執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 日米で半導体ブームが起こりつつある。18年ぶりの大ブームとなる兆しも。日米の半導体関連株に一段の上値が見込まれる。日本の半導体産業は競争力を失ったが、それでも、半導体材料・製造装置などで競争力のある企業が残っている。
  • 東芝は投資対象として不適切と考える。東芝半導体は競争力があるが、原子力発電などで巨額の損失が出る可能性がある。

(1)米国で半導体関連株の上昇が目立つ

米国で、半導体業界の利益成長期待が高まり、SOX指数(半導体株価指数)が大きく上昇しています。4-5年周期で好不況を繰り返す半導体業界ですが、今回は、18年ぶりの大ブームになる兆しがあります。

米SOX(半導体株価)指数の動き:1997年1月31日―2017年2月10日

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

  • ITバブル以来のブームに沸く半導体業界

前回の大きな半導体ブームは、ITバブルと言われた1999年に起こりました。この頃の半導体の主用途は、パソコン(PC)でした。20世紀は、PCの成長とともに半導体産業も成長しました。PC買い替えサイクルが、シリコンサイクル(半導体サイクル)を形成していました。

1999年には、インターネット・パソコンの成長期待が異常に高まり、株式市場でIT関連株や半導体関連株が、異常な高値まで買われました。ところが、後から振り返ると、それはITバブルでした。2002年には、IT需要が大きく落ち込み、ITバブル崩壊不況が起こりました。

  • 2000年代に入り、半導体産業は構造不況に陥る

その後、半導体産業は、PCの成長が止まったために、長期停滞(不況)局面に入りました。2008年のリーマンショックで、再び大きなダメージを受けました。

日本の半導体産業は、1980年代には世界トップの競争力を持っていましたが、2000年代には競争力を失って低迷しました。2000年代の半導体構造不況で、日の丸連合が期待をかけたエルピーダメモリが破綻し、日本の半導体産業の没落が決定的となりました。

  • 半導体産業が、新たな成長期に

今、半導体業界は、久々の世界的ブームに沸いています。高機能化したスマホ・タブレット端末が世界中で売られるようになり、半導体需要の伸びを牽引しています。

他にも、半導体を使う分野が急速に増えています。自動車の電装化・電動化が加速しており、自動車は半導体需要を牽引する重要な分野となりつつあります。

IoT(モノのインターネット化)の普及も、半導体需要を増加させています。産業用機器で、IoTが広がっています。

(2)業績好調で、株価上昇が続く日本の半導体関連株

日本でも、半導体関連株の株価が大きく上昇しています。

日本の半導体関連株の2016年初来の株価騰落率、日経平均との比較

コード 銘柄名 製品 株 価 騰落率
2015年末 2017年2月13日
6723 ルネサスエレクトロニクス 車載半導体 770 1,053 36.8%
4063 信越化学 シリコンウエハ 6,617 9,750 47.3%
3436 SUMCO シリコンウエハ 924 1,792 93.9%
8035 東京エレクトロン 半導体製造装置 7,322 11,605 58.5%
6857 アドバンテスト 半導体製造装置 1,012 2,099 107.4%
6502 東芝 フラッシュメモリ 249.9 249.8 0.0%
  日経平均   19,033.71 19,459.15 2.2%

(注:楽天証券経済研究所長が作成)

半導体関連株は、軒並み、日経平均を大きく上回る値上がりをしています。ただし、東芝だけは例外です。東芝は、原子力発電の関連事業で巨額の損失を出したために、株価が下がっています。

かつて日本は、半導体メモリーで世界トップの競争力を有していました。ところが、日本の半導体業界は競争力を失い、プレイヤーがほとんどいなくなってしまいました。

今、半導体メーカーとして競争力を保っているのは、フラッシュメモリで東芝、システムLSI(おもに車載半導体)でルネサスエレクトロニクス、画像センサーでソニー(6758)くらいです。

半導体材料や、半導体製造装置では、日本に競争力のある企業が残っています。半導体シリコンウエハーでは、日本勢が競争力を持っています。シリコンウエハーは需要が急に拡大して不足し、今、奪い合いになっています。需給逼迫で値上げが通るようになり、トップの信越化学、二番手のSUMCOとも、業績の拡大が続く見込みです。

半導体製造装置でも、競争力を維持しているメーカーがあります。日本でトップ、世界で第4位の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンは、昨年10-12月の受注が大きく伸び、四半期ベースで過去最高となっています。半導体テスターで高い競争力を持つアドバンテストも、昨年10-12月の受注が大幅に伸びています。

東芝以外の半導体関連株については、これから利益の一段の拡大が期待されるので、さらなる上値余地があると考えています。

(3)東芝は投資対象とすべきでないと考える理由

東芝半導体は絶好調ですが、東芝は、原子力発電など、半導体以外の事業で巨額の赤字を出しているために、株価が下がっています。東芝は、原子力発電事業の損失が大きく、金融支援が得られなければ債務超過に陥る可能性があるため、投資対象として不適切と考えています。

東芝は、キャッシュ不足に陥るのを防ぐために、これまでさまざまな事業を切り出して売却してきました。ただし、その売却手順を見ていると、通常の企業再生と逆だといわざるを得ません。

東芝は、これまでに東芝不動産・東芝メディカル・白物家電事業などを売却しました。これから、半導体事業を一部売却することを検討しています。競争力のある事業から先に売却し、競争力のない事業が後に残る形です。

企業再生では、競争力のない事業を売却し、競争力のある事業を残すのが本来のやり方です。東芝は、債権者が回収を優勢して、競争力のある事業から売却しています。このやり方では、東芝の将来に希望が持てません。