執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 9-11月決算が出揃った。小売り・サービスなど内需関連の好調が目立つ。
  • 東宝は大ヒット作に恵まれた今期は絶好調だが、来期も大ヒットが出るか未知数。セブン&アイは、コンビニの成長と構造改革の効果で、来期以降も最高益が見込まれ、投資魅力は高いと考える。ローソンは、好配当利回り株として評価。ファストリはアジアで成長続くが国内は成長余地が低下。ビックカメラは、インバウンド需要減少で足元低調だが、先行き回復見込む。

本レポートでコメントする銘柄

東宝(9602)・セブン&アイHLDG(3382)・ローソン(2651)・ファーストリテイリング(9983)・ビックカメラ(3048)

(1)9-11月決算が出揃う 好調な内需企業多い

日本には、3月決算企業が多く、これから始まる10-12月期(2017年3月期の第3四半期)決算発表で、日本の企業業績に回復色が強まっていることが確認できるか、注目されています。

ところで、一足先に、9-11月決算が発表されました。小売り・サービスなどの内需企業に、3月決算と1ヶ月ずらした2月決算や8月決算が多数あります。小売り・サービスなど内需関連には好調企業が多く、いずれ見直される機会もあるかと思います。

(2)大ヒット作にめぐまれた東宝は最高益更新もいったん材料出尽くしか

16日、東宝が2017年2月期の第3四半期(9-11月)決算を発表しました。

東宝の業績推移
(金額単位:億円)

決算期 実績/予想 売上高 前年比 経常利益 前年比
2016年3-11月 実績 1,781 +2% 425 +26%
今期(17年2月期) 会社予想 2,340 +2% 485 +14%
今期(17年3月期) 市場予想 2,360 +3% 503 +18%
来期(18年2月期) 市場予想 2,326 ▲2% 459 ▲9%

(出所:実績・会社予想は同社決算短信、
市場予想は1月16日時点のアイフィスコンセンサス予想)

第3四半期まで(3-11月)の経常利益は、26%増の425億円と最高益を更新しました。アニメ映画「君の名は」や、「シン・ゴジラ」などの大ヒット作が貢献し、2016年の年間興行収入が前年比17%増の854億円と過去最高を更新したことが貢献しました。これまでの最高は、2010年の748億円で、この時も複数の大ヒット作がありました。

通期(2017年2月期)の経常利益について、会社は14%増の485億円と最高益更新を予想しています。市場予想では、18%増の503億円が予想されています。

今期絶好調の東宝ですが、株価は目先、材料出尽くしで上値が重くなる可能性もあります。来期(2018年2月期)も、今期と同様な大ヒットに恵まれるか、現時点でわからないからです。来期経常利益の市場予想は、9%減の459億円となっています。

ただ、世界経済や為替の影響を受けずに、安定的に高収益を上げられる体質となってきたことは、評価されます。TOHOシネマズの劇場・スクリーン数は安定的に増えており、また、興行後のコンテンツ収入(DVD販売など)もあり、大ヒット作がなくても、安定的に収益を稼げる体質となってきています。目先、好材料出尽くしの形となりますが、大きく株価が下がるとは考えていません。

(3)コンビニの成長とリストラ効果で最高益続くセブン&アイは投資魅力高いと考える

12日に、セブン&アイが2017年2月期の第3四半期(9-11月)決算を発表しました。内外でコンビニが好調で、来期以降も最高益を更新していく見通しが高まったことを受け、同社株は、13日に前日比382円(9%)高の4,832円と大きく上昇しました。16日は73円安の4,759円でした。

セブン&アイHLDGの業績推移
(金額単位:億円)

決算期 実績/予想 経常利益 前年比 最終損益 前年比
2016年3-11月 実績 2,764 +6.6% 755 ▲40%
今期(17年2月期) 会社予想 3,510 +0.2% 800 ▲50%
今期(17年2月期) 市場予想 3,555 +2% 847 ▲47%
来期(18年2月期) 市場予想 3,857 +9% 2,047 +235%

