面の日経平均株価は一進一退の状態が続く可能性があります。22日からの週の1Q決算が何らかの転機となる可能性があります。1Q決算に注目したいと思います。

また、ウクライナにおける民間機撃墜、イスラエル軍のガザ侵攻と、国際的事件が株式市場にどう影響するかも見定めたいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均も一進一退

新興市場も日経平均同様、一進一退の展開となりました。特に16日にはLINEの東証上場申請というニュースがあったにもかかわらず、東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均ともに下落し、17日も新興市場の下落が続きました。

この下落のきっかけになったのが、アメリカFRBが発表したレポートです。そのレポートの中ではSNS関連やバイオ関連株の一角が割高であると指摘されており、これが日本の新興市場にもネガティブに働きました。

また、アメリカの早期の金融引き締め観測も、新興市場にとってネガティブになると思われます。新興市場の銘柄は東証1部の大型株よりもPERが高い会社が多く、そのため、金利上昇には弱くなります。もちろん、高い利益成長が続く見通しの下では高PERが肯定されますが、それでもアメリカの金融引き締め観測が続く場合、少なくとも短期的には新興市場は調整局面になる可能性があります。

こうなると新興市場でも決算までは一進一退の調整局面が続く可能性があります。そのため決算を注視する必要があります。焦点は、高い利益成長が続くかどうかです。日本通信、インターネットイニシアティブ、ミクシィ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(12月決算)、コロプラ(9月決算)、フリークアウト(9月決算)、西尾レントオール(9月決算)などの4-6月決算に注目したいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証各指数(2014年7月17日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:不動産株

東京中心に地価上昇が続く:今回のテーマは「不動産株」です。2008年9月のリーマンショック以降、それまで上昇していた日本の地価は下落に転じました。しかし、2012年秋までには利回りで買える値ごろ感が出てきたこと、東京中心に再開発が活発になってきたこと、2012年11月からの株式市場の「アベノミクス」相場が地価にも波及してきたことから、地価は上昇に転じました。

特に東京を中心とした首都圏、名古屋、大阪で地価が上昇に転じ、その後も持続的に上昇しています。この動きを見たものが、表2の路線価の変化、グラフ5の中古マンション価格、グラフ6の新築マンション価格です。中古マンション価格の動きを見ると、特に東京の都心部で上昇が見られます。大阪、名古屋も緩やかな上昇に転じています。名古屋については、中央リニア新幹線の駅の予定地があり、駅前再開発が活発な中心部では、このグラフが示す以上に活発な地価の動きがあるようです。

表2 標準宅地の路線価変動率(各年の1月1日時点):2014年分の変動率がプラスだった都道府県

グラフ5 日本の中古マンション価格(70㎡当たり価格)
(単位:万円/70㎡、出所:東京カンテイ資料より楽天証券作成)

グラフ6 日本の新築マンションの価格推移
(単位:万円、出所:不動産経済研究所より楽天証券作成)

また、重要なのがマンション供給です。グラフ7のように首都圏、近畿圏ともに一定量のマンション供給は続いていますが、大きく増加する気配はありません。昨年から都心部、郊外ともに用地取得が難しくなっています。また、人出不足の影響で工期が長くなったり、人件費、資材費の上昇によって、特に郊外型マンションで販売価格が上昇し、売りにくくなることが予想されます。そのため、中堅マンション業者の中には、用地取得を見合わせる動きがある模様です。この傾向が続くと、今後マンション供給は減少する可能性があり、それがマンション価格上昇と地価上昇に結び付く可能性があります。

グラフ7 マンションの月間発売戸数
(単位:戸、出所:不動産経済研究所より楽天証券作成)

オフィス空室率が低下中、賃料は上昇中

オフィスビルの動きも地価上昇を示しています。特に東京において活発になってきました。グラフ8は東京(港、中央、千代田、新宿、渋谷の5区)のオフィス空室率の動きを示したものです。空室率の低下が続いており、オフィス賃料(グラフ9)も上昇しています。供給を見ると既にビル建築が減っています(グラフ10)。これが大型再開発が活発になっている大きな要因であると思われます。

このように、マンション、オフィスビル両方のデータを見ると、特に東京の山手線沿線から内部の地価が上昇していることがわかります。このような東京を中心とした地価上昇は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて持続的に続くと思われます。

