(1)2014年7月7日の週の相場概況

日経平均株価は伸び悩む

7月7日の週の日経平均株価は頭の重い展開となりました。今週に入ってNYダウが大きく下落したこと、為替レートがやや円高方向に向かったことなどから、日経平均は7月7日(月)から10日(木)まで4日連続で終値ベースで下落し、前週末の15,400円台から15,200円台に入りました。7月11日(金)も前場は下落し15,100円台に入っています。

セクター別に見ると、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業などの自動車セクターが売られました。為替レートが1ドル=101円台前半に入ることが多くなったことが影響しているようです。トヨタ自動車は、一時6,200円台まで上げていたものが、6,000円割れに押し戻されています。村田製作所、ヒロセ電機のような電子部品株も下落しました。

このように、5月中旬から順調に上げてきた日経平均株価ですが、調整に入った可能性があります。

ただし、企業ごとに株価を見ると、日本電産やNTTの株価は上向きのチャートを描いており、日本電産は自動車向けへのシフト、NTTはPER、PBRで見たときの割安感と、スマホブームなどによる通信トラフィックの増加で恩恵を受ける企業としての評価が今も続いていると思われます。また、沖電線などの電線株が上昇しました。

7月下旬から2015年3月期1Q決算の発表が始まります。1Q(4-6月期)は多くの企業で1年の中で売上高が最も少ない3カ月です。ゴールデンウィーク、入学式、入社式以外に大きなイベントがなく、日本では梅雨があるためですが、それだけに変化が現れやすい3カ月です。過去の傾向から見ると、1Q決算が良かった企業(「良かった」というのは、前年比が高かったということと、会社側の「想定」に比べてよかったという意味の両方を含みます)は通期業績も良好な場合が多いのです。投資家の中には業績の先読みをする向きもあるでしょう。

先行きを考えると、全く不安がないわけではありません。自動車セクターについてみると、日本は消費税導入後の反動は短期的なものと思われ、北米市場は順調に伸びており、アジアはタイを除き堅調です。経済的な意味でのファンダメンタルは、仮に問題があっても解決できる問題であり、大きな心配事はないように思われます。

しかし政治的な問題が生じるかもしれません。中国の2013年の新車販売台数は2,198万台(前年比13.9%増)でした。このまま進めば5~7年以内に3,000万台市場になると思われます。また、中国政府はハイブリッドカーや電気自動車のようなエコカーの普及に熱心です。このように、中国は本来は日本にとって良い市場、重要な市場であるはずです。しかし、日中間の険悪な雰囲気が経済に悪影響を引き起こすリスクや、日本政府にこの問題を解決しようという意欲が乏しいように見えることが懸念されます。

このほか、本田技研工業の再度のリコールに見られるような先端技術に関するリスクもあります。また、円安メリットが前期よりも少なくなるであろうことから、東証1部の大型企業の業績変化率は前期よりも小さくなると思われます。

日経平均や自動車等の大型株については、PER、PBRの割安感以外に、業績変化率に意外感があるかどうかが、今回の決算の焦点ではないかと思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均も下落

新興市場も日経平均同様、軟調な展開となりました。

東証マザーズ指数は、5月20日ザラ場安値633.02ポイントから6月25日ザラ場高値955.43ポイントまでほとんど一気に50.9%上昇しています。日経ジャスダック平均は5月21日ザラ場安値1,887.06円から7月8日ザラ場高値2,200.97円まで16.6%上昇し、2012年11月からの今回の大相場以来の高値を更新しました。これまで短期間に調子よく上げてきたため、さすがに自律的な調整に入ったと思われます。

また、特定の銘柄の株価が跳ねるために、東証による信用規制が行われており、これが相場の頭を押さえている思われます。最近ではワイヤレスゲート(マザーズ、7月9日より)、日本通信(ジャスダック、7月10日より)などの信用規制(委託保証金率引き上げ)が相場に影響したと思われます。

もっとも、ミクシィのように6月3日に強めの信用規制(信用取引による新規の売付け及び買付けに係る委託保証金率を70%以上(うち現金40%以上)とする)を課せられながらも、7月10日にザラ場で上場来高値に並んだ銘柄もあります。業績に対する期待が強いと思われます。

