前回は、生命保険金にかかる税負担が軽減できる可能性のある「保険料贈与プラン」の概略についてご紹介しました。それを踏まえ、今回は注意点を中心にお話ししたいと思います。
税務の世界では「証拠」が非常に重要
民法では、贈与について以下のように規定されています。
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
このように、民法上は、贈与契約が書面である必要はなく、口頭であっても「あげる」という意思表示と「もらいます」という意思表示があれば、成立することとなります。
しかし、税務の世界では、例えば贈与契約書がなく、贈与税の申告もしていない、さらにはお金が贈与者(あげる人)から受贈者(もらう人)に移った形跡もない、という場合は、客観的にみて贈与として認められない、という判断を下します。
このとき、「確かに口頭で贈与契約を結んだ」と主張しても、裁判で争えば勝つことは難しいでしょう。客観的な証拠が残っていないからです。
そこで、この保険料贈与プランを実行するときは、以下の4つの点に注意するようにしてください。
保険料贈与プランの実行の際に注意すべき点4つ
- (1)保険料を贈与するごとに、贈与契約書が作成されているか
- (2)保険料の贈与につき、贈与税の申告書が提出され、納税がされているか
- (3)贈与者(父)が自身の所得税申告で生命保険料控除を受けていないか
- (4)その他贈与の事実が認定できるかどうか(例:通帳の入出金の動きで贈与の事実が認められる)
上記の要件は、国税庁が昭和58年9月に公開した「生命保険料の負担者の判定について」の事務連絡により明らかにされたものです(一部筆者改変)。
したがって、上記(1)~(4)の要件を満たしていればいるほど、父から子へ生命保険料相当額の資金の贈与が認められやすくなることになります。上記のうち例えば1つを満たしていなければ、それだけで絶対に贈与が認められない、ということにはなりませんが、万全を期して、4つ全ての要件を満たしておくべきです。
具体的にどのような点に気を付ける必要があるのか?
例えば(1)については、保険料を毎年贈与するのであれば、贈与契約書がその毎年ごとに作成されていなければ、税務上は贈与と認めてくれない可能性がある、ということです。
また、(2)については、贈与であると認識していれば、当然贈与税の申告書を作成・提出し、納税もしているだろう、という前提があります。申告・納付がなければ、金銭のやり取りが贈与である、と客観的に認められにくくなります。
(3)については、贈与者が自身の所得税申告で生命保険料控除を受けていると、受贈者ではなく贈与者が保険料を負担していると認定されてしまうため、実際に贈与はなかったのではないか、という疑いがかけられます。
(4)については、例えば父の通帳から子の通帳で保険料相当額の資金が移動し、子の通帳から保険料の支払いがされている、という一連の流れがあれば、客観的にみて贈与が行われていたとみることができます。
これらの要件は通常の生前贈与の際にも気を付けるべきポイント
実は、(3)を除いた残りの要件は、保険料贈与プランに限らず、贈与が税務上も贈与として認められるかどうかの判定にも使われます。
民法の要件さえ満たしていれば税務上も問題ない、というのは税の世界では通用しません。
支払う必要のない余計な税金を支払うことのないよう、公認会計士・税理士のアドバイスを受けながら慎重に実行するようにしてください。
保険料贈与プランを実行する前には、必ずシミュレーションを行って、本当にこのプランが税金面で有利になるかどうかを確認してください。そして、国税庁の事務連絡に書かれている要件を全て満たすように実行するべきです。
実行に当たっては、この保険料贈与プランのことをよく分かっている公認会計士・税理士等のアドバイスを受けながら、慎重に事を進めるようにしてください。
相続対策も生前贈与も、知人や雑誌・インターネットで聞きかじった知識をもとに、自己流でやられている方がたくさんいらっしゃいます。しかし、特にインターネットの情報は、私たち専門家からみて「どう考えても間違っている」ものがとても多いのが実情です。
後で「こんなはずではなかった」と後悔する前に、専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら実行するようにしてください。
<おしらせ>
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