(1)2014年6月30日の週の相場概況

日経平均株価は再び上昇に転じる

6月30日の週の日経平均は、前週に15,300円台から15,000円トビ台まで下げた分を取り戻す展開となりました。

トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業など自動車セクターが物色されましたが、これは、2014年4-6月期の国内自動車販売における消費税増税後の反動が各社の想定以内で、今後回復するという見方が広まったこと、アメリカの新車販売台数が順調に伸びていることが背景にあります。

特にトヨタ自動車は、4月11日のザラ場安値5,205円から7月3日ザラ場高値6,218円まで19.5%上昇しており、勢いを感じる動きです。7月3日発表のアメリカ雇用統計が好調だったことからも、アメリカ景気拡大の恩恵を受ける自動車セクターには引き続き注目したいと思います。

先週特集した「スマートフォン関連」で取り上げた、村田製作所、ヒロセ電機などのスマホ関連も上昇しました。日本電産のように1Qの好決算を予想して、これを先取りする動きも見られました。

この他では、任天堂が上昇しています。相場全体が順調に上げていること、ゲーム株人気の流れが任天堂にも波及してきたこと、年初に岩田社長が健康事業に参入するにあたって企業買収の可能性もあると発言したことを蒸し返す動きなどがありました。

グラフ1 日経平均株価:日足

東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均も再び上昇

新興市場も日経平均同様、戻す展開となりました。東証マザーズ指数は前週に950ポイント台から860ポイント台まで上げた後、今週に入って再び930ポイント台まで戻りました。日経ジャスダック平均は、7月3日終値が2,181.62ポイントとなり、1月23日のザラ場高値2,192.58ポイントにあと少しのところに来ました。

7月3日売買分から信用規制が解除されたことを受けて、日本マイクロニクスが大幅高しました。同社はウェアラブル端末に使えそうな新型電池の開発を行っているほか、半導体検査器具のプローブカードの世界シェア2位の会社です。スマートフォンに使われているモバイル用DRAMの検査用プローブカードに強いことから、業績はスマートフォン生産に連動する傾向があります。

日本通信、ミクシィも上昇しました。日本通信は、総務省が来年度からスマートフォンのSIMロック解除を実施するという6月28日付け日経記事に敏感に反応しました。6月30日(月)は150円高のストップ高、その後は一時1,000円台に乗せました。同じ格安スマホ関連であるインターネットイニシアティブ、フリービットも上昇しました。また、格安データ通信SIMカードへの参入を表明したワイヤレスゲートも勢いよく上昇しました。

ミクシィなどのゲーム株も物色されました。特にネイティブアプリを手掛けている会社、ミクシィ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、KLab、コロプラ、エイチームなどが折に触れて物色されており、息の長いテーマになっていると思われます。

7月3日発表のアメリカ雇用統計は事前の予想を上回る好調なものであり、7月3日のNYダウは史上初めて17,000ドル台に乗せました。一時期1ドル=101円台になっていた為替レートも再び1ドル=102円台に入っています。7月下旬からは日本企業の2015年3月期1Q決算の発表が始まります。東証1部、新興市場ともに、前向きに臨みたいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証各指数(2014年7月3日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:格安スマホ

前向きなニュースが相次ぐ格安スマホ(MVNO)市場、まずSIMロック解除のニュース

今回の特集は「格安スマホ」です。5月2日号でも同じテーマで特集しましたが、その後も前向きなニュースが続いています。

一つ目の重要ニュースは、総務省が来年度にも携帯電話のSIMロック解除を携帯電話会社各社に義務付ける方針を正式に示したというニュースです(6月28日付け日経)。日本のフィーチャーフォン、スマートフォンは、NTTドコモの大部分の端末を除いてSIMロックがかかっています(NTTドコモでもiPhoneなどの一部の端末にはSIMロックがかかっています)。フィーチャーフォンもスマートフォンも内部にSIMカードという電子チップが入っており、これが携帯電話の契約者を識別します。日本ではNTTドコモの大半の端末を除き、このSIMカードを勝手に取り外し、他の携帯電話会社のSIMカードを勝手に入れなおすことはできません。従って、格安スマホ業者(MVNO=仮想移動体通信事業者)の格安SIMを自分のスマートフォンに装着しようとしても、これまでは、NTTドコモの大半の端末を除けば、できなかったのです(SIMロックがかかっている)。SIMロックが解除されれば、格安スマホが普及する条件が大きく前進すると思われます。

