(1)2014年6月16日の週の相場概況

日経平均株価は順調に上げる展開

6月16日の週の日経平均株価は、特に後半になって順調に上げる展開となりました。6月3日に15,000円台に乗せた後、値固めをしていましたが、上放たれた模様です。

日経平均が上昇した要因はいくつかあると思われますが、まず、18日のアメリカFOMC後のイエレン議長の発言を好感して、NYダウが上昇したことです。イラク情勢が不穏になっていることから原油価格が上昇しており、これがアメリカ経済に与える好影響を考える向きもあったと思います。

また、マザーズ、ジャスダックなど新興市場の上昇が続いており、これとの比較感から特に自動車、総合商社などの低PER株中心に大型株が物色されたことも日経平均の上昇に寄与していると思われます。

セクター別に見ると、自動車株が上げました。トヨタ自動車が19日終値で6,000円台に乗せましたが、これは2月12日振りです。本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダも上げましたが、北米市場の今後の順調な拡大を予想した買いのように思われます。

総合商社株も動いています。三菱商事が5月上旬から上昇し始め、上値を追う展開が続いていますが、これは原油価格の上昇、中国経済の成長持続、PERの割安感によるものと思われます。三井物産など他の大手商社も動意づいています。

電機も上昇しました。日立製作所、ソニーなど産業用、民生用の大手だけでなく、村田製作所、ジャパンディスプレイ、シャープ、ヒロセ電機など電子部品株が上昇しました。中国のスマートフォンメーカーの生産、販売の動きが活発になっており、また、秋に予想される「iPhone6」用部品の発注が7月以降始まる可能性があります。7月以降スマートフォン向け部品の受注サイクルが上向きに転換する時期に入ると思われます。

通信株も物色されました。注目したいのがNTTです。2013年1月から動き始め、それ以降持続的に株価が上昇しています。業績に大きな伸びは今のところありませんが、PBR0.8倍、PER12倍と割安です。事業を見ると、電話、メールだけでなく、大量の映像情報が通信ネットワーク上を流れるときに、中核的な役割を果たすのはNTTが全国に敷設している光ファイバー網です。また、NTT東日本、西日本の光ファイバーとNTTドコモとのセット販売ができるようになる見通しです。情報通信関連の中核という見方があるようです。

このほか、大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設の大手建設会社が、6月上旬の株価横ばいの状態から上値を指向する展開となりました。

グラフ1 日経平均株価:日足

東証マザーズ指数は続伸

新興市場も続伸しました。東証マザーズ指数は、5月20日ザラ場安値633.02ポイントを底に6月19日ザラ場高値938.30ポイントまで、1月で48.2%上昇しました。ミクシィ、CYBERDYNEの影響が大きくなっていますが、重要な節目である1,000ポイントが目前となっています。銘柄では、ミクシィ、CYBERDYNEの他、菊池製作所、日本マイクロニクス、日本通信、ユーグレナなどが上昇しました。

2012年11月の今回の相場(アベノミクス相場)の起点から、東証マザーズ指数はこれまでに2回天井を付けています。1回目は2013年5月8日のザラ場高値1,083.24ポイント、2回目は2014年1月23日のザラ場高値1,042.14ポイントです。今回も1,000ポイント越えした後下落するのか、一旦揉んだ後再び上昇するのか、関心が大きいところだと思います。

私は、今回は1,000ポイントを越えた後も東証マザーズ指数は上昇する可能性が高いと考えています。こう考える大きな理由は、日本の中小型株を取り巻く経済環境です。日本の新興企業、東証の中小型企業の多くは、情報通信、ゲーム、各種サービスなどの内需関連企業です。円安、公共投資、再開発ブームと、それに伴う地価の上昇や株価の上昇による資産効果などにより、日本は景気が良くなっています。内需関連の中堅企業、ベンチャー企業にとっては、経営の采配さえが良ければ企業を成長させることができる環境が整ってきており、そのため、中小型企業の業績変化率が大きくなり始めているのです。

反面、グローバルに活動する大手企業、自動車や電機などは、前期の様な大きな円安メリットが今期は見込めないこと、グローバル競争に勝ち抜くための設備投資、研究開発費の増加などコスト増加を受け入れなければならないことなど、今期は大きな変化率が期待できそうにないセクターが増えそうです。

このように業績変化率は中小型企業優位になっており、また、業績変化率から見て割安な銘柄も新興市場にはまだあると思われます。例えば、私が見るところ、ミクシィ、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなどです。

東証マザーズ指数の動きを注視したい

東証マザーズ指数が実際に1,000ポイントの大台を回復した後も上昇し続けるかどうか、今後の動きを注視したいと思います。過去1年間の景気回復によって、新興企業の業績水準は着実に上昇しています。例えば、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、コロプラなどのゲーム関連、日本通信などの格安スマホ関連、日本マイクロニクス、アルチザネットワークスのような半導体、通信関連の計測機器の分野、カナモト、西尾レントオールなどの建設機械レンタル会社などの業績を見ると、分野は違っても着実な業績改善が見られます。

東証マザーズ指数の上昇が続くならば、中小型企業と大手企業とのバリュエーション(PER)比較を通じて、日経平均にも前向きな影響が出る可能性があります。新興市場と東証1部の循環物色が続く可能性があり、強い相場が続くことが期待されます。

また、長期の月足チャートを見ると、もし東証マザーズ指数が1,000ポイントを越えて上昇が続くようならば、新興市場が大勢上昇相場に入る可能性があります(グラフ3)。このことにも注意したいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証マザーズ指数:日足

グラフ4 東証各指数(2014年6月19日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:ゲーム株-ガンホーを追いかけるミクシィ

