今日のポイント
- 世界経済を主導する米国の景況感や期待インフレ率は上向いており、昨秋からの「グレートローテーション(債券から株式への資金シフト)」は新年に持ち越されつつある。
- 今年の相場も幾度かは「乱気流(リスク顕在化)」に見舞われる可能性。米国と世界の経済政策不確実性指数は急上昇。政治的な混乱や政策を巡る不透明感台頭に要注意。
- 欧米と比較して安定した国内政治や政策の継続性は海外勢による日本株の買い要因。12月の鉱工業生産指数上昇で国内景気は2年8カ月ぶりに「基調持ち直し(経産省)」。
(1)米景況感の改善と期待インフレの上昇
米国を筆頭とする世界の景況感改善を背景とする米国株高、円安、国内株高も、昨年末に一服商状がみられました。ただ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の改善トレンドが終わったとみるのは時期尚早と思われます。米国では、調査会社コンファレンス・ボードが12月27日に発表した消費者信頼感指数(12月分)が2001年8月以来15年4カ月ぶりの水準まで上昇しました。また、債券市場で計算される「期待インフレ率」はFRB(米連邦準備制度理事会)が目標とする2%に迫ろうとしています(図表1)。米GDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費のマインド改善とインフレ期待の上昇は、「債券売り・株式買い」の継続を示唆しているようにみえます。米国債券の利回りは上昇傾向を辿りやすく、為替のドル高・円安を介して、日本株堅調の追い風となりそうです。
(2)新年相場は経済政策の不確実性に揺れやすい
上記した景況感改善に加え、米トランプ新政権がリフレ政策(インフレ誘発的な財政拡張政策)を導入していくとすれば、2017年もリスクが相対的に高い株式のリターンが安全資産とされる債券のリターンを上回ると考えられます。ただ、昨年と同様、新年も幾度かは「乱気流(リスクの顕在化)」に見舞われ、市場が乱高下する展開に直面しそうです。その発端となりそうなのが、政治的な混乱や経済政策を巡る不確実性の高まりと考えられます。図表2が示す「経済政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index)」は、米スタンフォード大学などの教授が開発した指数で、米国や世界の経済政策を巡る不確実性の度合いを示す指標です。同指数は、主要メディアに掲載された関連記事における「不確実性(Uncertainty)」やそれに類する言葉を集計したもので、一般社会における経済政策を巡る不透明感の度合いを示すモノサシとして注目されています。
図表2:米国と世界の経済政策不確実性指数
米国・経済政策不確実性指数は、11月の大統領選挙の結果を受け、2013年以来の水準まで上昇しました。また、世界・経済政策不確実性指数(主要各国のGDP規模で加重平均した指数)は、2015年のチャイナショック(中国危機)発生時に欧州債務危機(2012年)当時の水準を突破。2016年はBREXIT(英国のEU離脱を巡る国民投票)と米大統領選挙を巡る不透明感で1997年以来の水準に上昇しました。相場に不透明感は付きものですが、新年は世界の政治情勢や経済政策を巡る不確実性が市場変動に繋がるリスクに注意を要します。具体的な要因としては、(1)トランプ次期米大統領によるリフレ策の実効性や規制緩和への期待が頓挫する、(2)同大統領が保護貿易主義や外交面の排外的孤立主義(米国第一主義)に傾倒する、(3)今年予定されている欧州主要国(オランダ、フランス、ドイツ)での選挙で極右勢力が躍進し、EU統合や通貨ユーロを巡る不安が高まる、(4)米国の外交方針変更を契機に、中国、ロシア、中東との地政学的バランスが崩れる、などが懸念材料として挙げられます。こうしたリスクが顕在化すれば、市場の先行き警戒感が強まり、事態の悪化次第では株式のリスクプレミアムが上昇する(株式の収益期待に下方圧力がかかる)可能性が否定できません。当面は、大統領就任(1月20日)後のトランプ氏の言動や欧州の政治情勢に目配りが必要となりそうです。
(3)日本の政治的安定性は下支え要因か
米国や欧州で政治や政策面の不確実性が高まるなか、グローバル投資家の間では日本の政治面での相対的安定が注目されています。衆院解散総選挙の時期は不明ですが、野党勢力の弱体化も影響し、再登板から5年目を迎える安倍首相を中心とした与党勢力は政治基盤を強めています。共同通信の世論調査によると、昨年末の「内閣支持率」は約3年ぶり高水準である60.7%まで上昇しました。日本の政治経済が完璧とは思いませんが、欧米と比較して安定感のある政治情勢に、世界景気回復と円安を背景とする業績改善期待が重なり、海外勢(外国人投資家)が昨秋から日本株を買い戻してきたと考えられます。
図表3:日本の鉱工業生産指数と株価の推移
なお、外部環境の改善を契機に国内の生産活動に持ち直しの動きもみられます。経済産業省が12月28日に発表した11月の鉱工業生産指数(速報値)は前月比で1.5%上昇しました(図表3)。経産省は同日、設備更新需要の回復を主因に、景気の基調判断を「持ち直しの動き」に上方修正しました。「持ち直しの動き」との判断は、前回消費税率が引き上げられた直前(2014年3月)以来2年8カ月ぶりです。2017年も、黒田日銀総裁は12月26日の講演で、「世界経済はリーマン・ショック後の調整局面を脱し、日本経済や企業経営に追い風が吹きつつある」との認識を示しました。
2013年のアベノミクス相場でみられた輸出、生産、設備投資、企業業績の持ち直しが株式市場を支えた動きを、2017年に再現できるかどうかも注目したいと思います。
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