執筆:香川睦

28日の日経平均は前日比187円安の16,476円と反落しました。外部環境面で、米国株式市場とドル円の上値が重くなったことに加え、国内の景気対策と金融政策を巡る期待と不安が交錯する神経質な動きとなっています。米FOMC(連邦公開市場委員会)が27日に発表した声明文に「経済の見通しに対する短期的なリスクは低下した」との文言が盛り込まれ、次回(9月)FOMC以降での追加利上げに含みが残されましたが、ドル円の反応は鈍く、本日の日銀政策決定会合を控えた警戒感が先行し株式が売られる展開となりました。

29日の日本時間7時40分現在、円高が急進し、104.48円となっています。一時、103円台をつけ、また、104円台に戻っています。

(1)「アベノミクス再始動」に点火する追加緩和はあるか?

今週の国内株式市場では、本日の日銀・金融政策決定会合を前に、その結果や市場の反応を巡る期待と不安が交錯する動きがみられました。そうしたなか、日本株の売買に大きな影響を与えることが知られる外国人投資家による予想(期待)が注目されます。

7月16日に発表された世界のグローバルファンドマネジャー調査(7月調査/BofA Merrill Lynch Fund Manager Survey)での「日銀の金融政策に対する予想」によると、本日の政策会合について回答者の7割強が何らかの「追加緩和策発表」を予想。「現状維持(追加緩和なし)」を予想する回答者は15%に留まりました。換言すると、前々回(4月28日)や前回(6月16日)会合と同様の「現状維持」が決定される場合、外国人投資家による失望売り(先物主導)で株価が下落する可能性が高そうです。また、追加緩和が決定されても、その内容と規模が市場の期待に満たない場合も市場が乱高下する可能性があり要警戒です。参考までに、上記ファンドマネジャー調査によれば、21%の回答者が「三次元緩和(量的・質的緩和と利下げ)拡大」を予想し(6月時点では11%)、39%が「QQE(国債・REIT・ETFなどの買入)の拡大」を予想(6月時点では31%)しています。ヘリコプターマネー政策の導入を予想する回答者も7%ありました。マイナス金利政策やヘリコプターマネー政策には潜在的副作用や法的根拠などを巡り賛否が別れていますが、サプライズ感を伴う追加緩和が決定される場合には、市場から一定の評価を得る可能性があります。

重要な点は、本日午後に予定されている黒田総裁による記者会見を含め、日銀がデフレ脱却(物価上昇率2%の達成)に向けた強いコミットメント(決意や姿勢)を示し、最近言われてきた「アベノミクス停滞論」や「日銀による説明不足感」に歯止めをかけられるか否かにあると考えます。同時に市場は、安倍首相が27日に表明した経済対策(事業規模で28兆円、うち財政措置13兆円)の具体策、実施時期、期待効果を来週にかけ材料視していくと思われます。政府と日銀が協調して積極的対策を打ち出すことで、アベノミクス再始動を期待させる動きに繋がれば、日経平均が再び回復基調に転じる可能性があります。

(2)日経平均の上値追いには円安の持続が鍵

先週まで堅調だった米ダウ平均も今週は頭打ち感がみられ、為替でもドル円の底入れが一服する動きとなっています。安倍政権が打ち出した景気対策(財政出動)や日銀の追加緩和に対する期待は根強いものの、日本株との相関性が高いことで知られる米国株とドル円の強気が後退すれば、日経平均は上値を追いにくい状況です(図表1)。上述の通り、アベノミクス再始動の発火役が期待される日銀・政策決定会合の結果を受け、為替市場で一段の円安が示現するか否かが、日経平均の先行きを左右すると考えられます。

図表1:米ダウ平均、ドル円、日経平均の推移(過去1年)

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年7月28日)

(3)ドル円の底入れを示唆する2つのデータに注目

ただ、ドル円に関しては、2つの視点で「年初来みられた円高は一巡した」との見方もあります。その一つ目は、日米の「実質金利差」(実質金利=名目金利-市場の期待インフレ率)の推移に注目する視点です。日米金利差の縮小傾向と連動性が高かったドル円の下落(円高)はいったん一巡した印象があり、足元では実質金利差が再拡大する兆しをみせている点に注目です(図表2)。二つ目は、「日米マネタリーベース倍率(日本のマネタリーベース÷米国のマネタリーベース)」が、2008年以来の1倍超(日本の資金供給量>米国の資金供給量)に転じたことです。これは、マネタリーベース(中央銀行が供給する資金総量)が増えない米国に対し、量的緩和(債券やリスク資産購入による資金供給)を維持する日銀が放出するマネタリーベースが増え続けることで、需給面で円安になりやすい(増えない通貨より、増える続ける通貨の方が貨幣価値は下がりやすい)との見方に注目したものです。これら2つだけで為替の行方が決まるわけではありませんが、長期の視野でみた日米金融政策の方向性(ベクトルの違い)で、ドル円がいったん底入れした可能性が示唆されています。BREXIT(英国のEU離脱決定)以降のリスクオフ(回避)姿勢を映した円買い需要が後退したなか、米FOMCが27日に発表した声明文では、米景況感の改善を確認した上で「年内の追加利上げ」が示唆されました。米国の景気後退入りが懸念された年前半の局面と比較すると、ドル円の下落余地(円高進行余地)は限定的に留まると考えています。

図表2:日米実質金利差とドル円の推移

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年7月28日)

図表3:日米マネタリーベース倍率とドル円の推移

(注)日米マネタリーベース倍率=日本のマネタリーベース(ドル換算)÷米国のマネタリーベース
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年7月28日)

(4)まとめ-ワイルドシナリオに備える「大型割安銘柄一覧」

本日の「ワイルドシナリオ(ネガティブサプライズ)」としては、内外投資家が予想(期待)する「追加緩和」を日銀が決定しない可能性が挙げられます。その場合、ドル円の下落(円高)と日経平均の下落が想定されます。ただ、そうした市場の反応(失望売り)は短期間に留まり、ドル円も日経平均も早晩「仕切りなおし」に向かうものと考えています。上述した日米金利差の拡大やマネタリーベースの逆転が続く限り、(本年前半にみられたような水準まで)ドル円が下落する(円高が進む)可能性は小さいと考えられるからです。

こうした株価下落シナリオに備え、TOPIXコア30指数構成銘柄(大型銘柄群)から、「配当利回りが2.8%以上でPBR(株価純資産倍率)が1.0倍未満」に合致する10銘柄をスクリーニングして一覧表にまとめてみました(図表4)。国内要因で株価が一時的に下落する場面があっても、米景況感と金利の先行き方向感を視野に入れ、為替が再び円安に向かう局面を想定するなら、こうした日本を代表する企業群の割安株に長期投資を検討する意味はあると考えます。

図表4:TOPIXコア30銘柄のうち「配当利回り2.8%以上かつPBR1倍未満」

(注)上記した業績予想、予想PER、PBR、配当利回はBloomberg集計による市場予想平均。
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年7月28日)