実は総務省は2010年にSIMロック解除に関するガイダンスを公表しましたが、NTTドコモ以外の携帯電話事業者は事実上これを無視しました。総務省は、その後もスマートフォン料金が高止まりしていることを問題視している模様です。これは、これまでの電話料金、インターネット接続料金の価格低下が経済に及ぼした良い影響を念頭に置いてのことと思われます。

今回も携帯電話事業者の抵抗はあると思われますが、総務省のMVNO=格安スマホを普及させようと意思は固いと思われます。例えば、NTTドコモはiPhoneを除く大半のスマートフォンでSIMロック解除を既に実施し、かつ巨額の研究開発費をかけて4G、5Gの実用化を推進しています。スマートフォンのデータ通信料金もある程度値下げをしました(月間データ使用量の上限を7GBから3GBに減らして月額料金を引き下げるコースを作った)。

これに対し、KDDI、ソフトバンクはこれまで自主的にスマートフォン料金の値下げをせず、しかも両社ともに研究開発費が大変少ない会社です。更にソフトバンクは高止まりしたスマートフォン価格から生み出される巨額の利益を使って、日本の利用者とは関係のない海外事業への投資を進めているように思われます。国民の財産である電波を無償で借り受けている携帯電話会社が、自ら価格を引き下げないのであれば、総務省がMVNO=格安スマホの普及を政策的に後押しすることは自然な流れでしょう。

表2 携帯電話契約総数とMVNO契約数

SIMフリー端末、特にSIMフリーのLTE端末が増える方向に

SIMロック解除と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なニュースがあります。それは、SIMフリー端末が日本でも増え始めたということです。

前述のように、日本ではSIMカードの交換(SIMロック解除)が、NTTドコモの端末を除きこれまでほとんどできませんでした。また、MVNOの中でも個人向けSIMカードの市場規模が小さかったため、格安SIMを購入しても、それを入れるスマートフォンを購入することが困難でした。個人向けSIMの普及率は携帯電話加入者のわずか1%です(表2)。

ところが、格安スマホが注目され、実際に需要が増えていく中で、格安スマホ端末が量販店などで販売されるようになりました。2012~2013年ぐらいから1~4万円程度で3G端末がネット通販や一部の量販店で販売されるようになりました(今年4月にイオンと日本通信がタッグを組んで発売されたイオンスマホもそうです)。しかし、3Gはほどなく時代遅れになると思われます。NTTドコモは今年度中に日本中にLTE網を張り巡らす方針であり、今後の主流はLTE(3.9G)になる見通しです。

ところがLTE端末を入手しようとしても、価格が高いか、海外仕様の並行輸入品をネット通販で購入することになり、日本の電波と適合するかどうかが問題となっていました。

そこで重要なのが、格安のLTE対応スマートフォンがいつ頃日本で買えるようになるのかということです。

6月下旬に中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ(華為技術有限公司)が、日本でSIMフリーのLTE対応スマートフォン「Ascend G6」を発売しました。ビックカメラで29,800円で販売されています。また、7月から秋、冬にかけて日系、韓国系、中国系のスマートフォンメーカーからLTE対応の格安スマホが発売される模様です。グローバル仕様をそのまま日本で使うか、グローバル仕様を日本向けに若干改良したものになる可能性があります。大手携帯電話会社で販売しているスマートフォンが一括払いで6~7万円以上するのに対して、格安スマホのLTE端末は2~3万円台になる見込みであり、安くなります。もっとも安いとはいえ、上述の「Ascend G6」では、CPUはクワッドコア(4コア)、ディスプレイは高精細品を使っています。メモリ容量がメインメモリ1GB、ストレージ8GBと多少小さいぐらいであり、決して安物ではありません。このような安いLTE端末が量販店やネット通販に潤沢に出回ることで、消費者が格安SIMを手軽に購入する素地が整ってくると思われます。

グラフ5 日本のLTE(3.9G)契約数(単位:万件、出所:総務省)

2014年3月期4Qから契約件数、売上高が増加

2014年3月末の格安SIMの累計契約数は173万件です(MM総研による。ちなみに総務省の調査による2013年12月末のSIMカード型サービスの契約数は138万件です)。この173万件の企業別順位とシェアを見ると、1位NTTコミュニケーションズ(シェアはMM総研のプレスリリースから類推すると20~25%)、2位インターネットイニシアティブ(10~15%)、3位日本通信(10~15%)、4位ビッグローブ(10%前後)となります。また、その他の中小業者が全体の半分近くになりますが、この中にフリービットが入ります。このほか、7月からワイヤレスゲートがSIMカードのデータ通信分野に参入しました。

