執筆:窪田真之

今日のポイント

  • セブン&アイHLDG(3382)がスーパーストア(ヨーカ堂)だけでなく、百貨店(そごう・西武)の閉店にも着手。そごう・西武の買収を主導した鈴木元会長が退任(名誉顧問に就任)したため、百貨店まで含めてリストラが進めやすくなっていると考えられる。
  • セブンーイレブンは国内だけでなく、海外でも成長するビジネスモデルを確立。追随するローソン(2651)、ユニー・ファミリーマートHD(8028)を引き離す。
  • 海外で成長する小売業の評価が高い。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は米国が苦戦するが、アジアで成長。「無印良品」を展開する良品計画(7453)もアジアで成長。

(1)そごう柏店と西武旭川店が9月末で閉店

セブン&アイが、スーパーストア事業(イトーヨーカ堂)だけでなく、いよいよ百貨店事業(そごう・西武)でも閉店を始めました。同社が、そごう西武を買収して百貨店事業に進出したのは2006年でした。大手スーパーと百貨店の衰退とコンビニの成長が加速するタイミングで、いかにも間の悪い買収でした。

あの時百貨店を買収していなければ、セブン&アイは今セブンーイレブン中心にもっと身軽に成長を追求することができたでしょう。あの買収によってスーパーストアだけでなく百貨店のリストラまで行う重荷を背負うことになりました。

その前年、2005年は、セブン&アイHLDGがグループ持ち株会社として設立された年です。それまでは、収益低迷が続くヨーカ堂が親会社で、高収益を稼ぐセブンーイレブンが子会社の、いびつな資本構造でした。

このままでは、ヨーカ堂のリストラが進まないとして、セブン&アイを親会社とし、ヨーカ堂・セブンーイレブン等を兄弟会社とする今のグループ構造が作られました。鈴木元会長の強いリーダーシップがあったからこそできた、思い切った構造改革でした。それは、正しい選択であったと言えます。ところが、グループに百貨店までつけ加えてしまったために、重荷を背負うこととなりました。

セブン&アイは今後、百貨店まで含めて聖域なきリストラを加速させる方針です。今後、さらに閉店が増える可能性もあります。百貨店買収を主導した鈴木元会長の退任によって、百貨店のリストラは進めやすくなったと考えられます。

(2)国内でも海外でも強い「セブンーイレブン」というビジネスモデル

ヨーカ堂を追い詰めたのはセブンーイレブンです。15年以上前、団塊ジュニア世代が20代だった頃、セブンは20代若者向け「ファーストフード」中心に展開していました。ところが、団塊ジュニア世代が30代、40代と年齢が上がるに従ってビジネスの中心を家庭食や日用雑貨にシフトし「セブン・プレミアム」という強力ブランドを作り出しました。15年くらい前「ジャンクフード」のイメージで見られていたコンビニが、プレミアム・ブランドの供給基地として見られるまで変わりました。その結果、40代50代の主婦層の買い物がヨーカ堂から離れ、セブンにシフトしました。人口ピラミッドの変化に対応したセブンの進化が、国内でコンビニが成長を続ける原動力になりましたが、それがヨーカ堂を徹底的に追い詰める結果にもなりました。

セブンのビジネスモデルの強さは、現場の声・販売データを重視し、需要密着の商品開発を続けていることにあります。売れない商品は徐々に販売スペースが縮小し、最後には撤去されます。代わりに新しい商品が常に入ってきて、売れればスペースが拡大します。毎日見ていると何も変わっていないように見えるセブンの商品が、1年たつと大きく変わっていることに気付きます。そうした現場主導の強さが、入れたてコーヒーや、カフェ・ドーナツなどで次々に成功を収める原動力となっています。

小売業において、5年・10年の長期に起こる需要の構造変化を、前もって正確に予測することは困難です。セブンは毎日の販売データを見ながら、商品戦略を毎日少しずつ見直していくことで、結果的に5年・10年の大きな構造変化にも的確に対応しています。

(3)簡単に真似できない地域独占型のビジネスモデル

セブンーイレブンは、真夜中でも製造を続けるセブン専用の供給工場や日に4回の配送をこなす物流網を作って地域を支配する「装置産業」と考えられます。真似しようとしても簡単に真似できません。ローソンやファミリーマートが、セブンに近いビジネスモデルを作って追随していますが、平均日販で大きく離されている状況は変わっていません。

ローソンの失敗は、次々と新業態を作ったことにあります。たとえば、プレミアム・ブランドを提供する業態として「ナチュラル・ローソン」を立ち上げました。ところが、それが従来のローソンと競合するため、十分な店舗展開ができませんでした。そして、ナチュラル・ローソンの存在が、従来のローソンのプレミアム・ブランド化の障害にもなりました。ここで、セブンーイレブンという業態一本に絞り、セブン・プレミアムを育てたセブンに遅れを取ることになりました。

ファミリーマートも健闘していますが、次々と競合コンビニを買収・経営統合して成長してきたため、ブランド統合に手間取ることになりました。

(4)海外でも通用した「セブンーイレブン」というビジネスモデル

国内だけで成功している小売企業は、株式市場での評価がなかなか高くなりません。海外事業で成功し、成長していくことができるようになると、一気に株式市場での評価が高まります。たとえば、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや、「無印良品」を展開する良品計画は、海外展開が軌道に乗るまでは、PER(株価収益率)などで割安に評価される株でした。ところが、海外での成長が軌道に乗ってからは、PERで高く評価される株に変わりました。

セブンーイレブンの強みは、海外でも通用するビジネスモデルであることを示したことです。収益低迷が続いていたセブンの米国コンビニ事業は、日本型のビジネスモデルを採り入れることで、高収益事業に転換しました。今後アジアでも、セブンというビジネスモデルの一段の拡大を図っていくことになるでしょう。

ファミリーマートは、台湾や韓国・タイなどに積極的に出店してきましたが、ファミリーマート単独での進出とはしませんでした。現地の大手小売業と合弁で展開することを基本としてきました。そのため、ファミリーマートというビジネスモデルの移管とはならず、現地企業との折衷モデルとなりました。韓国では、合弁相手との経営方針をめぐる対立から、撤退の憂き目にあっています。ローソンも、まだセブンのような成功が得られていません。