執筆:窪田真之

今日のポイント

  • イエレン米FRB議長が月内の利上げを事実上、予告したにもかかわらず、ドル円の上値が重く、ドル円・日経平均ともやや膠着感が出ている。
  • 世界景気の回復色は強まりつつあるが、東アジアの地政学リスク、欧州の政治不安が意識され、円安が進みにくくなっている。

(1) イエレン議長が月内利上げを事実上予告したにもかかわらず、ドルの上値重い

3月3日にイエレン米FRB議長は、「今月利上げすることが妥当」と述べ、3月14日・15日のFOMC(金融政策決定会合)での利上げを、事実上、予告した形となりました。2015年12月・2016年12月に次ぐ、3回目の利上げがいよいよ実施される公算です。

本来ならば、1ドル115円の壁を抜けて、ドル高(円安)が進んでいるはずでした。ところが、1ドル115円の壁は厚く、ドル円はレンジ相場を抜けることができないままです。

ドル円日足:2016年11月1日―2017年3月7日

(注:楽天証券マーケットスピードより筆者作成)

利上げの最終判断に影響を及ぼすのが、3月10日発表予定の2月雇用統計です。ただし、米景気は足元強く、2月の雇用統計も良好と考えられます。2月の雇用統計が多少悪くても、米経済が実質、完全雇用状態にあるとの見方は変わらないことから、3月14-15日FOMCでの利上げは、実施されると考えられます。

3月利上げを織り込んでも、1ドル115円を抜けなかったことから、115円の壁はますます厚くなった印象です。

(2)日経平均にもやや膠着感

日経平均日足:2016年11月1日―2017年3月7日

(注:楽天証券マーケットスピードより筆者作成)

円安が進まないことから、日経平均も上値が抑えられています。ドル円・日経平均ともに、やや膠着感が出ています。日本の景気・企業業績の回復色が強まってきているので、日経平均はいずれ20,000円台へ上昇すると予想していますが、時期はわかりにくくなっています。

(3)東アジアの地政学リスク、欧州の政治リスクが意識される

世界に政治不安が広がっていることが、ドル円の上値を抑えています。東アジアの地政学リスクが意識されています(以下①―③)。

  • 北朝鮮の暴走:北朝鮮が、日米首脳会談時に続き、ミサイル発射を繰り返している。
  • 米中緊迫化のリスク:米国が中国と対決姿勢。米国・中国ともに国防費の大幅拡大方針を打ち出す。
  • 日韓関係は冷え込んだまま。中韓関係も悪化。

また、欧州で反移民・反EUを唱える極右勢力が拡大していることも、ユーロ安(円高)要因として意識されています。

最近は、4月に実施されるフランス大統領選(決戦投票は5月)のニュースでユーロ・ドルが上下しています。「フランス第一」を掲げ、フランス版ドナルド・トランプと言われる極右政党のマリーヌ・ルペン氏が決戦投票まで進出する公算が高まり、EU崩壊のリスクが高まったと意識されたことから、ユーロが下落しています。安全資産として、円が買われる要因となっています。