執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 日経平均に中期的な強気シグナルが増えている。ここから、景気・企業業績を急激に悪化させる想定外の悪材料が出ない限り、日経平均は上昇トレンドをたどると予想される。
  • 日銀のETF買い・企業の自社株買いが増えていることが需給改善に貢献。それに加え、相場を動かす外国人が足元買い越しに転じていることも重要。ただ、外国人の売買はめまぐるしく変わるので要注意。
  • 裁定買い残高が、リーマンショック時の水準まで低下していることも、需給面の好材料。

(1)日経平均チャートには、中期的な強気シグナルが増えている

今、日経平均のチャートを見ると、中期トレンドで見た強気シグナルが増えています。チャートは株式市場の需給を表します。チャートが改善しているということは、日本株市場の需給がよくなってきている(買いの勢いが少しずつ強くなっている)ことを表します。

日経平均および13週・26週移動平均線推移:2015年1月5日―2016年10月25日

【注】楽天証券経済研究所が作成

上の日経平均チャートにあらわれている、代表的な中期強気シグナルは、以下の通り。

二番底

日経平均は15,000円割れを2回(今年の2月と6月)試しましたが、それが二番底となり、反発局面に入りつつあります。

ゴールデンクロス

13週移動平均線が26週移動平均線の下から上へ抜ける「ゴールデンクロス」が9月23日に出た後、上昇トレンドが出つつあります。

13週移動平均線とのかい離率は3.6%(相場に過熱感はない)

以下のグラフで説明します。

日経平均(左軸)と13週移動平均線からのかい離率(右軸)の推移:2015年1月5日―2016年10月25日

【注】(13週移動平均線とのかい離率)=(日経平均÷13週移動平均-1)×100、楽天証券経済研究所が作成

13週移動平均線とのかい離率は現在3.6%と低く、過熱シグナルは出ていません。かい離率3.6%とは、日経平均が13週移動平均線よりも3.6%高い位置にあることを示しています。日経平均の上昇スピードが速過ぎるとかい離率が大きくなり、過熱感が出ます。13週移動平均線からのかい離率が10%を超えると短期的に反落するリスクが高まります。今は、日経平均が値固めをしながら、ゆるやかに上昇しているため、相場に過熱感が出にくくなっています。

ちなみに、かい離率がマイナス10%(13週移動平均線よりも、日経平均が10%下)になると、短期売られ過ぎの可能性があります。そうなると、短期的に反発が起こりやすくなります。

なお、かい離率+10%で反落を警戒し、かい離率マイナス10%で反発を警戒するというのは、あくまでも目安に過ぎません。その時の需給により、かい離率がもっと拡大することもありますし、そこまで開かないうちに相場が反転することもあります。2015-2016年の動きを、上のチャートで参考に見てください。

(2)裁定買い残高がリーマンショック時の頃の水準まで低下していることも、需給にプラス

私がファンドマネージャー時代に重視していた需給指標に、裁定買い残高があります。「裁定買い残高が減少を続けるときは、先物の売り建てで攻め、裁定買い残高が上昇に転じるときは、先物の買い建てで攻める」ことが、売買に勝つ方法でした。

裁定買い残高は、その時々の投資環境によって一定のリズムで変動します。ひとたび減少トレンドに入ると、一定期間減少が続きました。増加が始まると、一定期間、増加が続きました。増加・減少の転換点となるところで、慎重な判断が必要です。

その裁定買い残高ですが、今、リーマンショック時以来の低水準に落ち込んでいます。足元、少し増え始めています。ここから、裁定買い残高が増えていけば、日経平均が上昇する原動力となります。

日経平均と裁定買い残高の推移:2006年4月3日―2016年7月14日

(出所:東証データから楽天証券経済研究所が作成)

裁定買い残高の見方について、詳しい説明が必要な方は、以下のレポートをご参照ください。

2016年7月7日「裁定買い残高がついに7,503億円まで減少」

(3)チャートのシグナルを信用していいか?

日経平均の動きを予想するとき、2つの要素を考慮する必要があります。①需給と、②ファンダメンタルズ(景気や企業業績)です。

短期的な動きに限ると、需給を読む方が圧倒的に重要です。需給はチャートや売買高に表れることが多いので、チャートをしっかり見ていることが大切です。今、チャートに強気シグナルが増えているのは、需給が改善しているからです。

日銀がETFを年6兆円のペースで買っていることに加え、日本株の相場を動かす外国人が日本株を足元買い越しているので、日本株の需給は好調です。自社株買いが増加していることも、需給を改善させています。そうした、現在の需給がチャートに表れているということです。

チャートのシグナルをそのまま信じることは、もちろん、できません。ここから、想像もできなかった悪材料が飛び出して、ファンダメンタル(景気や企業業績)が急激に悪化すれば、たちどころに売り手が増えて、日経平均は下がります。

チャートのシグナルは、景気・企業業績の急激な悪化がなく、今の需給が維持される限りにおいて、日経平均が上昇している可能性が高くなっていると読むべきです。

円高が一服し、米国・中国の景気が持ち直していることから、日本のファンダメンタルは今、少しずつ改善傾向にあります。この傾向に、急激な変化が起こらないか、ファンダメンタルも注視していく必要があります。