執筆:香川睦

警戒されるグローバルリスク-連続増配銘柄に注目

  • 米国株の変動と円高は日本株の重石。第1回大統領候補者討論会を無難に消化し、原油相場も反発したが、ドイツ大手銀の経営不安が燻ぶっており、引き続き警戒を要する。
  • 日銀の金融緩和強化策とFRBの追加利上げ見送りを受け、日米の長期債利回りは低下低金利環境の長期化観測で、米国の配当貴族銘柄や日本の連続増配銘柄に注目。
  • 国内の連続増配銘柄群から、「連続増配ポートフォリオ」(参考例)を試案してみた。業績見通し堅調を背景に、中長期では市場平均を上回る好パフォーマンス維持を見込む。

(1)警戒されるグローバルリスク要因

最近米国市場で警戒された要因の一つに大統領選挙動向が挙げられます。クリントン民主党候補が11日に体調を崩し「健康不安説」が浮上したことで、政策面で不透明感が強いトランプ共和党候補の相対的優勢を市場は憂慮しました。ただ、26日のTV討論会(直接対決)がクリントン勝利で終わったとみなされ、米国株、ドル相場、メキシコペソ相場(トランプ・リスクを嫌気して売られていた)が反発に転じました。また、原油相場の軟調も米国株の重石となっていましたが、28日にOPEC(石油輸出国機構)が約8年ぶりとなる減産に基本合意したと報道され、WTI先物相場も反発しました(図表1)。大統領選挙(11/8)に向けては、さらに2回の候補者討論会(10/9と10/19)を控えており、原油相場も「減産を巡る詳細」が正式決定されるOPEC総会(11/30)までは過度の楽観は禁物と考えられます。

図表1:米大統領選動向と原油相場の推移

(出所)Real Clear Politics、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月29日)

一方、世界株式や為替相場にとっての懸念材料もあります。ドイツの金融機関最大手であるドイツ銀行に経営不安説が浮上。ユーロ圏の金融不安を燻らせるリスクオフ(回避)要因となっています。米国での住宅債務担保証券販売に絡む不正取引疑惑で、米司法当局から多額(約1兆4,000億円)の罰金が課されるとの観測を受け、ドイツ銀行の自己資本が毀損するとの警戒感が広まりました。総選挙を来年に控えるメルケル独首相が「公的資本投入など金融支援の可能性を否定した」と報道されるとドイツ銀行の株価は続落し、過去最安値を更新しました(29日時点)。アップルやグーグルなど米系大手企業が欧州当局から多額の追徴課税を求められていた経緯があり、欧米間の政治的な対立もとりざたされています。「Too big to fail」(大きすぎて経営破たんを放置できない)との見方に立てば、万が一の事態にはドイツ政府やECB(欧州中央銀行)が金融支援に動くと考えられますが、目先はグローバルリスク要因として日本株にも影響を与えそうです。

(2)低金利長期化観測で連続増配銘柄群が堅調

先週発表された日銀の金融緩和強化策とFRB(米連邦準備制度理事会)の追加利上げ見送り決定を受け、日米の長期債利回りが低下しています。低金利環境の長期化観測を受け、市場では「イールドハンティング(利回り追求)」と呼ばれる物色が目立ち、米国市場では「S&P500配当貴族指数」(25年以上連続増配の銘柄群)が、日本市場では「連続増配指数」が堅調となっています。日本の連続増配指数(国内で一定期間以上連続して増配してきた銘柄群で構成される指数)の年初来パフォーマンスを検証すると、市場平均より底堅く推移してきたことがわかります(図表2)。米国と同様、国内でも「株主を意識した経営」が問われ始めており、「増配を続けている企業」は投資家から評価されやすいと考えられます。内外景気の好不調や為替変動に関わらず、配当を増やし続けてきた経営姿勢は、今後も注目されていくと思われます。

図表2:日本連続増配指数のパフォーマンス

(注)日本連続増配指数=野村日本連続増配指数(国内市場で一定期間以上連続増配してきた銘柄で構成される)
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月28日)

(3)連続増配ポートフォリオ(参考例)とその特徴

米国の「配当貴族銘柄」(25年以上連続して増配してきた銘柄)に相当する国内の銘柄は花王(26年連続増配)しかありません(2016年9月現在)。そこで、日本の連続増配銘柄群で「10年(期)以上連続して配当を増やしてきた銘柄」のなかから、「連続増配ポートフォリオ(参考例)」を試案してみました(図表3)。これらの銘柄は、内外の景気サイクルから影響を受けにくい「ディフェンシブセクター(安定成長業種や情報通信サービス業種)」が主軸となっています。株価パフォーマンス(年初来騰落率や1年前比騰落率)を検証してみると、市場平均(TOPIX)より優勢だったことがわかります(図表3)。こうした銘柄群の予想株主資本利益率(自己資本利益率)は比較的高く、業績見通し(今期予想増益率や来期予想増益率)も底堅いことから、今後も「連続増配」の持続が期待できそうです。連続増配銘柄への分散投資を、「株式投資の原点である配当収入(インカム)の安定と増配を中長期で期待し得る投資手法」として注目していきたいと考えています。

図表3:連続増配ポートフォリオ(参考例)

(注)取引単位=全て100株 *予想値=Bloomberg集計による市場予想平均
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月29日)