執筆:香川睦

  • 20日の日経平均は5日続伸し17,200円台を奪還。ドル円の底入れ感、米大統領選やドイツ銀を巡る不透明感後退、原油相場の年初来高値更新を受け海外勢がリスクオン。
  • 米大統領選挙が終盤戦。19日に行われた第3回候補者討論会もクリントンが優勢で終了。支持率や予測市場の「クリントン優勢」は変わらず、日米株式を下支える見込み。
  • 本選結果のシナリオ別にマーケットの反応を予想。クリントンの当選はほぼ織り込み済み。トランプが当選ならサプライズ(波乱)感が強く株式とドル円は一時的にせよ急落へ。

(1)底堅い国内株式の背景に外国人買いの観測

今週の国内株式は堅調な動きとなり、20日の日経平均株価は14日以来5日続伸して17,235円となりました。株価堅調の要因としては、海外勢(外国人投資家)の日本株売買が10月は2週連続で買い越しに転じた事象(総額約66.6億ドル買い越し)に注目(財務省調べ)。9月までの年初来累計で約648億ドル(約6兆7千億円)売り越してきた海外勢が、リスクオフ(回避)要因-米大統領選、中国経済動向、ドイツ銀問題、原油相場が落ち着いてきたことでリスクオン(選好)に転換。日本株に対して弱気なポジションをやや巻き戻す動きが窺われます。原油相場の戻りを受け、中東やノルウエーからのオイルマネーが日本株を再び物色し始めたとの観測も出ています。海外勢による買い戻しが続くのであれば、日経平均はレンジ相場からの上抜けを試す可能性が高まっていくと考えられます。

図表1:外国勢の日本株式買越額動向

(注)外国勢の株式買越額=対内証券投資(非居住者による取得・処分)<財務省集計>
(出所)財務省、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年10月14日迄)

(2)米大統領選挙のメインシナリオはクリントンの当選

「今年最大の政治リスク」と警戒されてきた米大統領選挙が、本選(11月8日)に向け終盤戦を迎えています。図表2が示す「世論調査平均」をみると、9月21日の第1回TV討論会(直接対決)以降、クリントンの支持率がトランプに対するリードを広げるトレンドがみてとれます。特に最近は、過去のトランプ候補によるセクハラ問題が報道されており、ヒスパニックだけではなく、有権者の半分を占める女性の支持をも失いつつあるようです。

図表2:米大統領選挙の最新動向

*Real Clear Politics polling average for H.Clinton/D.Trump in the 2016 U.S. Presidential Election.
(出所)Real Clear Politics(公表データ)より楽天証券経済研究所作成(2016年10月19日時点)

米国時間の19日夜(日本時間で20日午前)に開催された第3回候補者討論会も、結果的には「52%対39%でクリントンがトランプより優勢」(直後のCNN世論調査)と伝えられました。各種統計情報にもとづく「当選確率(Now-cast)」を公表しているFive Thirty Eightの最新調査によると、クリントン候補の当選確率は約88%まで上昇(トランプ候補は約12%まで低下)しています(19日時点)。このように当選確率の差が拡大したのは、米大統領選挙が直接選挙ではなく「間接選挙」(州単位で登録選挙人を獲得していく選挙)である特徴を映したものとみられます。米大統領選は「Winner Take All」(勝者総取り)と呼ばれ、全米各州で一般投票者総数から一人でも多く得票した候補者が、当該州の登録選挙人(民主党も共和党も同数を登録)全てを獲得できる仕組みとなっています。政治専門サイトで著名なReal Clear Politicsの最新調査(19日時点)によると、クリントン候補が獲得すると見込まれる登録選挙人数は(全米総登録人数538人のうち)260人(約48%)を固めたとし、トランプ候補の170人(約32%)を凌駕しています。浮動票(108人)が半分に割れても、クリントン候補が過半数(270人)超を得る可能性が高いと考えられています。

トランプ候補は、選挙戦中の主張や公約で「移民排斥」や「自由貿易協定からの離脱」など反グローバリズム的な政策を掲げ、主要貿易相手国の為替操作を批判しており、同候補の躍進は米国株や為替相場の不透明要因となっていました。9月下旬からトランプ候補の支持率や当選確率が低下したことで、為替では「トランプリスク」を嫌気して下落していたメキシコペソが反発するなどし、市場は概してプラス要因としてとらえているようです。

(3)選挙結果を巡るメインシナリオとリスクシナリオ

上記したような選挙動向を勘案し、選挙結果のメインシナリオは「クリントン勝利」と考えます。得票結果(勝ちっぷり)にも拠りますが、クリントン大統領誕生は「オバマ政権の継承」とみなされ、市場にいったんの安堵感を広めることとなりそうです。ただ、富裕層や投資銀行への課税拡大・強化やオバマケア(医療保険制度改革)の継続を主張しており、銀行株や薬品株が相対的に軟調となる可能性がある点には注意が必要です。一方、クリントン候補は5年間で2,750億ドル(約28兆円)規模のインフラ投資を促進する公約を掲げており、建設関連や建機の株価が堅調となる展開が見込まれます。生起確率が低くなったものの、トランプ候補が当選した場合、いったんは米国株とドル円がサプライズ(波乱)に見舞われる可能性があります。特に同候補が唱える「NAFTA(北米自由貿易協定)離脱」が嫌気され、メキシコペソやカナダドルが再度売られるリスクには留意が必要でしょう。また、トランプ候補は外国の為替操作について是正要求を強く主張してきただけに、日本円や人民元が反転上昇する可能性があります。「クリントン大統領誕生」を織り込んでやや軟調となっていた銀行株や薬品株が回復に転じる可能性もありそうです(図表3を参照)。

図表3:米大統領選-候補者別公約(政策)比較

(出所)各種報道より楽天証券経済研究所作成(2016年10月19日)

大統領選挙にリスクシナリオ(波乱)はあるのでしょうか?トランプ候補には製造業に従事する白人系の中低所得層に熱烈な支持者が多いとされています。一方、メール疑惑を抱えるクリントン候補に嫌悪を感じる米国民も多いとされています。選挙戦終盤が「非難合戦」となってきた状況に食傷気味となってきた有権者が選挙そのものへの関心を失い、本選の投票率が著しく低下する事態も考えられます。そうした場合、熱烈な支持者を抱えるトランプ候補が相対的に有利に転じ、当選に至る可能性も否定はできません。こうした状況となれば、米国だけでなく世界の株式や米ドルが一転して不透明感(不確実性)に見舞われることとなり、リスクオフ(回避)のドル売り・円買いが進み、日経平均が下落に追い込まれる可能性がありますので警戒を要します。