(1)2014年6月9日の週の相場概況

日経平均株価はやや調整の展開

6月9日の週の日経平均株価は、調整気味の展開となりました。日経平均は6月2日の週に15,000円台に乗せた後伸び悩み、6月9日に15,200円台に乗せた後は下落しました。10日に15,000円台を割った後は、15,000円を挟んで一進一退となりました。為替レートがドル円、ユーロ円ともに円高方向に振れたことが調整の要因としてまず挙げられます。また、5月21日安値13,964.43円から6月9日高値15,206.57円まで短期間で8.9%上昇しており、チャート上の重要な節目である15,000円を一時抜いたこともあって、一服といったところでしょう。

セクター別の株価を見ると、今回の戻りの一つの焦点であった自動車は、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダの株価が横ばいになってきました。また建設も、大成建設、大林組、清水建設など勢いよく上昇していた株価が、前週に入って上昇が止まりました。

一方で、北米での自動車販売が好調な日産自動車の株価は今も上値を指向しており、会社によってはまだ上昇を続ける気配を見せています。

これは他の業種でもそうで、株価が出遅れていて割安感が強いメガバンクの株価を見ると、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの各々のチャートが上値を指向する形になっています。

情報通信では、NTTが一旦下落した後戻ってきました。

このように、先駆したセクターが一服して、出遅れ株、割安株を物色する循環物色となっており、株式市場の物色意欲が衰えたわけではないと思われます。銘柄を選ぶという前提ですが、押し目買いを考えてもよい環境ではないでしょうか。

グラフ1 日経平均:日足

東証マザーズ指数は軽く押した後、上昇に転じた

新興市場は前週に一時株価の上昇が止まりましたが、今週後半から再び上昇に転じました。6月2日の週までの上昇はミクシィなどゲーム株の影響が大きかったと思われますが、6月9日からの一服後の再上昇は、ロボット、省エネなどに物色の範囲が広がっています。ロボット関連では、CYBERDYNE、菊池製作所、省エネ関連では、エナリス、ファーストエスコ、省電舎が動きました。この中には菊池製作所のように株価が大きく動いた銘柄もあります。

もっとも、動いている銘柄の中には、赤字の会社や既にPERが高くなっている銘柄も少なからずあります。いずれは業績がしっかりしてPERが比較的割安な銘柄群、例えば、ガンホー・オンライン・エンターテイメントやミクシィのようなゲーム株に物色の対象が戻ってくるような印象があります。

いずれにせよ、当面は新興市場は強い相場が続くと思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証各指数
(2014年6月12日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:建設セクターと建設関連セクター

底打ちし、増加に転じた日本の建設投資

今回の特集は建設セクターと建設関連セクターの一部を取り上げます。

日本の建設投資は1992年の84兆円をピークとして減少し続け、2010年の41兆円で底を打ちました(グラフ4)。特に2001年から2006年まで続いた小泉政権時代からは財政再建の名目で公共投資は抑制され、また、地価の下落も続いたため、官需、民需ともに建設投資は落ち込んでいきました。

しかし、2011年3月の東日本大震災をきっかけに公共投資抑制の動きは止まり、2011年、2012年と民主党政権下で大型公共投資予算が組まれました。また、2009年頃から地価の底打ち感と大型ビルの老朽化を背景に、東京などの大都市圏を中心に再開発が始まりました。

そしてその後、安倍政権下で更に大型の公共投資が実行されました。いわゆる「アベノミクス」の一環ですが、これが呼び水の一つとなって、官需、民需ともに建設市場は活況を呈すようになりました。

建設市場が活況になってきた要因をまとめると以下のようになります。

1.2009年ごろから東京の都心部中心に地価の底打ち感が台頭し始め、大型再開発に着手する不動産会社が出始めたこと(三菱地所の大手町再開発、三井不動産の日本橋・室町再開発など)。

2.2011年3月の東日本大震災後の復興と景気回復を目的に、民主党政権、自民党政権(安倍政権)ともに、大型公共投資を予算化して実行したこと。これによって、復興需要が出てきた。

3.2011~2012年にかけて地価がゆっくりと上昇し始めたところに、アベノミクスが登場し、地価が持続的に上昇するという期待が不動産市場に生まれ、それが東京、大阪、名古屋など大都市圏で(特に東京で)更なる大型再開発ブームを作り出したこと。

4.2013年9月に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、また、中央リニア新幹線の2014年着工も発表されたことから、中長期的な建設投資増加への期待が高まってきたこと。

グラフ4 日本の建設投資
(単位:兆円、出所:国土交通省より楽天証券作成)

グラフ5 建設工事受注額:前年比
(単位:%、出所:国土交通省より楽天証券作成)

事業環境が様変わりした建設業界

一方、建設投資が急速に回復する過程で、人件費と資材費が上昇してきました。東日本大震災の復興需要が出始めた2011年から人件費(特に型枠工、鉄筋工)、資材費(セメント、鉄鋼など)が上昇し始めました。そして、2012年から2013年かけて緩やかに上昇していたものが、2013年から2014年にかけて急上昇しました。

