執筆:窪田真之
今日のポイント
- 円高の影響で、輸出企業では業績予想の下方修正が多い。ただし、下方修正で悪材料出尽くしとなり、株価が反発する企業も出ている。
- 深刻な構造不況下にある造船・海運業でも下方修正が多いが、造船・海運業では悪材料の出尽くし感がない。
- 建設・半導体製造装置などで、業績の上方修正が多い。
(1)通期の増益率見通しは、低下してきている
9月中間決算で、今期(2017年3月期)の業績予想を修正する企業が増えています。為替前提を円高方向に見直すことで、輸出企業では下方修正が多くなっています。ただ、下方修正幅は、従来の市場予想より小さく、下方修正発表と同時に株価が底打ちして上昇するケースが増えています。
建設業や半導体製造装置メーカーなどでは、業績予想の上方修正が出ていますが、東証一部全体では下方修正のほうが上回っています。
東証一部上場企業 主要1377社の今期(2017年3月期)業績(会社予想):2016年7月25日時点と10月28日時点の比較
7月25日時点 | 10月28日時点 | |
---|---|---|
連結経常利益(前期比) | ▲1.3% | ▲3.3% |
連結純利益(前期比) | +8.3% | +6.0% |
ドル円の平均為替レート推移:2013年度―2016年度(10月28日まで)
2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | |
---|---|---|---|---|
1ドル当たり | 100.22円 | 109.91円 | 120.04円 | 104.98円 |
前期(2015年度)の平均為替レートは、1ドル120.04円でしたが、今期は急激な円高が進み、10月28日までで平均為替レートは1ドル104.98円となっています。ただ、これ程の急激な円高が進んだ割りには、日本企業の業績は堅調といえます。
現時点で今期経常利益は▲3.3%となる見通しですが、最終利益(連結純利益)は+6%の増える見通しです。10月に入ってから3週連続で外国人投資家が日本株を買い越していますが、日本の企業業績が意外に堅調であることが評価されている面もあります。
(2)業績下方修正額の大きい30社
円高進行により、輸出企業の下方修正が多くなっています。また、深刻な構造不況下にある造船・海運業で、大幅な下方修正が目立ちます。
7月25日以降に今期(2017年3月期)経常利益予想を下方修正した企業、下方修正額の上位30社
(単位:億円)
コード | 銘柄名 | 修正後 | 前年比 | 下方修正額 |
---|---|---|---|---|
7203 | トヨタ自動車 | 17,800 | ▲40% | ▲ 1,200 |
7211 | 三菱自動車工業 | ▲ 282 | 赤字転落 | ▲ 602 |
7011 | 三菱重工業 | 2,800 | 3% | ▲ 500 |
7012 | 川崎重工業 | 250 | ▲73% | ▲ 440 |
7013 | IHI | 180 | 85% | ▲ 370 |
9107 | 川崎汽船 | ▲ 215 | 赤字転落 | ▲ 365 |
7974 | 任天堂 | 100 | ▲65% | ▲ 350 |
7752 | リコー | 380 | ▲60% | ▲ 340 |
6902 | デンソー | 3,100 | ▲11% | ▲ 320 |
9101 | 日本郵船 | 50 | ▲92% | ▲ 300 |
4901 | 富士フイルムHLDG | 1,920 | ▲1% | ▲ 280 |
6503 | 三菱電機 | 2,550 | ▲20% | ▲ 250 |
7274 | ショーワ | ▲ 96 | 赤字転落 | ▲ 224 |
4005 | 住友化学 | 1,300 | ▲24% | ▲ 200 |
7205 | 日野自動車 | 590 | ▲38% | ▲ 200 |
5406 | 神戸製鋼所 | 200 | ▲31% | ▲ 150 |
3099 | 三越伊勢丹HLDG | 250 | ▲32% | ▲ 130 |
7733 | オリンパス | 670 | ▲26% | ▲ 130 |
6703 | 沖電気工業 | 60 | ▲47% | ▲ 120 |
6770 | アルプス電気 | 345 | ▲31% | ▲ 115 |
6839 | 船井電機 | ▲ 80 | 赤字転落 | ▲ 115 |
7102 | 日本車輌製造 | ▲ 143 | 赤字拡大 | ▲ 115 |
7122 | 近畿車輛 | ▲ 127 | 赤字拡大 | ▲ 114 |
7014 | 名村造船所 | ▲ 95 | 赤字転落 | ▲ 101 |
3105 | 日清紡HLDG | 110 | ▲35% | ▲ 100 |
6724 | セイコーエプソン | 590 | ▲36% | ▲ 100 |
7270 | 富士重工業 | 4,100 | ▲29% | ▲ 100 |
9104 | 商船三井 | 100 | ▲72% | ▲ 100 |
6645 | オムロン | 550 | ▲16% | ▲ 95 |