ゲーム株再論

今回の特集は再びゲーム株を取り上げます。5月30日付けの本稿で「特集:ゲーム株」を取り上げ、その後6月11日付けでアナリストレポート「ミクシィ」を発行しました。この2つのレポートはおかげ様で大きな反響をいただきました。その後ミクシィ株は大きく上昇しました。

しかし、私の見るところ、ミクシィなどのネイティブアプリのゲーム会社の可能性はまだまだ株価に織り込まれていない部分が多いと思われます。そこで今回は再度、ネイティブアプリゲームの会社についてコメントしたいと思います。

グラフ5は、ネイティブアプリゲームの会社3社の代表的なゲームの累計ダウンロード数を示したものです。この中でガンホー・オンライン・エンターテイメントとミクシィの累計ダウンロード数は端末ごとの重複ダウンロードを除いた数字ですが、コロプラは重複を含んでいます(ダウンロードするときに貰えるアイテムを入手するために何回もダウンロードを繰り返すユーザーがいるので、コロプラのダウンロード数は実際にはグラフの数字の2分の1から4分の1以下と考えてよいと思われます)。グラフ5では3社の主力ゲーム、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」、ミクシィの「モンスターストライク」、コロプラの「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ」のいずれもが順調にダウンロード数を増やしていることがわかります。

グラフ5 ネイティブアプリ3社の主力ゲーム累計ダウンロード数(単位:万DL、出所:会社資料より楽天証券作成、ガンホー、ミクシィは1端末当たりの重複ダウンロードを除く、コロプラは重複を含む。)

また、グラフ6、7は3社の四半期ベース売上高、営業利益を比べたものです。一目見てわかるのはガンホー・オンライン・エンターテイメントの巨大さです。ただし、同社も2012年2月の「パズドラ」配信開始以来、急角度で業績が向上してきたのであって、最初から今の規模になったわけではありません。

この「パズドラ」をミクシィの「モンスト」が追いかけています。表2はアップストアにおけるネイティブアプリのセールスランキング(課金売上高のランキング)ですが、「モンスト」は5月上旬以降2位の地位を維持しています。そして、たまに(時間にもよりますが)1位になることがあります。6月18日のお昼頃がそうでした。それ以前では、5月15日、5月27日にアップストアで1位になっています。これらはイベントの効果と思われます。6月19日になると再び「パズドラ」に抜かれましたが、「パズドラ」の累計ダウンロード数の巨大さを見ると、「モンスト」が善戦していることがわかります。なお、グーグルのグーグルプレイのセールスランキングも同じように1位「パズドラ」、2位「モンスト」、3位「黒猫」となっています。

グラフ6 ネイティブアプリゲーム3社の売上高推移:四半期ベース(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ7 ネイティブアプリゲーム3社の営業利益推移:四半期ベース(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表2 アップストアにおけるセールスランキング(全カテゴリー)

私は、6月11日付けのミクシィのアナリストレポートの中で、ミクシィの営業利益予想を2015年3月期150億円、2016年3月期245億円と予想しました。そして、今後1年間の目標株価を20,000~22,000円としました。詳細は同レポートをお読みいただきたいのですが、この目標株価が当面の上限だとは考えていません。詳細はレポートに書いてありますが、いくつか試算したうちの保守的な数字を出したものであり、相場全体のバリュエーション(PER)が上昇したり、ミクシィの将来に対して株式市場が確信を持つにつれて、より高いバリュエーション(PER)が与えられるようになると、より高い株価が目標となりうるでしょう。

もっとも、ミクシィで問題なのは、「モンスト」が収益化してまだ間がなく、今後の業績予想をするための基礎データが、ミクシィの2014年1-3月期決算と、類似会社としてガンホー・オンライン・エンターテイメントの2014年1-3月期までの決算ぐらいしかないことです。

そこで目安を付けるために、ミクシィの2014年4-6月期売上高と営業利益(モンストのみ)を簡単に試算してみました。これが表3です。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの2014年1-3月決算を基準にして4半期の累計ダウンロード数からミクシィの業績を単純に試算したものです。

表3 ミクシィの2014年4-6月期業績の単純な試算

結果は、「モンスト」が「パズドラ」並みの収益力を持っている場合、2014年4-6月期だけで営業利益60~70億円程度が出る可能性があるというものです。「モンスト」の収益力が「パズドラ」の半分なら、毎月5億円の広告費と推定で毎月1億円以上の開発費を使っている可能性があるため、営業利益は20~25億円と試算されます。

ただし、「モンスト」の収益力が「パズドラ」に大きく及ばないなら、アップストアで瞬間的にせよ「パズドラ」を抜いて1位になることも、2位の地位を維持することもないと思われます。実際のところはミクシィの第1四半期決算(4-6月期)を見るまではわかりませんが、上記の単純試算から見て30~60億円の範囲ではないかと思われます。

「モンスト」の勢いが今後も細らずに続くならば、2015年3月期の営業利益は30~60億円×4+αとなると思われます。なお、会社予想営業利益は100億円です。

また、グラフ6、7と表2のゲームのセールスランキングからわかることは、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの収益力の高さと地位の安定振りです。同社のPERは現在12倍台ですが、割安さを感じます。

コロプラも最近になって順位が上がってきました。広告費の投入やゲームの改良などの効果が出たものと思われます。

ガンホー・オンライン・エンターテイメントを筆頭に、ネイティブアプリで成功した会社の業績には目覚ましいものがありますが、この地位を獲得するためには、広告費、開発費ともにそれなりの額、各々年間10億円から数10億円を投入しなければならなくなっています。かつ、経営の巧みさ、知恵も必要になります。そういう意味でネイティブアプリの世界は「総力戦」になってきており、参入する会社の全てが成功するわけではありません。ミクシィ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、コロプラに注目したいと思います。