人件費、資材費の上昇は建設会社の業績の悪化要因になっています。特に2012年3月期、2013年3月期は、国内の建設需要全体がまだ十分回復していない中で、業績の足を引っ張る要因となりました。

ところが、2014年3月期になると様相が変わってきました。過去の建設不況時に不利な条件で受注し、資材費、人件費の上昇も工費に転嫁できなかった不採算工事が次々に完工し売上高と利益に計上されて行きました。そのピークが2014年3月期末だったと言われています。その一方で、2014年3月期は、復興需要だけでなく、不動産開発ブームや東京オリンピック・パラリンピック、中央リニア新幹線のような、建設業界にとって大きな前向き材料がある中での受注活動となり、受注条件は好転していきました。

そして、2014年3月期下期になると不採算な案件を断る「選別受注」や、民間工事での物価スライド契約も出始めました。それまでは、工期中に人件費、資材費が上昇しても、不足分を発注側から払ってもらえないケースが多かったのですが、払ってもらえる条件が契約に盛り込まれるようになったのです。今は、多くの再開発計画が特に東京にあり、再開発計画の間でのテナント獲得競争もあります。そのため、発注側の多くが完工を予定通り間に合わせるために、適正価格での発注や物価スライド契約など建設会社に有利な契約を結ぶことを受け入れるようになっています。

建設市場にはリスクもあります。人件費、資材費の上昇以外に、建設投資の持続性の問題があります。多くの建設会社が東京オリンピック・パラリンピックの手前で建設投資がピークを打つと考えています。悲観的な会社では、受注のピークが2016年、納入のピークは2018年という意見もあります。このような意見があるため、各社とも正社員を増やそうとはなかなかしません。

ところが、足元では長期の工事が増えています。大型再開発は今から土地の手当てを開始すると完成は10年後です。中央リニアは今期から発注が始まる模様ですが、2020年東京五輪が終わっても続きます。また、異常気象が頻発するようになったため、全国で洪水対策や道路、トンネルなどのインフラ補修が必要になっています。足元の状況を考えると、オリンピックが終わると建設市場は鈍化するかもしれませんが、簡単に腰折れる事はないと思われます。

グラフ6 大手建設会社の営業利益推移
(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は会社予想)

大手ゼネコン中心に業績好転へ

このような業界環境の変化を受けて、大手ゼネコン中心に業績が好転しています。大手ゼネコン中心というのは、人件費、資材費の上昇は工費に転嫁することが出来るようになってきましたが、人手不足は、型枠工、鉄筋工、現場監督、一級建築士などで深刻になっており、これに対処するには人員調達力の大きい大手ゼネコンが有利になると思われるためです。また、様々な大型再開発計画、東京五輪の大型競技施設、中央リニアなどは高い技術力が必要な大型工事になるため、大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設の4社が関わることになると思われます。

これら4社の中で注目したいのは、大成建設と清水建設です。

大成建設は、大手ゼネコンの中でも営業利益が大きい大手であり、首都圏が地盤で建築、土木、不動産開発をバランスよく手掛けています。技術力も高く、建て替えが決まっている代々木の国立競技場は大成建設が受注し建設したものです。今期は営業減益の見通しですが、これは前期に不動産開発からの売却益が多かったこと、今期の土木からの営業利益を控えめに見ているためです。事業環境を見ると上方修正の余地があると思われます。

清水建設にも注目したいと思います。グラフ6は大手ゼネコンの営業利益の推移を示したものですが、清水建設の営業利益が急角度で伸びていることがわかります。同社は、首都圏を地盤とし、土木よりも建築の比重が大きい建設会社です。不況期には競争が厳しくなる建築が主力のため受注採算に厳しい会社ですが、逆に事業環境が好転してくると、人件費、資材費の上昇を工費に転嫁することが進み、他社に先駆けて利益が回復しています。特に、首都圏で再開発ブームが起きていることは、清水建設にとって大きなプラス材料と言えます。

このほかの建設会社では、道路、法面対策や地盤改良、道路、トンネルの補修などの分野の専門業者に注目したいと思います。道路ではNIPPO、法面対策、地盤改良ではライト工業、橋梁、トンネルなどの補修ではショーボンドホールディングスなどです。地方では洪水対策のための治山治水、橋、トンネル、道路の補修工事が活発になっています。

建機レンタル会社

建設工事では油圧ショベル、クレーン、ダンプカーや各種の特殊機械を多用します。また、各種の資材も使います。これらの建設機械、特殊機械、各種資材類の多くは、建設会社が自家所有せずに建機レンタル会社から借りて使います。このような建機レンタル会社は全国で建築、土木の工事が活況になると、連動して業績が良くなる傾向があります。

建機レンタル会社の中でも大手は、東日本が地盤のカナモトと西日本が地盤の西尾レントオールです。両社とも業績好調で、工事の活況に伴って建機レンタル料の値上げが少しずつ浸透している模様です。グラフ7,8のように両社の売上高、営業利益は伸びが続いていますが、この状態は今後も続くと思われます。

グラフ7 カナモトと西尾レントオールの売上高
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、カナモトは10月決算、西尾レントオールは9月決算)

グラフ8 カナモトと西尾レントオールの営業利益
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、カナモトは10月決算、西尾レントオールは9月決算)