(出所:実績・会社予想は同社決算短信、
市場予想は1月16日時点のアイフィスコンセンサス予想)

セブン&アイは、長年にわたり、コンビニ好調、百貨店・スーパー(イトーヨーカ堂)不振の構造が続いてきました。今期は、従来から取り組んできたスーパーのリストラに加え、百貨店(そごう西武)のリストラ(店舗閉鎖や売却)を加速することによる特別損失が出るため、最終損益は、半減する見通しです。ただし、経常利益は、内外のコンビニが好調で、小幅に最高益を更新する見通しです。

来期経常利益は、市場予想では、さらに9%増加し、最高益を更新する見通しです。来期最終損益は、特別損失が一巡する効果で235%の大幅増益が見込まれています。

来期以降も、コンビニ中心に成長が続く姿が見えてきたことが好感され、株価は上値を目指すと予想します。

ただし、気をつけるべきは、百貨店とスーパーストア事業のリストラが完了したわけではないことです。来期も金額は縮小すると思いますが、特別損失が出る可能性はあります。

また、セブン&アイで問題となるのは、「第二の創業」として積極的に取り組んできた通販事業が赤字のことです。2016年3-11月のセグメント利益を見ると、百貨店が▲35億円の赤字であるほか、通販事業も▲77億円の赤字です。通販事業は、配送費などのコストが重く、今のままでは黒字転換が難しい状況です。今後、やり方を変えて黒字を目指すことになりますが、現時点で抜本的な対策がまだ取られていません。

(4)ローソンは低成長だが、配当利回りが魅力

ローソンは、11日に2017年2月期の第3四半期(9-11月)決算を発表しました。

ローソン業績推移
(金額単位:億円)

決算期 実績/予想 経常利益 前年比 最終損益 前年比
2016年3-11月 実績 569 ▲6% 338 +8%
今期(17年2月期) 会社予想 730 +5% 355 +13%
今期(17年2月期) 市場予想 710 +2% 359 +14%
来期(18年2月期) 市場予想 734 +3% 380 +6%

(出所:実績・会社予想は同社決算短信、
市場予想は1月16日時点のアイフィスコンセンサス予想)

ローソンの2016年3-11月の経常利益は、▲6%と減益でした。ただし、来期には経常最高益を更新する見込みです。セブンーイレブンと比べると平均日販や競争力で劣りますが、同社に次ぐ高い競争力を維持しています。

セブンーイレブンと比較すると、さまざまな点で、出遅れています。セブンのように、海外で高い利益を稼ぎ成長するビジネスモデルを確立できていません。国内でコンビニ業界の成長が飽和点に達しつつある中で、海外での成長が軌道に乗っていないのは不安要素となります。

プレミアム・ブランドの育成でも、セブンに及びません。セブンは、セブンプレミアムというブランドで信頼を得られるようになりました。ローソンは今一歩、ブランド力でキャッチアップできていません。高品質ブランドの育成を、ナチュラル・ローソンという別業態を立ち上げたことが、ローソン自体のプレミアム・ブランド化が遅れる原因になったと考えます。

ただし、国内コンビニでセブンに次ぐ競争力を持つローソンの成長余地が、全くなくなったとは考えていません。来期以降に最高益を見込むことを考えると、16日時点で予想配当利回りが3.1%ある株価は、魅力的と考えます。

(5)ファストリは、海外での成長力が回復しつつあるが、国内の成長余地低下が懸念材料

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(ファストリ)は、12日に2017年8月期の第1四半期(2016年9-11月)決算を発表しました。経常利益は前年同期比34%の1,042億円と好調でした。

ファストリ業績推移
(金額単位:億円)

決算期 実績/予想 経常利益 前年比 最終損益 前年比
前期(16年8月期) 実績 902 ▲50% 480 ▲56%
2016年9-11月期 実績 1,042 +34% 696 +45%
今期(17年8月期) 会社予想 1,750 +94% 1,000 +108%
今期(17年8月期) 市場予想 1,843 +104% 1,107 +130%