なお、上場企業で格安SIMの契約件数、販売件数を公表しているのは、今のところ日本通信とインターネットイニシアティブのみです。日本通信の月額課金SIMの契約件数は2014年3月期末11万1,343件(2013年3月期末6万362件)、プリペイドSIMの年間出荷数は2014年3月期20万9,906件(2013年3月期19万2,765件)です。月額課金SIMの売上高は、2013年3月期13億6,700万円から2014年3月期23億8,200万円へ急増しています。

また、インターネットイニシアティブのIIJmio/LTEサービスの契約件数は、2014年3月期末約13万9,000件(2013年3月期末比約9,000件増)、売上高は2014年3月期約17億円(前期比約11億円増)とこれも急増しています。

特に2014年3月期4Qから契約件数が急増しており、2015年3月期もイオンスマホなどのタイアップ商品の寄与や格安スマホの知名度向上などにより、契約件数と売上高の増加が予想されます。

電話が重要

格安スマホへの参入企業は増えており、格安SIMの販売も増加していますが、会社によって方向性が異なる分野もあります。格安スマホはデータ通信用のSIMカードで参入する場合が大半で、電話サービスをどうするかは会社によって異なります。NTTコミュニケーションズはデータ通信カードのみ提供しており、電話はNTTコミュニケーションズが提供している「050plus」などのIP電話を使います。

ところが、「050plus」の場合、大半の端末で省エネモードのときには着信できません。110番、119番などの緊急電話も発信できません。インターネットイニシアティブ、ビッグローブは、電話サービスを提供していますが、キャッチフォンと留守番電話がありません。

このようにスマートフォン用のIP電話(アプリ電話)は大半のアプリで緊急電話が使えない、留守番電話がない、端末によっては発信番号が表示されないなどの欠点があります。欠点が何なのかはアプリによって異なりますが、大手携帯電話会社が提供している電話サービスをそのままコピーしたものはありません。音声SIMを販売している業者でも、留守番電話がない場合があります。NTTドコモなどの大手携帯電話会社の電話サービスをそのままコピーしているのは、日本通信(スマホ電話SIM)、フリービット(3G音声オプション)、未上場のケイオプティコム(mineo(マイネオ))などがあります。留守番電話がなかったり、緊急電話ができないと、料金は安くなりますが実用には不便です。この点は、格安スマホが普及するにつれて、市場シェアの変動に繋がる可能性があります。

各社の業績とMVNO事業

上場各社の業績を見ると、MVNO専業の日本通信の伸びが飛び抜けて大きいことがわかります。日本通信は格安スマホ市場拡大の恩恵を他社に比べて大きく受けています。インターネットイニシアティブやフリービットは、格安スマホ事業は多くの事業の中の一つですから、全体の業績への寄与は限られます。

ただし、株価指標を見ると、日本通信は業績の伸びが大きい分だけPERも会社予想ベースで100倍を超えるなど高く買われています。インターネットイニシアティブ、フリービットは業績の変化が日本通信ほどではないため、PERが日本通信ほどは高くありません。

それでは、今後の株価妙味はどうかと考えてみると、私は日本通信、インターネットイニシアティブ、フリービットの順ではないかと思います。「成長株」の考え方からすると、業績変化率の大きい企業はPERが高く買われて当然と言えます。日本通信が、私が予想しているように今後数年間利益倍増のペースで成長するならば、PER100倍でも投資妙味はあると思われます。

インターネットイニシアティブは、単に格安スマホを売るだけでなく、それを企業システムに組み込むことを考えています。詳細は不明ですが、実際に企業向けMVNOのシステムを手掛けています。MVNOは様々な分野の機械間通信(M2M)に応用できるため、中長期的にはシステム需要の増加が見込まれます。

フリービットは、格安スマホを売る際に、自前で店舗網を持とうとしており、その費用負担があると思われます。また、利益率が低い部門も抱えています。ただし、格安スマホの伸びが大きければ、いずれそれの寄与が業績に表れてくると思われます。

表3 MVNO各社の業績と株価指標