今日のポイント

  • トランプ氏の大統領選「勝利宣言」は、金融市場に好感される内容であった。東京市場のトランプ・ショックは9日の欧米市場には波及せず、NYダウは大幅高。
  • トランプ氏の暴言癖がすぐに収まるとは考えにくい。反資本主義・反グローバル主義の過激発言が続くと、日本株に悪影響が及ぶ。一方、共和党主流派を巻き込んで米景気テコ入れに全力を尽く姿勢を示すと、日本株にとってプラス材料となる。

東京市場のトランプ・ショックは9日の欧米市場に波及せず

米大統領選でドナルド・トランプ氏の勝利が確定しました。トランプ氏はこれまで、反資本主義・反グローバル主義の過激発言を繰り返して、世界を驚かせてきました。そのため、11月9日の東京時間で米大統領選の開票が進み、トランプ氏優勢が伝えられると、日経平均は下げ足を速め、前日比919円安の16,251円まで売り込まれました。

日経平均の日中足:2016年11月9日

11月9日の東京時間で、一時1ドル101.18円まで円高が進み、NYダウ先物(GLOBEX)が一時17,418ドル(先週末のNYダウより804ドル安い水準)まで売られたことも、日経平均がさらに下げ足を速める要因となりました。

ただし、11月9日の欧米株式市場に、ショックは波及していません。9日のNYダウは、インフラ投資促進や減税などトランプ大統領の経済政策への期待から256ドル高の18,259ドルと大幅に上昇しました。東京時間でNYダウ先物が一時804ドル安まで売られたのとは、まったく正反対の動きとなりました。

為替も、大幅に円安に戻しました。日本時間で10日の午前6時40分現在、1ドル105.76円となっています。本日の日経平均は大幅上昇が見込まれます。

トランプ氏の「勝利宣言」はとりあえず安心できる内容

11月9日の日本時間で夕刻に、トランプ氏は大統領選の「勝利宣言」をしました。その内容を以下に抜粋します。

トランプ氏の勝利宣言抜粋

①すべての共和党、民主党の党員に対して、米国の国民として団結することを訴えたい。

②すべての国と共通のグラウンドを持ち、良好な関係を築いていきたい。

③高速道路・橋・トンネル・空港・学校・病院といった社会インフラを再建する。インフラ再建で何百万人の雇用を生み出したい。

これまでの過激発言、「イスラム教徒の米国への入国を禁止する」、「メキシコとの国境に壁を築く」、「中国からの輸入品に45%の関税をかける」などとは異なる前向きな国づくりを目指す内容といえます。

大統領の座をつかんだトランプ氏が、これまで通り過激発言を繰り返すと不安が深まりますが、とりあえず勝利宣言の内容が穏当であったことは、マーケットに安心感を与えました。

ただ、大統領に決まっただけで、暴言癖が急におさまるとは、考えにくいところです。しばらく、トランプ氏の発言に世界の金融市場が振り回される展開が続きそうです。

トランプ氏はこれまでの「過激発言」を修正できるか?

今後、トランプ氏から、以下①~③につながる発言が出れば市場に好感されます。

①共和党主流派との和解を目指す発言

共和党は今回の選挙で、米議会の上院でも下院でも多数派を確保しました。したがって、共和党のトランプ大統領は、やりようによっては強い大統領になることができます。ただし、トランプ氏がこれまでのように共和党主流派と反目したままだと、何も実行できなくなります。トランプ不支持を表明した共和党議員まで含めて、共和党主流派と融和をはかる姿勢を見せると、政策運営がスムーズに運びます。

②国際社会との繋がりを重視する発言

トランプ氏は、これまでイスラム教国を目の敵にする発言を繰り返してきました。このままでは、サウジアラビアなど中東の親米国との関係まで悪化する懸念があります。

また、米国に工業製品を輸出する国々(メキシコ・中国・日本)を米国の雇用を奪うと非難し、自由貿易を否定する主張を繰り返してきました。米国が保護貿易主義に走れば、世界経済にも米国経済にもダメージが及ぶと懸念されていました。今後、こうした海外に対する攻撃的発言を控え、現実的な外交・経済戦略を目指す姿勢を見せれば好感されます。

③大規模な景気対策(公共投資)を実行し、米景気を強くする発言

かねてから、社会インフラ再建のために大規模な公共投資を実行する方針は打ち出していました。世界的に金融政策で景気を回復させることの限界が意識される中、米国が公共投資を強化する姿勢を見せれば、世界景気にも好影響が及ぶと考えられます。

トランプ氏が突然金融市場に好感される人物に変わるわけはありませんが、勝利宣言の文言は、とりあえず上記①―③につながる内容を含んでいたので好感されました。

上記①―③の中で、トランプ氏にとって一番の難題は、「②国際社会との繋がり重視」の姿勢を示すことです。NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の否定、高率の輸入関税導入などの過激発言を繰り返して米国民の歓心を買ってきただけに、大統領になった途端に現実路線に戻ると、熱狂的な支持者から反発を受けることになります。

トランプ氏当選で、12月の米利上げは無くなったか?

日本株に大きな影響を及ぼすのは、トランプ氏の為替・金融政策についての発言です。トランプ氏は、ドル高が米国の製造業を苦しめていると、繰り返し発言してきました。日本を「為替操作(円安誘導)国」と非難し、円高(ドル安)が進むきっかけを作った経緯があります。

ドル高につながる米利上げにも反対する姿勢をとってきました。昨年12月に利上げを行った米FRB(中央銀行)イエレン議長を批判し、「大統領になったらイエレンは(FRB議長に)再任しない」と発言しています。

米景気はゆるやかに回復に向かっており、12月には再利上げの可能性が高まっていると考えられていました。ただし、米利上げは、もはや重大な政治問題となっています。トランプ氏が大統領に当選したため、12月の利上げは難しくなったと考えられます。

トランプ氏がこれから米利上げに否定的な発言を繰り返すと、世界の株式市場にはプラスに働きますが、円高(ドル安)につながりやすいため、日本株には逆風となります。トランプ氏の発言次第では、一段の円高が進み、日本株が売り込まれるリスクもあります。

日経平均の見通しは?

トランプ氏が反資本主義・反グローバル主義の過激発言を続けると、円高が続き、日経平均の下落が続く可能性がありました。ただし、自身が不動産王と言われる経営者でもあるトランプ氏が、ただ資本主義を破壊するだけの発言を繰り返すとは考えられません。

インフラ再建のための財政出動や減税など、米景気を強くする政策に力を入れると思われます。共和党主流派を巻き込んで、「強いアメリカ経済を復活させる」ことに、かなりのエネルギーを注ぐと予想されます。

日本株にとって、トランプ氏の保護貿易発言は逆風となりますが、米景気を強化する経済政策は追い風となります。トランプ大統領への恐怖が収まり、米景気の回復色が強まる見通しがたてば、日経平均は再度、上値トライすると考えています。その可能性がどれくらいあるか、ここからトランプ氏の政策を慎重に見極めていく必要があります。トランプ氏の経済政策について、本欄で継続して報告させていただきます。

米大統領選後の投資判断については、米国在住の投資顧問会社マネージング・ディレクター広瀬隆雄氏による、下記レポートもご参照ください。

特集名:2016年アメリカ大統領選と投資の世界市場をプロが先ヨミ!