(出所:実績・会社予想は同社決算短信、
市場予想は1月16日時点のアイフィスコンセンサス予想)

今第1四半期(7-9月期)は、▲50%の経常減益となった前期(2016年8月期)からの回復の勢いがどの程度か見る重要な決算でした。第1四半期は34%経常増益で好調と言えますが、課題も見えてきました。

前期は、国内と海外が両方悪化しました。今第1四半期は、海外ユニクロ事業の利益が大幅に伸びて、回復を牽引しました。ただし、国内ユニクロ事業の回復は道半ばです。

ファストリの2016年7-9月期セグメント情報
(金額単位:億円)

報告セグメント 営業利益 前年比
国内ユニクロ事業 456 +2%
海外ユニクロ事業 301 +45%
グローバルブランド事業 95 ▲23%

(出所:同社決算短信)

海外では、グレーターチャイナ(中国・香港・台湾)などアジアの伸びが顕著でした。アジアで成長するビジネスモデルは健在であることを再確認しました。ただし、米国では利益を稼げていません。前期赤字に転落した米国は、赤字幅が縮小しました。

課題は国内です。国内ユニクロ事業の通信販売を加えた既存店販売は、9-11月期が+2.5%と好調でした。ただし、12月の既存店販売が▲5%と落ち込んでおり、すんなり回復軌道に乗ったとは言えません。

国内で立ち上げたGUなどの新業態を含むグローバルブランド事業が減益になったことが課題として残ります。国内ユニクロの出店による成長余地が徐々に低下する中で、ファストリ経営陣は、ユニクロよりも低価格帯の品揃えを充実したGUを、新たな成長の柱と見ていました。

ユニクロと GUは客層が異なり、競合しないのでGU独自に成長を追求できるというのが、ファストリ経営陣の見方でした。ただし、今期の出だしを見る限り、ユニクロとGUには、競合する部分もあり、GUで出店を加速するのにはリスクもあると考えられます。

まとめると、ファストリは海外での成長力を回復しつつあることが評価できますが、国内で成長が頭打ちになりつつあるとの見方を現時点で変えることはできません。

(6)ビックカメラは、インバウンド需要減少で9-11月期減益も、通期で最高益更新見込む

ビックカメラは、12日に2017年8月期の第1四半期(2016年9-11月)決算を発表しました。経常利益は前年比▲16%と落ち込みました。

ビックカメラの業績推移
(金額単位:億円)

決算期 実績/予想 経常利益 前年比 最終損益 前年比
前期(16年8月期) 実績 230 +13% 119 +76%
2016年9-11月期 実績 28 ▲16% 15 ▲26%
今期(17年8月期) 会社予想 242 +5% 125 +4%
今期(17年8月期) 市場予想 246 +7% 132 +10%

(出所:実績・会社予想は同社決算短信、
市場予想は1月16日時点のアイフィスコンセンサス予想)

ビックカメラは、インバウンド関連(訪日外国人観光客の買い物関連)株として知られます。都心中心立地の家電量販店で、インバウンド需要増加の恩恵を受けてきました。前期(2016年8月期)は、後半にかけ、急激に進んだ円高によりインバウンド需要が落ち込んだにもかかわらず、増益を維持していました。

今期は、会社予想では、経常利益・最終損益で最高益更新を見込んでいます。ところが、第1四半期(9-11月期)は減益となり、ついにインバウンド落ち込みの影響が出たことがわかります。広島に大型店を出店したコストも減益に影響しました。

第1四半期が不振でしたが、会社は、通期で最高益を更新する予想を変えていません。円安が進んだことによってインバウンド需要の盛り返しが期待されることに加え、大型店の出店を行った効果も出てくると期待されています。

第1四半期の減益はネガティブですが、今後の回復が見込まれるので、株価は堅調に推移すると考えます。