執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 世界経済の回復色が強まりつつあるところで、積極的な景気刺激策をとるトランプ氏が米大統領に勝利し、世界的な株高につながった。
  • 欧州では、反移民・反難民を唱える極左・極右政党が急激に勢力を拡大しており、それが反EUに結びつき始めている。来年、欧州各地に反EU運動が広がるリスクがある。
  • ISテロ、東アジアの地政学リスク拡大にも注意が必要。

(1)トランプ歓迎相場が続いているが、ポピュリズムの問題が解決したわけではない

ポピュリズム(大衆迎合主義)の過激発言で物議をかもしたドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利してから、世界的に株が上昇しています。世界の株式市場が、ポピュリズムを歓迎しているかのような錯覚にとらわれます。

私は、世界を覆うポピュリズム(大衆迎合主義)が株式市場の重大なリスク要因であることは変わらないと考えています。トランプ歓迎相場が実現したのは、以下の3つの理由によると思います。

トランプ当選前から世界景気に回復の兆しが出ていた

私は、現在の世界的な株高の主因は「世界経済の回復」にあると考えています。トランプ当選がなくても(クリントン当選の場合も)、遅かれ早かれ、世界経済の改善を好感した世界的な株高は実現していたと考えています。クリントン氏は、トランプ氏ほど強力な景気対策を実施する方針は示していませんでしたが、それでも大規模インフラ投資を実施する方針を示していたことは同じです。

日本および世界の株式市場を見ると、6月までは景気敏感株を売ってディフェンシブ株(世界景気の影響を受けにくい株)を買うのが主流でしたが、7月から景気敏感株を買ってディフェンシブ株を売る流れが出ています。この頃から、金融市場に世界景気の回復を買う流れは出ていました。

米景気を過熱させかねないトランプノミクスの発表を受けて、世界景気回復の流れが鮮明になると考えた投機筋が一斉にリスク・オンに転じたため、トランプ・ラリーが実現したと考えています。

当選後のトランプ氏が過激発言を封印し、優等生発言を続けている

当選後のトランプ氏は、保護貿易主義の過激発言を控えています。また、他国との摩擦を生む対外強硬発言も、人種・民族・宗教の対立をあおる発言も、今のところ控えています。外交や経済で、現実路線を打ち出しているように見えることが、トランプ次期大統領の不安を和らげています。

強烈な景気刺激策を取る方針を表明

トランプ氏の選挙後の豹変に世界中が驚きましたが、このままでは、トランプ氏に投票した労働者階級の反感を買うことになりかねません。トランプ氏は、強烈な景気対策(減税と公共投資)を推進し、米景気を強くすることで、労働者層にも資本家層にも歓迎される大統領となることを目指しているように、見えます。究極のポピュリズム政策と言えます。

(2)世界中にポピュリズムのリスクが拡大している

大衆に迎合し、資本主義やグローバル主義に背を向ける流れが世界に広がっています。

2015年7月5日ギリシャ国民投票

ギリシャのチプラス首相は、EU(欧州連合)が求める緊縮策を受け入れるか否か、国民投票にかけました。緊縮策を拒否すれば、金融支援が打ち切られてギリシャのデフォルトが決まる瀬戸際での国民投票でした。

緊縮受け入れが可決されると予想されていましたが、投票結果は、緊縮反対が61%を占めました。その通り実行すれば、ギリシャの破綻、EUからの離脱(グレグジット)が確定するところでした。

ところが、チプラス首相は国民投票の結果を無視して、緊縮策を受け入れたので、ギリシャへの金融支援は継続され、事なきを得ました。

2016年6月23日イギリス国民投票

英国民投票でブレグジット(英国のEU離脱)が可決されたことも、驚きを持って受け止められました。英国に進出してグローバル企業にダメージが及ぶことが懸念されています。

2016年11月8日米大統領選

トランプ氏当選が、驚きをもって受け止められました。選挙前に表明していた反資本主義・反グローバル主義の過激公約をそのまま実行すれば、世界経済の破壊に直結しますが、今のところ過激公約を封印し、現実路線に転換する気配を示しているので、事なきを得ています。

(3)欧州に広がる反EU・反移民主義に歯止めがかからない

来年も、欧州でポピュリズムの勢いは拡大しそうです。今年は、イギリスがEU離脱を可決しましたが、来年はその流れが、フランスやスペイン、イタリアにも拡大する可能性があります。

来年、特に注目が高いのが、3~4月に行われるフランス大統領選です。反EU・反移民を掲げる極右政党、国民戦線(FN)が急速に勢力を拡大し、政権与党(社会党)と最大野党(共和党)を脅かす存在となっています。

国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は、「フランス版ドナルド・トランプ」と言われる歯に衣着せぬ発言で有名です。「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ氏と同様、「フランス・ファースト」を掲げていく方針です。ルペン党首は決戦投票まで残るとの見方が出ています。現時点で、大統領に当選するとは見られていませんが、米大統領選でのトランプ当選を受け、フランスでも意外なルペン旋風が吹く可能性もあります。ルペン党首は、大統領になったら、EUからの離脱を問う国民投票を実行するとしています。

フランスに限らず、EU各国で反移民・反難民を掲げる極右・極左政党が急速に勢力を拡大しています。スペインの「ポデモス」、イタリアの「五つ星運動」などの勢力拡大が注目されています。極右・極左政党は、今のところ、「反移民・反難民」が主張の中心となっていますが、最近、それが反EUに結びつきつつあります。

欧州分裂の芽は、いろいろなところに潜んでいます。来年は、英国がいよいよEUに、離脱を通告することになりそうです。その英国では、スコットランドが再び独立を問う住民投票を実施する動きもあります。スペインでは、あいかわらずカタルーニャが、スペインからの独立を目指しています。

来年も、ポピュリズムが世界中で拡大し、株式投資にとってのリスク要因となると思います。

(4)世界経済は改善しているものの、政治のリスクは拡大

今の株高は、世界経済の改善が支えになっていると考えています。世界経済が、資源バブル崩壊ショックから立ち直り、逆に資源価格低下の恩恵を受けられるようになった効果が大きいと思います。米国・中国が、インフラ整備のための財政出動を強化する姿勢を見せていることも、追い風となっています。

日本の今期(2017年3月期)の企業業績は円安が進んだ効果もあって、下期からは上方修正が増えてくると考えています。世界経済の改善を背景に、日本株は当分、上昇トレンドが続くと見ています。

ただし、世界的に政治不安が高まっていることには、注意が必要です。ポピュリズムの広がり、地政学リスクの拡大が波乱要因となる可能性があります。

対外強硬策・孤立主義を唱える政治家が欧米で力を持ちつつある中、アジアでは、中国の海洋進出が強まっています。さらに、北朝鮮の暴走が、不安要因となっています。また、世界中にISテロが広がっている問題もあります。

地政学リスクに注意が必要な状況が続くと考えられます。