当面は、東証マザーズ指数で見ると、チャート上の節目がある850ポイント前後まで下がるか、あるいは、890~940ポイント程度の狭い範囲での保合いとなる可能性があると思われます。国内景気が順調に拡大しているため、サービスセクター、情報通信セクターを中心に、新興市場や東証上場の中小型銘柄の中で業績良好な銘柄が多くなっていると思われます。従ってファンダメンタルズを見る限り大きな相場下落は考えにくく、むしろこの調整は次の上昇相場へ向けての準備期間と考えてよいのではないかと思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証各指数(2014年7月10日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:アドテクノロジー関連

新しいインターネット広告技術、RTB、DSP、SSP

今回のテーマは「アドテクノロジー」、即ちインターネット広告技術です。インターネット広告には、これまでも、検索連動型広告、SEO(サーチ・エンジン・オプティマイゼーション、検索エンジンの最適化)などの新技術が登場して、インターネット広告市場を大きくしてきました。

そして、ここ数年、RTB(リアルタイム・ビッディング)、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)、SSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)という仕組みが存在感を増しています。人々が見ているパソコンやスマートフォンの画面の広告枠を、視聴者の属性を分析して0.数秒という高速で取引して広告を配信する仕組みであり、広告効果の大幅改善が期待できるものです(うまくやると広告効果が倍になると言われています)。広告の世界を変える可能性を秘めた技術革新です。

グラフ5 日本の媒体別広告費(単位:億円、出所:電通「2013年日本の広告費」より楽天証券作成)

表2 日本のインターネット広告費の内訳

拡大するインターネット広告市場

グラフ5は日本の広告市場の中で、媒体別の市場規模を表したものです。インターネット広告が既に新聞広告を抜き、着実にテレビ広告の約1兆8,000億円の市場に向かっていることがわかります。アメリカでは2013年にインターネット広告がテレビ広告を抜き、媒体別広告市場のトップになりました(2013年のアメリカ広告市場で、インターネット広告428億ドル、テレビ広告401億ドル)。日本では今もテレビの影響力が大きく、アメリカのような状況には直ぐにはならないと思われますが、インターネット広告市場の成長力が大きいことは明らかでしょう。

そして、インターネット広告市場の内部で構造変化が起きています。表2はインターネット広告の中身を見たものですが、「枠売り広告等」が減少して、「運用型広告」が急速に伸びています。また、「広告制作費」も着実に増えています。

運用型広告とは、アドテクノロジーを使ったインターネット広告です。クッキー情報から分析したユーザー属性、広告の種類、過去の広告効果などの膨大なデータを処理して、広告主にとって最も効果的な広告を視聴者に届けるものです。表2の「運用型広告」の大半は検索連動型広告で、ヤフーやグーグルの検索結果に連動した広告を検索結果画面に表示するものです。ただし最近では、後述するRTBによる広告枠の自動売買が急成長しています。

一方で、「枠売り広告等」が減少に向かっています。枠売り広告で最もポピュラーなのが、ヤフーやLINE広告の販売、あるいは再販です。一般的な広告営業であり、アドテクノロジーは使いません。このタイプのインターネット広告は「運用型広告」に置き換えられています。

そして、「枠売り広告」から「運用型広告」への置き換えが進み始めているということは、インターネット広告業界の主役が、例えばヤフーの販売代理店であるオプト、アイレップ、セプテーニ・ホールディングスなどの伝統的なインターネット広告会社から、フリークアウト、ユナイテッド、フルスピード、VOYAGE GROUPのようにRTBを含むアドテクノロジーに特化した会社や、サイバーエージェントのように伝統的なインターネット広告会社でありながらアドテクノロジーをいち早く事業に取り入れた会社に主役が交代することを意味しているでしょう。

