執筆:窪田真之

今日のポイント

3メガ銀行株は、昨年後半、世界的な金利上昇を好感して急騰したが、投資対象として今でも魅力的と考えている。今後、海外事業の拡大によって成長する余地があることに加え、配当利回りやPERなどの株価指標から見て、株価が割安であることが評価できる。

(1) 昨年後半は長期金利上昇を受けて世界的に金融株が上昇

トランプ次期大統領が、大規模な公共投資・減税を実施して米景気を強化する方針を示してから、米国で長期金利(10年国債利回り)が急上昇しました。米景気の回復期待と、米財政赤字が膨らむ懸念から、長期金利に上昇圧力がかかりました。

昨年後半は、米国だけでなく、世界的に長期金利が上昇しました。資源価格の上昇で、デフレ懸念が低下したこと、世界的に景気が回復歩調にあることが影響しています。

米英独日の長期金利(10年国債利回り)推移:2016年1月4日―2017年1月4日

長期金利上昇を受けて、昨年後半は世界的に銀行など金融株が急上昇しました。銀行株は、昨年前半まで、長期金利の低下によって預貸金利ザヤが縮小する懸念で売り込まれていましたが、長期金利反発をきっかけに、一斉に急反発しました。

アメリカでも、長期金利上昇を受けて、銀行株が急上昇しました。アメリカの銀行株も財務・収益は問題ないものの、金利低下を不安視する投資家に売られて、かなり割安なバリュエーションに放置されていました。金利上昇が、割安な銀行株の見直し買いにつながりました。

ウォール・ストリート(金融業界)に厳しい政策を取ると思われていたトランプ次期大統領が、米証券大手ゴールドマン・サックス出身者を主要ポストに起用するなど、金融業界に友好的と見られる人事方針を示したことも、米国で金融株が買われる要因となっています。また、トランプ氏が、ドッド・フランク法(金融規制改革法:リーマンショックの経験を経て2010年7月に導入された法律で、金融業界の規制を強化する内容)を緩和する方針を示していることも、金融業界に追い風と見られています。

(2)銀行株が何でも買われる局面は終わりつつある可能性も

日本でも、金利上昇を受けて、金融株が急上昇しました。昨年後半に株価がかなり上昇したので、ここからは買いにくいとの見方もあります。

私は、海外事業の拡大によって成長する余地のある大手金融株の上値余地は依然大きいと見ています。ただし、国内事業に特化している金融機関は、成長性がないため、ここからは上値が重くなると見ています。金融株の中で、選別が進むと考えています。

具体的に言うと、海外事業を拡大しつつある3メガ銀行株(三菱UFJ FG(8306)・三井住友FG(8316)・みずほFG(8411))株の投資魅力は高いと考えています。伝統的な国内での商業銀行業務の収益低迷は続くものの、利ザヤが厚い海外での与信や、多角化(信託・証券・リース・消費者金融など)事業を拡大することによって、成長する余地があるからです。

同様に海外事業の拡大を進めている大手損保(東京海上HLDG(8766)やSOMPO HLDG(8630))も、投資対象として有望と考えています。

一方、国内の商業銀行業務が中心の地方銀行やゆうちょ銀行(7182)は、上値が重くなってくると見ています。日本の長期金利は、反発したといっても、まだ0%近辺です。国内商業銀行の利ザヤが圧迫される状況は変わりません。

(3)満を持して海外事業拡大に舵を切る大手銀行

海外利益の拡大が軌道に乗りつつある日本の3メガ銀行の投資魅力は高いと考えています。3メガ銀行の海外事業拡大には、3つの追い風が吹いています。

  • 3メガ銀行の財務が強固になったこと
    海外与信拡大の余力が増しました。
  • 欧州の銀行の財務が悪化したこと
    海外のプロジェクト・ファイナンスで邦銀が競争優位にたつようになりました。
  • 円安が進んだこと
    海外事業利益(外貨建て)の円換算額が拡大しました。つまり、邦銀にとって円ベースで見た海外事業の収益性がさらに高くなりました。

実は、邦銀が海外与信拡大に注力するのは、今回が2度目です。最初に海外与信を積極拡大したのは、1980年代でした。日本企業の海外進出が進むにしたがって、大手銀行も海外進出し、主に日系企業向けの与信を拡大しました。

ところが、1990年代に入り、邦銀は海外事業の縮小を余儀なくされました。日本の不動産バブル崩壊で財務内容の悪化した邦銀は、海外で資金調達コストが上昇したため、海外で利ザヤが得られなくなりました。さらに、1990年代半ばに、中南米危機が起こると、海外でも不良債権が増えました。

3メガ銀行は、今また、満を持して海外与信の拡大に動いています。1990年代に海外事業縮小を余儀なくされた経験から、無理な規模拡大に走らず、慎重に与信管理しながら事業拡大をはかっています。

(4)「成長性ない内需株」から「海外で成長する株」へイメージが変わると株価評価も変わる

小売株などでよく見られることですが、海外での売上(または利益)の比率が20%を超えてくると、「成長性ない内需株」から「海外で成長する株」へイメージが変わります。すると、PER(株価収益率)で高い倍率まで株価が買われるようになります。

3メガ銀行は、今後5~10年かけて、徐々に「成長性ない内需株」から「海外で成長する株」へイメージが変わっていくと予想しています。現在、成長しない内需株としてPER9倍~12倍で評価されていますが、イメージが変われば、PER15倍以上で評価されるようになると考えています。

3メガ銀行の株価バリュエーション:1月4日時点

コード 銘柄名 株価:円 配当 PER:倍 PBR:倍 最低投資金額:円
8306 三菱UFJ FG 745.2 2.4% 12 11.7 74,520
8316 三井住友FG 4,563.0 3.3% 9 8.9 456,300
8411 みずほFG 215.7 3.5% 9 9.1 21,570

(注:楽天証券経済研究所が作成)

大手銀行株は、好配当利回り株として評価でき、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの株価指標で見ても、割安ということができます。成長性がないというイメージが変わるかどうかが、今後の株価評価を決めていく鍵になると思います。

(5)大手銀行株は出遅れ

3メガ銀行株の過去半年の値上がり率が高いので、銀行株への投資は手遅れと感じる方もいるかもしれません。過去1年で見ると、急落後に急騰しただけで、なお、日経平均を下回る出遅れ株となっています。

日経平均および3メガ銀行株の値動き比較:2015年末―2017年1月4日

(注:2015年末の価格を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

海外展開の進んでいる銀行ほど、株価の反発率が高くなっています。みずほFGは、3メガ銀行の中で比較すると、海外展開がやや遅れているため、株価の反発率が低くなっています。

より長い期間の値動きを見ると、3メガ銀行がすべて出遅れ株であることがわかります。

日経平均および3メガ銀行株の値動き比較:2007年1月31日―2017年1月4日

(注:2007年1月末の価格を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)