執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 好配当利回り株は、言い換えると、不人気の割安株である。人気のない理由が、それぞれある。ただし、そういう不人気の好配当利回り株に投資して、長期的に好パフォーマンスが得られることもある。
  • 好配当利回り株に長期投資する場合、日本を代表する大型株で、収益が安定的なものが望ましい。

(1)地味で割安な好配当利回り株に注目する理由

株式投資の代表的スタイルは、2つあります。1つは成長株投資、もう1つは割安株投資です。読者の皆様は、どちらのスタイルに近いですか?

私は、25年の日本株ファンドマネージャー経験があります。投資信託・年金などで、常時1,000~2,000億円のファンド運用を担当していました。

私の運用していたポートフォリオは、割安株を中心に構成されていました。割安株をコアとして長期保有しながら、成長株で短期売買を繰り返しつつ、鞘をかせぐ戦略をとっていました。その方法で、ベンチマーク(競争相手)である東証株価指数(TOPIX)を大きく上回るパフォーマンスを上げてきました。

株式投資の初心者は、まず割安株投資から開始した方が良いと思います。好配当利回りの大型株が、代表的な割安株であり、最初の投資候補となります。

小型成長株に投資するのも、株式投資の醍醐味であり、トライしてみて良いと思いますが、企業内容をよく知っているものから始めるべきです。小型成長株はいいタイミングで買うと短期的に株価が大きく上がることもありますが、タイミングが悪いと、買ってすぐ大きく下がることもあり、売買タイミングが難しいことがあります。

(2)割安な成長株はなかなか存在しない

好配当利回り株の欠点は、成長性の低い銘柄が多いことです。予想配当利回りが3-4%と高い銘柄に、成長性が高い銘柄はあまりありません。業績になんらかの不安があるなど問題を抱えている銘柄に、配当利回りが高い銘柄が多いと言えます。

もし、配当利回りが高く、成長性も高い銘柄があれば、成長株好きの投資家も、割安株好きの投資家も、どちらも積極的に投資したいと思うでしょう。すると、株価が大きく上昇し、結果として、(1株当たり配当金÷株価)で計算される配当利回りは低くなります。

結果として、人気の成長株は配当利回りが低く、配当利回りの高い株には成長性が低くて人気がない銘柄が多くなります。

(3)投資に適した好配当利回り株を見つける際に、気をつけるべきこと

人気のない好配当利回り株にも、長期的なパフォーマンスが良好な投資銘柄の候補が多数あります。銘柄選択で注意すべきことが3点あります。

収益が安定的な大型株が望ましい

高い成長性が見込まれなくても問題ないが、なるべく、安定的に高収益が見込まれる銘柄が望ましい。一般的に、日本を代表する大型株の方が良い。

景気変動の影響を受けにくい業態が望ましい

景気悪化局面で、業績が大幅に悪化して、減配(1株当たり配当金が減らされること)になる可能性が低い銘柄が望ましい。

なるべく多数の好配当利回り株に分散投資する

特定の好配当利回り株に集中投資すると、その銘柄が減配になって株価が下がる時のダメージが大きい。なるべく多数の好配当利回り株に分散投資した方が良い。そのためには、最小売買金額が小さい好配当利回り株を選んだ方が良い。

(4)投資の参考銘柄

なるべく多くの銘柄に投資できるように、30万円以下で投資できる銘柄から選択しました。

3月決算、30万円以下で買える好配当利回り株:時価総額1,000億円以上

(金額単位:円)

コード 銘柄名 株価 "配当 利回り" "最小 売買金額"
8411 みずほFG 213.0 3.5% 21,300
9412 スカパーJSAT HLDG 508.0 3.1% 50,800
8848 レオパレス21 610.0 3.6% 61,000
7201 日産自動車 1,156.0 4.2% 115,600
6113 アマダHLDG 1,310.0 3.2% 131,000
8053 住友商事 1,516.0 3.3% 151,600
8001 伊藤忠商事 1,654.0 3.3% 165,400
8031 三井物産 1,696.5 2.9% 169,650
9437 NTTドコモ 2,705.0 3.0% 270,500
9433 KDDI 2,991.0 2.8% 299,100

