執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 1月の米雇用統計は米景気好調を示す内容。ただし、1月の平均賃金の伸びが小さかったことから3月の利上げ観測は後退、1ドル112円台にやや円高進む。トランプ大統領が円安批判を始めていること、保護貿易・排外主義の大統領令を乱発し、トランプ不安が高まっていることも円高要因。
  • トランプ不安による円高が日経平均の上値を抑えているが、発表中の日本の10-12月決算は好調。2017年前半は、トランプ不安はあっても、景気・企業業績の回復を買う流れが勝り、日経平均はいずれ2万円台まで上昇すると予想している。

(1)1月の米雇用統計は、米雇用情勢が好調であることを示す内容

3日に、米利上げ判断に大きな影響を及ぼす、米雇用統計が発表になりました。最も注目の高い「非農業部門の雇用者数」は、前月比で+22万7千人の増加となり、米景気好調を示す20万人以上の増加となりました。

非農業部門の雇用者増加数(前月比):2014年1月―2017年1月

(出所:米労働省)

米国は現在、実質的に完全雇用状態にあるので、雇用者数の伸びが20万人以下でも、雇用情勢は良好と見なせると考えられています。事前の市場予想では、1月の雇用者数は、17万人増くらいと見られていました。20万人を超える伸びとなったことから、米雇用情勢の強さが再確認されました。

完全失業率:2014年1月―2017年1月

(出所:米労働省)

完全失業率は、4.8%と前月より0.1%ポイント上昇しました。長期的に失業率は低下してきており、この辺りは、実質的に完全雇用とみなされる水準にあります。

今回の雇用統計で、もう1つ、注目が高かった指標があります。時間あたり平均賃金の増加です。1月は前月比でわずかに0.1%しか伸びませんでした。前年比では2.5%伸びており、賃金は上昇基調と考えられていますが、前月比の伸びが小さかったことから、3月の利上げは難しくなったと見られました。

(2)雇用統計発表後に、為替が乱高下

2月3日の米雇用統計発表直前、ドル円は、1ドル113.10円でした。雇用統計発表後、雇用が強い→米利上げ時期が早まるとの思惑で、一瞬ドル高(円安)が進みました。

ところが、その直後、ドル安(円高)が急伸しました。平均賃金の伸びが小さかったことから、3月の利上げは難しいとの見方が浮上しました。

結局、雇用統計発表後の2月3日の為替は、1ドル113.40-112.30円の範囲で乱高下し、112.60円で引けました。雇用統計発表前(113.10円)より、50銭円高となりました。

3日のNYダウは、利上げが遅れるとの見方から、上昇し、2万ドル台を回復しました。

(3)トランプ・リスクが、円高圧力となっている

米景気はいよいよ回復色を強めています。それが、ドル高(円安)要因となっています。

一方、トランプ大統領が、ドル高(円安)批判のトーンを強めていることが、ドル安(円高)要因となっています。また、トランプ大統領が、保護貿易主義・排外主義の大統領令を乱発し、世界経済および金融市場に、不安を広げていることも、円高要因となっています。

先週は、中東・アフリカ7カ国からの米国入国の一時禁止をめぐって、米国内だけでなく世界中から批判が高まりました。入国禁止は、米地裁からの差し止め命令によって、撤回されることとなりましたが、それでも、入国禁止をめぐって深まった米社会分断の問題は、これからも尾を引きそうです。

ドル円為替レートは、日米首脳会談が予定されている2月10日まで、米政府要人による為替についての発言に神経質に反応する展開となりそうです。トランプ大統領が、円安批判を続けるか否かが重要です。

ただし、発表中の日本の10-12月期決算は好調で、日経平均はいずれ2万円台へ上昇すると予想しています。ただし、トランプ不安による円高圧力については、警戒が必要です。