執筆:窪田真之

今日のポイント

  • トランプノミクスの根幹は保護主義であり、長い目で世界経済にマイナス影響を及ぼすと考える。ただし、大規模な景気刺激策を取る方針を示していることから、短期的な効果に限定すると、世界経済にプラスと考える。
  • トランプノミクスで恩恵を受ける株は大きく分けて3種類と考えている。金融株・米景気敏感株・資源関連株の3つである。

(1)トランプノミクスは毒か薬か?

トランプノミクス(トランプ米大統領の経済政策)の根幹に、ポピュリズム(大衆迎合)による保護主義があり、長い目で見て、世界経済にプラス(薬)よりもマイナス(毒)が大きいと考えています。

ただし、トランプノミクスで大規模な財政出動を計画していることを考えると、短期的にはマイナスよりもプラス効果が上回る可能性もあります。

米景気はトランプ大統領がまだ何もしないうちに、回復色を強めています。にもかかわらず、トランプ大統領は、これから財政出動による大規模な景気刺激策を行うと宣言しています。景気刺激策は通常、景気悪化局面でやるのが常識ですが、景気回復局面で大規模な公共投資や減税を行うのは、前代未聞です。それこそ、究極のポピュリズムです。

景気回復局面で景気刺激策をとれば、米景気を一時的に過熱させかねません。長期的には、財政のガケ(公共投資の規模を縮小する際の景気悪化効果)、悪性インフレ、双子の赤字(財政赤字・貿易赤字)拡大といった問題を米国に生じかねません。

ただし、そうした問題が起こるのは、1年以上、先の話しです。短期的には、トランプノミクスの景気刺激策が、日本株にも世界の株式市場にも追い風となる可能性があります。

今日は、トランプノミクスの長期的な問題点ではなく、短期的な株高効果だけに注目して、メリット銘柄を考えてみます。

(2)トランプノミクスで恩恵を受ける3分野

トランプノミクスで恩恵を受ける分野は、大きく分けて3つあると考えています。金融株・米景気敏感株・資源関連株です。

  • 最大のメリットを受ける金融株

トランプノミクスで最大の恩恵を受けるのが、金融株となる見込みです。世界的な金利低下で利ザヤ低下に苦しむ世界中の金融株が、トランプノミクスへの期待が引き起こした世界的な金利上昇によって息を吹き返します。

ウォール・ストリート(金融業界)に厳しい政策を取ると思われていたトランプ大統領は、米証券大手ゴールドマン・サックス出身者を財務長官など重要ポストに起用する方針で、金融業界に友好的と見られるようになりました。

トランプ氏は、ドッド・フランク法(金融規制改革法: 2010年7月にオバマ大統領の署名で成立した法律で、金融業界の規制を強化する内容)を緩和する方針を示しており、実現すれば、金融業界に追い風です。

日本の金融株でも、米国やアジアで積極的に事業を拡大している3メガ銀行、三菱UFJ FG(8306)、三井住友FG(8316)、みずほFG(8411)にはトランプノミクスの恩恵が及ぶと考えています。国内事業は頭打ちですが、利ザヤが厚い海外事業に成長の期待がかかります。

大型M&Aによって、米国事業を拡大しつつある保険会社にもメリットはありそうです。米フィラデルフィア(損保)・米HCCインシュアランスを買収して海外事業を拡大する東京海上HLDG(8766)、米国中心に展開するエンデュランス・スペシャリティHD買収で合意したSOMPO HLDG(8630)、アジア・オーストラリアに進出しつつ米プロアクティブ生命買収も行った第一生命HLDG(8750)などに注目しています。

  • 米景気敏感株

大規模な景気刺激策を行う恩恵は、日本の「米景気敏感株」に及びます。天然ガスを原料とする米国の塩ビ事業で高い競争力を持つ信越化学(4063)や、高品質タイヤで高いブランド力を持つブリヂストン(5108)、米国でセメント事業を展開する太平洋セメント(5233)、米国やアジアで受注拡大が期待される工作機械メーカーのオークマ(6103)・牧野フライス(6135)などに恩恵が及ぶ可能性があります。

米社買収で、高成長が期待される車載半導体で世界3位に躍り出るルネサスエレクトロニクス(6723)にも、期待がかかります。

シェールオイル革命の恩恵でエネルギーコストが低下したことにより、米国では、燃費の良くない大型でパワフルなSUVの人気が復活しています。米国でSUVの販売が好調なトヨタ自動車(7203)・富士重工(7270)に恩恵があります。実現性は疑問視されるものの、トランプ氏は自動車の燃費規制をゆるめる可能性にも言及しています。そうなると、燃費の良い日本の小型車に逆風となるが、大型SUVには追い風です。

ただし、トランプ大統領は、日本の自動車メーカーによる米国向け輸出を敵視する発言を繰り返しており、日本車をターゲットとした規制ができると、ダメージを受けることになります。メリットとデメリットのどちらが大きくなるか、現時点でわかりません。

  • 公共投資拡大・シェール開発促進で資源関連株にメリット

昨年、中国政府がインフラ投資を拡大した効果で、中国景気が持ち直し、原油や原料炭・鉄鋼石の価格が上昇しました。さらにトランプ大統領のインフラ投資拡大策が伝わり、銅・亜鉛・ニッケル・アルミニウムなど、インフラ整備で需要が増える非鉄金属の価格が上昇しました。これで、世界中の資源関連株が息を吹き返しました。

世界中で資源開発を行い、資源権益を保有する三菱商事(8058)・三井物産(8031)など大手総合商社は、2016年3月期に資源権益で巨額の減損が発生しましたが、2017年3月期は資源事業の回復が追い風となります。

トランプ大統領は、自然エネルギーの利用促進に否定的な一方、シェールガス・オイルの開発促進には意欲的です。米国内の国有地でのシェール開発で、開発認可が出やすくなると、原油価格の上昇効果もあり、北米でシェール開発が息を吹き返します。そうなると、鉱山機械で高い競争力を有する小松製作所(6301)にも恩恵があります。