(注:配当利回りは、会社が予想する2017年3月期の1株当たり年間配当金を、3月14日の株価で割って算出。1株当たり年間配当金は9月中間決算配当金と3月本決算配当金の合計、楽天証券経済研究所が作成)

(5)割安株が割安に据え置かれる理由

好配当利回り株を買うということは、言い換えると、人気のない株を買うということです。好配当利回り株には、それぞれ、人気が出ない理由があります。それを知った上で、多数の銘柄に分散投資するのが望ましいと思います。

「人の行く裏に道あり、花の山」。株式投資の有名な格言です。人気のないところに宝物があると言うものです。割安株=不人気株への投資が長期的に報われることがあることを教えるものです。

上記のリストに挙げた好配当利回り株の不人気の理由を書くと、以下の通りです。

みずほFG

長期金利が0%まで下がり、国内商業銀行の預貸金利ザヤ縮小が続く不安があります。ただし、みずほFGは財務内容良好で、利ザヤの厚い海外業務や信託・証券などに幅広く多角化しており、安定的に高収益をあげられる体質に変わってきていると考えられます。私は好配当利回り株として適格と判断しています。

スカパーJSAT

宇宙・衛星事業で、安定的に収益をあげられる体質になってきていることが評価できます。防衛省PFIや国内携帯キャリア向け事業も展開しています。ただし、有料多チャンネル事業が競争激化によって収益力が低下していることが不安材料となっています。解約→再契約を繰り返すユーザーが多く、長期的な固定契約者の比率がなかなか高まらないことが、収益が不安定な背景です。セグメント営業利益(2016年3月期)を見ると、宇宙・衛星事業が186億円、有料多チャンネル事業が62億円で、宇宙・衛星事業が収益の柱となっています。

レオパレス21

アパート建築請負、一括借上、賃貸事業を展開。アパート建設がブームで高収益が続いてきました。相続税引き上げに伴い、相続税対策としてのアパート建設が増えました。低金利も追い風になっています。ただし、ブームがピークアウトしつつある可能性があり、警戒感から株価は下がってきています。会社は、収益が安定的な都市部での賃貸を強化してきたが、アパート建設がスローダウンした後に、どこまで収益の下支え効果があるかは未知数です。好配当利回り株の1つとして分散投資する価値はあるが、投資金額を大きくし過ぎない方がいいかもしれません。

日産自動車

日本の自動車株は、国際競争力が高く、円安メリットもあり、好配当利回り株の1つとして、分散投資する価値はあると考えています。ただし、世界的に「保護貿易」「自国中心主義」が広がっており、自動車メーカーは、その「とばっちり」を受けやすいことに注意が必要です。私は、好配当利回り株として長期投資するならば、自動車株よりもブリヂストン(5108)(予想配当利回り3.0%)の方が良いと思っています。ただし、ブリヂストンは、最低投資金額(100株)が3月14日時点で465,300円と大きく、分散投資の対象としにくいことが欠点です。

アマダHLDG

設備投資に回復の兆しがあり、今は、景気敏感株である機械株にも分散投資したいと思います。アマダは、機械セクターの好配当利回り株として注目しています。ただし、長期投資をする上で、機械株は、景気の波で株価が乱高下しやすい点に注意が必要です。

住友商事・伊藤忠商事・三井物産

大手総合商社では、2015年に資源価格が急落したために、前期(2016年3月期)に保有する資源権益で巨額の減損が発生しました。今期は、資源価格の回復で、資源事業の利益が回復します。また、非資源事業の利益も伸びつつあります。好配当利回り株として、分散投資する価値はあると思います。ただし、有利子負債の金額が大きく、世界景気が悪化する局面では、追加で減損が発生する可能性は否定できません。

NTTドコモ・KDDI

スマホの拡大で、月間平均収入が伸びており、高収益が続く見込みです。ただし、格安スマホの伸びが大きくなっていることが、将来の懸念材料となっています。

割安株投資でも、成長株投資でも、投資する銘柄には、必ず期待する材料と、懸念される材料があります。リスク材料を理解した上で、幅広い銘柄に分散投資することが望ましいと思います。