執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 12月14日にFRBが0.25%の利上げを決定することを先に織り込み、ドル金利が上昇、円安・株高が進んでいる。利上げが無ければ、円高・株安に反転するリスクがある。
  • 米景気は回復、米インフレ率が上昇しつつある。イエレンFRB議長は利上げを示唆しており、利上げが実施される可能性は高い。
  • 12月2日発表予定の米雇用統計と、トランプ次期大統領の発言には注意が必要。

(1)12月14日の米利上げを織り込み、ドル金利が上昇

12月13-14日のFOMC(米金融政策決定会合)で、0.25%の利上げが決定される(FF金利の誘導水準0.25-0.5%を、0.5-0.75%へ引き上げる)ことを、世界の金融市場は、先に織り込みました。利上げ実施前に、既にドル金利が上昇、ドルが全面高となりました。ドル高(円安)を好感して、日経平均も大きく上昇しました。

米国の10年・5年・2年金利推移:2016年1月4日―11月28日

米FRB(中央銀行)のイエレン議長は、近く利上げが実施されることを示唆しており、12月14日に利上げが発表されなければ、大きなサプライズ(驚き)となります。

米FRBは、市場との対話を積極的に行い、金融政策の変更を先に織り込ませ、変更当日に、金融市場に大きなショックを起こさないことを目指しています。昨年12月の利上げでも、イエレン議長は先に利上げの示唆をしていましたので、利上げ発表当日は、金融市場に大きな変動は起こりませんでした。

今年の12月14日は、「利上げがあれば市場に大きな反応はなく、利上げが無ければ大きな反応が起こる」と考えて良いと思います。

もし利上げが無ければ、ドル金利が低下し、円高・株安が進むことになるでしょう。そうなる可能性は低いと思いますが、リスク要因として意識しておく必要はあります。

(2)米インフレ率は上昇傾向にあり、利上げが適切

米FRBが指摘している通り、米景気は回復、インフレ率が上昇しつつあり、利上げが適切と考えられる環境にあります。

日米インフレ率(CPI総合指数の前年比変化率)の推移:
2014年1月―2016年10月

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

上記グラフが示しているのは、エネルギー価格変動の影響を含む、CPI(消費者物価指数)総合指数から計算されるインフレ率です。2014―15年には、日米とも原油価格の下落を受けて、インフレ率が低下しました。ところが、2016年に入り、米国のインフレ率は回復しているものの、日本は低迷しています。ここに、日米の景気回復力の差が表れています。

日米政策当局は、金融政策の指針として、総合指数ではなく、コア指数を見ています。

日米のCPI総合指数・コア指数前年比変化率:2016年10月時点

消費者物価指数 日本 米国
総合指数 +0.1% +1.6%
(生鮮食品を除く)コア指数 ▲0.4% NA
(エネルギー・食品を除く)コア指数 +0.2% +2.1%

(出所:日本は総務省、米国は米労働省)

日銀は金融政策決定のための指標として、(生鮮食品の価格変動の影響を除く)コア指数を見ています。これで見ると、10月時点で▲0.4%です。一方、米FRBは、(エネルギー・食品を除く)物価指数を見て判断しています。CPIで言うと、(エネルギー・食品を除く)コア指数を見ていることになります。これは、10月時点で+2.1%です。

日米でCPIコア指数の定義が異なるので、総務省は、比較のために、米国と同じ方法で計算したコア指数も発表しています(日本のコア指数と区別するために、コア・コア指数と呼んでいます)。日本のコア・コア指数は、10月時点で+0.2%です。

このように、インフレ率に差が出ていることから、日本は緩和的な金融政策を継続するのが適切で、米国は利上げを実施するのが適切な環境にあると言えます。

(3)12月2日発表の米雇用統計と、トランプ発言に注目

12月2日に発表予定の11月の米雇用統計が、利上げ判断に重要な影響を与えます。米国は、実質的に完全雇用に近い状態と考えられており、よほど悪い指標が出ない限り、利上げの障害とはならないと思います。発表が近づけば、為替の動きはやや神経質となる可能性もあります。

米政府筋から横ヤリが入らない限り、12月の利上げは実施されると思います。ただ、トランプ次期大統領が、利上げやドル高に反対を表明していたことは、気がかりです。

トランプ氏は現在はまだ大統領ではない(1月20日に大統領就任)ので、今、FRBの利上げに反対を表明することはないと思います。

それでも、万一、利上げを批判する暴言が出ると、為替市場に波乱が起こる可能性があるので、注意が必要です。