執筆:香川睦

今日のポイント

  • トランプ政権の政策遂行能力や財政政策の実行を巡る不透明感で米国株が下落。米長期金利が低下し、ドル円は下落。リスクオフ(回避)姿勢を受け日経平均は下値を探る動き。
  • ドル円で110円台まで下落した為替の落ち着きを見極めたいが、世界景気回復で業績は二桁増益へ。米国株と比較した割安感もあり、日本株の下落余地は限定的に留まろう。
  • 国内にデフレ脱却の兆し。全国平均の公示地価は9年ぶりに下げ止まり、都市部で住宅地と商業地が上昇。時給換算賃金の上昇率は2年ぶり水準に上昇し、物価上昇率を上回る。

(1)米国の政治に暗雲が広まりドル円が下落

内外市場では今週、米国株とドルの下落(円高)でリスクオフ(回避)姿勢が強まり、22日の日経平均は今年最大の下げとなりました。トランプ政権がすすめるオバマケア(医療保険制度改革法)の代替法案をめぐる議会での調整が難航。同政権の政策遂行能力や財政政策の審議や実行に後ずれ観測が強まったことが嫌気されました。共和党指導部は、「オバマケアの撤廃に失敗すれば、大型減税などトランプ政権が掲げるアジェンダを危うくしかねない」と警告しています(22日報道/Bloomberg)。昨年11月の大統領選挙以降、トランプ大統領が公約した景気対策(税政改革やインフラ投資計画)への期待が、「成長加速期待→米長期金利上昇→ドル円上昇→日経平均上昇」との流れに繋がりました。ところが、足元で政治動向を見極めたいとの慎重派が増えたことで長期金利は低下。欧州政治の不確実性後退でユーロが上昇したこともあり、ドル円が上昇しました。森友学園問題や朝鮮半島情勢を巡る不安も重なり、日経平均は19,000円を巡る攻防となっています(図表1)。

 

(出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(3月23日))

(2)業績改善見通しが株価の支え

一時110円台まで下落したドル円の落ち着きを見極める必要はありますが、世界景気の回復に伴う業績見通し改善が株価の下支えになると思われます。世界株式(MSCI世界株式指数)ベースでみると、2017年のEPS(1株当り利益)は前年比26.5%増益、18年も同11.3%増益が見込まれています(市場予想平均/Bloomberg集計)。米国株(S&P500指数ベース)は、17年に18.1%増益、18年に12.1%増益が見込まれており、日本株(TOPIXベース)も、16年の不振(8.1%の減益)を経て、17年は18.8%増益、18年に13.1%増益が見込まれています。日本株の予想PER(株価収益率)は15.6倍と米国株(18.2倍)と比較して割安感があり、年初来騰落率では出遅れ感があります(図表2)。そもそも、昨秋からの世界株と日本株の騰勢は、世界景気の回復に伴う業績改善期待が背景にありました。実際、エネルギー資源など一次産品市況の回復と中国の景況感安定で、年初来では新興国株の好調が目立っています。市場(国や地域)別に濃淡はありますが、こうした業績見通しの改善が内外株式の下落余地を限定的にすると考えています。

図表2:主要市場の業績見通しとバリュエーション

(注:年初来騰落率の降順で表示。予想増益率はBloomberg集計による市場予想EPSに基づく)
(出所:Bloombergのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(3月23日))

(3)国内経済にはデフレ脱却の兆しが

外部環境に不透明感が強まるなか、国内経済には前向きな兆候が表れてきました。国土交通省が3月21日に発表した「2017年の公示地価(1月1日時点)」によると、全国の平均地価は9年ぶりに下げ止まりました。特に住宅地では、3大都市圏(東京、名古屋、大阪)が前年比+0.5%、商業地(全国平均)は同+1.4%と堅調でした。地方には低迷を続けている地域もありますが、全体的には日銀の金融緩和(ゼロ金利政策)と景気回復の効果が表れてきたとみられます。さらに、物価動向にも「デフレ脱却」の兆しがみてとれます。図表3でみる通り、消費者物価(生鮮品を除く)指数の前年同月比伸びは約1年ぶりにプラス圏(+0.4%)に浮上。また、景気回復と人手不足を背景にして、雇用市場では「時給換算賃金指数」の前年同月比伸びが+1.5%と2015年3月以来約2年ぶりの水準まで上昇してきました。2年前と異なるのは、時給換算賃金指数の上昇率が物価上昇率を上回っている(=実質賃金が上昇している)ことで、消費者の購買意欲を下支えしていくことが期待できます。いまだ十分とは言えませんが、不動産市況の改善、実質賃金の上昇、株式市場の回復などは、アベノミクスが目指す「デフレ脱却」の実現を後押しする現象と考えられます。「デフレは株式の敵、インフレ期待(デフレからの脱却)は株式の味方」との考えに立ち、これらの回復傾向の持続性を見極めたいと思います。日経平均は、外部環境(米国株式動向やドル円相場)の変化から影響を受けやすい特徴があり、足元は神経質な動きを余儀なくされています。ただ、世界景気の回復を背景とする業績の回復、国内の「デフレ脱却の兆し」は株式市場を下支えする可能性があると期待しています。

図表3:時給換算賃金と物価の前年同月比伸び

(注:時給換算賃金指数:Japan Hourly Wage Growth Index)
(出所: Bloombergのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(2005年1月~07年1月))