執筆:窪田真之

今日のポイント

  • OPEC減産合意を受けてWTI原油先物は1バレル50ドル台に乗せた。原油上昇は、今のところ、日本株にも世界の株式にもプラス。
  • OPEC合意は守られない可能性が高い。来年も供給増加は続く。原油は目先反落の可能性も。ただし、来年は世界景気回復を受けて、需要が順調に拡大するので、原油急落はないと予想。
  • 4日実施のイタリア国民投票では改憲提案が否決され、レンツィ首相が辞任を表明。改憲否決を訴えてきた反EU勢力「五つ星運動」の勢力拡大が続く見込み。改憲否決は事前の市場予想通りで、金融市場に大きなショックとなっていないが、今後イタリアの政局が不安定になることには注意が必要。4日実施のオーストリア大統領選では、移民排斥を唱える極右候補が敗退。

(1)原油先物の反発が続いていることは、世界景気に追い風

11月末のOPEC(石油輸出国機構)総会で、原油減産で合意できたことを好感し、原油価格が上昇しています。事前の市場予想では、サウジアラビアとイランが減産枠で合意できず、合意は見送られるというものでした。予想外の減産合意のニュースを受けて、原油は上昇しました。さてこの原油上昇はいつまで続くのでしょうか?

OPECの減産合意は、過去には守られたためしがありません。今回の減産合意も守られない可能性が高いと思われます。したがって、原油価格は上値が重いと考えています。ただし、世界景気の回復を受けて、世界需要が順調に拡大すると見ています。

したがって、来年は、原油価格は大きく下げることも、大きく上げることもなく、一定のレンジで推移すると見ています。WTI原油先物で、1バレル45ドルー60ドルの範囲で推移すると予想しています。

日本は、長い目で見れば、資源安の恩恵を受ける国ですが、短期的には、原油急落で大きなダメージを受けました。前期(2016年3月期)の企業業績は、資源安の影響で、大きく下ぶれしました。資源権益の減損、資源の高値在庫の評価損に加え、資源国でのビジネス悪化が、下ぶれ要因となりました。

世界全体の景気にとっても同じでした。原油急落が、産油国の景気を悪化させるのは当然ですが、原油の輸入国も、逆原油ショックでダメージを受けました。昨年、産油国が世界中の株を売りまくったことも記憶に新しいところです。原油下落によって収入が目減りするのを、保有する金融商品の売却で補おうとしたためです。産油国の売りで世界の株安がさらに加速し、世界景気の悪化につながりました。

今年に入って原油が反発していることは、世界経済にとっても、世界の株式市場にとってもプラスに働いています。今期(2017年3月期)は、原油価格の反発により、資源関連株の業績が急回復することが、日本の企業業績を牽引します。

原油価格が上昇しすぎると、今度はコストアップによるマイナスが日本経済に及びますが、1バレル50-60ドル辺りは、資源関連株の業績が改善し、かつ、日本経済全体にとって大きなコストアップ要因とならない、居心地のよい水準と考えられます。

(2)原油価格は、長い目で見ると、原油需給の変化を映して動いている

原油価格は短期的なニュースで乱高下していますが、長い目で見ると、原油需給の変化に対応して動いています。原油が急落・急反発した過去3年を、まず簡単に振り返ります。

WTI原油先物(期近)の動き:2014年4月1日―2016年12月2日

(出所:シェールオイル生産コストは楽天証券経済研究所の推定)

原油の世界需要と世界供給:2014年-2016年7-9月まで
(単位:日量百万バレル)

   2013年 2014年 2015年 2016年
1-3月 4-6月 7-9月
世界需要 90.7 91.6 93.2 93.5 93.7 95.1
世界供給 90.2 92.5 95.2 95.7 94.6 95.4
需要-供給 0.5 ▲0.9 ▲2.0 ▲2.2 ▲0.9 ▲0.3

(出所:OPEC月報11月号より楽天証券経済研究所が作成)

グラフ内の矢印①―⑤の価格変動要因は、以下の通りです。

2014年に原油価格が急落

2013年まで原油の世界需給は、日量50万バレルの需要過剰だったが、2014年に日量90万バレルの供給過剰になったために、下落した。米国でシェールオイルの生産が拡大したことが、供給過剰を招いた。

2015年の初めに原油価格が反発

原油急落により、米国のシェール油田でコスト割れが増えたことにより、シェールオイルの生産が減るとの思惑で原油が反発。

2015年後半に原油価格が再び急落

中東原油が増産されたため、2015年の供給過剰が日量2百万バレルまで拡大したために、原油価格が急落。高コストの米シェール油田は廃業に追い込まれたが、低コストのシェール油田が増産したために、シェールオイルの減産も思うように進まなかった。

2016年に原油価格が反発

米シェールオイルの生産がようやく減り始めたこと、OPECが減産に向けて話し合いを始めたこと、世界需要が順調に拡大したことを受け、原油需給が徐々に改善に向かい、原油価格が反発しました。供給過剰は、7-9月には、日量30万バレルまで縮小しています。

2016年後半、原油価格は堅調だが上値重い

原油を増産したいのに我慢している国が世界中にあることから、原油の上値は重くなっている。OPEC減産合意を受けて、足元原油価格が1バレル50ドルを超えているが、合意が守られる見通しは低い。ただし、原油需要が順調に拡大していることは需給改善にプラス。

(3)原油価格の動きは継続的に見ていく必要がある

原油をめぐる目先の材料と、世界的な原油需給の変化を、これからも良く見ていく必要があります。当面、原油価格が上がったほうが、日本株にも世界の株式市場にもプラスの状況が続きます。上がりすぎると、マイナス効果も出てきますが、隙を見て増産しようと狙っている産油国がたくさんあるので、原油が1バレル60ドルを超えて上昇していく可能性は低いと思います。原油価格の変動は、日本株の上昇下落に大きく影響するので、本欄でも継続してこのテーマを取り上げます。