執筆:窪田真之

  • 過去の大型民営化IPO(新規上場)の振り返り。新規上場時についた初値が、公募価格を下回ったのは、日本たばこ産業だけ。それ以外は、初値で株価が上昇。
  • NTT株は、今でも、IPO時の公募価格を下回っている(株式分割考慮後)。昨年、上場した日本郵政とゆうちょ銀行も、公募価格を下回っている。それ以外の大型民営化株は、上場後に株価が上昇。JR東・西・東海の3社は、上場後の株価上昇率が高い。
  • JR九州は今期(2017年3月期)、鉄道事業が発足以来、初めて黒字化する見込み。その理由は明日、解説。

(1) 過去の大型民営化株のIPOレビュー

10月25日にJR九州が東京証券取引所に上場します。想定される時価総額4,000億円を超える大型IPO(新規上場)になります。JR九州について、お話しする前に、まず、過去の大型民営化IPOの上場後のパフォーマンスをレビューします。

 

大型民営化上場株のパフォーマンス:1987年2月―2016年9月26日

【金額単位:円】

 

(注:IPO価格から2016年9月26日株価までの株価騰落率は、株式分割を考慮して計算。配当金含まず。楽天証券経済研究所が作成)

上の表の見方を説明しましょう。注目していただきたいのは、赤と青で色をつけた部分(初値騰落率と9月26日までの株価騰落率)です。初値騰落率は、新規上場時の公募に応募して抽選に当たって購入した株を、上場後、最初についた価格で売った場合の損益を示します。1987年2月に新規上場した日本電信電話(9432)は、公募価格1,197,000円に対し、初値は1,600,000円に上昇しました。初値での上昇率は33.7%です。

さまざまな民営化上場株の初値騰落率を見ていくと、日本たばこ産業(2914)だけがマイナスですが、それ以外はすべてプラスになっています。

次に、9月26日までの株価騰落率を見てください。株式分割考慮後で、日本電信電話(9432)はいまだにマイナスです。上場時の人気は高く、初値をつけた後も、どんどん上昇し、一時3,180,000円まで上昇しました。ところが、収益はその後、長期的に低迷したため、株価は大きく下落することとなりました。

新規上場時の最初の公募価格で日本電信電話(9432)を取得し、その後、一切売却することなく29年間保有し続けた株主は、9月26日時点の株価でなお▲20.8%の含み損をかかえていることになります(株式分割考慮後、受け取り配当金は含まないベース)。

JR3社は、いずれも上場後の上昇率が高くなっています。当初、成長株として期待されていなかったのですが、新幹線が成長事業となって、最高益を更新してきていることが評価されています。

日本たばこ産業(2914)は、当初の公募価格が高すぎたために、初値ではマイナスとなりましたが、その後大型の海外IPOを成功させ、利益を伸ばしたことから、上場後の株価は上昇しました。

次に注目していただきたいのが、日本郵政グループ3社(日本郵政(6178)・ゆうちょ銀行(7182)・かんぽ生命(7181))です。昨年11月に新規上場しました。当初は、人気が出て、初値で大きく上昇し、その後もしばらく上昇が続きました。ところが、日銀がマイナス金利を導入してから株価が急落しました。9月26日時点では、日本郵政とゆうちょ銀行は公募価格を割り込んでいます。

(2)JR九州の業績見通し

10月25日に上場するJR九州ですが、分割民営化してから、1回も鉄道事業が黒字化したことがありません。ところが、今期(2017年3月期)に初めて、黒字化する見通しです。

 

JR九州の連結業績

【単位:億円】

  2016年3月実績 2017年3月会社予想
売上高(営業収益) 3,779 3,788
営業利益 208 518
うち運輸サービス ▲ 105 230
最終損益 ▲ 4,330 382

(出所:JR九州の開示資料より楽天証券経済研究所が作成)

一見すると、とても美しい決算ですが、その裏には、前期(2016年3月期)に行った特殊な決算処理が絡んでいます。詳しくは、明日、ご説明いたします。