今日のポイント
- 自動車・自動車部品株は業績上方修正が出ても上値重い。
- トランプ大統領が日本の自動車産業を敵視する発言を続けていること、世界中に反グローバル主義が拡大していること、次世代エコカー候補としてハイブリッド車よりも電気自動車が有利になりつつあることなどが、日本の自動車産業の懸念材料となっている。
(1)自動車・自動車部品株は業績上方修正が出ても上値重い
10-12月期(2017年3月期の第3四半期)決算の発表がピークを迎えています。円安の進行を受けて、自動車・自動車部品セクターでは、通期(2017年3月期)の業績予想を上方修正する企業が増えています(マツダは下方修正)。ただし、上方修正が出た後も、自動車株の株価は上値が重いままです。
日産自動車と富士重工の決算はまだ発表になっていませんが、それ以外の主要企業の決算は出揃っています。
自動車・自動車部品主要企業による、10-12月決算発表時の通期(2017年3月期)経常利益予想修正
(金額単位:億円)
コード | 銘柄名 | "予想 修正幅" | "修正後の 経常利益予想" | 配当利回り |
---|---|---|---|---|
7203 | トヨタ自動車 | 1,700 | 20,700 | 3.2% |
7267 | 本田技研工業 | 1,550 | 9,250 | 2.6% |
7259 | アイシン精機 | 190 | 2,090 | 1.9% |
6902 | デンソー | 130 | 3,230 | 2.5% |
7205 | 日野自動車 | 100 | 690 | 1.7% |
7276 | 小糸製作所 | 90 | 920 | 0.7% |
7261 | マツダ | ▲ 200 | 1,730 | 2.2% |
(2)自動車産業の上値を重くしている3つの懸念材料
自動車産業は、世界的に見ると、成長産業であり、日本がそこで高い競争力を有している事実は変わりません。ただし、以下の3つの懸念材料が、最近の自動車株の上値を重くしています。
トランプ大統領が日本の自動車産業を敵視する発言を続けている問題
最大のリスクは、日本車にとって最も重要な市場である米国で、トランプ大統領が、保護貿易主義を前面に出していることです。対米での貿易黒字額が大きい中国・日本・ドイツ・メキシコを敵視する発言が目立ちます。
トランプ大統領は、日本の自動車産業を批判する発言を繰り返しています。日本の自動車が米国に大量に輸出される一方、米国の自動車が日本でほとんど売れないのは、「不公正な競争条件のため」と主張しています。この主張は、関税について言うならば、誤りです。日本は、自動車の輸入に関税をかけていません。一方、米国は、自動車の輸入に2.5%の関税をかけています。トラック輸入には25%の高率関税をかけています。
トランプ大統領は関税でなく、為替操作(円安誘導)と非関税障壁を批判しています。日本は為替操作をしていないと主張していますが、トランプ大統領は、日銀の金融政策によって円安を誘導していると言い始めています。10日に実施される日米首脳会談で、トランプ大統領が、為替に言及するか注目されます。
日本が非関税障壁によって自動車輸入を制限しているという批判は、妥当とは言えません。日本ではドイツ車を中心に輸入車の販売シェアが拡大しているからです。アメリカの車が売れないのは、単に、競争力がないからと言えます。
安全基準や環境規制が厳しいために、アメリカ車が売れないと主張しても、それは「アメリカ車は性能で劣るために売れない」と言うに等しいことになります。
日本固有の税制で、海外からしばしば批判を受けるのは軽自動車の優遇税制です。ただし、米国は軽自動車と競合するような小型車を日本に輸出しようとしているわけではありませんので、米国車の輸入障壁として大きな争点になるとは考えられません。
7日に米商務省が2016年の貿易・サービス収支の赤字額を発表しましたが、貿易相手国別で、日本はドイツを抜いて、第2位に浮上しました。日本から自動車の輸出が増えたことが、順位の変化に影響しました。こうした統計も、トランプ大統領が、日本の為替政策を批判する材料とされる可能性はあります。
2016年の米国の貿易赤字額(通関ベース・季調前)、貿易相手国別(上位4か国)
順位 | 貿易相手国 | 貿易赤字額 | 前年比 |
---|---|---|---|
1位 | 対 中国 | 3,470億ドル | ▲5.5% |
2位 | 対 日本 | 689億ドル | +0.0% |
3位 | 対 ドイツ | 649億ドル | ▲13.3% |
4位 | 対 メキシコ | 632億ドル | +4.2% |
世界に自国中心主義、反グローバリズムが拡大するリスク
米国だけでなく、世界中に自国中心主義が拡大しています。保護貿易・貿易戦争が世界的に広がると、日本の自動車産業は大きなダメージを受けます。
自動車は目立つので、とかくターゲットになりやすいと言えます。2012年に、中国で反日デモが起こった時は、日本車が不買運動のターゲットとなりました。中国向けに生活雑貨を輸出している日本企業はターゲットとなりにくい一方、自動車は目立つのでとかくターゲットとなりやすいと言えます。
次世代エコカーで、ハイブリッド車よりも電気自動車が優勢となってきていること
自動車用の蓄電池の性能が大幅に向上したため、電気自動車が1回の充電で走行できる距離が大幅に伸びました。それにより、次世代エコカーとして、電気自動車を優先する国が増えました。自動運転技術の進歩も、自動車の電装化、電気自動車の普及を後押しします。
次世代エコカーとして、ハイブリッド車を中心に推進してきたトヨタ・本田など、日本勢に逆風です。
現時点で議論するのは、まだ早すぎますが、遠い将来、ガソリン車が減り、電気自動車が主流になる時代が来ると想定すると、日本の自動車業界はダメージを受けます。ガソリン車に使われる内燃機関が不要になるリスクがあるからです。内燃機関を製造するための部品技術で優位にある、日本の自動車産業全体にマイナスとなります。
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