執筆:窪田真之

8月31日の日経平均は前日比162円高の16,887円でした。1ドル103円台まで円安が進んだことが追い風となりました。8月29日に米FRBのイエレン議長とフィッシャー副議長が、利上げに前向きな発言をしたところから、ドル高(円安)が進む流れが続いています。

年内の米利上げ期待が高まっていることから、円高圧力は低下しつつあります。実際に米利上げが実現すれば、日米短期金利差が拡大しますので、1ドル107円に向けて円安が進むと予想しています。

ただ、9月の日米金融政策発表には注意が必要です。9月は、米利上げ・日銀の追加緩和ともに実施されない可能性もあります。そこで、一時的に円高・株安が進む可能性は残っています。ただし、実際にそうなれば、そこは日本株の押し目買いの機会となると考えています。11月・12月の米利上げが視野に入れば、年末にかけて円安・株高の流れに戻ると予想しているからです。

今日は、日経平均の先行きをチャートから考えます。

(1)まず、クイズを解いてください

【クイズ】以下のチャートを見て、今後、上昇しそうか、下落しそうか考えてください。

A社チャート

(出所:筆者作成)

株価チャートだけで、株価の先行きはわかりません。ただし、先行き、上昇する可能性が高いか、下落する可能性が高いか、考える材料にはなります。チャートは市場の需給の変化を示しているからです。

A社について、ここから突飛な悪材料や好材料が出ることなく、今の売り買いの勢いが続くならば、どちらに動くか、考えてみてください。

上のA社は、2015年7月まで下落トレンドが続いていたものの、2015年8月から上昇トレンドに転じています。ただし、2016年7-8月に入り、上昇の勢いが弱まり、下値を試す可能性が出ています。

チャートの勢いを素直に読むならば、「A社株は、上昇が終わり、下げトレンドが始まる可能性が出ている」と読めます。ただし、「まだ、はっきりした下げトレンドに入ったわけではないので、再び上昇する可能性も残っている」といったところでしょう。

移動平均線の傾きから、トレンドを読めば、以下の通りとなります。2015年1-7月は、13週移動平均線・26週移動平均線ともに下向きで、明確な下げトレンドが続いていました。2015年8月からは、13週・26週移動平均線ともに上向きになり、上昇トレンドが始まりました。

2016年7月以降、株価は13・26週移動平均線を下回るようになり、上昇トレンドが終わりつつあるように見えます。もう少し株価が下落すると、13・26週線ともに下向きになり、下落トレンドがスタートする可能性もあります。

(2)もう一問、クイズを解いてください

【クイズ】以下のチャートを見て、今後、上昇しそうか、下落しそうか考えてください。

B社チャート

(出所:筆者作成)

こちらは、A社チャートとは、正反対のイメージです。これまで下げトレンドが続いていましたが、下げトレンドが終わり、上昇が始まる可能性が出ているように見えます。ただし、明確な上昇トレンドに入っているわけではないので、ここからもう一度、下がる可能性も残っている、といったところです。

(3)B社チャートは、A社チャートの逆さチャートです

気付いた方もいらっしゃると思いますが、B社チャートは、A社チャートの上下をひっくり返して作ったものです。上下対称になっています。したがって、テクニカル分析をすると、A社とB社の判断は、完全に正反対になります。

A社は「上昇トレンドが終わり下げトレンドが始まるかもしれない」チャート、B社は「下落トレンドが終わり上昇トレンドが始まるかもしれない」チャートに見えます。

さらに種明かしをすると、B社チャートは、実は、日経平均です。日経平均の現状の姿を、純粋にチャートだけから考えていただきたかったので、まわりくどい説明をしました。

チャートを見るとき、チャートだけを純粋な目で見られる人は稀です。チャートを見る前に、ほとんどの人が何らかの「先入観」を持っています。どうせ下がるだろうとか、どうせ上がるだろうと、先入観があるのが普通です。先入観が強すぎると、チャートを見ていて、見ていない状態になります。

先入観なく、チャートを見るために、私はいつも、銘柄名を消して、逆さチャートにして見ることを薦めています。

銘柄名が見えると、どうせ駄目とか、きっと上がるとか、銘柄名から連想される先入観が入ってきます。だから銘柄名を消します。また、逆さチャートにすると、相場に対する強気・弱気バイアスを消すことができます。

銘柄名を消して逆さチャートにすると、銘柄や相場感に邪魔されずに、チャートを純粋に見ることができます。この方法は、私がファンドマネージャー時代に実際にやっていたことです。毎週、週足チャートブックを見ていましたが、迷うときは、時々チャートブックを逆さにして見ました。逆さにすると、銘柄名がちょどよく見えなくなります。そうしておいて、買いに見えるチャートは売り、売りに見えるチャートは買いと判断すべきことがわかります。

今回のレポートで一番重要なポイントは、最初のA社チャートを見て、読者の皆様がどう感じたかです。下がりそうと思ったならば、日経平均のチャートを先入観なく見れば、上がりそうと、感じていることになります。

現在の日経平均チャートは、下げトレンドが終わりつつあることを感じさせます。ただし、まだ①売買高が盛り上がりを欠くこと、②13・26週移動平均線が完全に上向きにはなっていないこと、③2016年に入ってから形成しているボックスの上値を抜けていないことから、明確な上昇トレンドに入ったとは言えません。

日経平均の先行きは、もちろん、チャートだけで決まるものではありません。今後とも、日経平均のチャートに加え、日米金融政策の方向性、為替の動き、企業業績の推移を見ながら、相場の先行きを考えてゆこうと思います。