RTBの仕組み

図1はRTB(リアルタイム・ビッディング)の仕組みを表したものです。

図1 RTBの仕組み

  • まずインターネットユーザーが広告枠のあるウェブサイトを訪れた瞬間に(図1の①)、複数企業のウェブサイトの広告枠を管理するSSP(サプライサイド・プラットフォーム)から、複数のDSP(デマンドサイド・プラットフォーム)に来訪ユーザーの情報(クッキー情報などから分析したユーザー情報など)と広告枠情報(入札リクエスト)が送信される(②)。
  • 各DSP事業者は、顧客(広告主)の予算、広告を見るインターネットユーザーの希望属性などに基づいて、データベースを解析し(③)、適正と思われる価格で入札を実行する(④)。
  • 広告枠のオークションの結果競り勝ったDSP事業者は、SSPから仕入れた広告枠に広告を配信する(⑤)。その広告を来訪ユーザーが見る(⑥)。
  • これらの取引は全て自動でコンピュータ上で行われる。1回の取引時間は0.数秒。DSPの優位性は、顧客(広告主)の予算と配信先ユーザーの属性に対する要望を前提しながら、SSPから提供される来訪ユーザーの情報解析を正しく行うこと、入札価格を適正に決めること、取引時間をより速くすることなどである。

このRTBの仕組みは、リーマンショック後の金融危機の中で、アメリカで金融取引システムを作っていた技術者(プログラマーなど)がインターネット広告業界に移ってきて開発したものと言われています。日本では、最近上場したフリークアウトが2011年1月に開始したDSPサービス「FreakOut」がRTBビジネスの最初だと言われています。

グラフ6はサイバーエージェントのRTB子会社マイクロアドによる日本のRTBの市場予測です。今後はスマートフォン向けが大きく伸びる見通しです。

グラフ6 日本のRTB(リアルタイムビッディング)経由広告市場規模予測(単位:億円、出所:マイクロアド資料より楽天証券作成)

注目企業

日本のRTBで重要な企業は、まずフリークアウトです。2010年10月設立の若い会社ですが、2011年1月に日本初のDSPサービス「FeakOut」をリリースしています。同業他社からもシステムの優秀性を指摘されています。2014年9月期は売上高が31億4,000万円(前年比45.2%増)へまだ小さいながらも急拡大する見通しですが、開発費の増加、本社移転費用などで、営業利益1億3,600万円(前年比46.3%減)、当期純利益100万円(98.0%減)になる見込みです。そのため、PERは数百倍となっています。

ただし、会社側は年率50%増収、営業利益率15~20%を実現したいとしており、事業の成長性と事業構造からみて、この目標が実現する可能性は低くはないと思われます。この目標が今後実現できるとなれば、業績で投資できる会社になると思われます。

また、会社側はDSPを中核とした総合インターネット広告会社を目指しています。今後の業績に注目したいと思います。

次にサイバーエージェントです。日本のインターネット広告会社としてはRTBなどのアドテクノロジーを手掛けるのが早く、2012年9月期ごろから実績が出ています。2014年9月期2Q売上高はアドテクノロジー事業で51億円(前年比38.3%増)で、うちRTBは23億円(27.8%増)でした。子会社のマイクロアドがSSP、DSPの両方の事業を行っていること、サイバーエージェントの販売力を生かしていると思われることから、フリークアウトよりも売上高が大きくなっています(フリークアウトはDSPのみですが、これは同じ会社がSSPも手掛けると、性格が異なる顧客(広告主とウェブサイトの提供企業)との間で利益相反になる可能性があると考えているためです)。

このほか、フルスピード(DSP)、ユナイテッド(DSP、SSP)、VOYAGE GROUP(SSP)などがRTBに参入しています。

老舗のインターネット広告会社が今後どうするのかも注目されます。例えば、サイバーエージェントは子会社のマイクロアドを通じてRTBには比較的早く参入しました。オプトは、子会社でフリークアウトのシステムのOEM提供を受けてDSPを行っており、投資事業ではSSPのジーニー(未上場)に出資しています。

もっとも、老舗組は単純な広告枠販売の減少というリスクを抱えています。フリークアウトの様な専業で新しい会社のほうが長期的な投資妙味のある可能性があります。