執筆:窪田真之

今日のポイント

日経平均に、テクニカルで見て、底入れの兆しが出ています。それを、クイズを解きながら、順を追って説明します。

(1)まず、クイズを解いてください

今日は、9月1日の本欄レポート「日経平均の先行きをチャートを見て考える」の続編です。

【クイズ】以下のチャートを見て、今後、上昇しそうか、下落しそうか考えてください。

A社チャート

(出所:筆者作成)

株価チャートだけで、株価の先行きはわかりません。ただし、先行き、上昇する可能性が高いか、下落する可能性が高いか、考える材料にはなります。チャートは市場の需給の変化を示しているからです。

A社について、ここから突飛な悪材料や好材料が出ることなく、今の売り買いの勢いが続くならば、どちらに動くか、考えてみてください。

上のA社は、2015年7月まで下落トレンドが続いていたものの、2015年8月から上昇トレンドに転じています。ただし、2016年7-8月に入り、上昇の勢いが弱まり、下値を試す可能性が出ています。

チャートの勢いを素直に読むならば、「A社株は、上昇が終わり、下げトレンドが始まる可能性が出ている」と読めます。

次に、2つの移動平均線(13週線と26週線)に注目してください。2015年9月に13週線が26週線を下から上へ抜けるゴールデンクロス(赤矢印で示したところ)が出て、上昇トレンドに転換しました。ところが、2016年9月には、13週線が26週線を上から下へ抜けるデッドクロスが出ています。ここから下落トレンドが始まる可能性もあります。

チャートでは、「A社株は弱そう」と見えます。ただし、チャートはあくまでも現在の売り手と買い手の勢いを表しているに過ぎません。ここから、A社に予想外の好材料が出て、ここからいきなり株価が急騰する可能性もないことはありません。

(2)もう一問、クイズを解いてください

【クイズ】以下のチャートを見て、今後、上昇しそうか、下落しそうか考えてください。

B社チャート

(出所:筆者作成)

こちらは、A社チャートとは正反対のイメージです。これまで下げトレンドが続いていましたが、下げトレンドが終わり、上昇が始まる可能性が出ているように見えます。

ただし、チャート上に紫の矢印で示した節目をまだ抜けていません。紫の線では、戻り売りが増えると考えられ、そこを抜け切れずに反落する可能性もあります。本格的な上昇トレンド入りを確認するためには、紫の線を、出来高を伴って越える必要があります。

(3)B社チャートは、A社チャートの逆さチャートです

気付いた方もいらっしゃると思いますが、B社チャートは、A社チャートの上下をひっくり返して作ったものです。上下対称になっています。したがって、テクニカル分析をすると、A社とB社の判断は、完全に正反対になります。

A社は「上昇トレンドが終わり下げトレンドが始まるかもしれない」チャート、B社は「下落トレンドが終わり上昇トレンドが始まるかもしれない」チャートに見えます。

さらに種明かしをすると、B社チャートは、日経平均です。日経平均の現状の姿を、純粋にチャートだけから考えていただきたかったので、まわりくどい説明をしました。

チャートを見るとき、チャートだけを純粋な目で見られる人は稀です。チャートを見る前に、ほとんどの人が何らかの「先入観」を持っています。どうせ下がるだろうとか、どうせ上がるだろうと、先入観があるのが普通です。先入観が強すぎると、チャートを見ていて、見ていない状態になります。

先入観なく、チャートを見るために、私はいつも、銘柄名を消して、逆さチャートにして見ることを薦めています。

銘柄名が見えると、どうせ駄目とか、きっと上がるとか、銘柄名から連想される先入観が入ってきます。だから銘柄名を消します。また、逆さチャートにすると、相場に対する強気・弱気バイアスを消すことができます。

銘柄名を消して逆さチャートにすると、銘柄や相場感に邪魔されずに、チャートを純粋に見ることができます。この方法は、私がファンドマネージャー時代に実際にやっていたことです。毎週、週足チャートブックを見ていましたが、迷うときは、時々チャートブックを逆さにして見ました。逆さにすると、銘柄名がちょうどよく見えなくなります。そうしておいて、買いに見えるチャートは売り、売りに見えるチャートは買いと判断すべきことがわかります。

今回のレポートで一番重要なポイントは、最初のA社チャートを見て、読者の皆様がどう感じたかです。下がりそうと思ったならば、日経平均のチャートを先入観なく見れば、上がりそうと、感じていることになります。

現在の日経平均チャートは、下げトレンドが終わりつつあることを感じさせます。ただし、まだ①売買高が盛り上がりを欠くこと、②13・26週移動平均線が完全に上向きにはなっていないこと、③2016年に入ってから形成しているボックスの上値を抜けていないことから、明確な上昇トレンドに入ったとは言えません。

日経平均の先行きは、もちろん、チャートだけで決まるものではありません。今後とも、日経平均のチャートに加え、日米金融政策の方向性、為替の動き、企業業績の推移を見ながら、相場の先行きを考えてゆこうと思います。

(4)空売りポジションを持つのはリスクが高い

チャートを見てじっくり考えるべきときは、以下の2つです。

  • 強気の投資家が多いのに、日経平均チャートに弱気の兆候が出ている時。
  • 弱気の投資家が多いのに、日経平均チャートに強気の兆候が出ている時。

今は、②に該当すると思います。市場に弱気の投資家が多く、空売り残高が積み上がってきています。ところが、日銀が日本株ETFを大量に買い続けていることに加え、日本株を動かす外国人投資家が10月から日本株を買い越しに転じたために、チャートは強含んでいます。私は、ここは、日本株の買い増しを検討してよいと思います。少なくとも、空売りを積み上げたり、持ち株をどんどん売っていくべき局面ではないと思います。

もちろん、チャートだけで日経平均の先行きがわかるわけではありません。ここから突拍子もない悪材料が出て、日経平均が急落する可能性もないことはありません。相場の先行きに、思い込みは禁物です。いつも、たくさんの不透明材料がある中で、判断しなければならないのが、相場です。

チャートの兆候は日々変わるので、常に注意して見ていなければなりませんが、現時点で底打ちの兆しがあることは頭に置いておくべきと思います。