ちなみに、三菱地所では、2012年秋から新規、既存のテナントともに丸の内、大手町でオフィス賃料の引き上げ交渉を始めていますが、新規で概ね10~20%引き上げ、既存でも5~10%の引き上げに成功しています。同社の契約は5年間の定期借地契約が基本ですので、賃料引き上げは他社よりもスムーズです(定期借家契約では家主がテナントに対して賃料引き上げを通告すると、テナントは新賃料を受け入れない場合は原則として出ていかなければなりません)。

三井不動産は2013年春から交渉を始めていますが、新規で5~10%程度は上昇している模様です。ただし、既存では大半は据え置きであり、継続的に交渉中です。住友不動産では新規で10~20%上昇している模様ですが、これはリーマンショック後、他社よりも家賃の低下が大きかったためです。同社も既存分は交渉中のところが大半です。

いずれも再開発によって完成した大型オフィスビルの家賃は従来よりも上昇している模様で、再開発の経営に対する効果は大きいと言えます。

グラフ8 東京ビジネス区の空室率(既存ビルと新築ビルの平均)
(単位:%、出所:三鬼商事より楽天証券作成)

グラフ9 東京ビジネス区のビル平均賃料
(単位:円/坪、出所:三鬼商事より楽天証券作成)

グラフ10 東京ビジネス区の新築ビル(月次)
(単位:棟、出所:三鬼商事より楽天証券作成)

東京の主な再開発計画

図1は東京の再開発計画(主なもの)をまとめたものです。

丸の内・大手町連鎖型再開発(三菱地所)

2007年から始まった三菱地所の丸の内・大手町建て替え計画であり、今回の大型再開発ブームの先駆けとなった重要な再開発計画です。既に東京駅の皇居側の主要ビルの建て替えが完了しました。現在は大手町方面の建て替えが進行中で、更に常盤橋周辺再開発、有楽町地区の再開発への進む計画です。

日本橋・室町再開発(三井不動産)

三井不動産の地盤である三越前、日本橋の再開発計画。2014年からは第二ステージに入り、2019年ごろまでに主要な再開発が終了する計画です。

日本橋再開発(住友不動産)

日本橋コレド(三井不動産)の向かい側に計画された大型再開発計画で、2013年着工、2017年全体竣工の予定。

日本橋・八重洲再開発(三井不動産)

上記の住友不動産の日本橋再開発と、日本橋高島屋に挟まれた地区の再開発と、八重洲に三井不動産が所有している老朽大型ビル2棟の建て替え計画。具体的な計画は未定。

品川駅周辺(品川・田町間)再開発(東日本鉄道)

JR東北線、高崎線、常磐線の東京乗り入れ(2015年春)によって、品川―田町駅間の車両基地が上野に移転されることになります。その跡地に新駅を建設し、周辺の約13haの土地を再開発する計画です。報道によれば、事業主体は東日本鉄道(JR東日本)、東京都などで、超高層ビル8棟を建設します。新駅の完成が2020年(目標)、再開発計画の完成が2020年以降と報じられています。総額約5,000億円の再開発ですが、この規模になると大手不動産会社(三菱地所、三井不動産、住友不動産)の力がないと難しいと思われます。大手がどうかかわっていくのかが注目されます。

渋谷再開発(東京急行電鉄、東急不動産、東日本鉄道)

渋谷一帯の再開発です。3地区に分かれて事業が進みます。最終的な完成は2027年になります。

新宿西口再開発(三菱地所、住友不動産)

新宿西口の雑居ビルと木造住宅の集積地に三菱地所子会社の三菱地所レジデンスとフジタが中心となって再開発組合を結成し、今年着工しました。60階建てのタワーマンションを建設する計画で、竣工は2017年。同様の動きを住友不動産が近隣で始めています。老朽化した木造住宅と雑居ビルの集積地は各所になりますが、防災、住民の利便性、地価などの観点から問題が多いため、再開発事業組合を結成しての大型再開発は意義の大きなものです。また、不動産会社にとっては、土地不足を解消する切り札になり得ます。

高田馬場再開発(住友不動産)