7762 | シチズンHLDG | 195 | ▲36% | ▲ 95 |
輸出企業の中には、円高の影響を除けば、業績は堅調といえる企業が増えています。そうした輸出企業では、業績の下方修正と同時に株価が反発するケースがあります。たとえば、27日に業績下方修正を発表したオムロンは、制御機器が中国で好調であったことなどが好感され、28日に株価が6.3%上昇しています。
(3)追い詰められる造船・海運業
深刻な構造不況下にある造船・海運業は、業績の下方修正を出しても、悪材料の出尽くし感がありません。造船業の中には、将来的に日本で事業を継続していくことが難しくなるところも出てくる可能性があります。今後、一段と業界再編が進むと考えられます。
前回、造船・海運業がブームだったのは、2007年です。この時、造船業では軒並み5年分以上の受注を抱えていました。ところが、2008年から海運市況も船価も急落し、深刻な造船・海運不況が始まりました。
船価の下落と、円高の進行によって、日本の造船業は、赤字受注しか取れない状況になりました。それでも、2007年までに取った高価格の受注が5年分はあったので、受注残を消化しながら利益を出すことが、2012年まではできました。
2012年には高採算の受注残が底をつき始めました。それでも船価は安いままで、新規受注は赤字を覚悟しないと取れない状態でした。この時、日本では、造船業からの撤退を検討する会社が出始めました。
ところが、そこで神風が吹きました。2013年から急激な円安が進んだのです。これで、日本の造船業は一時的に受注をとっても何とか利益を出せる状態に戻りました。それで、日本の造船業はしばらく延命できました。
2015―16年に再び転機がやって来ました。造船・海運市況がさらに下がり、2016年には円高も進みました。これで、再び、日本の造船業は受注を取ることができなくなってきました。これから、日本の造船業では、再び、撤退や経営統合の話が増えてくると考えられます。
海運業も深刻な不況下にありますが、造船業のように撤退を議論するほど、追い詰められているわけではありません。ただし、海運業の構造不況も深刻です。今期だけでなく、来期も業績低迷が続きそうです。
(4)業績上方修正額の大きい30社
建設業や、半導体製造装置メーカーなどに上方修正が出ています。
7月25日以降に今期(2017年3月期)経常利益予想を上方修正した企業、上方修正額の上位30社
(単位:億円)
コード | 銘柄名 | 修正後 | 前年比 | 上方修正額 |
---|---|---|---|---|
1812 | 鹿島建設 | 1,240 | 9% | 340 |
9437 | NTTドコモ | 9,360 | 20% | 220 |
8035 | 東京エレクトロン | 1,420 | 19% | 180 |
3116 | トヨタ紡織 | 690 | 23% | 165 |
4188 | 三菱ケミカルHLDG | 2,140 | ▲21% | 160 |
5938 | LIXILグループ | 670 | ▲1,045% | 160 |
6954 | ファナック | 1,425 | ▲38% | 144 |
1605 | 国際石油開発帝石 | 2,510 | ▲33% | 140 |
1878 | 大東建託 | 1,220 | 16% | 110 |
4183 | 三井化学 | 710 | 12% | 90 |
4508 | 田辺三菱製薬 | 860 | ▲9% | 90 |
9531 | 東京瓦斯 | 480 | ▲75% | 80 |
8036 | 日立ハイテクノロジーズ | 460 | ▲5% | 60 |
6857 | アドバンテスト | 153 | 30% | 53 |
7259 | アイシン精機 | 1,900 | 2% | 50 |
1942 | 関電工 | 255 | 49% | 49 |
2264 | 森永乳業 | 210 | 40% | 40 |
4506 | 大日本住友製薬 | 440 | 25% | 40 |
7276 | 小糸製作所 | 830 | ▲2% | 40 |
2270 | 雪印メグミルク | 190 | 34% | 35 |
6448 | ブラザー工業 | 485 | ▲0.2% | 35 |
8386 | 百十四銀行 | 173 | ▲12% | 34 |
5440 | 共英製鋼 | 100 | ▲29% | 30 |
6594 | 日本電産 | 1,330 | 11% | 30 |
9042 | 阪急阪神HLDG | 920 | ▲12% | 30 |
2201 | 森永製菓 | 148 | 23% | 28 |
2281 | プリマハム | 114 | 30% | 28 |
7575 | 日本ライフライン | 69 | 94% | 21 |
3104 | 富士紡HLDG | 66 | 77% | 20 |
6644 | 大崎電気工業 | 62 | 55% | 20 |
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