執筆:窪田真之
今日のポイント
- 外国人から見ると、日本株は世界景気敏感株である。円建て日経平均は急反発したが、ドル建て日経平均はほとんど上がっていないので、世界景気の改善が続けば、外国人の買いがさらに増える可能性がある。
- 日本株の短期的な動きは、先物を使ってすばやく動く海外ヘッジファンドが決めている。裁定買い残の変化に、海外ヘッジファンドの売買動向があらわれている。
- 原油価格が上がったので産油国の売りは出にくくなった。
(1)彼(敵)を知り、己を知れば、百戦して危うからず
孫子の兵法に出てくる名言から始めました。孫子の兵法には、戦いに勝つための知恵が書かれています。私は日経平均の短期トレードにも役立つと考えています。短期トレードで重要なのは、売り手と買い手の力関係の分析です。トレードに勝つには、力関係を冷静に見極めることが必要です。
日経平均の短期的な動きを支配しているのは、外国人です。外国人が売っている時、日経平均は下がり、外国人が買っている時、日経平均は上がる傾向が顕著です。したがって、冒頭の孫子の言葉は、以下のように読み替えて使うことにします。
外国人投資家の動向を知り、自らのリスク許容度がわかっていれば、百戦して危うからず。
今日は、外国人投資家から、今の日本株がどう見えているかについて書きます。
(2)外国人投資家の気持ちを知るには、ドル建て日経平均の動きを見る必要がある
外国人投資家は、原則、保有するドルを円に転換してから日本株を買っています。日本株を売った時は、売却代金(円)をドルに転換します。外国人は、保有するドルを増やすために、日本株に投資しているわけです。
外国人投資家にとっての日本株のリターンには、日本株の騰落率(円建て)だけでなく、日本株を保有している期間のドル円為替の動きも含まれます。日本株を買ってから、円高(ドル安)が進むと、外国人投資家は、為替差益が得られます。逆に、円安(ドル高)が進むと、為替差損が発生します。
したがって、外国人にとっての日本株のリターンを見るには、ドル建て日経平均の動きを見る必要があります。ドル建て日経平均は、ドルで日経平均に投資する外国人にとってのリターンが表れています。
日経平均とドル建て日経平均の動き比較:2015年12月末―2016年11月16日
上のグラフをご覧いただくと、外国人投資家にとっての「日経平均のリターン」は、日本人にとってのリターンとは、大きく異なることがわかります。注目していただきたいのは、グラフ上に赤矢印で①・②とつけたところです。そこで、外国人がどのようなことを考えているか、以下で説明します。
2016年2-4月
日経平均の低迷が続いたが、円高が進んだために、ドル建て日経平均は大きく反発した。外国人の気持ち「日経平均が暴落する前の1月に売りそびれた。だが、円高が進んだためにドル建て日経平均は大きく反発し、元に戻った。円高で日本経済はこれから悪化が見込まれる。今のうちに日本株を売っておこう」。
事実、5-6月も外国人はしつこく日本株を売ってきました。日本人が、「ここまで大きく下がってしまったら、もう売らない」と思っている間に、外国人がどんどん下値を叩いて売ってくるのが驚かれました。外国人投資家は、円高によって為替差益が得られるので「今からでも日本株を売っておこう」という気持ちになりやすいことを理解する必要があります。
2016年10-11月
日経平均が急反発しているが、円安が進んだために、ドル建て日経平均は上昇していません。多くの外国人は、日本株の持ち高がアンダーウエイト(基準ウエイトよりも少ないこと)になっていたと推定されます。日本株アンダーウエイトの外国人の気持ち「日経平均が急反発する前の9月に買いそびれた。だが、円安が進んだためにドル建て日経平均は上がっていない。円安で日本企業の利益モメンタムは回復するならば、日本株を買った方がいいかもしれない」。
「ここまで大きく上がってしまったら、買いにくい」という気持ちに日本人がなりやすいタイミングで、外国人は「日本株(ドル建て)はまだ上がっていない」と考えていることを、理解する必要があります。
なお、外国人投資家には、いろいろな種類があります。ここでは、ごく一般的なグローバル投資ファンドを運用している外国人投資家の気持ちを代弁したつもりです。為替ヘッジしながら日本株に投資する外国人や、日経平均先物を使ってすばやく動くヘッジファンドなどは、別の感覚を持っています。
(3)海外ヘッジファンドの動向を知るには、「裁定買い残高」の変化を見る必要がある
先物・オプションを使って巨額のマネーを高速で動かす海外ヘッジファンドの動向を知るには、「裁定買い残高」の変化を見る必要があります。日々のニュースに反応して最初に動くのが、海外ヘッジファンドだからです。
米大統領選の開票速報で「トランプ氏優勢」が伝えられた時に日経平均を暴落させたのも、翌日の日経平均急騰をさせたのも、主にヘッジファンドによる日経平均先物の売買であったと推定されます。
詳しい説明は割愛しますが、「裁定買い残高」の変化は、主に外国人投資家の投機的な先物買いポジションの変化を表しています。
日経平均および裁定買い残高の変化:2016年1月4日―11月16日(裁定買い残高は11月4日まで)
日経平均は、2016年に入ってから外国人の売りで大きく下がりました。外国人は、先物と株式現物を両方、売ってきています。先物で動くヘッジファンドが先に動き、後から現物で売買する外国人が動く傾向があります。上のグラフの裁定買い残の変化から、ヘッジファンドの動きを読み取れます。
1月に約2.5兆円だった裁定買い残高が、6月には5,000億円まで減少したことから、外国人の投機的な買いポジションは、6月時点で、ほぼ整理されたことがわかります。
その後、裁定買い残高は、9月から上昇に転じています。10月28日には1.1兆円と、1兆円台を回復しています。11月11日には1兆278億円です。先物を使って速く動く投機筋が、日本株の買いポジションを復活させつつあったことがわかります。
トランプ当選が伝わった時、とっさに日経平均を暴落させたのは、9-10月に日経平均先物を買った投機筋であったと推定されます。裁定買い残高は、強気相場が続くと、3-5兆円に積みあがることもあり、現在の1兆円程度の買いポジションはまだ低いと言えます。私は、世界景気の見通しが改善すれば、これからも外国人の日経平均先物買いは増えると想定しています。
ただし、これからも投機筋は、短期的材料に反応して、日経平均を乱高下させると思われます。トランプ次期大統領の暴言が復活すれば、短期的に日経平均を暴落させる可能性もあります。
(4)産油国の動きを知るには、原油価格の変動を見る必要がある
2015年8月から、2016年2月にかけて、日本株に産油国から大量の売りが出ました。原油価格急落によって原油収入が減少するのを補うために、サウジアラビアなどの産油国が保有する世界中の株式を売ったことがわかっています。
今年は、原油価格が反発しているので、ここから産油国の売りが出る可能性は低いと思われます。ただし、原油が再び暴落する場合は、産油国の売りも注意が必要となります。
(5)これからの外国人の売買をどう考えたら良いか?
世界景気の改善が続くと、世界景気敏感株である日本株に、外国人の買いが続くと思います。ただし、裁定買い残高が1兆円ありますので、想定外の悪材料が出れば、ヘッジファンドが先物を大量に売ってきて、短期的に急落するリスクはあります。
日々の動きを見ながら、考えていくことが必要です。外国人の動きは、継続して報告いたします。
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