高田馬場-新大久保間で進行中。2013~2016年。45階建てのマンションなど4棟を建てます。

このほか、六本木3丁目再開発(住友不動産)、四ツ谷、赤坂再開発(三菱地所)などがあります。今後も発表される計画があると思われます。多くの再開発計画は2017~2020年に完成するものが多く、これまでの実績では地価やオフィス賃料の上昇を引き起こしています。このため、大きなネガティブな経済変動がない限り、2020年まで地価、マンション価格、オフィス賃料は、趨勢的に上昇すると思われます。

図1 東京の再開発地図(主なもの)

(出所:各種資料より楽天証券作成)

注目銘柄:大手不動産会社

不動産の世界では、用地取得をしてその上に物件を建てるため、資金力が重要になります。即ち、会社の規模、持っている資産(賃貸用不動産等)の優良さが重要になります。また、一つの都市を作り出すような大型再開発になると、三菱地所、三井不動産の2社の能力が抜きんでて高く、その次に住友不動産が位置するという構図です。このように企業規模と都市開発能力という観点から見ると、投資対象はまず、三菱地所、三井不動産、住友不動産の大手3社になると思われます。

投資評価は、持っている資産をベースに行う場合(実質PBR)と、収益をベースに評価する場合があります。大手不動産会社は所有している賃貸用不動産の時価と貸借対照表計上額を半期ごとに公表していますので、まずそれをもとに、実質PBRを算出してみました。

それが表3です。これを見ると、三菱地所の不動産含み益の大きさがわかります。不動産会社の場合、地価上昇はまず所有不動産の時価増加に結びつき、その後時間をかけて家賃上昇に結び付くことになります。三菱地所の株価は業績に先行して土地の含み益を評価したため、PERが高い状態になっていますが、実質PBRは1倍程度です。

なお、三菱地所に限らず、賃貸用不動産の時価評価は通常DCF(ディスカウント・キャッシュフロー・モデル、その不動産から得られる将来のキャッシュフローの総和の割引現在価値を導き出すもの)を使って不動産鑑定士が計算しますが、かなり保守的に見積もります。三菱地所の場合、保有資産の約90%が丸の内、大手町に集中していますが、取引実勢から見ると、2014年末の時価は前年比で10%以上増加していると思われます。そのため、実際の実質PBRは1倍以下と思われ、その意味では割安と思われます。

一方で、三井不動産は、三菱地所の様にオフィスビルに偏った事業構造ではなく、オフィスビル、マンション、仲介、物流施設、ホテルなど、不動産関連の幅広い分野に事業を拡大しています。6月に行った約3,300億円の公募による資金は、銀行借入等と併せて新規の再開発計画に使う予定です。

住友不動産は、オフィスビルの家賃の水準が新宿西口で2~3万円未満/坪であり、三菱地所(丸の内、大手町で3~5万円/坪)、三井不動産(日本橋で4万円強/坪)に比べて低いですが、逆に大型再開発による事業の拡大効果、家賃の引き上げ効果が大きいと言えます。

表3 大手不動産会社の賃貸用不動産等の含み益、実質PBR、会社予想PER

中堅不動産会社

大手以外の投資対象としては、中堅不動産会社があります。トーセイの様な東京を地盤とした総合不動産会社や、インテリックスのようなリノベーション(古いマンションを買い取って改修し再販売する)の専門業者もあります。東京を地盤としている場合、事業機会は豊富ですが、足元ではマンションなどを建てる土地が少なくなっています。そのため、中古マンション、住宅の販売やリノベーションが今後活発になると思われます。また、会社予想PERはトーセイが13倍、インテリックスが11倍と投資しやすい水準です。足元の業績は必ずしも拡大基調ではありませんが、少し長い先を見ると拡大期待が持てるのではないかと思われます。

最後に、不動産セクターを調べる意義は、銘柄発掘以外にもあります。地価が傾向的に下落しているときに、景気と株価が持続的に上昇することはないと思われます(あっても短期的な現象でしょう)。これは1990年代から2000年代の日本の経験で明らかでしょう。2012年末の土地の時価総額は1,143兆円であり、7月17日の東証1部株式時価総額は453兆円なので、地価が経済に与える影響は大きいのです。

逆に、地価が持続的に上昇している中では、景気と株価は持続的に拡大、上昇しやすいと思われます。東京の地価の動きが地方に波及するかどうかが今後の焦点になりますが、東京の地価上昇は、景気と株価の将来を見る上で重要だと思われます。